時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百八十)

2009-04-26 06:32:04 | 蒲殿春秋
範頼は能保の滞在する異母弟全成の家へと向かう。
到着するとまず全成が範頼を出迎えた。
年を重ねた全成の美貌は益々冴え渡るものがある。

美しい弟に導かれ範頼は能保の元へと向かう。

数年ぶりに能保に会った。
相変わらず穏やな表情を見せている。
久々に見た能保は少し肥え貫禄が十分についていた。

範頼は能保に悔やみの言葉を述べる。
能保は落ち着いてその言葉を受ける。だが、辛さをこらえて返事をしているのはよく伝わってきた。
可愛がってくれていた祖母の死。その死に目に会えなかったことが能保の辛さに拍車をかけているのであろう。

「鎌倉殿やそなた達から言葉を頂いたことが何よりもありがたい。」
能保は礼の言葉を述べる。
それ以上の言葉はいえなかったし範頼もあえて何も言わなかった。

「ところで姉上は息災ですか?」
「ああ。」
「私の代わりに祖母を看取ってくれた・・・・
今は上西門院さまが匿って下さっている。」
匿って、という言葉が胸につかえる。
「では姉上は・・・」
「今は上西門院さまのお力におすがりするしかない。妻も子供達も・・・」

能保は妻ーつまり頼朝や範頼の姉のこれまでの境遇を能保は話し始めた。
頼朝の挙兵が都に知られてから能保の妻は頼朝の同母の姉ということで周囲から白眼視された。
謀反人源義朝の娘としてそれまでも肩身の狭い人生を送っていた。
それが今回の同母の弟頼朝の挙兵ー都から見ると謀反人 の身内ということでさらに辛い日々を送ることになる。
能保は身内から頼朝の姉である妻とは離縁するように何度も迫られたが、能保はそれを拒否しつづけた。だが時折能保の家を訪れる者達は能保の妻に冷たい視線を送る。
能保は自分所有するどこかの荘園に一旦妻子の身を隠させることも考えた。
だが、今度は畿内各地でも反平家の挙兵が続出。都の外に出すということも危険な状態となった。

そのような折能保の妻を庇ってくれたのが、能保の祖母。
乳母として御養育申し上げた上西門院に頼み込み孫の妻の庇護を頼んだ。
上西門院は快諾なされた。かつて仕えてくれた女房の娘でもあるその能保の妻を陰日なたに庇ってくれた。
おかげで平家の支配する都にあっても能保の妻の身の安全は図られた。

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