「I am not Abe」と安倍晋三首相の人質事件対応を批判した元経産官僚の古賀茂明氏(59)が、テレビ朝日系「報道ステーション」のコメンテーターを2015年3月いっぱいで降板する見通しになった。古賀氏本人が取材に明らかにした。その真相を巡っては、週刊誌報道などを通じ、様々な憶測が流れている。

古賀茂明氏の発言があったのは、ISIL(いわゆるイスラム国)問題の特集をした2015年1月23日放送の報ステだった。

「I am not Abe」と人質事件対応を批判

古賀氏は番組で、日本政府が後藤健二さんに対する身代金要求を知りながら、安倍首相がISILに宣戦布告するような中東支援声明をしたと指摘した。そのうえで、「後藤さん犠牲になっちゃうかもしれないけど、でも、もっと大事なことがあるんだっていう判断をして、一連の発言をしたんだろう」と推測した。

それは、ISILと戦う米英などの仲間になりたいということだったのではないかとした。その結果、ISILなどに日本は米英と同じだとみなされてしまったとして、安倍首相の対応を厳しく批判した。

古賀氏は、日本には憲法があり、戦争しない国であるとして、自分だったら、「I am not Abe」というプラカードを掲げて、「日本人は違いますよ」と主張すると述べていた。

古舘伊知郎キャスターは、違う見方の人もいると直後にフォローした。しかし、当時のネット上では、ISILのテロを利用して安倍首相批判をしているなどと番組内容に疑問も相次いでいた。

そして、一部の週刊誌やニュースサイトは、2月16日になって、古賀氏が番組を降板する見通しだと報じた。

朝日新聞の恵村順一郎論説委員も降板?

古賀茂明氏にJ-CASTニュースが取材すると、報ステのコメンテーターとして、「4月以降の出演はないものと理解しています」と降板の見通しを認めた。ただ、週刊ポストの記事では、「私は『反安倍』でも『親安倍』でもない」などとして、テレ朝側から出演依頼がないことに不満を示していた。

週刊ポストによると、朝日新聞の恵村順一郎論説委員も3月いっぱいで報ステのコメンテーターを降板するという。さらに、番組統括の女性チーフプロデューサーも4月から他の部署に異動する見通しだとしている。

14年10月にあったテレ朝の放送番組審議会の内部資料も入手したとし、そこでは、原発報道について委員からスタッフ批判があり、さらに恵村氏についても、慰安婦問題の発言で苦言が呈されたという。その後、14年末になって、プロデューサーに異動の内示が出されるなどしたとしている。なお、審議会の議事録は、テレ朝サイトでその概要が公開されているが、今回のはまだアップされていない。

古賀氏ら降板の事実関係について、テレビ朝日の広報部では、「人事や出演者について、決定していることはございません」と取材にコメントした。また、朝日新聞社の広報部でも、恵村氏が降板するのかについて、「出演に関し、決定していることはありません」と答えた。

 

 


自民党、異例の選挙報道要望書は「脅し」か テレビ局で広がる委縮、調査報道の妨げに

文=編集部、協力=水島宏明/法政大学社会学部教授

 自民党がNHK及び在京民放テレビ局に対し、衆議院解散前日の11月20日付で「選挙報道の公平中立」などを求める要望書を渡していたことが判明し、波紋を呼んでいる。その内容は「出演者の発言回数や時間」「ゲスト出演者の選定」「テーマ選び」「街頭インタビューや資料映像の使い方」など詳細にわたる「異例のもの」(テレビ局関係者)で、編集権への介入に該当する懸念も指摘されている。

 そのような中、当初は各党議員と政治家以外のパネリスト数人が討論するという構成であった討論番組『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系/11月29日放送)が、放送日直前に議員のみの出演に変更されていたことが明らかとなった。出演予定者だった評論家の荻上チキ氏のTwitterによれば、放送日2日前の27日に番組スタッフから電話があり、「ゲストの質問によっては中立・公平性を担保できなくなるかもしれない」との理由で議員のみの出演に変えると伝えられたという。

「番組スタッフに『誰かが何か言ってきたりしたんですか?』と確認しましたが、あくまで局の方針と番組制作側の方針が一致しなかったため、とのことでした。番組スタッフも戸惑っていた模様です」(荻上氏のTwitterより)

 自民党の要望が早くもテレビ局の番組制作に影響を与えている様子がうかがえるが、元日本テレビ『NNNドキュメント』ディレクターで法政大学社会学部教授(メディア論)の水島宏明氏はまず、『公正中立な報道』に関する誤解について次のように解説する。

「今回の要望書は、テレビ局を萎縮させる効果を狙った『脅し』以外の何物でもない。実際に萎縮しているという声を番組制作現場から聞く。街頭インタビューを含めて、『客観的で公正中立な報道』などテレビでは実現できない。インタビュー対象者の選定や発言のどの部分を使用するかという判断を含めて、制作者側の意思が入り込むからだ。テレビ局ができることは、可能な限り多角的な意見を伝えるよう努めることぐらい。テレビ報道の役割として、選挙報道ではできるだけ争点や政策に関して問題点や疑問点を示していくことが大切であり、現状の問題点を扱うため与党・現政権に批判的にならざるを得ない」

●調査報道を妨げる懸念も

 水島氏は、こうした「報道側と権力側の社会における役割分担」に関する基本理解がないのが安倍晋三政権だと批判し、さらに要望書によりテレビが調査報道を妨げられることで、有権者に選挙の争点が十分に伝わらない懸念を指摘する。

「報道に対して『公立中性ではない』と逐一クレームをつけたり、昨年の参議院選挙直前に『NEWS 23』(TBS)の報道をめぐり自民党が幹部の出演・取材拒否を表明したりするようになると、テレビ局は政策に関する報道にはあまり踏み込まず、各党の主張を並べる『機械的な公正中立』を心がけるようになる。選挙公示後のニュース報道にみられる『各政党一律に30秒ずつ』というような報道だ。公示後はこうした“わりきり報道”も急増しているが、これでは有権者が争点を理解できない。アベノミクスへの評価、消費増税の影響、原発再稼働、TPP、国防などテーマごとの問題を、実情や諸外国の例、識者の声などを元に特集しようとしても、『偏向』だとしてクレームをつけられかねない。そうなるとテレビ局は自分で調査報道するよりも、横ならびの“わりきり報道”という無難な道を選ぶ。結果として有権者には大事な問題点が伝えられないことになる」

 また、今回の『朝生』出演者をめぐるテレビ朝日の対応について、水島氏は『権力側の思惑に乗って萎縮した』と次のような見方を示す。

「テレビ朝日が『朝生』で民間識者出席をキャンセルしたのは過剰に反応したケースだが、自民党の要望書に1993年の同局の総選挙報道が国会証人喚問に発展した『椿問題』を示唆する言及があるように、同党の狙いは同局にある。日頃から争点や政策の報道に熱心な同局の番組『報道ステーション』などを牽制することが狙いだろう。そして狙われたテレビ局が権力側の思惑に乗って萎縮した。テレビ報道の役割は、権力のチェックだ。特に選挙の時期こそ、さまざまな政策のチェックを多角的に行うという本来の役目を果たしてほしい」

 今回の自民党の要望書がメディア報道に委縮をもたらし、有権者が多角的な情報を入手する機会を損なわせるとしたら、同党の行為は批判を免れ得ないものといえ、今後大きな議論に発展する可能性もあるだろう。
(文=編集部、協力=水島宏明/法政大学社会学部教授)

 

 

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