時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百八十九)

2007-10-19 05:25:25 | 蒲殿春秋
法皇の和平の斡旋を跳ね除けた平家は北陸出兵の準備にかかった。
その一方で、奥州の藤原秀衡を陸奥守、越後城資職を越後守に任じることを決した。
今まで、都にあって代々受領を勤めたものや、六位相当の官職をつつがなくこなした
ものでなければ、国守に任じられることはなかった。
その慣例を打ち破ってまで、在地の有力者であっても
都に在住しない秀衡らを国守に任じたのは
東国の各反乱勢力征伐を期待したのことであった。

また、西国には、平家譜代の臣、平貞能が派遣された。
西国反乱勢力を打倒するためである。

平家はあくまでも武力で戦うつもりである。

一方和平の調停に失敗した後白河法皇は、その後暫く政治的な発言はしていない。
しかし、反乱勢力のうちの一つ源頼朝が接触を求めてきたことに
静かなる変化の予兆を捉えていた。
少なくとも、源頼朝という院にたいして好意的な態度を示す反乱勢力首魁の存在は
後白河法皇の脳裏のなかに刻まれた。

差し出した密書への回答が否だったという報がもたらされた源頼朝も
それを聞いて不気味な笑みを湛えたのみであった。
頼朝はその報を聞いても動揺はしない。

━━ やはりな

腹のうちでそう感じていたかもしれない。
頼朝とて、現在の自分の実力を熟知している。
他反乱勢力に比してずば抜けている勢力をもっているわけではない。
和平提案は跳ね飛ばされても仕方が無いと思っている。

それでも、後白河法皇が自分の密書を読んで、和平へと動いてくれた。それだけでも大きな収穫である。

━━ さて、これから動くか、どのように為すべきか

都から遠く隔たった坂東の地にあって頼朝は独り虚空を睨みつけていた。

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