時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(百)

2007-01-27 22:45:43 | 蒲殿春秋
駿河から遠江そして信濃に入った範頼ら一行。
しかし、すぐに思わぬ難題が彼らを襲った。

食料がなくなったのである。
蒲御厨の下司から急き立てられ彼の地を立った一行は
ごく少数の身の回りのものしか持ち出すことができなかった。
食料も三日ほどの分しか持ち合わせていなかった。

すぐにどこかに落ち着こうと思っていた。
だから出発の時は食料の乏しいことに不安は感じていなかった。

だが、このように遠回りをして甲斐へいく羽目になると
食料の不足が深刻に圧し掛かってくる。
途中他の持ち物を食料に交換してもらっていたりしたのだが
それもすぐに底を尽いて信濃に入る頃には、空腹が慢性化していた。

このようなとき頼りになったのが藤七である。
佐々木一族に仕える藤七は、定綱や盛綱に付いて頼朝の配所に何度か伺候したことがある。
そして、比企尼などからの仕送りが遅れた時のひもじさや対処の仕方にも慣れていた。

山に入ると食べれそうな草をとってくる。
河を見つけると魚を素手で捕まえる。
今の範頼らにとっては本当に頼もしい。

それでも、大食漢で日頃飢えというものを知らぬ範頼にはこの道中は厳しかった。
食べなれぬ野草で腹を下し
魚を食しても穀類が恋しかった。
いかに今まで恵まれていた生活をしていたのかと、己の今までの日々を内省した。

腹が満たされぬと、心もおかしくなる。
希望を見つけて甲斐に向かうはずなのに範頼の心に不安が広がっていく。
甲斐に行っても大丈夫なのだろうか?
自分達の居場所はあるのだろうか?
それ以前に、甲斐にたどり着けるのか?
果たしてこの道は本当に甲斐に向かっているのかということさえも不安になる。

さらに、長旅のつかれで馬に揺られていても
今自分が起きているのか、眠っているのか
夢なのか現なのかの区別もつかなくなってくる。

範頼の顔つきは幽霊のようになってきた。

一方駒を並べる当麻太郎の方は殺気立っている。
文字通り何かに飢えた顔である。
このまま、目の前を食料をもったものがいたら襲って奪い取りそうな雰囲気である。

二人の様子をみていて藤七は危ないと思った。

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