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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Johann Rosenmüller / Gli Incogniti | Amandine Beyer / "Beatus Vir?"

2010-10-29 19:42:38 | art music
Beatus_vir


□ Johann Rosenmüller / Gli Incogniti, Amandine Beyer /
 "Beatus Vir? (Motets and Sonatas)"

♪ <script type="text/javascript" src="http://mediaplayer.yahoo.com/js"></script>Sonata Decima a 5
Nisi Dominus

Release Date; Aug./2010
Label; Zig-Zag Territoires
Cat.No.; ZZT100801
Format: 1xCD

>> http://www.zigzag-territoires.com/

>> tracklisting.

Beatus Vir ?
01. Sonata Decima a 5 (Sonate a stromenti da Arco et Altri, Norimberga 1682)
02. Jubilate Deo (Manuscrits Inédits trouvés à la Bibliothèque de Berlin)
03. Misericordias Domini (Manuscrits Inédits)
04. Sonata Settima a 4 (Sonate a stromenti da Arco et Altri, Norimberga)
05. Coeletes Spiritus (Manuscrits Inédits)
06. Nisi Dominus (Manuscrits Inédits)
07. Sonata Ottava a 4 (Sonate a stromenti da Arco et Altri, Norimberga)
08. Salve mi Jesu No. 421 (Manuscrits Inédits)



Johann Rosenmüller (1619-1684)
Oelsnitz - Leipzig - Hambourg - Venice - Wolfenbüttel

Gli Incogniti
Amandine Beyer violon et direction


Raquel Andueza soprano
Wolf Matthias Friedrich basse
Alba Roca violon
Marta Paramo, Yoko Kawakubo altos
Baldomero Barciela viole de gambe
Francesco Romano théorbe
Anna Fontana clavecin et orgue




"Amandine Beyer and Gli Incogniti have discovered these unpublished vocal pieces in which majestic, quasi-operatic sinfonias introduce psalms or other liturgical texts, with voices and instruments answering each other colla parte ? as if the composer wanted each musician or singer to transcend his or her own limits.The voice can also sometimes flare up like a flame, an existential interrogation. "


Rosenmüller - The Enigma of the Baroque Sacred Music.


バロック音楽史上初の『フリーランスの作曲家』。ヴェネツィア期には協奏風宗教曲においてルター派の作曲家に多大な影響を齎し、創造性に溢れる偉大な業績を残しながら、最も多くの謎に包まれた不屈の音楽家、ヨハン・ローゼンミュラー。

晩年のモテット&ソナタ集である"Beatus Vir?"は、新たに発見された写本から、歴史に埋もれ今なお殆ど知られていない、このバロック時代の『特異点』ともいうべき意匠の数々に光をあてようとするものである。



1619年、ザクセンのエルスニッツに生を受けたローゼンミュラーは、ライプツィヒで音楽を学び、重要なポストに次々と就任。1655年、ついに聖トマス教会のカントルへと採用されるという時に、突如として『ホモセクシュアル』の不可解な嫌疑をかけられ逮捕されるが、すぐに脱獄を決行。(未だ事実関係は不明)


2年間ハンブルクに身を潜め、Giovanni Rosenmillerの偽名でヴェネツィアに渡り、サン・マルコ聖堂でトロンボーン奏者の職に就きながら作曲活動を継続。1678年にはピエタ養育院合唱音楽長をつとめ、イタリアン・バロック界を席巻する評価を得たことで、1682年にドイツ本国の特赦により帰郷。その2年後に他界するまで、ヴォルフェンビュッテル宮廷楽長として作曲活動を全うした。



ここに収録されているソナタは1682年にニュルンベルクで発行されたものであり、及びモテットはベルリンの図書館に所蔵されていたスコアで、同様に彼の晩年の集大成というべき作品であると考えられている。

彼の遺稿は今でこそ希少だが、17世紀末から18世紀までのドイツ・イタリアの宮廷・教会の財産目録には、ローゼンミュラーの名が多く散りばめられ、彼がシュッツやブクステフーデと並んで、当時最も名声を誇った作曲家であったことを裏付けているという。しかし現在では、その刊行物の10%に満たない史料すら見つかっていないのだ。



第一次大戦終了時まで、バッハ以前の教会カンタータは、聖書と自由詩の引用から成るダイアローグ、協奏風モテット、コラール変奏曲、ソロあるいは循環カンタータなど、ごく限られた様式に基づいていると考えられてきた。ローゼンミュラーに言及した最も古い論文の登場は1932年まで待たなければならないが、彼を『レッシングの記述に拠るクロプシュトック』と準える向きもある。誰もがその偉業を讃えるが、誰もがその作品の重要性を為す本質について理解を遅らせて来たというのである。


今日の声楽研究では、特にローゼンミュラーのヴェネツィア期におけるラテン詩編の重要性が脚光を浴びているものの、あまり顧みられて来なかったという協奏風ミサ曲についても、ドイツ、イタリアを通じたバロック音楽の転換点とも言うべき要素が特徴づけられているという。


その音楽的特異性とはすなわち、重唱、独唱、合唱、弦楽アンサンブルといった様々な表現手段を用いた論理的構造、フィグーレンレーレに基づく不協和音程の使用、および次々と転調を繰り返しながら展開する調性的和声である。特に、金管楽器が旋律楽器としての役割をもつこと、およびエコー書法は、ヴェネツィアの影響を明確に示しており、この特徴は、協奏風ミサ曲にもラテン語の詩篇曲にも見られるものである。
『J.ローゼンミュラーのミサ曲 - ボーケマイヤー・コレクションにおける協奏風ミサ曲の研究』園田順子 著


事実、ローゼンミュラーの協奏曲はこの上なく『モダン』に響く。緻密でありながら豊穣で、荘厳でありながら官能に満ちている。Amandine Beyerは、このCDに収められた二つの最も重要なシンフォニア、"Nisi Dominus"、"Misericordias Domini"について、そのリトルネッロ(反復構造)の特異性を挙げて、「潜在する構造性に裏打ちされた演奏者との対話であり、彼らの参加性と表現力を要求するもの」と解釈している。



17世紀末のシンフォニアの発展と人気の定着は、ローゼンミュラーの貢献に拠る所が最も大きい。

半音階フーガからの導入による"Soanata Settima a 4"では、ブロック・コード化されたサラバンド風アダージョの形式を経由、次にプレスティッシモで幕を閉じるABA構造を敷いていて、ヴェネツィア・オペラのシンフォニア様式を色濃く反映したローゼンミュラーの意匠の到達点となっている。『退屈なスキマティズムを脱却しながらも、内的な緊張を構築している (Holger Eichhorn)』

器楽演奏において、精緻な論理構成とアーティキュレーションの明瞭な区分が、必要欠くべからずものとされるようになったのも当時頃からであり、そのマニフェストは、これらの作品の初の収録音源となる、この演奏でも引き継がれているという。



ローゼンミュラーの最晩年の作品であるとされる"Nisi Dominus"は、ダビデの子ソロモンによる『詩編18』に基づいた典型的なシンフォニアとして幕を開けるが、リトルネッロから導かれる第二ヴァースからは、物語の展開に併せてサラバンド風アリアやマドリガーレの装飾、象徴的な保続音に加え、哀しみのモチーフとして半音階が用いられるなど、コンテクストの寓意に音を呼応させるという繊細な手法を完成させている。


第三・四ヴァースからは浮遊感のあるアリア・コンチェルトが、リトルネッロと不協和的なアダージョによって断続的に展開され、第五ヴァースで冒頭のシンフォニアが教会の頌栄を伴って回帰する。頌栄の文にある通り、『Sicut erat in principio(始めに在りしごとく)』為るのである。



CDの解説では、その他の楽曲についても、特筆すべきコンテクストの構造上の理由と音楽的特徴の結実点が多く挙げられているので、バロック・オペラの『ミッシングリンク』ともいうべき、この最も偉大で謎多き作曲家について興味を抱かれた方には是非手に取って頂きたい。




最後になったが、演奏を務めたGli Incognitiは、既に一流のソリストとして数多くの音源を収録し、名を馳せているヴァイオリニストのAmandine Beyerが率いる楽団で、主にバロック関係のパフォーマンスで活躍している。

ゲスト・ソプラノのRaquel Anduezaも、近年ますます国際的な注目を集めている美貌のソリスト。豊潤で透明感のある天性の歌声は、どこかタイトながらも、声量によって損なわれることのない清麗さに溢れていて、いつまでも聴いていたいと思わせる稀有な魅力がある。