Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

日本商業学会@北海商科大学

2012-05-29 15:32:22 | Weblog
26,27日と札幌の北海商科大学で開かれた商業学会全国研究大会に参加した。同校は北海学園の系列校。さっぽろ駅から地下鉄で5分の場所にあり,駅から外に出ることなく直接校舎に入ることができる。大会の統一論題は「流通・マーケティングにおける価値共創」だ。

初日は5つの並行トラックがあり,全体の半分近くが上述の統一論題を扱っている。それらの発表を聴きながら,最近あちこちで耳にする価値共創(Value Co-Creation)という概念について学んだ。そこで多くの発表者が言及したのが,サービス・ドミナント・ロジック(SDL)である。

SDL とは何かを巡って多数の文献が存在することからも,そう単純ではない理論であるに違いない。ただし,いろいろな発表を聴く限り,その基本命題の1つは,価値は顧客が使用する文脈において創り出され,しかも企業と顧客が共創するものだということのようだ。

使用価値が顧客の置かれた文脈のなかで決まるという考え方は,いまさらな話であることはいうまでもない。2日目のシンポジウムで池尾恭一先生(慶應大学)は,ノーベル経済学賞のベッカーが家計生産関数の理論によって,すでにもっと精緻な形で定式化されていると指摘された。

同じシンポジウムで上原征彦先生(明治大学)が喝破されたように,そもそもミクロ経済学における消費者と企業の主体的均衡自体が価値共創を扱っているともいえる。もちろんお二人とも価値共創論の意義を否定しているのではなく,真に新しい問題について考えるべきだと仰っている。

経済学を学んだ者にとって「価値」という概念は非常にデリケートだ。近藤公彦先生(小樽商大)は,価値共創論の前史としてマルクスの価値論にも言及された。ぼくにはマーケ研究者が価値という言葉を多用することに違和感があったが,この報告を聴いて少し頭を整理できたかもしれない。

価値共創の研究では,SDL 以外にも顧客参加型の製品開発を扱ったリードユーザ論がしばしば言及され,ラマスワミらのような,企業が顧客に対して仕掛けている価値共創活動の研究も注目されている。理論的な整理より現実の進行が早いのは,この分野では避けられないことでもある。

現場の事例では,ぼくが聴講した範囲では吉田満梨先生(立命館大学)が研究されたカモ井加工紙の「mt」の開発プロセスや,村松潤一先生(広島大学)が紹介された愛知・湯谷温泉の「はづ別館」のプライシングが面白かった。事例研究の発表が多い商業学会ならではの学びである。

価値共創を離れて興味を惹いたのが小山太郎先生(中部大学)の「イタリアの製品開発プロジェクト」という発表だ。イタリア人を理解するには Gusto (Good Taste) が鍵になるという。この研究が単なる問題提起を超えていかに実を結ぶのか,道のりは厳しそうだが期待したい。

久保田進彦,渋谷覚,小野譲司といった先生方の流麗な報告はいつも通り。いくつも自分の研究に向けてインスピレーションをいただいた。こうした(ぼくから見ると)若手の(実際は中堅の)先生と近年お近づきになれたのは,やや趣の違う様々な学会に出ているおかげかもしれない。

さて,来週には INFORMS Marketing Science Conference があり,そのあと JIMS が待っている。そこはいわばホームタウンであり,今回は自分の発表もある。言い訳したいことは山ほどあるが,ぎりぎりまで最善を尽くすしかない(・・・といってる間も反復計算が終わることなく続いている)。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。