時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(四十)

2006-08-23 23:55:15 | 蒲殿春秋
「驚くもの無理はあるまいのう。
この奥州で幼き頃のそちを知るものに会うとは思わなかったであろう。」
基成は説明した。

基成は元々陸奥守としてこの地にやってきた。
任期を過ぎてもこの地に留まり続けやがて奥州の真の王者秀衡に娘を嫁がせた。

一方彼は宮廷人でもあった。
彼は元々都育ち。奥州に居つくまでは都に住み続けた。

彼のまわりには問題の人物がいる。
平治の乱の首謀者になってしまった藤原信頼は彼の弟なのである。

所用があって基成が都の上った際
信頼との縁を深めていた範頼の父義朝が信頼の仲介で何度か基成の元を訪れた。
優秀な馬、武具を生産する奥州の実力者の一人となった基成とは
ぜひ縁を深めたいと思ったからである。
そして、基成も義朝の六条の屋敷を数度訪れた。
基成としても軍事貴族として重みを増しつつあり
奥州と交易を進行させていた上総の豪族の私的主である
義朝は興味のもてる存在だったからである。

そして、たまたま範頼が都に上っていたとき
基成が義朝の屋敷を訪ねて範頼を見たのだという。

「父君はそなたたち兄弟を呼ばれてわしに引き合わせて下さった。
嫡男の三郎殿は折り目正しく挨拶をされた。
五郎殿もおそるおそるなんとか挨拶をしていたな。
だが、そなたは、兄君の後ろに隠れてなかなか出てこなかった。
ついに兄君に引っ張りだされてな、やっとこさ挨拶をしたと思ったら
『あねうえー』と叫んで逃げていった。」

そんなことがあったのか 
範頼は赤面したい思いでいっぱいだった。

「立派になられた・・・」

基成はしみじみと言った。

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