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ボルゲーゼ美術館展 GALLERIA BORGHESE(東京都美術館:2010.2.5)

2010-02-05 20:00:16 | Weblog

 2月の上野公園、午後1時半、東京都美術館のボルゲーゼ美術館展を訪れる。風が冷たい。
 ローマにあるボルゲーゼ美術館の淵源はシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿(1576 - 1633)のコレクションである。彼は17世紀を代表する大パトロンだった。
             
 序章 ボルゲーゼ・コレクションの誕生
 マルチェロ・プロヴェンツァーレ「パウルス5世(カミッロ・ボルゲーゼ)の肖像」(1621)に描かれたローマ教皇パウルス5世(在位1605-1621)はシピオーネの叔父である。
 マルチェロ・プロヴェンツァーレ「オルフェウスの姿のシピオーネ・ボルゲーゼ」(1618)は竪琴を弾く吟遊詩人オルフェウスをキリスト教的に読み替えたものである。シピオーネ・ボルゲーゼはキリストのごとく人々を教化する。絵の中でオルフェウスの竪琴を聴く動物たちの中央にはワシと竜がいる。両者はボルゲーゼ家の紋章の動物である。 

           
  
 Ⅰ 15世紀・ルネサンスの輝き
 サンドロ・ボッティチェリとその弟子たち「聖母子、洗礼者ヨハネと天使」(1488頃)はトンドと呼ばれる円形の絵画である。キリストは左手が祝福のポーズ、右手に豊饒の象徴、ザクロを持つ。聖母マリアの青い服が美しい。静謐で穏やかである。

           
 ラファエロ・サンツィオ「一角獣を抱く貴婦人」(1506頃)は聡明そうな女性を描く。三角形の構図、神秘的な背景などはレオナルドの感化である。ラファエロ、20代前半の作品。一角獣は純潔・貞淑のシンボルである。修復前は一角獣を抱くのでなく教育・学問の守護神、聖カタリナとして手にペンを持ちまた肩にはショールを掛けていた。モデルの女性は未だ不明であり“謎多き名画”である。

            
 レオナルド・ダ・ヴィンチ(模写)「レダ」(16世紀)の女性はスパルタ王の妻であったが、白鳥に姿を変えたゼウスに誘惑され双子を産んだ。ギリシャ神話。今はこの絵のオリジナルは失われ存在しない。

                
 メキシコとの貿易と宣教師の派遣を求め伊達正宗が送った慶長遣欧使節は教皇パウルス5世に謁見した。アウキータ・リッチ「支倉常長像」(1615)はそのときに描かれた。  

                   
 
 Ⅱ 16世紀・ルネサンスの実り―百花繚乱の時代
 ヴェロネーゼ「魚に説教する聖アントニオ」(1580頃)は不思議な絵である。魚が説教を聞くために海から姿を現す。聖アントニオは聖フランシスコ会の修道士。彼は純潔を象徴する百合を手に持つ。

          
 ブレシャニーノ「ヴィーナスとふたりのキューピッド」(1520-25頃)のヴィーナスはヘレニズム時代のギリシャ彫刻のような立ち姿をしている。

                   
 ルカ・カンビアーソ「海のヴィーナスとキューピッド」(1560-65)は曲がりくねり、引き伸ばされた人体表現を特徴とするマニエリスムの絵画である。彼らが乗るイルカがかわいい。盛期ルネサンスとバロックの合間の時期である。

             
 
 Ⅲ 17世紀・新たな表現に向けて―カラヴァッジョの時代
 シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿が最も愛したのがバロック最大の巨匠カラヴァッジョの絵画であった。光と闇の対比的・劇的な使い方を通し精神の躍動が伝えられる。
 作者不詳(17世紀に活動)、カラヴァッジョの追随者「二匹の蜥蜴がいる静物」(1602-07)は光と影が印象的である。

          
 カラヴァッジョ「洗礼者ヨハネ」(1609-10)はどこか物憂げな雰囲気がただよう。
 ゲラルド・デッレ・ノッティ「スザンナと老人たち」(1655)は、入浴中だった人妻の驚きが光のあたった裸体の鮮やかさのうちに示される。カラヴァッジョ的な光と影の芸術である。

           

 日本で言えば応仁の乱から江戸時代初期にあたるイタリア絵画の世界から21世紀の東京・上野公園に再び戻る。美術館の階段を登り公園の道に出る。外は相変わらず風が冷たい。そろそろ午後4時である。


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