私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

中谷宇吉郎『雪』

2013-12-18 21:22:37 | 本(理数系)

天然雪の研究から出発し,やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功して雪の結晶の生成条件を明らかにするまでを懇切に語る.その語り口には,科学の研究とはどんなものかを知って欲しいという「雪博士」中谷の熱い想いがみなぎっている.岩波新書創刊いらいのロングセラーを岩波文庫の一冊としておとどけする.
出版社:岩波書店(岩波文庫)




東北にも雪のシーズンが到来した。
そんな季節にふさわしい一冊だが、雪の神秘と、その解明に励む科学者の姿勢を伝える良書である。


東北とは言え太平洋側に暮らしているため、雪国ほど雪が降るわけではない。
だから第一章の雪害に関する話などは、大変だな、とつくづく思い知らされる。

雪が恐ろしいことは北国の人間なので知っているし、雪に幻想を抱く気持ちは名古屋で生まれたので知っている。
しかし戦前の日本の雪国は、今の僕が知っている以上の苦労があったのだと忍ばれる。


著者の中谷宇吉郎はそんな雪について研究を重ねている。
彼がアプローチするのは、雪の生成過程だ。

雪の結晶を北海道まで行き、研究する様は大変だ。
寒い中での研究の苦労は、寒がりな僕としては身震いを覚える。
なかなか難儀な研究をしているものと思うが、世の中にはいろいろな研究があるらしい。

雪は生成条件の違いによって、いろいろな形状を見せる。
ある程度のことは知っているつもりだが、そういった雪の形の違いはなかなかおもしろい。
そしてその違いを懇切丁寧に語る著者の熱意も伝わってくるのが良かった。


著者は天然ではなく、人工で雪をつくろうと、研究室で実験に励むこととなる。
エンジニアの一人としては、こういうトライ&エラーで試行錯誤しながら、原因究明に勤しむ姿は、感じるものがあった。
地道な作業で、正解を求めていく著者の姿勢には同じ理系人として共鳴するばかり。

その結果として、世界で初の人工雪を作成したのだから、見事なものだ。
そして解説を読む限り、彼が見出したナカヤ・ダイヤグラムが、結果的に数十年後の実験データよりも正しかったというから驚くほかない。

そうして知りえたデータを元にすれば、雪の形状から上空の天候具合を読み取れるのだと思うと、ロマンチシズムを感じずにはいられない。
「雪の結晶は、天から送られた手紙である」というロマンチックな言葉で表される世界に、ただただ感銘を受ける一冊だった。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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