Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

社会情報システム学シンポ@電通大

2011-01-22 22:52:28 | Weblog
1月21日,電通大で社会情報システム学シンポジウムが開かれた。調布に来たのは(おそらく)2回目,電通大の構内に入るのは初めてだ。会場となる情報システム学研究科棟の1階に人影はなく,一瞬日を間違えたかと不安になるが,そうではなかった。だが,ぼくが参加したオーガナイズセッション「社会シミュレーション」の会場にいた人間の8割は発表者だった。

最初の発表は角埜恭央(東京工科大学),大熊裕哉,寺野隆雄(東京工業大学)「エージェントシミュレーションによる我国のソフトウェア産業の産業構造の分析」。Epstein and Axtell のシュガースケープモデルに依拠して,ソフトウェア会社の下請構造を分析しようとしている。シュガースケープモデルは,二次元平面に置かれた砂糖という資源を巡り,蟻のように単純なエージェントが繰り広げるシミュレーション世界である。

シュガースケープという非常に抽象度が強いモデルを,ソフトウェア産業という具体性を持った対象の分析に適用するのは,かなり勇気がいることのように思われる。正統的な経験科学の立場からは,違和感が表明されるに違いない。しかし,この研究を指導した寺野先生にとって,そんなことは恐るるに足らない。これは,統計分析に対する事例研究の立ち位置に似ている。それはストーリーテリングなのだとぼくは理解した。

Growing Artificial Societies: Social Science from the Bottom Up (Complex Adaptive Systems)
The MIT Press

人工社会―複雑系とマルチエージェント・シミュレーション
Joshua M. Epstein, Robert Axtell
構造計画研究所

山本仁志(立正大学),岡田勇(創価大学)「裏切りの効果による協調の進化的安定」は n 人繰り返し囚人のジレンマの進化ゲームを扱う。裏切り者を罰する規範ゲーム,あるいは裏切り者を罰しない者を罰するメタ規範ゲームは,社会全体で協調を維持させると考えられてきたが,時間やプレイヤー数を拡大するとそうではなくなる。協調する戦略ばかりが残った状態になると,突然変異で現れた裏切り者が一気に広がってしまう。

そこで山本さんが提案するのが「社会的ワクチン」,つまり少量のつねに裏切り続ける「悪人」を注入することである。それによって,このゲームは時間やプレイヤー数に関わらず,協調が維持されるようになる。これは,直感的にも納得がいく結果である。ただ,よく考えると,このつねに悪人を演じなくてはならないプレイヤーは,永遠に罰を受け続けるので非常に辛い立場にある。ある意味,究極の聖人といえる存在である。

山田和明(東洋大学)「知識共有サイトの制度により生じるユーザ間インタラクションのモデル化と実装」,鳥海不二夫(名古屋大学)「人工市場を用いた予測市場の挙動メカニズムの解明」はそれぞれ「集合知」という現代的課題を扱う。そもそも集合知とは何であるかに定説のない状態でモデル化を行うことは,非常に挑戦的な研究といえる。こうした先駆的研究に続く研究が次々登場することが望まれる。

山田さんの研究では,知識の提供者と受領者が活動する「空間」の意味がピンと来なかった。インタラクションに対する効用関数の仮定も同様。今後予定されている実証研究に期待がかかる。鳥海さんの研究は,真の値に基づく情報を受け取る人々が多いほど予測は正確になるという,ある意味で自明の結論を乗り越えて進むことが期待される。予測市場が実際に機能する背景に,大数の法則を超えた原理が見つかると素晴らしい。

午後の冒頭,ぼくの発表を経て1時間半の討論会へと進む。それについては日を改めて書くことにする。基調講演は,NTTサイバーソリューション研究所の藤村考さんによる「ソーシャルメディアのマイニングと可視化」。Facebook を始めとするソーシャルメディアの可能性に関し,目を見開かせる話を拝聴する。そして,視覚化に関する素晴らしい研究。それが NTT のビジネスに結びついていくと凄いのだが。(つづく)

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