「嫌われ者対決」「史上最低のTV討論」などと酷評される米大統領選。20日(日本時間)の最後のTV討論が終わっても、最低級の評価は変わりません。
実際、政策論争はそっちのけで、「女性問題」と「メール私用問題」で個人攻撃を繰り返している「大統領選」にはうんざりです。
しかし、この「史上最低の米大統領選」を、私たちは面白半分で傍観していていいでしょうか。今回の大統領選を契機に、私たち日本人が自らの問題として考えねばならないことあるのではないでしょうか。
★ 制度疲労の「二大政党制」に追随するのか
どうみても大統領候補の器ではないトランプ氏が共和党の候補者となり、一定の「支持」を集めている「トランプ現象」。その根底には「米白人男性の鬱憤」があると言われます。
「知識集約型の産業構造に適応できず、じり貧状態の工場労働者や中小企業の営業マン、店舗従業員らが、大企業や貧困層ばかり優遇するリーマン・ショック後の政治に怒りを募らせている」(『トランプ現象とアメリカ保守思想』の著者・会田弘継青山学院大教授、7日付中国新聞)
その「トランプ現象」はクリントン氏が指名獲得を争ったサンダーズ氏が大健闘した「サンダース現象」に通じる、と渡辺将人北海道大准教授は指摘します。
「サンダース旋風は奇妙なまでにトランプ旋風とコインの裏表のようにシンクロナイズしていた。ワシントンの利権にまみれた職業政治家には幻滅しながらも、勝算なき第三党候補を支持すれば相手政党に漁夫の利を与える二大政党制のジレンマにフラストレーションを感じていた有権者にとって、サンダースやトランプのような第三党的候補があえて党内で立候補するという展開は、適度な現実感(二大政党内で出馬)とアウトサイダー感(実は第三軸候補)の双方を満たした」(渡辺氏『アメリカ政治の壁ー利益と理念の狭間で』岩波新書)
要するに、アメリカの「二大政党制」はもはや、米国民の不満・要望に応えうる制度ではないということです。民主党、共和党ともにこの程度の人物しか候補者にできないのも、「二大政党制」の制度疲労の表れといえるでしょう。
重要なのは、この制度疲労を起こしているアメリカ型「二大政党制」を時代錯誤的に後追いしているのが日本だということです。その仕組みは言うまでもなく小選挙区制の選挙制度です。
「二大政党制」が、多様化している「民意」に叶う政治制度なのか。小選挙区制の見直しとともに再検討する必要があるのではないでしょうか。
★ 「日米(軍事)同盟」を抜本的に見直す好機
クリントン氏とトランプ氏のどちらが大統領になっても、アメリカが内政・外交ともにいっそう多難な状況を向かえることは明らかです。それが私たちにとって他人事でないのは、そんなアメリカと日本が軍事同盟(日米安保条約)を結んでいることです。
安倍首相は9月20日(日本時間)、ニューヨークでクリントン氏と会談し、「日米同盟」についてこう述べました。
「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増す中、重要性は高まっている。希望の同盟であり、強化していきたい」(9月21日付共同)
これに対しクリントン氏はこう応じました。
「アジアだけでなく、世界の平和と繁栄を実現していく上で重要だ」(同)
ヒラリー・クリントン政権が実現した際には、日米軍事同盟は世界的規模に広がり、日本の軍事分担が地球的規模で拡大するのは明白です。集団的自衛権を行使する戦争法(安保法)がそのための「法整備」であったことは言うまでもありません。万一トランプ氏が当選した場合の混乱は計り知れません。
クリントン氏とトランプ氏のどちらが大統領になっても、このまま「日米(軍事)同盟」を維持・強化し、アメリカ従属の軍事路線を突き進んでいけば、日本・アジア・世界の平和に逆行することは明らかです。
私たちは今こそ「日米(軍事)同盟」を根本的に見直し、その解消へ向かう必要があります。「史上最低の大統領選」はその〝好機”ではないでしょうか。