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傍流点景

余所見と隙間と偏りだらけの見聞禄です
(・・・今年も放置癖は治らないか?)

『ザ・コーポレーション』('04/カナダ)

2005-12-09 | 映画【劇場公開】
 いよいよ明日12月10日から公開される『The Corporation』だが、私は配給元のUplinkによる「ブロガー試写」に応募して、一足早く先月末日に鑑賞してきた。「ブロガー試写」の名前の通り、これは本作に関するエントリを公式サイトにTBすることを条件としている。
 2時間25分という長さのドキュメンタリーだが、少なくとも私は全く時間を気にすることはなかった。これは是非とも原作であるジョエル・ベイカンの本も読まねばと思い、映画の復習も兼ねて購入した。こちらは現在まだ途中だが、読了したら再度1人の観客として、劇場で見直したいと思っている。

 本作はまず「企業を1人の人格として精神分析すると、その診断結果は“サイコパス”である」ということを一つの論点として構成される。そして“患者”である企業の誕生と歴史、現在ある姿のいくつもの“症例”を、各界の研究者、知識人、社会運動家、大企業のCEO等への取材を通して何章かに渡って検証していく、という作りになってる。
(注:作中の【企業】とは、欧米の大企業のことであり、中小企業は含まれない)
 ---などと書くと、小難しいお堅い内容かと敬遠する方もいるかもしれないが、多くの人々に観てもらうことを前提としている作品だから、とてもわかり易い内容になっているように思う。(本作にも登場するマイケル・ムーアによるドキュメンタリーのポップな明快さやエンターテインメント性には、確かに適わないが) 
 また、大企業による経済的グローバリゼイション・環境破壊問題・労働力搾取による人権問題・公共事業の民営化の弊害・コマーシャリズムによる心理操作・そのような企業の横暴を告発するジャーナリズムと消費者運動・・・といったことに興味のある方には、是非ともお薦めしたい映画でもある。

 個人的には、本作で挙げられている事例には、特に驚かされるというようなことはなかったけども(単に私の好きな英米のバンド/アーティストは何故だか社会的なテーマを取り上げるタイプが多いため・・・やっぱり多少は感化されてるので、僅かばかりの予備知識はあったから)、ぎっしりと詰まった人々への警鐘の数々は実に見応えの満点であった。
 中でも、私が最も印象に残っているのは、先物取引業者の男性が語る【9.11のときの金融トレーダーたちの反応】である。やや偽悪的な調子で「言っちまおうかな・・・あの光景を見ながら、やつらが何て言ってたか」。そうして語られるエピソードには、心底暗澹とさせられた。マネー・トレーダー達の反応そのものに、というより・・・すべからく“人間”というものは、そうした非情で醜い一面を持っているのだということに。彼らが特別な訳ではないのだ。それに、彼らにはそれが仕事なのだから。そして大企業とは、そのような“人間”の集積でもあるのだ。
 但し児童労働や途上国における労働力搾取の問題については・・・いつも思うのだが、こればかりは企業の悪行を告発すればよい、というものではないだろう。そのような労働条件・環境に従事せざるを得ない人々の貧しさ、国の政治体制こそに真の問題があるわけで、告発したからといって人々の暮らしが豊かになるわけではないと思うのだが・・・。

 だからこそ、本当にこの映画を観て欲しいのは、実は我々消費者ではなく、各国の政治家の方々や大企業の経営陣・要職についている方々、そして株に投資している株主たちだと思った。実際に大企業の利益に関わる人たちが、冷静にここで描かれているようなことを受け取め、何か感じることがあればそのことについて考えて欲しいのだ。・・・なんて、私は政治経済には疎いし無学に等しい、まして消費者としては泡沫な時間給労働者に過ぎないからこそ、こんなことを言えてしまうのかもしれないが・・・。
 勿論、我々消費者による厳しい選択眼、思考・判断力は強く求められる。本作ラストの章でもボリビアの水道民営化に反対した活動家による胸が熱くなるような「民衆の勝利」の実話が挙げられ、マイケル・ムーアが「俺は人々の力を信じる」という、いつも通りだけど力強いメッセージで幕を閉じる。
 人々の力は確かに大きいし、現在の状況を改善していく原動力になるだろう。しかし、最も有効なのは「企業本体の自覚・自制」そして「法による企業活動の規制・監視」しかないと思うのだけど・・・どうなんだろうか。こうしたことを語るには己の勉強不足を痛感するばかりだが、原作読了後にあらためて再考できれば、と思っている。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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はじめまして! (Ken)
2005-12-11 01:10:58
TBさせて頂きました。

あの金融トレーダーの発言、衝撃的でしたね。まあああいう風に考える人がいるのはわからないでもないのですが、それをカメラの前で言ってしまったことがすごい。

この映画を観て思ったのは、今現在企業で働く自分ももしかしたら回りまわってどこかで共犯者になっているかもしれない、ということですよね。そんなこと考えすぎたら会社なんかで働けないわけですが・・・。
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麻痺する感覚 (shito)
2005-12-11 21:04:40
Kenさん、はじめまして! コメント&TB、ありがとうございました。



>カメラの前で言ってしまったことがすごい

一種の懺悔なのかな、とも思いましたが・・・本当に、作中での悪寒度は№1でしたねえ、彼の発言は。

とはいえ「それが自分の仕事だから」と、割り切って切り捨てていくと、それが恒常的になり麻痺してしまうというのは、他の職業でもいろいろとあるのでしょうね。

(軍隊関係者や医療関係者、報道関係者とか)



現実に生きていく限り、大企業との無関係でいることは出来ないのなら、せめて依存しきることのないよう、いろいろと目を配って、考えることを忘れないようにしなくては・・・と、思いました。そんなことぐらいしか言えないのが遣る瀬無いですけどね・・・
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