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京都賞 Kyoto Prize 2018と、日本人数学者の系譜

2018-06-25 | 2018年イベント
このブログで採り上げるのはちょっと今更かもしれませんが、今年の京都賞受賞者が15日金曜日に発表されました。
上の写真は、京都賞受賞者に渡されるディプロマです。左は妙心寺管長の揮毫だそうですが、格好いいですね。京都賞は、毎年3部門(先進技術部門、基礎科学部門、思想・芸術部門)に与えられる総合学術賞といえますが、今年から各部門の受賞賞金も1億円になりました。世界各国に数多ある賞の中でも、ノーベル賞に比肩しうる、日本発の国際学術賞と言えるでしょう。

自然科学分野としては、先端技術部門では「バイオテクノロジーおよびメディカルテクノロジー」から米国人精神科医・神経科学者のカール・ダイセロス博士 Dr. Karl Deisseroth(スタンフォード大学教授)が、基礎科学部門では「数理科学」から日本人数学者の柏原正樹博士(京都大学名誉教授、数理解析研究所(RIMS)特任教授)が選ばれました。
私の専門からすると、ダイセロス先生のご業績についてこのブログで触れるべきなのかもしれませんが、彼の研究業績「光遺伝学と神経科学への応用」について、今回は割愛します。一言で言うと、ダイセロス先生は天才です。間違いなく、近い将来にノーベル賞を受賞されることでしょう。彼のラボで開発された光遺伝学技術は神経科学にまさに「革命」を起こしましたから。

ところで、歴史上、もっとも優れた日本人数学者は誰か?
関孝和、高木貞治、岡潔、小平邦彦、岩澤健吉、伊藤清、佐藤幹夫、志村五郎…

様々な声が挙がると思いますが、私の知る京都大学RIMS(おそらく日本最高峰の数学研究所)のある研究者はかつてこう言っていました。「現在の日本の数学者でもっとも業績を挙げているのは柏原正樹だろう」と。
歴史上の人物逹に比肩するかどうかはともかくとして、現代日本の最高峰の数学者の1人が柏原正樹先生とのことです。なるほど、と思いました。もちろん、私は柏原先生のご業績のほぼ全てがちんぷんかんぷんです。柏原先生の多彩な業績の中の一つ「D-加群」と言われても、理解できません。しかし、我が国の科学史において重要な意味を持っている、次の数学者の系譜は存じています。

高木貞治、彌永昌吉、佐藤幹夫、そして柏原正樹。

この師弟の系譜は「近代から現代にかけての我が国の数学界を担ってきた」といっても過言ではないほど大きな影響力を持っています。
高木貞治、彌永昌吉は東大の数学教室を主宰し、日本数学会の発展に貢献しました。彌永昌吉の弟子からは数多くの大数学者たちが輩出されています。その中の1人である佐藤幹夫先生は、京大RIMSの所長・教授として、超函数の独創的な成果を挙げて、ショック賞(1997年日本人初受賞)、ウルフ賞などの著名な国際賞を受賞しています。そして、今回、柏原先生もD-加群を中心とした業績で世界最高峰の京都賞をついに受賞されたのでした。
佐藤幹夫・柏原正樹の師弟はとくに有名ですね。

江戸時代の和算家・関孝和は、欧州の科学界とは独立して「微積分」の概念に到達するなど、世界史的にみて、東洋きっての「異才」の持ち主だったと言えるでしょう。
そのような「数学DNA」が日本人の根底にあるということなのかもしれませんが、高木貞治が「類体論」などを発表し、日本人数学者が世界の数学界に仲間入りを果たして以降、日本は優れた数学者を数多く輩出してきました。いまだに世界最高の数学賞であるアーベル賞(2003年創設)を受賞した方こそいませんが、高名なフィールズ賞受賞者3名(小平邦彦、広中平祐、森重文)をはじめ、コール賞、ウルフ賞、そして京都賞など数学をカバーする国際賞の受賞例も数多く、20世紀中に「東洋の数学大国」としての地位を確立するに至りました。

医学分野の研究者の端くれからすると「数学の先生たち、半端ないって」という感じですね。日本が世界に誇る優れた自然科学分野の一つに数学があります。残念ながら、日本の医学は世界に対して数学ほどの存在感を示すことは出来ていません。

私はかつて数学者に憧れた時期がありました。残念ながら、私には明らかに数学の才能がなかったし、それを補うだけの努力をする根性もなかったので、その道は断念しました。仕方なく(?)、医学の道に進み、現在に至ります。しかし、自分の心のどこかにある、数学者への憧憬の気持ちは今も失われることはなく。数学そのものというよりも近年では「数学史」の方に関心が移ってきましたが、日本の数学者の先生方の活躍をとても嬉しく思っています。

柏原先生、おめでとうございます。


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