安倍政権は19日の閣議で、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を2基アメリカから購入することを決めました。
「防衛計画の大綱」や「中期防(2014年~18年)にはないものを、話が持ち上がって(今年3月30日の自民党安全保障調査会=座長・小野寺五典現防衛相の提言)わずか9カ月で導入決定という異常な経過です。自衛隊幹部が「官邸から『とにかく早く』と圧力が増していた」(20日付中国新聞=共同配信)と内幕を明かしています。
異常さは経過だけではありません。なんといっても価格です。1基1000億円。2基で2000億円。2000億円といえば、年収300万円の福祉・保育職員6万6000人分の年間給与に匹敵する巨大なムダ遣いです。
ところが、この「1基1000億円」も暫定的なもの、というよりさらに増えることが必至の少なめな見積もりにすぎません。
「防衛省は…『イージス・アショア』について、取得費が1基当たり1千億弱と説明した。レーダーなど装備の性能によりさらに高額となる可能性も指摘」(13日付中国新聞=共同配信)
「政府が当初示した費用は膨らみ、最終的な額は不透明だ」(20日付中国新聞=共同配信)
現に、政府は11月29日の参院予算委員会では「一般的な見積もり」として「1基800億円」と答弁していました。それが20日余で「1基1000億円」に跳ね上がったのです。
おかしくないですか?「最終的な額は不透明」、どれだけ膨らむか分からないものを、購入することだけは急いで決める。こんな買い物があるでしょうか。まして、税金を2000億円も使う買い物です。
これにはカラクリがあります。FMS(Foreign Military Sales)というシステムです。
日本政府は「有償軍事援助」と訳し、日本のメディアはそれをそのまま使っていますが、この訳自体が不当です。本来「対外兵器売り込み」と訳すべきでしょう。つまり、米兵器産業になりかわってアメリカ政府が外国に兵器を売り込む制度です。
FMSの最大の問題は、購入する兵器の価格も納期も米政府の言いなりで、しかも前払いだということです。
「日本が米国から最新鋭の武器や装備品を買うときは、米政府の有償軍事援助(FMS)に基づく。価格や納期は、米国の提示する条件を受け入れなければならない。要は彼の国の『言い値』」(久江雅彦共同通信編集委員、12日付中国新聞=共同配信)
信じられない制度です。さすがに防衛省自身、これは改善しなければならないという提言を出していたことがあります。
2008年1月、防衛省(装備政策課)は「FMSの一層の改善」と題した19㌻にわたる文書を発表しました。その中で、「FMSの課題」として、「納入・生産の促進」「価格の適正性の確保」の2点をあげ、こう指摘しています(防衛省HPより、写真中)。
「出荷予定時期から1年以上納入が遅延しているケースの未納入額の合計は約272億円(平成18年度末現在)…未納入額、未精算額の縮小を図る必要がある」
「FMSの見積書や引合書(FMSにおいて契約書に相当するもので、米国防省が作成)に、価格内訳が明確に示されていない場合が多く、一層の価格内訳の開示が課題」
防衛省自身が強調していたこうした「FMSの課題」は、9年たっても何ひとつ改善されていません。
にもかかわらず、重大なのは、FMSによる米政府からの兵器購入が安倍政権になって急増していることです。
「安倍政権が予算編成する前の2012年度に1372億円だったFMS購入は、18年度(概算要求)には4804億円へと上昇している」(20日付中国新聞=共同)
「FMSによる購入額は08~12年度の計約3647億円から、安倍政権が予算編成した13~17年度にはF35など高額な買い物で計約1兆6244億円へ跳ね上がった。米国からの購入を増やすほど米軍と自衛隊の一体化は加速する」(久江氏、前出)
安倍政権で実に4・5倍に跳ね上がったわけです。「イージス・アショア」の購入によってこの数字はさらに大きくなります。
FMSは兵器購入における露骨な対米従属にほかなりません。安倍政権におけるその急増は、「北朝鮮脅威」論などトランプ大統領と「百パーセント一致」と公言してはばからない安倍氏の対米追随、さらに戦争法(安保法制)による米軍と自衛隊の一体化、集団的自衛権行使と密接にリンクしています。