平家が勢いを増し、都に在する武士達と義仲との間には溝ができ、近江には東国からの年貢を携えた
頼朝の代官九郎義経が滞在している。都は今大変な状況にある。
そのような中都のある屋敷で一人の初老の男が忙しい思いをしていた。
院御所から戻ってばかりの藤原範季の元に木曽義仲が訪れた。
義仲は院の近臣である範季に院に対する謀反の意志はないことを告げて欲しいといいに来たのである。
その奏上を了承した範季は鎌倉の使者の入京を認めるように言った。それが院の御意志であるからである。
だが、義仲は即答を避ける。
今度は範季が義仲に藤原秀衡の動向を問う。
だが今度も義仲は沈黙する。
多少の問答をして義仲は退去した。
義仲が去った後範季は居間に戻り、数々の書状に目を通す。
まず、奥州の在庁官人からの書状。
範季数年前まで陸奥守で在地に下向し、奥州の在庁官人とは未だに文のやりとりを行なっている。
その官人からの文には次のように記されている。
藤原秀衡が出陣の支度を進めていると。
ただし、南奥州の豪族の中には理由をつけてその出陣命令に従わないものも少なくない。
次に東国に在住している猶子源範頼からの書状。
彼のその日の書状には、新しく生まれた妻の弟の事が書かれている。このご時世に呆れるほどのどかな内容である。
だが文末には東国の年貢を携えて都に向かう弟の九郎義経の入京を院に取りはかりを宜しく願いたいとの意が記されている。
また、彼からはあまり日を置かずにに書状が来るのであるが、その内容はいつもの日日の事を記したのどかな文面ばかりである。だかその末尾に書かれた文面をよく読むと
鎌倉の頼朝、そして甲斐源氏の東国における優勢ぶりがよく記されている。
そしてもう一通。
それは、彼の舅平教盛からの書状である。
教盛からは西国における平家の優勢ぶりが記されている。
教盛らの平家が擁する安徳天皇の入京を認めていただくよう院と右大臣九条兼実に取り次いでいただきたいと
舅からの書状には記されている。
さらに、今日もう一通新たなる書状が届いた。
近江に滞在する源九郎義経からの書状である。
陸奥守で滞在していた間、範季は奥州にいた義経と何度か面識を持ったことがある。
また義経の兄範頼を通じての縁もある。
その義経から院へ入京を願って欲しいとの書状が届いた。
範季は、これらの書状をみて思案する。
数刻後三通の書状が記され、平教盛、源義経そして源範頼の元へと返書が向かう。
使者を出して、一息つき主家の九条兼実の元へ出仕しようとしている範季。
そこへ慌しく先触れの使者が訪れた。
現在の都の帝の乳母である姪で猶子の藤原範子が来訪するというのである。
父は亡く、夫と引き離された範子にとって、幼帝を支えていくには叔父の範季は大きな存在である。
また範季に何か願い事があってのことであろうが、範子を支えることは
今の帝を支えることであり、そのことは院の御意志に沿いまつり、主九条兼実も歓迎するところであろう。
範季は九条兼実へ遅参の届けを出し、範子を迎え入れた。
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頼朝の代官九郎義経が滞在している。都は今大変な状況にある。
そのような中都のある屋敷で一人の初老の男が忙しい思いをしていた。
院御所から戻ってばかりの藤原範季の元に木曽義仲が訪れた。
義仲は院の近臣である範季に院に対する謀反の意志はないことを告げて欲しいといいに来たのである。
その奏上を了承した範季は鎌倉の使者の入京を認めるように言った。それが院の御意志であるからである。
だが、義仲は即答を避ける。
今度は範季が義仲に藤原秀衡の動向を問う。
だが今度も義仲は沈黙する。
多少の問答をして義仲は退去した。
義仲が去った後範季は居間に戻り、数々の書状に目を通す。
まず、奥州の在庁官人からの書状。
範季数年前まで陸奥守で在地に下向し、奥州の在庁官人とは未だに文のやりとりを行なっている。
その官人からの文には次のように記されている。
藤原秀衡が出陣の支度を進めていると。
ただし、南奥州の豪族の中には理由をつけてその出陣命令に従わないものも少なくない。
次に東国に在住している猶子源範頼からの書状。
彼のその日の書状には、新しく生まれた妻の弟の事が書かれている。このご時世に呆れるほどのどかな内容である。
だが文末には東国の年貢を携えて都に向かう弟の九郎義経の入京を院に取りはかりを宜しく願いたいとの意が記されている。
また、彼からはあまり日を置かずにに書状が来るのであるが、その内容はいつもの日日の事を記したのどかな文面ばかりである。だかその末尾に書かれた文面をよく読むと
鎌倉の頼朝、そして甲斐源氏の東国における優勢ぶりがよく記されている。
そしてもう一通。
それは、彼の舅平教盛からの書状である。
教盛からは西国における平家の優勢ぶりが記されている。
教盛らの平家が擁する安徳天皇の入京を認めていただくよう院と右大臣九条兼実に取り次いでいただきたいと
舅からの書状には記されている。
さらに、今日もう一通新たなる書状が届いた。
近江に滞在する源九郎義経からの書状である。
陸奥守で滞在していた間、範季は奥州にいた義経と何度か面識を持ったことがある。
また義経の兄範頼を通じての縁もある。
その義経から院へ入京を願って欲しいとの書状が届いた。
範季は、これらの書状をみて思案する。
数刻後三通の書状が記され、平教盛、源義経そして源範頼の元へと返書が向かう。
使者を出して、一息つき主家の九条兼実の元へ出仕しようとしている範季。
そこへ慌しく先触れの使者が訪れた。
現在の都の帝の乳母である姪で猶子の藤原範子が来訪するというのである。
父は亡く、夫と引き離された範子にとって、幼帝を支えていくには叔父の範季は大きな存在である。
また範季に何か願い事があってのことであろうが、範子を支えることは
今の帝を支えることであり、そのことは院の御意志に沿いまつり、主九条兼実も歓迎するところであろう。
範季は九条兼実へ遅参の届けを出し、範子を迎え入れた。
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