私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「愛のむきだし」

2009-11-16 21:04:04 | 映画(あ行)

2008年度作品。日本映画。
敬虔なクリスチャン一家に育ったユウ。優しかった神父の父は、ある出来事を境にユウに懺悔を強要する。心優しいユウは父の期待に応えるべく懺悔のために毎日「罪作り」に励むようになる。いつしかユウの罪作りはエスカレートし、気づけば女性の股間ばかりを狙う天才的な盗撮のカリスマになっていた。そしてある日、運命の女、ヨーコと出会いユウは生まれて初めて恋に落ちる。しかし二人の背後には謎の信仰宗教団体の魔の手が近づいていた・・・。
監督は「紀子の食卓」の園子音。
出演は西島隆弘、満島ひかり



「愛のむきだし」は、実にくだらない作品だ。

毎日懺悔を要求する神父の父のため、罪を犯そうと女性のパンツを盗撮する男。しかしそんな盗撮をくり返しても、彼は一度も勃起をしたことがなかった。だが一人の少女に出会ったことで生まれて始めて勃起をし、そして恋に落ちてしまう。
そういう作品である。どういう作品だよ、と(変な部分をわざと抽出してあらすじを書いたとはいえ)言いたくなるような変てこな作品だ。
しかも、ここからさらに変な方向に進んでいくのだから、困ったものである。

そういう作品なので、いくつかの部分では、んなアホな、とつっこみ、バカにしてんの?、とくさし、何でだよ、と叫びそうになる。
しかしその設定のバカバカしさゆえにいくつかの場面では非常に笑えるのだ。

大体スカートの中を盗撮するシーン自体が完全にアホだし、登場するヤンキーは古くさいし、両親が結婚して好きな人と同居って、何ていうエロ展開だよ、と失笑してしまう。
ツッコミどころが多すぎて、もはや笑うことしかできない。
シリアスな部分が多いわりに、そんな風にむちゃくちゃ脱力できる点は、この映画では大きな魅力だ。


もちろんシリアスパートも見所満載だ。

変態高校生の主人公は、親の再婚で、好きな女の子であるヨーコと一つ屋根の下に暮らすことになる。
だが、そんな生活が、宗教団体の女、コイケにどんどん乗っ取られていく過程が、なかなか恐ろしい。
元々主人公はヨーコから嫌われていたのだが、コイケの陰謀でどんどん袋小路に追いつめられていく過程が本当に見事だ。
それは見ていてやきもきさせらるし、主人公に寄り添って見ている分、不安な気持ちになって、心を揺さぶられてしまう。

そしてそう感じるのは、この映画の登場人物たちの感情表現によるところも大きいと思う。
この映画の登場人物は基本的に、激しく感情を露わにすることが多い。愛のむきだしならぬ、感情のむきだし状態だ。

たとえばヨーコは男性という存在を憎悪しているせいか、主人公をとことん嫌悪し、口汚くののしる場面が幾度もある。その感情の発露はすさまじい。というかこわい。
それに対して、主人公も感情をむきだしにして、好きな女の子と相対しようとする。
その生々しいまでの感情のぶつかり合いは、びっくりするくらい激しく強い。
しかしだからこそ、非常に見応えがあって、場面に釘付けになり、心に深く響いてくるのだ。

個人的には、ラストの病室でのシーンが特に良かった。
そのシーンでヨーコはまっすぐに、自分の感情を伝えようとしている。そんな彼女の姿に見ていて、ちょっと泣きそうになってしまう(最後はちょっと笑いそうになったが)。
それもやはり感情をむきだしにして、ひたむきに気持ちを伝えようとしているからこそ、胸を打つのだろう。
そして最後にしっかりと男の愛が伝わったからこそ、気持ちよい気分にもなれるのだろう。


内容だけでなく、俳優たちの演技も、本作では優れていた。
主演の西島隆弘はまっすぐで純粋な面もある変態青年を好演しているし、安藤サクラはエロティックな雰囲気があり、艶かしい。

個人的には満島ひかりが見事だと思った。
彼女は直情的な少女を熱演しているが、特に浜辺での長台詞が圧巻だった。
カンペくらいはあったかもしれないが、あのテンションを保ったまま、セリフを言い続けた点はすばらしい。


本作は4時間近い大作だけど、長大なわりにまったくだれることなく(と僕には感じられた)、最後まで一気に楽しむことができる。これは本当にすごいことだ。
そのくだらなさに笑い、むきだしになった登場人物たちの感情表現に圧倒され、心に深く響き、少し感動することもできる。

まずまちがいなく万人受けしない映画なので、人に勧めるつもりはない。
だが、本作はすばらしいまでの傑作であると、密かに僕は思う次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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