私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『愛人 ラマン』 マルグリット・デュラス

2007-07-07 18:02:04 | 小説(海外作家)


フランス領インドシナ、十五歳の「わたし」は金持ちの中国人青年とメコン河の渡し舟の上で出会う。「わたし」の家族内の愛憎、中国人青年との性愛と悦楽を詩的な文章で描き出す。
フランスの女性作家、マルグリット・デュラスのベストセラーにもなった自伝的作品。
清水徹 訳
出版社:河出書房新社(河出文庫)


本作『愛人 ラマン』はベストセラーになったと聞くが、なぜこの作品がそこまで売れたのか理解に苦しむ。買った人でこの作品を理解できた人はどのくらいいたのか疑問になるほどだ。
というのも、この小説、文体は非常に芸術性が高くてわかりづらいし、時間軸のずれもあいまいで整理するのに戸惑う上、わかりやすいストーリーラインというものはないからだ。そのため途中で読むのをやめると、再び本をとったとき、何を読んでいたのか、一瞬わからなくなってしまう。
理解できないまでもこの作品を通読した人がどのくらいいたのだろうか、ひねた見方をしてしまう。

だが、だからと言って本作が駄作と言っているわけではない。
プロットがごちゃごちゃで、途中で本を読むのをやめると、中身を追うことが難しくなるのは事実だ。しかし少なくとも読んでいる最中はその世界にぐいっと引き寄せられてしまう。この中にはあらゆる感情が詰め込まれており、それが読み手の心を捕らえてやまない。
たとえば、中国人青年との性愛と悦楽、兄に対する暗い憎悪、母親に対する屈折した感情、そして少女らしいある種の残酷さ、少女から女へと変わる変遷。そういった激しいまでの感情と、その渾然とした情念を明晰に描ききった筆力にただただ圧倒される。
見事と言う他ない。

ところでこの少女は自分の美しさを知っていたからこそ、中国人男性を愛することができた、と僕には思えてならないのだが、どうだろう。
確かに本作の中で「わたし」は何度も自分が美しくないと語っているが、それこそが自分の美しさを知っていることの証なのかもしれないという気がした。
本作は、脱出を願う少女の心象が性的体験(中国人という点が重要だ)と絶妙にリンクした、成熟に向かう女の話。そんな見方が正しいかもしれない。だが、僕には同時に自分の魅力を知っていた女が小悪魔的な自分に酔いしれ、自分の残酷な境遇に陶酔するナルシスティックな話という風に見えて仕方がなかった。
穿った見方かもしれないが、そういう視点があるのもありだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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