時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(二百三十二)

2008-04-02 05:46:30 | 蒲殿春秋
坂東に頼朝と並び立つ武家の棟梁は要らない
頼朝のその方針からすると新田義重とその娘義平未亡人の地位上昇は由々しき問題である。

如何なすべきか?
頼朝は思案した。
新田義重を排除はできない。
北坂東には未だ動向定まらぬ藤姓足利氏などがいる。
彼等に対抗する為には上野の新田義重の存在は重要である。
排除はできない。けれども頼朝と並び立たれては困る。

義重に自分の上位を認めさせてそれでなおかつ自勢力に繋ぎ止めたい。
どうすれば良いのか。

まずは、頼朝は腹心梶原景時に相談した。
景時は
「思案します」
とのみ答えた。
景時にもよい考えは浮かばないようである。

そのような中頼朝に妙案を持ち込んだ者がいた。
最近頼朝に右筆(文書の代筆人)となった伏見広綱である。

「武衛(頼朝の事)に申し上げます。」
頼朝と二人きりになったとき広綱は密かに頼朝に話を持ちかけた。
「亡き御兄上のご後室はお美しい方との噂にございまするなあ」
といってきた。
「そうか」
頼朝はそっけなく答えた。
少年時代、神々しいばかりの美しさを持つ上西門院に近侍し密かにその姿を垣間見ていた頼朝は美しき女人というのはあの女院様以外にこの世に存在しないと思っている。
よって美しいとされる女性に関する噂に関しては彼は比較的冷淡である。
「あのお方が今までどなたの元にも再嫁されなかったのは不思議でございます。」
広綱は続ける。
「そうかのう。義姉上は今でも兄上のことを一途に思っておられる。だからではないのか?」
「今まではさようにございました。されど只今は事情が変わりました。」
「?」
「ご後室さまはおん兄上の御正室でございました。只今のご後室様はおん兄上源太様と同じ御存在でございます。
そのご後室様をお迎えになる男がおりましたら、その男は亡き兄上様と同じ高みに立つことになります。
つまり、ご後室様と縁を結ばれることによってその男が平治の合戦以前の兄上のお立場に立つこともあるやも知れませぬ。」
「!」
「そして、その男が武衛と同じ東国に住まう河内源氏の血筋者であったならば・・・
さらにその男に新田殿が結びつかれましたら如何なされまするか?」
広綱は細い眼で主を見上げた。

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