第1回本屋大賞の受賞作。来年には映画も公開される。80分しか記憶のもたない数学者と家政婦、そしてその息子との交流を描く。
淡い感動が得られる作品だ。
博士と家政婦にルート、この三人の交流の積み重ねが丁寧に描かれているため、その絆の強さがしっかりと伝わってくるのが個人的には心地よかった。
たとえば、ルートが登場してからの博士の姿が個人的には印象深い。そのときの博士は非常にいきいきとしており、そのおかげで、物語の中に暖かい空気が流れていたのが好印象だ。またルートがケガをしたときの三角数の話には博士のルートを思う強さが窺えて非常に感動的ですらある。
その他にも、三人の関係を示すエピソードが丁寧に積み重ねられており、それによって物語全体に(恋愛とは違う)愛情が溢れていたのがすばらしい。
他にも江夏と完全数との関係といったガジェットや、未亡人の存在の使い方などが非常に上手く、この作品をきりりと引き締めていた。小川洋子の静けさの溢れる筆致もこの作品にマッチしている。
しかしこの作品は個人的な意見だが、小川洋子のベストではないと思う。小川洋子の作品にたまに見られる毒がこの作品には欠けていて、個人的には当たり障りの無く、どこか拍子抜けの感じがした。
しかしベストではないまでもベターな作品であることは間違いないだろう。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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