時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

蒲殿春秋(三百八十四)

2009-05-06 08:31:26 | 蒲殿春秋
義仲の危機感をさらに煽る出来事が起きる。
翌十一月十七日院御所に多くの武士達が終結した。
その物々しい院御所に身分の高いものしか乗ることのできない車が参入した。
その車の中には、摂政基通がいた。
基通は院のお召しに応じて院御所へ参入したのである。

この基通の参入を見届けた後白河法皇は使者を遣わして木曽義仲にある通達を伝える。
西国に下向して平家を倒すべし、と。

義仲は苦悩した。
この命令は正式な院宣ではない。
平家追討の院宣は源行家に下されている。
義仲が平家追討に出かけるということは行家の配下になれ、といっているようなものである。
さらに勘ぐれば、東から頼朝の代官を都に引き入れ、義仲を謀反人に仕立て上げて行家に討たせるということもありうる。
この法皇からの通達を受けるならば義仲は一気に滅亡に追い込まれるかもしれない。

やすやすとこの通達を受けるわけには行かない。

が、この危機の中義仲はあることに気が付く。

だがこの日有力貴族で院御所に参入したのはこの摂政基通だけであるということに。
基通以外の主な公卿や他貴族はこの日法皇の元に参上していないのである。

そしてそのことが院中に参入した武士達の間の動揺を誘っている。
詳しく内情を探らせると、義仲と本気で戦おうとしている武士はあまりいないということが分かった。
彼等はあくまでも法皇に身辺警護を頼まれただけでいざ合戦になるとどれだけ者が真剣に法皇の為に戦うかが分からない。

義仲は起死回生の策を思いつく。
まず、未だに義仲の身近に残る数少ない盟友の山本義経にあることを頼む。
近江に勢力を張る山本義経は即座に都を立ち、本領のある近江に戻る。
その成果は直ぐに現れた。
山本義経が近江で兵を集め始めると、かの地に滞在していた頼朝代官九郎義経は即座に姿をくらました。
少数の兵士か従えていない九郎義経は、在地に勢力をはる山本義経に抗しきれないと判断したからである。*

そして法皇に再び返事をする。
自分はあくまでも頼朝と戦うつもりである、と。

*ややこしいですが、近江源氏の山本義経と源頼朝弟の九郎義経は別人です。

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