私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『太陽の季節』 石原慎太郎

2011-12-07 19:54:28 | 小説(国内男性作家)

女とは肉体の歓び以外のものではない。友とは取引の相手でしかない……退屈で窮屈な既成の価値や倫理にのびやかに反逆し、若き戦後世代の肉体と性を真正面から描いた「太陽の季節」。最年少で芥川賞を受賞したデビュー作は戦後社会に新鮮な衝撃を与えた。人生の真相を虚無の底に見つめた「灰色の教室」、死に隣接する限界状況を捉えた「処刑の部屋」他、挑戦し挑発する全5編。
出版社:新潮社(新潮文庫)




毀誉褒貶。
石原慎太郎を評する言葉を探すなら、この言葉が一番適切だと僕は思う。
その行動力に対する世評は高いし、露悪的とも取れる言動には非難も多い。
彼のデビュー作『太陽の季節』は、ある意味、そんな石原慎太郎らしさがよく出た作品と感じる。


『太陽の季節』は露悪的な作品である。
少なくとも倫理的観点からすると、眉をひそめたくなるような内容だ。

主人公の竜哉は、英子という女性に惹かれ、彼女をものにしようと奔走する。それが物語のきっかけだ。
そう書くといかにも青春小説的な出足だが、少し事情が異なるのは、竜哉が彼女に惹かれた理由が、彼に対して「抵抗」する女だからという点にあるだろう。
彼は、そんな風に抵抗する女を手に入れることに喜びを感じるタイプの人間なのだ。
だからだろう。やがて彼は英子を抱くが、一回ものにした途端、彼の愛情は醒めてしまうのである。

そこからの竜哉が本当にひどい。
竜哉はそれ以降、女の愛情をひたすら試すような行動に打って出る。英子を自分の兄に抱かせるところなどはいい例だ。
サディスティックと言えばそれまでだけど、竜哉はことによると、女の心を支配しているという状況が楽しいかもしれないな、と読んでいて感じる。
そして竜哉はそういう風にしか、女を愛せない人間なのだろう。

そんな竜哉のいちいちが本当に不快でたまらなかった。
彼は支配欲が強く、暴力的で、刹那的で、退廃的で、虚無的で、変に計算高く、基本的に身勝手なのである。男根主義とも言えるかもしれない。
また物事に反発する場合でも、明確なビジョンの元で反発するわけではなく、反発するために反発している感が強い。
そういう点、彼はどうしようもないくらいに未熟なのだろう。
子どもに関する部分なんかは、そんな彼の側面が端的に現われたものだと思う。

しかし、そんな風に最悪な人物を主人公にしているのに、ふしぎと楽しく読むことができた。
それはそんな不愉快な青年の心理を丁寧にあぶり出しているからにほかならない。
ここまで不快に感じるのも、それだけ主人公の存在感にリアリティがあり、彼なりの論理を追体験できるからだと思う。

挑発的な作風ゆえに叩かれやすいし、僕個人、絶対に人には勧めないが、これはこれで決して悪い作品ではない。そう思う次第だ。


併録の作品も、基本的にろくでもない主人公ばかりだが、それなりにおもしろい。
『処刑の部屋』は、最後のリンチシーンに漂う、凄みと鬼気迫る雰囲気が忘れがたい。
『ヨットと少年』は、主人公のガキくささと、悪たれっぷりを描く、筆致の丁寧さが印象に残っている。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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