私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

ヘルマン・ヘッセ『シッダルタ』

2014-04-10 21:13:35 | 小説(海外作家)

シッダルタは学問と修行を積み、聖賢になる道を順調に歩んでいた。だが、その心は一時として満たされることはなかった。やがて俗界にくだったシッダルタだったが…。深いインド研究と詩的直観とが融合して生み出された“東洋の心”の結晶とも言うべき人生探求の物語。原文の格調高い調べを見事な日本語に移した達意の訳。
手塚富雄 訳
出版社:岩波書店(岩波文庫)




ヘッセの代表作の一つと言えば『デミアン』だが、同じく代表作と目される『車輪の下』に比べると、個人的には好きになれなかった。
それはどこか説教くさいところが引っかかり、物語に没頭できなかったからである。

『シッダルタ』を読み終えた後に感じたことは、『デミアン』とほぼ同じだ。

好みでははない。
結局一言で言えばそういうことになるのだろう。
もちろん悪い作品ではないのだが、こればかりは仕様がないことだ。


『シッダルタ』はシッダルタという人間の魂の遍歴を描いた作品だ。
そのタイトルから、最初ゴータマ・シッダルタの生涯を描いた作品だと思っていたが、仏陀ことゴータマは別にいて、シッダルタはゴータマと同時代の別人という設定である。


ここで展開される思想は、ヒンドゥー教や仏教で見られる梵我一如の思想であるらしい。

シッダルタは長い修業の末、滅我によっては苦悩は減らないと感じ、自己の存在をもっと見つめることが重要だと感じるようになる。
自分なりに解釈するならば、内省的になり、自分の内の中に「避難所」を設けることで、人生の苦悩から離れようという考えであるらしい。

しかしそれでも苦悩や虚しさを感じるらしく、再び自己探求の旅に出る。
その結果、現在の状態を受け入れることが重要だと見出すようになる。
「求める」のではなく、「見出す」ことでの、自己救済である。
そうすることで、世の中のすべての事物の中に、ブラフマンがいると感じるようになるのだ。

最終結論は、現状を肯定的に受け止め、世の中を愛していこうといったところだろうか。
違うかもしれないが、そう感じたから仕様がない。

そして同時に、やはりこの話は説教くさいと思う。


結局、本書は、主人公が梵我一如を見出す話である。
そんな内容があまりに抹香臭くて心に響いてこないのが残念だ。

だがその結論に至るまでの、精神的なモチベーションは筋道が通っている。
それに思想を語る作品として、あるいは雰囲気を語る作品として、味わいがあるとも思う。

好みではないが、『デミアン』同様、ヘッセらしさが存分に出た作品と言えるのかもしれない。

評価:★★(満点は★★★★★)



そのほかのヘルマン・ヘッセ作品感想
 『車輪の下』

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