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【軍縮】軍事費をめぐる世界の動きと日本社会 ~アメリカの軍事費見直し計画と軍事費削減キャンペーン~

2011年06月09日 | 米軍・自衛隊
1、世界の軍事費

 2011年4月11日、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が世界の軍事費データを発表しました。それによると、2010年の世界の軍事費は前年度1.3パーセント増の1兆6300億ドルに達しました。内訳は、第1位がアメリカの6980億ドル(全体の約44%)、第2位が中国、第3位がイギリス、その後フランス、ロシアと続き、日本は6位(545億ドル、全体の3.3%)に入っています。



ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)世界の軍事費データ2010年版より作成

 金融危機による世界的不況の影響で、軍事費の伸び率は低くなっていますが、それでも全体では増加傾向を続けており、世界全体の全GDPの2.6%が軍事費に費やされています。貧困や環境破壊が世界的問題にされている中、人々の生存権を保障するために世界はこれから何を重視するのかが問われています。日本の場合は、今回の大震災で問題はさらに深くなっています。


同上より


2、アメリカの軍事費予算削減計画

 上記の円グラフから見てもわかるように、アメリカは軍事費で世界1位であり、圧倒的な割合を占めています。現在、そのアメリカでは、軍事費の見直し計画が始まっています。アメリカの国防予算の枠組みを見てみると、議会に提出した2012年会計年予算要求は、6709億ドルとなっており、11年会計年の7080億ドルから約370億ドルの減額となっています。さらに、ゲーツ国防長官は予算要求と同時に発表した「将来防衛計画」において、国防費を今後5年間で1780億ドル削減する案を示しました。2011年1月に発表された国防費削減計画でも「5年間で1500億ドル以上を削減可能である」とした上で、アフガニスタンへの陸軍、海兵隊の派兵人数を縮小するというものでした。

 この国防予算見直しの背景には、年間一兆ドルを超える財政赤字に対する、オバマ政権の財政再建への切迫した問題意識があります。2010年1月、オバマ大統領は財政再建に取り組むための諮問機関「国家財政責任・改革委員会」(以下、財政委員会)を発足させました。11月、「財政委員会」は、15会計年までに国防費1000億ドル以上を削減する草案を発表しました。草案の中には「海外基地の3分の1削減(85億ドル)」「研究・開発・試験費の10%削減(70億ドル)」といった項目も含まれています。さらに、2011年4月13日、オバマ大統領が財政赤字を今後12年間で4兆ドル(約330兆円)削減することなどを盛り込んだ財政健全化案を打ち出しました。健全化案の中には軍事費支出に対する削減も含まれています。また、2011年1月、ニューヨークタイムズとCBSが行った世論調査結果においては、「赤字を減らすための軍事費削減の方法は」という質問に対して、55%が「欧州とアジアの米軍基地を減らす」ことを上げました。(http://s3.amazonaws.com/nytdocs/docs/562/562.pdfより)

 このように、アメリカの議会や市民社会の中では財政削減を動機とした軍事費削減必要論から、米軍の海外駐留のあり方を見直す動きが高まっています。このような軍事費削減の議論は、世界の人々の生存を保障するためには、何よりもそれを脅かしている軍事力を削減すべきであるとの認識に立った軍事費削減論ではない限りで、限界性を抱えています。しかし、「軍事力に依らない平和」を求める沖縄や日本の私たちにとって、沖縄海兵隊を含む米軍の海外駐留の削減を実現するための一つの手掛かりとなるでしょう。


3、各国の軍事費に関する様々な行動

 SIPRIが世界の軍事費データを発表した翌4月12日、それに合わせる形で、国際的な運動「Global Day of Action on Military Spending」(軍事予算についてのグローバル行動日)が各国で行われました。これは、国連のミレニアム開発目標(MDGs)が掲げる「2015年までの貧困撲滅」という目標のために、各国の軍事費を世界が必要とする環境保全や貧困対策などの予算に回そうとアピールする行動です。この行動に支持声明を寄せたセルジオ・デゥアルテ国連軍縮問題上級代表は、声明の中で「年間軍事費の10分の1の額でも、MDGsの合意目標を達成するためには十分である」と訴えました。

 ここで、2011年4月12日に行われた各国の取り組みの一部を紹介します。

・アメリカ(ワシントン)
 ワシントンではPJALS(The Peace & Justice Action League of Spokane)という団体が、SIPRIの報告とアフガン・イラク戦争に係る軍事費をまとめたリーフレットを路上で配布し、署名を集めるイベントを開催しました。リーフレットには「国防省への予算を減らし、その費用を雇用や教育、医療、環境保護などの新しい社会へ向けた事業へ移そう」と訴えています。また同日、ワシントンのアメリカン大学では軍事費を考える討論会が開かれました。

・ノルウェー(オスロ)
 オスロではノルウェー中のNGOや市民団体が集まり、軍事費に関するセミナーが開かれました。セミナーでは“核兵器に対するコスト”や、“ノルウェーでアメリカの戦闘機を購入する必要があるのか”と言った議論も交わされました。

・インド(ニューデリー)
 ニューデリーではセレモニーが開かれ、Control Arms Foundation of Indiaという団体が、公衆に対して飢餓や権利はく奪に反対するビラをまいたのちに、政府に対して意見書を提出しました。意見書では「軍事費を削減し貧困や社会保障への基金に充てるべきだ」などほかに、武器輸出制限や地雷禁止条約への批准といった主に5項目が述べられていました。

・オーストラリア(シドニー)
 オーストラリアのAABCC(The Australian Anti-Bases Campaign Coalitionの略)はYouTubeで軍事費削減を求める動画を上げました(http://anti-bases.org/)。
 オーストラリアは約320億ドルが軍事費に費やされており、世界で14番目に軍事費の高い国です(2009年)。さらに、日本、韓国と同様にアメリカの主要同盟国の一員であり、国中で約30の米軍基地があります。そのような状況で、AABCCは基地問題を知ってもらうことを焦点に活動しています。HP上で彼らがスローガンとして掲げている「BITE THE BULLET」という言葉には「困難に立ち向かう」という意味が含まれています。

・沖縄、辺野古
 沖縄では、米軍普天間飛行場の「移設」予定地となっている辺野古で、「思いやり予算」を凍結し、東日本大震災の支援や復興への取り組みに使うよう求める運動が行われ、世界にアピールしました。(http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-04-15_16681/

 ここで紹介したのは、数ある行動の中の数例にしかすぎません。このキャンペーンには少なくとも世界35カ国が参加し、100を超えるイベントが開催されました。私たちはこのようなアクションから、グローバルな市民ネットワークの存在を知ることができます。一つ一つのNGO、NPOの力は微力であるかもしれませんが、それらが一つになって行動を起こすことで、大きなうねりとなります。

 それだけでなく、4月12日に行われたこの一大キャンペーンの意義は、日本の市民社会にも問われなければなりません。具体的な取り組みからみてもわかるように、軍事費削減という目標はそれぞれの国の軍事費問題から出発しています。世界的な軍事費削減とMDGsの目標を果たすためには、まず日本の問題から考えてみる必要があります。


4、日本の軍事費問題

 世界が軍事費削減の声を上げている一方、日本はどうでしょうか。日本では在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)に関する新たな特別協定が2011年3月31日に国会で承認されました。これによって、日本政府は、年間1881億円(2.3億ドル)の税金を、今後5年間米軍に支出することになります。これは日本政府にとって、日米同盟に係る軍事費予算が相変わらず「聖域」となっていることを示しています。とりわけ強調すべきは、思いやり予算は米軍に対する経費全体の3分の一を占めているにすぎません。2010年度、日本政府は米軍基地関係経費に6729億円(7.92億ドル)という莫大な額を負担しています。このように、世界で第6位の軍事費を支出している日本は、アメリカが軍事大国としての位置を保持していることに、大きく協力している国の一つなのです。

 格差の拡大や貧困の増大が大きな社会問題となっている日本社会には、私たち市民が生きていくために必要な支出とは何なのかが問われています。加えて今後、原発災害を含む震災被害の被災者支援と復興に、多額の費用が不可避的に必要になります。そのような今こそ、日本も巨額の財政支出を行っている軍事費―とりわけ、在日米軍駐留に関する経費―を削減し、震災関係を含めた社会予算を拡充していくべきです。憲法が謳う「平和的生存権」は、軍事予算を削減して社会予算を拡充する首尾一貫した政策を通じてこそ、実現していけるでしょう。



「Global Day of Action on Military Spending」(http://demilitarize.org/)


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