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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

厳罰化では少年事件の再犯は防げなかった 「非行」少年に暖かい目を 子ども未来法律事務所通信13

2011年11月11日 | 子ども未来法律事務所通信

 

今日はいきなり、Yahoo!ニュースで、「少年院出所 再犯者率は42.7%」という見出しで報道されていたので、「そんなはずない!」とびっくりしました。

クリックして元記事を調べても、時事通信の見出しはこうです。

再犯者率最悪42.7%=少年院出所者を初調査-犯罪白書

Yahoo!にしても、時事通信にしても、これでは、どう見ても少年院を出所した元非行少年の再犯率が42・7%というように読めるのですが、皆さんにとってはいかがですか?

実は、11月11日の閣議で報告された犯罪白書によりますと、42・7%の再犯率というのは、下の図のように大人を含めた全体の再犯率です。

2010年の一般刑法犯の検挙人数は約32万3000人。このうち、犯罪で再び検挙された再犯者は13万7614人で、再犯者の割合を示す再犯者率は前年比0.5ポイント増の42.7%となり、1997年から一貫して上昇し続けている、という話なのです。

 


ロースクール発足以来去年まで、ずっと少年法を教授として教えてきていたので、10年前には4分の1程度だった少年の再犯率がいきなり4割を超えることはあるまいと思ったのですが、やはりまあ「誤報」でしたね。

読者のほとんどは見出ししか見てくれませんから、ほぼ誤報と言っていいでしょう。もしくはミスリード。

 たぶん、マスメディア自体に意図があるわけではなく、法務省がまた少年法の厳罰化や少年院法の改悪かなにかを狙っているのだと思います。マスコミというのは官庁が垂れ流したとおりに記事を作りますから。

実際には過失による交通事故を除く「一般刑法犯」で検挙された少年のうち再犯者が占める割合は下のグラフのように31・5%だったそうです。

見出しは、「非行少年再犯率は31・5%」が正しかったのです。


(また、このように少年の検挙者も再犯検挙者数も実数は減り続けています)

 

 

この再犯率というのがくせ者で、普通は、一度犯罪を犯した少年がもう一度犯罪を犯す率のようですが、そうではなくて、全体の犯罪の中で再犯者の数を示しているだけです。犯罪者に占める再犯の大人や子どもが増えていると言うことですね。

再犯率はともかく、再犯者を含めても、冒頭の図や下のグラフのように大人の刑法犯以上に少年事件は減り続けていています。景気が悪いのに大人も子どもも頑張っています。




少年の再犯率は1998年以来増え続け、記録が残る1975年以降最高だったのですが、この少年の再犯率の増加は、一面では、2000年以来たびたび行われて来た少年法の厳罰化は少年事件やその再犯を防ぐのに役立っていないという証拠です。

つまり、厳罰を受けても、怖がらずに再犯してしまうと言うことですからね。

少年鑑別所の入所者730人と30歳未満の刑務所受刑者372人に、非行や犯罪に対する意識調査を実施したところ「悪いことを思いとどまらせる心のブレーキは何か」との質問に、「家族」と答えたのが68%で、「警察(摘発への恐れ)」の11%を大幅に上回ったそうです。

共同通信などの報道も見てみると、(1)少年の再犯率の統計と(2)少年院出所後の追跡調査は別の調査なんですね。(1)は毎年出していますから。

(2)について、法務省は、平成16年1月から3月までに全国の少年院を出た、当時18歳と19歳のおよそ650人について、25歳になるまで追跡調査を行いました。その結果、再び犯罪を犯して罰金以上の刑事処分を受けた若者は、およそ39%に上っているということです。やはり高いですね。具体的には、窃盗や傷害などの犯罪が多くなっていて、15%の人は、実刑判決を受けています。

 

私の地元で起きた児童連続殺傷事件をきっかけに少年法の改悪が相次いでいるのですが、下のグラフにあるように、少年による殺人は半世紀前の3分の1。

毎年100人前後で当時増えていたわけでもないし、その後、厳罰化で目に見えて減ったわけでもないのですけどね。

マスコミと世論は冷静に話を聞いてくれませんから、多勢に無勢です。

 


大人と少年の再犯率は同じ時期からほぼ同じペースで上がり続けているのですから、これは少年だけの問題ではなく、日本の刑事政策や経済政策の問題なのでしょう。

1997~98年というと、橋本内閣の下、消費税が3%から5%に増税になり、下の二つのグラフのように極端に景気が悪くなって、所得税・法人税の税収が激減し、日本の自殺者が増えたときですからね。

むしろ、少年の方が一貫して大人よりも再犯せずに頑張っています。なんとか、さと婆たちみたいな大人にならないように育って欲しいのですが。

伝説のスリ デパ地下のさと婆(79)が23回目の逮捕 

 


子ども未来法律事務所というくらいですから、私は少年事件が好きで弁護士をやっているようなものなのです。

それで、事件の依頼を受けると、少年の収容されている鑑別所より、事件記録のある裁判所より、まず少年の家に行ってご家族とお会いしたり、少年の部屋を見たりするのですが・・・・私も少年事件の大きな原因の一つは家庭崩壊だと思いますね。

今回の犯罪白書では、「約3割が出院後に暴力団に加入」「非行や犯罪を思いとどまる最大の要因は家族」といったデータも明らかになりました。

少年一人の力ではどうにもならない、もともと与えられた諸条件が悪すぎることが多いです。むしろ、「非行」少年はよく耐えています。

 

 

そして、今度の犯罪白書では、今の雇用情勢の下では、少年院から出たばかりの人が就職先を確保するのは難しいものの、実際に就職して生活の基盤を固めることで、再犯の防止につながるとしています。

犯罪白書でさえ、もう少年犯罪の抑止のために厳罰化、とは言えなくなりました。

そのうえで、少年院を出るまでに、大学などの受験資格が与えられる認定試験や、就職に役立つ資格の取得に取り組むことなど、再犯防止につながる対策の強化の必要性をも指摘しています。

少年達への、社会の温かいまなざしとご理解をお願いしたいと思います。

 

 

少年の非行は中学生になってから目立つようになるのですが、非行に走る少年はだいたい小学校高学年では授業について行けなくなっています。

誰だって学校の授業についていけなくなれば、面白くないし、劣等感も持ってしまいます。

 

子ども未来法律事務所通信1 小5問題 あなたのお子さんは小学校5年生でつまずいていませんか?

 

 

この点、OECD(経済協力開発機構)が今年の9月13日に公表したところによると、下の表のように、2008年の国内総生産(GDP)のうち、日本の全教育支出に対する国や自治体などの公財政支出の割合は3.3%で、比較可能なOECD加盟国の中でもっとも低かったそうです(OECD平均は5.0%)。

また、主要国における一般政府総支出における公財政教育支出の割合についてもOECD平均(12.9%)を下回る9.4%で最下位でした。

一方、就学前教育と高等教育における私費負担全体の割合をみると、高等教育の家計負担の割合は66.7%でOECD平均の31.1%を大きく上回っており、日本では教育に対する国や自治体の支出が少ないため、家庭での負担が大きくなっている実情が伺えます。


 

 

このため、子どもたちの学力と一家の収入の相関関係は、下の表のようにはっきり出ています。

少年院退所者のうち、無職者の再犯率は48%だったのに対し、有職者は35%、学生は22%だったそうです。

少なくとも、国と地方の教育予算を拡充して、塾に行かなくても手厚い公教育が受けられる態勢作りが、少年非行対策としても、急務なのだと思います。

 

 

 


 

 

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 法務省は11日、11年版の犯罪白書を公表した。昨年の「再犯者率」(42.7%)と「再非行少年率」(31.5%)はいずれも過去最悪を記録。再犯防止策を積極的に推進する必要性が改めて浮き彫りになった。

 白書によると、10年の刑法犯の検挙人数32万2620人のうち、再犯者は13万7614人。再犯者率は、同省が算出を始めた89年以降で最も悪 い数値だった。少年に限っても10年の検挙人数8万5864人のうち、再非行少年は2万7050人に上り、再非行少年率は同じく同省が算出を開始した75 年以降で最悪となった。

 また、刑務所に入るのが2回目以上となる「再入者」は昨年1年間で、1万5205人。初めて刑務所に入る「初入者」を4年連続で上回り、入所者全体の56.2%を占めた。再入者のうち約2割が5度目以上の入所者で、深刻な累犯受刑者の実態を示した。

 法務省は昨年2月以降、「再犯防止対策推進会議」を設け、再犯防止策を議論。同8月、刑務所の出所者に対する就労支援や定住先の確保▽受刑者に対 する職業訓練や技術指導の充実▽特に再犯を起こしやすい薬物・性犯罪の受刑者に対する効果的な改善プログラムや指導の実施--などの対応策をまとめてい る。【伊藤一郎】

毎日新聞 2011年11月11日 11時16分(最終更新 11月11日 11時19分)

 

 

 

 

再犯者率最悪42.7%=少年院出所者を初調査-犯罪白書

 平岡秀夫法相は11日の閣議に2011年度版犯罪白書を報告した。10年の刑法犯認知件数は227万1309件で、02年をピークに8年連続で減少したが、再犯者率は42.7%と、1989年に統計を取り始めて以降、過去最悪を更新した。法務省は、再犯防止には若年者の犯罪対策が不可欠とみて、少年院出所者の追跡調査を初めて実施するなど実態把握に努めている。
 法廷での審理を伴わない道路交通法違反などを除く10年の一般刑法犯の検挙人数は約32万3000人。このうち、犯罪で再び検挙された再犯者は13万7614人で、再犯者の割合を示す再犯者率は前年比0.5ポイント増の42.7%となり、97年から一貫して上昇し続けている。
 受刑者のうち、刑務所に再入所する人数も04年から増え続け、10年は前年比1.3ポイント増で全入所者の56.2%(1万5205人)を占めた。
 20歳未満の少年の再犯者の割合を示す再非行少年率は31.5%で、98年から増加の一途をたどり、75年の調査開始以降で最悪の水準。特に、強盗で検挙された少年のうち61.9%、恐喝では60.8%が再び非行に走った。
 こうした現状を受け、法務省は04年1~3月に少年院を出所した当時18~19歳の男女644人の追跡調査を初めて実施。25歳までに39%(248人)が再犯で刑事処分を受けていた。一方、女子の再犯は5%(2人)にとどまった。再犯の時期は20~21歳に集中していた。(2011/11/11-08:13)

 


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5 コメント

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記事の書き方 (Hori)
2011-11-11 14:03:53
毎日の見出しは正しいようですが、読売も、「検挙者の43%が再犯、再非行少年は32%」という見出しにしているので、別に法務省が“陰謀”を企てたとかいうのではなく、単純に時事通信(とyahoo)の書き方が悪いだけだと思いますよ。まあ無理矢理善意に解釈すれば、時事通信も「全体の再犯率は42.7%である。ちなみに少年院出所者についても初調査をした。」というふうに読めなくもないですが。
ちなみに朝日は「再犯4割」となっていますが、これは25歳までの再犯を含めているようですね。
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今は全国紙の記事が出ろいましたが (ray)
2011-11-11 15:13:54
最初にYahoo!の見出しを見つけてクリックしたときは時事通信しかなかったので心底驚いたわけです。

それにグラフから見て、事実を素直に報道するなら、「少年事件の減少傾向変わらず 但し少年院退所後の再犯率は4割に」となるのではないでしょうか。
返信する
そもそも「犯罪」とは (石田 力)
2011-11-11 16:49:30
 少年犯罪に限らず、そもそも「犯罪とは何か?」という事を考えてみる必要があると思います。
 刑法は犯罪の属人主義に立って、犯罪の抑止力として刑罰を設けていますが、こうした法ができて既に数千年も経つのにいまだ犯罪は後を絶ちません。
 やはり「犯罪は社会的病理である」と捉えて、対策を講じていく必要があるのではないかと、本日のブログを拝見して思いを強くいたしました。
返信する
新しい憲法上の考察を、もう一度考えてみましょう! (藤原英夫)
2011-11-12 03:37:17
 少年犯罪の問題は、家庭の生育、学校教育、社会教育など、教育に起因するものである。
 この点から、良く考え直さなればならない。
 特に、再犯防止のためには、少年と成人の刑務所内で、義務教育の履修を容易にするよう、制度的な取り組むを、もう一度、調査して研究を要する。
 これは、日本で一番、遅れていて、眞に残念です。
 
返信する
再犯強調の意図 (外海亀之介)
2018-02-12 03:35:24
刑法犯は、平成16年の38万9297人から平成27年には23万9355人へと約15万人も減少しました。(hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_1_1_1_2.html)平成28年はさらに減少し、戦後最小でした。
これは、日本の刑事政策がうまくいっている証拠であり、何ら変更する必要がないことを示しています。
ところが、法務省や警察庁などからすると、刑法犯の減少は、自分たちの予算や人員の削減につながってしまい、都合が悪いのです。
そこで、統計から再犯者率をとりあげて、それがどんどん増加しており、再犯対策が重要だという世論を作り上げ、自分たちの予算獲得をはかっているのです。マスコミは、それに乗せられています。
再犯者率が上がっているのは、再犯者が微減なのに対し、初犯者が激減しているためです。しかし、全体が大幅に減少しているもとで、再犯者も減っているのですから、大騒ぎする必要がないことは明らかです。
私の同級生の法務省や警察の幹部と話をした際に、上記の私の考えを投げかけてみたところ、彼らは一様に「再犯の強調には、予算獲得という面もある。」と認めました。これは官僚用語では、指摘されたことに反論の余地がないという意味なのです。そういう面しかありません。

非行少年も減少しており、その減少ぶりは、少子高齢化で少年人口が減ったことよりも激しく、少年人口10万人あたりの非行少年の率は、昭和56年の1432.2人から、平成27年には426.5人にまで減少しています。(hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/n63_2_3_1_1_2.html)
これも、日本の少年法制(家庭裁判所による調査や審判、処遇機関による処遇など)がうまくいっている証拠です。
にも関わらず、少年法を何度も改悪してきている日本は全く間違っています。
きちんと事実に基いて、科学的に議論をしなければならないと思います。
返信する

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