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セイピースプロジェクトのブログ

「避難権」シリーズvol.1 原発避難者特例法

2012年02月05日 | 原発・震災
 
 2011年3月11日の東日本大震災に伴う原発事故が発生して、まもなく1年が経とうとしています。事故によってもたらされた放射能汚染は深刻な状況で、政府の指定した避難区域内だけでなく、福島県の中心部(中通り)である郡山市や福島市でも、チェルノブイリでの避難基準を超える高い空間線量が観測されています。このような状況を受け、放射能汚染による被ばくを避けるために、避難区域外からも多くの人びとが全国各地に避難しています。こうした人びとは「自主避難者」といわれ、福島県から県外に避難している自主避難者は2万7千人にのぼります。また、東京都にも7,000人を超える人びとが避難してきており、その多くが小さなお子さんを抱えた母子避難で、福島に家族を残し二重生活を余儀なくされています。しかし、自主避難者に対する公的な支援は十分とはいえず、不安定な生活を送っている人々が少なくありません。
 そうした中で、総務省より「原発避難者特例法」が公布・施行され、2012年1月から適用されました。「原発避難者特例法」とは、指定市町村からの避難者は、特例事務に関して、住民票を移さずに避難先の自治体から行政サービスを受けられることを定めた法律です。指定市町村と特例事務は以下の通りです。
 
<指定市町村>
  いわき市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、川内村、葛尾村、飯舘村
 
<特例事務>
 【医療・福祉関係】8法律166事務(※)
  ・要介護認定等に関する事務(介護保険法)
  ・介護予防等のための地域支援事業に関する事務(介護保険法)
  ・養護老人ホーム等への入所措置に関する事務(老人福祉法)
  ・保育所入所に関する事務(児童福祉法)
  ・予防接種に関する事務(予防接種法)
  ・児童扶養手当に関する事務(児童扶養手当法)
  ・特別児童扶養手当等に関する事務(特別児童扶養手当等の支給に関する法律)
  ・乳幼児、妊産婦等への健康診査、保健指導に関する事務(母子保健法)
  ・障害者、障害児への介護給付費等の支給決定に関する事務(障害者自立支援法)
 
 【教育関係】2法律53事務(※)
  ・児童生徒の就学等に関する事務(学校教育法、学校保健安全法)
  ・義務教育段階の就学援助に関する事務(学校教育法、学校保健安全法)
 ※事務数は事務の根拠となる法律または政令の条項数によるもの

 この法律は、原発事故によって避難した住民に対して、避難元の自治体が処理することの困難な事務を、避難先の自治体が処理し、適切な行政サービスを提供することを目的に定められたものです。
 避難先の自治体から特例事務に関する行政サービスを受けるためには、避難元の自治体または避難先自治体に、届出書で避難場所などの情報を提供する必要があります。なお、避難先自治体の窓口で届出書を提出すれば、「全国避難者情報システム」によって、避難元自治体に避難者の情報が届くようになっており、避難元の自治体からの情報も受け取ることができます。
(届出書はこちら→http://www.soumu.go.jp/main_content/000126092.pdf)

 福島からの避難者は、二重生活を送っていることや「いつか福島に戻りたい」という思いもあり、住民票を移さず避難する人々が少なくありません。基本的には警戒区域や計画的避難区域を含む市町村に適用範囲が限定されているとはいえ、そうした人々に対して避難先自治体から行政サービスを提供することを定めたこの法律は、画期的なものであるといえます。また、市町村単位での指定であることや、現在避難区域を含まないいわき市なども指定市町村に含まれる等、区域外から避難した自主避難者に対してもこの制度を適用できることは、一定評価できるのではないかと思います。しかし、今回指定されなかった市町村からも多くの人びとが避難をしており、今後こういった公的な制度の適用範囲をより拡充させていくことを求めていかなければなりません。

 現在、政府は「原発事故収束」宣言を出し、チェルノブイリの基準をはるかに上回る20mSvという避難基準を妥当なものと評価して、避難区域の再編・縮小を進めています。また、こうした政府の政策を受けて、1月31日には、全村避難をした福島県川内村が帰村宣言を発表し、今年4月から学校などの公共機関を開始することを決定しました。さらに、これまで避難者に対して行われてきた支援を、今年3月の年度末で打ち切りにする自治体や支援団体などが出てきています。
 しかし、未だに高い線量が観測されている地域に人びとを住まわせることは、低線量被ばくによる健康リスクを考えれば、決して認められるべきではありません。また、避難者に対する支援を打ち切ってしまえば、そうした地域に人びとを半ば強制的に「帰還」させることに繋がりかねません。
 今回施行された「原発避難者特例法」のように、国の制度として避難者の生活を一定保障するなどの公的な支援は、放射能汚染の長期化が避けられないいま、今後も継続的に必要となります。また、この法律は2011年8月に施行されたにも関わらず、避難者はもちろん、避難者を支援する団体の間でも、あまり十分に共有されていたとはいえません。限定的とはいえ、避難者の状況に即した行政サービスを政府として認めており、こうした制度はもっと活用し、さらに、適用範囲を福島市や郡山市などの中通り地域まで拡大していく必要があるでしょう。そして、このような法律を契機に、避難者の生活を制度的に保障することで、被ばくを避けること=避難が「権利」として、社会に認められるよう、私たちは求めていかなければならないのではないでしょうか。


 今後、「避難権」シリーズでは、私たちが避難者支援から見えてきたさまざまな問題や、各地の自治体でとられている制度的支援について、情報を発信していきたいと考えています。次回は、避難者の避難生活の要である「住居」について、現在の日本の住居政策やその問題点と合わせて述べていきたいと思います。


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