松山中学在任当時の体験を背景とした初期の代表作。物理学校を卒業後ただちに四国の中学に数学教師として赴任した直情径行の青年“坊っちゃん"が、周囲の愚劣、無気力などに反撥し、職をなげうって東京に帰る。主人公の反俗精神に貫かれた奔放な行動は、滑稽と人情の巧みな交錯となって、漱石の作品中最も広く愛読されている。近代小説に勧善懲悪の主題を復活させた快作である。
出版社:新潮社(新潮文庫)
『坊っちゃん』はたいそうおもしろく、たいそう悲しい小説である。
初めて読んだのは高校のときだが、そのときはこんなに悲しい小説だとは気づかなかった。
名作とは再読するたびに味わいが変わるものらしい。
坊っちゃんは、本人も自覚しているように無鉄砲な人だ。おかげにせっかちでけんかっ早く、曲がったことが大嫌いで、とにかくまっすぐで、加えて口もずいぶん悪い。
そしてそれゆえに、愛すべき人なのである。
特に彼の毒舌はおもしろい。
初めて赴任した学校では、もらった辞令をいちいち人に見せろ、と言われて、それなら「職員室へ貼り付ける方がましだ」と心のうちで毒づき、生徒の模範になれ、と訓告されると、「そんな偉い人が月給四十円で遥々こんな田舎へくるもんか」と半分キレ気味にこぼす。
そしてうらなり君が延岡に左遷されると聞くと、延岡のことを以下のように述べている。
「名前を聞いてさえ、開けた所とは思えない。猿と人とが半々に住んでるような気がする。いかに聖人のうらなり君だって、好んで猿の相手になりたくもないだろうに、何という物数寄だ」とのことらしい。心の中とは言え、言いたい放題のことを言っている。
その裏表ない言葉の数々に、僕は幾度か笑った。
それらの言葉でわかる通り、坊っちゃん典型的な江戸っ子だ。
その気風のよい、べらんめえ口調は読んでいると大層心地よい。
そしてそういった性質もあってか、彼は物事をとかく単純に考えたがる。
生徒に難しい問題を突き付けられると、わからないとすなおに答えるし、校長や教頭は、宿直をやらないものだと聞くと、月給をたくさん取っている上に宿直までやらないなんて不公平だと唱える。
実にまっすぐな言い分である。そのまっすぐさは非常にすがすがしい。
しかしあまりにまっすぐなだけに、読んでいると、ふしぎとせつなくもなってくるのだ。
それは彼のまっすぐさでは、とても社会でやっていくことはできないだろうと思うからだ。
彼は生徒たちから宿直のときにいたずらを受けるけれど、それはすべて、彼がからかい甲斐のある人だからだろう。
単純に行動するから、単純に見ていておもしろいのだと思う。
そして単純に考えたがるから、赤シャツたちにいいように利用されたりもする。
赤シャツと野だいこの計略もあり、坊っちゃんは気の合う山嵐と仲たがいしたり、急に下宿を追い出される羽目になったりする。
坊っちゃんと山嵐は要領のいい人ではない。
それだけに、二人は要領よく生きている人たちに、翻弄されているのだ。
たとえば、赤シャツが坊っちゃんに山嵐への不信を植え付けようと、船の上で思わせぶりな噂話をする場面。
赤シャツは、その直後坊っちゃんに対して、口止めをしようとする。
坊っちゃんは、山嵐は悪いやつだと思い込み、坊っちゃんらしいまっすぐな方法で、物事を解決しようとする。しかし赤シャツにひたすら釘を刺され、思いとどまることとなる。
この一連の流れが、赤シャツの策謀であることは、読んでいれば簡単にわかる。
しかし坊っちゃんにはわからない。あくまで正攻法で、物事を解決する坊っちゃんは、計略で人を陥れるという真似なんて考えもつかない人だからだ。
それだけに読んでいると、痛ましくある。
きっと坊っちゃんみたいな人では、なぜマドンナがうらなり君から赤シャツに心変りがしたかも、わからないのだろう。
うらなり君はいい人だが、多分に損をする人だ。
そんな人が女性から見て魅力的とも思えない。
誠意はないが口の上手い赤シャツの方がうわべだけ見るなら楽しいことは明らかだ。
もちろん僕は坊っちゃんのまっすぐさは好きだし、山嵐の廉直さも、うらなり君の押しの弱い、おっとりとしたところも好きだ。
しかし現実社会を生きるには、彼らはあまりに不器用でもある。
坊っちゃんは旗本の子孫で、山嵐は会津の出、幕末では負け組の側だ。
そしてこの小説の中でも、彼らは負け組に回らざるを得ない運命であるらしい。
それだけに読んでいると、やはり悲しくてならないのである。
彼らは最後に、赤シャツと野だいこをぶちのめすが、それも所詮自己満足でしかない。
赤シャツたちはその後も、その土地にとどまり、おいしい思いをするのだろう。
世の中は、坊っちゃんが感じる通りに不公平である。
そんな悲しみに満ちた、『坊っちゃん』の話の中で、数少ない救いは清にあるだろう。
坊っちゃんは、親から愛されずに育った人だ。そのため虚無的な側面もある。
だが、下女の清だけは坊っちゃんを愛してくれたし、最後に至るまで心配してくれた。
だから坊っちゃんもただ清のことだけは心配し続けている。
僕は、坊っちゃんのことが好きだが、世の中を渡るには、かなり損な性格と思う。
しかしそんな彼にも、愛する人はいて、坊っちゃんもその人のことを気にかけている。
坊っちゃんのまっすぐさは、多くの場合通じない。
けれど、少なくともこの世で一人だけは、そんな世に通じないまっすぐさを愛し、理解し続けてくれる人がいる。
その事実がこの小説に安らぎをもたらしてくれる。
それゆえに、ある種の悲しみはあるけれど、それはどこか明るい悲しみでもあるのだ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの夏目漱石作品感想
『草枕』
『こころ』
『門』
ブログを見てもらえるとうれしいです。
"haru144"で検索すると出てきます。
第二次大戦前にヨーロッパでオーロラが見られたように、
アメリカでオーロラが見られました。
ダニエル書を合算し、
未来に起こることを書き記しました。
エルサレムを基準にしています。
2018年 5月14日(月) 新世界
2018年 3月30日(金) ノアの大洪水
↑
この期間に第三次世界大戦が起きています。
↓
2014年 9月17日(水) 荒らすべき憎むべきものが
聖なる場所に立って神だと宣言する
2014年 9月10日(水) メシア断たれる
↑
この期間に世界恐慌が起きています。
↓
2013年 7月3日(水) メシヤなるひとりの君(天皇陛下)
御国の福音が宣べ伝えられる
2013年 5月15日(水) エルサレムを建て直せという命令が・・
唯一の神、唯一の救い主イエス・キリスト、
死者復活と永遠のいのちを確信させるものです。
全てあらかじめ記されているものです。
これを、福音を信じる全ての方、
救いを待ち望む全ての方に述べ伝えてください。
卑怯な事が出来ない。実直な坊っちゃん。愛すべき人です。
>「そんな偉い人が月給四十円で遥々こんな田舎へくるもんか」
笑えますよね。
>名作とは再読するたびに味わいが変わるものらしい。
子供の頃は読んでいて痛快な気持ちになりました。
今は逆に悲しいです。世渡りが下手な坊っちゃん・・・。
『坊っちゃん』は本当にすてきな小説です。
坊っちゃんは愛すべき奴だし、笑える箇所も多い。だけど同時にせつなくもある。
> 子供の頃は読んでいて痛快な気持ちになりました。
> 今は逆に悲しいです。世渡りが下手な坊っちゃん・・・。
本当につくづくそう思います。