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【米軍・自衛隊】変化の兆しを見せる「普天間問題」――2プラス2とその後に向けて

2011年06月27日 | 米軍・自衛隊
1.はじめに

 2009年の政権交代以降、最大の政治問題となった「普天間移設問題」は、今年3月11日の東日本大震災と福島原発事故によって、もはや人々の注目を浴びることはほとんどなくなった。しかしながら、「普天間移設問題」は、6月21日に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2) に向けて変化の兆しを見せていたことを見逃してはならない。

 今回の2プラス2は、日米両政府がこれまで進めてきた方向性を基本的に踏襲するものとなった。2014年までの移設期限を撤回し「できる限り早い時期に完了させる」として、辺野古にV字形の1800メートルの滑走路を建設することで合意したのである。その上、2012年からは普天間飛行場にオスプレイが配備されることがすでに決定されており、普天間固定化の可能性も残されている。これらはすべて、沖縄世論を無視し、頭越しに決定されたものばかりであり、断じて容認できるものではない。

 しかし、「辺野古」に固執する日本政府に対し、アメリカにおいては大手メディアが報じているほど「辺野古」一辺倒ではない。ゲーツ国防長官らによる「辺野古」推進の流れは、あくまで一つの政治的潮流でしかないのである。例えば、4月13日付沖縄タイムスでは、バーニー・フランク下院議員(民主党)ら超党派の有力議員などが立ち上げた軍事費削減委員会の提言書で在沖海兵隊の撤退が含まれていたことが明らかとなっている。

 そして、更に重要性を持つと考えられるのが、5月13日に米上院軍事委員会のレビン委員長(民主党)、マケイン筆頭委員(共和党)、ウェッブ外交委員会東アジア太平洋小委員会委員長(民主党)らが国防総省に求めた声明である(以下、「声明」。全文の日本語訳は5月14日付沖縄タイムス(http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-05-14_17780/)。そこにおいて、「辺野古」は「unrealistic(非現実的)」、「unworkable(機能せず)」、「unaffordable(費用負担もできない)」と強い調子で切り捨てられているのである。その上で、対案として普天間飛行場の海兵隊のヘリ部隊を嘉手納基地に移し、同基地に常駐する戦闘機を他の基地に分散移転する「嘉手納統合案」を提示していることが特徴的である。

 軍事委員会は国防予算の承認権限を持っており、その意味で今回の「声明」はアメリカ政府の政策を変更させる可能性を秘めている。以下、この「嘉手納統合案」を中心に沖縄基地問題と日米安保の今後を考えていきたい。

2.嘉手納統合案のこれまで

 実は「嘉手納統合案」は目新しいものでは全くない。これまで3回にわたって浮上してきたものである。

 一回目は、1995年の米兵少女暴行事件に対する沖縄県民の怒りを受け、日米両政府が普天間飛行場の代替施設を「沖縄本島の東海岸沖」に建設するとしたSACO合意(1996年)の交渉過程であった。二回目は、2004年からの辺野古移設のためのボーリング調査 強行がなされたにも関わらず、住民運動の海上阻止行動によって計画が難航していた際に出された。三回目は政権交代直後に岡田外相(当時)が提示した。

 これらに共通していることが二点ある。第一に、全て日本側から提案がなされているということである。いずれも沖縄での基地負担軽減や県内移設反対を求める世論の高まりへの対応として出てきているといえよう。第二に、全て現地とアメリカの反対を受けて実現していないということである。そしてアメリカの反対理由は「抑止力低下」と「固定翼機と回転翼機の混在による運用上の危険性」で共通している。

3.今回の嘉手納統合案

 しかし、今回の嘉手納統合案はアメリカから提案されたものであるということが過去のものとの大きな違いである。これまで沖縄世論に押されると必ずと言っていいほど、日本側が半ば「妥協」として出してきた案をアメリカから提案してくるということは、「辺野古」を断念すると同時に、「普天間移設問題」に決着をつけようという米議会の意思の現れではないかと考えられる。

 今回の嘉手納統合案の具体的な内容は以下のようにまとめられる。

・普天間の海兵隊ヘリ部隊を嘉手納基地に移す
・嘉手納基地内に常駐する戦闘機をグアムのアンダーセン基地や三沢基地などに分散させる
・海兵隊は司令部要素を駐留させ、戦闘部隊は他の場所を拠点にローテーションさせ、訓練場をテニアンに建設するように日米合意の実施計画を変更

 このような案がアメリカから出された背景には、二つの要素が挙げられる。第一に、アメリカの軍事費予算削減の流れがある。詳しくは当ブログ「軍事費をめぐる世界の動きと日本社会 ~アメリカの軍事費見直し計画と軍事費削減キャンペーン~」を参照していただきたい(http://blog.goo.ne.jp/saypeace/e/85052437bb8fa7bb3a1aba45de04dc6b)。最初に述べた軍事費削減委員会の提言書はオバマ大統領が財政削減のために設置した諮問機関「国家財政責任・改革委員会」の共同議長草案にも反映されている。

 このような議会の動きは、アメリカ世論を反映して現れてきていることを見逃してはならない。米世論調査会社ラスムセンの調査で米有権者の48%が在日米軍を撤退させるべきだと答え、残留させるべきとの回答を12%上回っている。軍事の課題より財政課題が米国にとって潜在的な脅威であるとする有権者が82%に上っている。「声明」においては次のように言及されている。「海兵隊の航空部隊施設の嘉手納移転は、米国にとっても普天間基地の早期返還につながり、シュワブへの代替施設建設という現行計画より低い費用で実現できることになる。米国の納税者にとって不必要で負担できない費用を常に回避し続けないといけない」。

 第二にはやはり、政権交代以降で不可逆的となった沖縄県民の「県内移設反対」世論の強固さである。県内移設反対の名護市長の誕生、9万人を越える県民大会は言うに及ばず、5月28日の日米共同声明以降も揺らぐことはなかった。県知事選では元々「辺野古」容認派であった仲井真知事をして「県外移設」を言わしめ、その態度を変えることを許していない。「声明」では、「沖縄で、最も困難で、長くジレンマに陥っているのは普天間飛行場の移設問題だ。普天間飛行場は人口密度の高い地域で運営され、数え切れぬほどの抗議の対象になっている。……指導者らを含め、多くの沖縄県民は、県外へ移設されるべきだと譲らない」として沖縄の「政治情勢」を考慮すべきとしている。

 これら二つの要素を背景に、メア米国務省日本部長の更迭が決定され、「辺野古」断念の流れをつくる布石となったと考えられる(以下は3月12日付沖縄タイムス(http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-03-12_15341/を参照)。メア氏は普天間移設問題協議に実務者として関わってきた人物で、米政府の方針決定にかなりの影響力を持っていたとされている。直接会談した経験のある複数の民主党議員によれば、彼は「県外、国外の移設候補地が挙がるたびに、理論武装して可能性を否定し続けてきた米側の中心人物」であり、「辺野古」強硬派であった。その彼が沖縄への差別発言で更迭されたことは、沖縄世論を刺激することをアメリカ自身が恐れたということであり、強硬路線では「普天間は解決しないとの認識が、米政府内に広がりつつあった」(ケント・カルダー)からである。「強硬派」が去ったことによって、「辺野古」以外を求める動きがこれまでになく表面化してきたのではないか。

4.沖縄基地問題の今後

 以上のように、「声明」における嘉手納統合案の背景には、アメリカでの軍事費削減の流れ、沖縄の県内移設反対世論の高まりがあり、その二つの圧力によって「辺野古」を断念する形で「普天間移設問題」に決着をつけようという米議会の思惑が見えてくる。今後はこの潮流がより前面に出てくることが予想される。

 なぜなら、2プラス2の後、7月にはメア氏と同じく「強硬派」のゲーツ国防長官が退任し、新たな長官に交代するからである。後任のパネッタCIA長官は、在沖海兵隊のグアム移転や辺野古案に対して、「議会と協力して再検証する」と明言している。アメリカ、沖縄の二つの世論は米議会のみならず、米政府の方針を変えようとしているのである。

 しかしながら、米上院軍事委員会による嘉手納統合案自体は、到底容認できるものではない。嘉手納町議会基地特委の田仲委員長が指摘しているように、嘉手納基地には多くの外来機が飛来し、昨年度は運用の3割超を占めている。グアムや三沢に分散移転して、「常駐機を減らしても負担軽減にならない」のである。96年に結んだ騒音防止協定も破られているように、米軍が基地を自由に使用することができている状況ではどんな約束も信用できないというのが、地元住民の心情である。嘉手納町として「決起集会」が開かれ、「今度こそ統合案の息の根を止める」「わずかでも話に乗れば(政治に)巻き込まれる。入り口で拒否するしかない」と、強固な意思で住民は立ち向かおうとしている。

 つまり、「嘉手納統合案」によって新基地建設は食い止められるが、沖縄の過重な基地負担とそれに立脚した日米安保そのものは、未だ問われていないということだ。日本は、戦後を通じて、米軍に基地を提供し、その負担を沖縄に押し付けることによってアメリカの戦争に協力してきた。今回の歴史的な原発震災の被害を蒙ってもなお、思いやり予算を拠出し、米軍にとって居心地のよい環境をつくっているのである。これでは当然、アメリカも日本から軍隊を引き上げることは考えないだろう。日本本土の市民は、このような日本政府のあり方を問わなければならないはずである。

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