時のうねりのはざまにて

歴史小説もどきを書いてみます。作品と解説の二部構成で行こうと思います。

玉葉 兼実怒る

2009-02-07 22:52:23 | 日記・軍記物
ちょうど義仲が入京している頃に兼実が怒りまくって「玉葉」に書いた部分があるのでご紹介します。

玉葉寿永二年(1183年)九月六日条
↓かなり意訳した現代語訳です。

「院が御逐電になった直後のことだ。前関白基房が源行家に使者を送ってとんでもないことを言った。
『摂政の座は嫡男が相続するものだが、それができない場合次男がなる。そのようなケースはあるけれども、三男以下は摂政についたことはない。(兼実が摂政になるという)世の中の評判はなんだかおかしいものだ。』と。同じような事を基房は院にも申し上げた。

基房がこんな事を言ったという噂はあったが、単なる噂と思っていた。
だが、今日確かにこの噂は本当の事だと聞いて飛び上がるほど驚いた。

天皇の位や摂政関白の座に誰がつくということは天の定めることで人力で決まるものではないのに!
そのような事を軽々しく言うものではない!
大体三男が摂関になれないというのはどういうことだ。
忠平公、兼家公、道長公の事を知らないのか!(彼等はみな三男かそれ以降)
まさか、この三代の前例を忘れたわけではあるまいな。

法皇様はきちんとご判断はされないし、源氏なんかは何にも知っちゃいない!
あの怪しげな一言で、大切な大切な政治の実権を基房をつかもうとしている。
なんという謀略だ。基房があの世にいったら、この謀略のせいで基房は酷い罰を受けるに違いない。

弾指すべきである。弾指すべきである。

だが、こんな厄介なご時世に、摂政として政務を執るのはイヤだ!」

一生懸命現代語訳してみましたが、原文の面白さには及びません。

原文読み下しはこの通り↓
「(前略)伝え聞く。入道関白(基房)、少将顕家を以て使となし、行家の許に示し送られて云はく(院御逐電の刻の事なり)、先ず摂録の職に於いては、家嫡にあらざれば、二男に及ぶと雖も、未だ三男に及ぶ例あらず。而るに下官仁に当たる由、世間の謳歌太だ不当なりと云々。又、院に奏せらるる旨同前と云々。このこと日来聞き及ぶと雖も、信用せざる処、今日定説を聞き、驚奇少なからず。凡そ天子の位、摂録の運、全く人力の及ぶ所にあらず。結構の体、事軽々に似たり。加之、三男に及ばざるの由如何。貞信公(忠平)、大入道殿(兼家)、御堂(道長)、この三代の例棄置くか。法皇黒白を弁ぜず、源氏是非を知らず。只一言の狂感を以て、万機の巨務を惣べんとす。謀計の至り、冥罰定めて速きか。弾指すべし、弾指すべし。但し余に於いては、乱世の執柄好む所にあらず。」

さて、この出来事があったのは、木曽義仲が都に迫り、平家が都落ちしようとしている頃のことです。
後白河法皇は平家の手を逃れ比叡山へと上ります。
そこへ、早速前関白基房が法皇の御前に参上します。

この時点では現摂政基通は平家に同道するものと見なされ、それが故に摂政の座を追われるものと思われていました
平家によって失脚させられていた基房はその時点で自らの復権をかけていたと思われます。
復権とは即ち、自分の手に摂政の座を取り戻すことです。

が、しかし、基房はこの時点では自らが摂政に返り咲くことはできません。
既に出家していたからです。
基房が望んでいたのは自分の嫡子師家を摂政に就任させて、みずからが後見するという形だったと思います。

しかし、その実現には障害がありました。
その障害とは基房の弟兼実の存在です。
基房の子師家はその当時十二歳の少年。摂政に就任する為の官位を経験しておらず、政界での経験も当然少ないものでした。
一方兼実は長年の間右大臣として政権の中枢におり、政治的経験を積み重ねていました。

となると当然、師家よりも兼実の方が摂政にふさわしいという空気が宮廷内にあったのではないかと思われるのです。

しかし、基房は自分の復権の為にも我が子を摂政にしたい。
それが故に、「嫡男次男ならば摂政になれるけれども・・・」という言葉を出すなどして兼実摂政就任を妨げていたのだと思います。(基房は実質次男)

一方、後でこのことを知った「実質三男」の兼実は基房の露骨な活動に怒り、「三男云々」の言葉に怒る。
そう書きながらも「こんな時期に政権とりたくなーい」と末尾に書き込む。

何と言っていいのでしょうか・・・・

美しいとは決していえない、摂政の座を巡る駆け引き。
しかし、この時期これは意外な形で解決してしまっています。

失脚確実と思われた、現摂政基通が平家一門と袂を別ち後白河法皇の前に参上して、摂政の座を死守。
基房の活動も、兼実の怒り(これは後になってのことですが)も全て無駄となってしまいました。

政権抗争はやっぱりわけがわかりません。



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2 コメント

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Unknown (taka)
2009-02-08 18:48:17
こんなに怒りまくっているのに、最後の一文が、笑えます。見事な(?)決着をつけてくれた「天」の意にも。
天のいたずらか? (さがみ)
2009-02-08 21:26:19
takaさんこんばんは。
末尾の一言、本当に脱力しますよね。
そして、意外な決着にも。

政治って本当にわかりませんよね。
こんな面白い事を書き残してくれた当事者の兼実さんに感謝!です。

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