時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百四十五)

2008-04-19 05:49:57 | 蒲殿春秋
頼朝は押し黙った。
しばらく沈黙が続く。
が、その後頼朝は
「何もうわなり打ちなどしなくても」
とぽそりと言った。

その乳弟のつぶやきに小百合は言葉を選んで語る。
「御台さまは産後日が十分に経っておりませぬ。
子を産んで直ぐの女子は何をするかわかりませぬ。
殿、私が弥九郎を産んだ後しばらくおかしかったことを覚えておられませぬか。」
頼朝は記憶の糸を手繰った。
そういえば小百合が瑠璃の弟弥九郎を産んでからしばらくわけも無く泣き続けていた日々が続いていたのを思い出していた。
頼朝も小百合の夫安達盛長も思い当たる節も無く、小百合がどうやっても泣き止まず仕方が無いので小百合の母比企尼にわざわざ武蔵から出向いてもらったことがあった。
比企尼に「産後の気鬱です。時が経つのを待つより仕方ありますまい。」と言われて皆納得したのであったが・・・

「あの時分私は藤九郎や比企の母にずいぶん助けてもらいました。
されど、御台さまは既にお実の母上を亡くされておられまする。
御台さまをお支えになることがおできになるのは、夫君たる殿だけでございまする。
どうか、御台さまをお守りくださいませ。」
小百合は静かに言葉を続ける。
「殿は御台さまや北条殿に支えられてここまでこられました。
今度は御台さまを殿がお守りになる番でございます。
うわなり打ちをするほど、お心が追い詰められました御台さまをお救いくださいませ。
伊豆での日々を思い起こしてくださいませ。」

それだけ言うと小百合は退出した。

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