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博多高等学校校長ブログ

博多高等学校校長「八尋太郎」によるブログ

第71回 「看護専攻科卒業証書授与式」

2010年03月05日 | Weblog
一昨日の3日に、第20回看護専攻科卒業証書授与式が挙行されました。非常に感動的な式になったと思います。卒業生の答辞に感動して、泣いてしまいました。少し恥ずかしかったですね。18時からの謝恩会では、さすがに20歳の女性達です。きれいに着飾って、学校とは別人のようになっていました。謝恩会も素晴らしい会だったと思います。
 今回は、第20回看護専攻科卒業証書授与式の式辞を載せます。
                    式辞
 まだ冬の寒さが残りつつも確実に春の足音が聞こえている、この良き日に、多くの御来賓並びに保護者の方々のご臨席を賜り、第20回卒業証書授与式を挙行できますことを心より感謝申し上げます。
 42名の卒業生の皆さん、あらためて卒業おめでとう。皆さんのこれまでの5年間の努力に対して、心から拍手を送るとともに、これからの活躍を心から願っております。
保護者の皆様におかれましては、本日、無事卒業式を迎えられた喜びを噛みしめておられることと存じます。誠におめでとうございます。これまでの労苦に対し敬意を表しますとともに、本校に対するご協力、ご支援に対し感謝申し上げます。今後ともお子様の母校の発展のためにご支援賜りますようお願い申し上げます。
 さて、卒業生の皆さんは4月から、看護師として社会に旅立ちます。本校に入学してから5年間、悲しいこと、辛いこと、悩んだことなどいろいろとあったことでしょう。皆さんはそれらを乗り越えてこの卒業式に臨んでいます。しかし、皆さんが今あるのは、自分だけの努力ではありません。皆さん周りを見て下さい。友達や後輩、先生や来賓の方々、そして後ろを振り返って見て下さい。親やご家族の方々、これらの多くの人々の支えがあった事を感謝しなければいけません。勉強や仕事よりも、まず大切なことは、人への感謝と思いやりだと思います。この基本的なことをしっかりと把握することにより、患者様を始め、すべての人に優しく接することができると思います。
 看護師という職業は素晴らしく、尊い職業であるとともに、もっとも厳しい職業のひとつでもあります。時には大きな壁にぶつかるかもしれません。失敗をすることもあるでしょう。患者様のことで悩んだり、傷ついたりすることもあるかもしれません。しかし、そのことに負けないで一歩一歩成長していってほしいと思います。たとえば、一本の細い若い木に心ない人が傷を付けたとしましょう。傷そのものは長く残ります。けれども、その若木が堂々たる巨木、大きな木に生長したら、その傷はどうなるでしょう。かつては痛々しかったその傷も、よく探さなければ見つけられないほどの、浅く小さなものに変わっているはずです。人間も同じです。失敗や心の傷はなかったことには出来ませんが、自分自身が大きく、たくましく成長すれば、気にならないくらい小さなものにすることができます。大きな心を持ち、やさしく、頼りがいのある、素晴らしい看護師になってほしいと思います。
 ここで、私の心に響いた、ある喘息の子供を持つ教師の話をしたいと思います。ある日、喘息の息子を持つ友達から、「美波ちゃん呼吸音おかしくない?喘息かもよ」と言われたそうです。以前、教え子を喘息でなくした経験を持つその教師は、その言葉に動揺し、頭の中が真っ白になりました。医者に行くと、友達の指摘とおり喘息でした。間もなく一歳の娘は些細な刺激で発作を繰り返すようになりました。二歳になった秋、これまでにない大きな発作が起きました。夜間救急病院に点滴治療をしてもらい、症状は快方に向かいました。ところが、新たな点滴を始めると症状が一転して様子がおかしくなりました。実は一日かけて入れるはずの点滴薬を誤って一時間で入れてしまったのです。処置室へ連れて行かれた娘のベッドで、床にうずくまって嗚咽を上げました。その時、「泣いている場合じゃないでしょ。早く行って抱いてあげなきゃ。一番苦しんでいるのは美波ちゃんでしょ。」同室に入院している男の子のお母さんの声でした。顔を平手で殴られたような衝撃を受けました。我を取り戻し、涙をふいて立ち上がりました。明け方、「もう大丈夫です」と、医師団は謝罪とともに言いました。同室のお母さんが笑顔で自分のことのように喜び、ねぎらってくれたそうです。そのお母さんの子供は、生まれつき難しい病気を抱え、退院できるのか、治るのかさえも分からない状況でした。彼女が背負っているものの大きさ、重さ。それを知るに連れ、この世の終わりのように嘆いていた自分が恥ずかしくなりました。ベッドで息子に絵本を読み聞かせる彼女の表情はとても穏やかでした。彼女はここに来るまでにどれほど辛く苦しい思いをしてきたことか。彼女の姿を見て、不安に揺れていた私の心に、しっかりとした柱ができました。話しは以上です。看護師になる皆さんに取って、テレビのニュースにならないところでも、医療ミスは起こっているということを肝に銘じなければならないと思いますが、もっとも皆さんに心に留めてほしいことを、この教師は最後に書いています。それは、「人生最悪の場面での最高の出会い。それはその後の私の人生を大きく変えた。良いことがたくさんあるから幸せなんじゃない。苦しみや悲しみを希望に変える力があるからこそ人は幸せになれるのだ。言葉ではなく生き方でそう教えてくれた彼女に幸あれと願う」
博多高等学校の5年間を終えた皆さんには、この「苦しみや悲しみを希望に変える力」が備わっているはずです。患者様の苦しみや悲しみさえも希望に変えることができる看護師になってほしいと思います。
 最後になりますが、4月から看護師という聖職に就く皆さんが、人の役に立ち、人を幸せにし、そして自分と家族を幸せにできることを祈念し、式辞といたします。
               平成22年3月3日
              学校法人 博多学園 博多高等学校 校長 八尋太郎

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