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汐留駅でトランク詰めの男の腐乱死体が発見され、荷物の送り主が溺死体となって見つかり、事件は呆気なく解決したかに思われた。だが、かつて思いを寄せた人からの依頼で九州へ駆けつけた鬼貫の前に青ずくめの男が出没し、アリバイの鉄の壁が立ち塞がる……。作者の事実上のデビューであり、戦後本格の出発点ともなった里程標的名作!
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
推理小説らしい推理小説だな、と読み終えた後に感じた。
それは本作が、物語のダイナミズムではなく、物語内の論理性を追及し、それを解き明かすことに主眼に置いた作品だと感じた点が大きい。
物語はプロットが命と考える僕にとって、論理性の追究に重きが置かれた本作は、必ずしも趣味とは言いがたかった。
だが、よく考え込まれた作品である、という点だけは強く感じた次第である。
事件は最初から派手に動く。
トランクに詰められた死体が駅の保管所で発見される。その事件の真相を暴くために、容疑者の妻から依頼を受けた刑事が、事件を再び捜査することとなる、というのが主筋だ。
刑事は、その事件にひたすら論理を積み重ねていき、徹底的にアリバイを崩していく。
そういった内容のため、本作は、物語の動きを追うよりも、事件の事象を推理する場面に、多くの筆が費やされる。
そのため物語としては、動きに乏しく、、何かが足りないという感覚は最後まで残った。
特に殺人の動機などは、とってつけたように感じられ、もどかしい。
しかし事件解決までの、論理的な推理は、本当に巧妙なのだ。
特にすばらしいのは、本作のメイントリック、トランクの移動の真相に尽きるだろう。
そのシンプルな真実にはただただ感嘆とするばかりであった。
そしてシンプルであるだけに、見事なのである。
そのほかにも、一つ一つのアリバイを丁寧に、推理しながら、一個一個崩していく様も、よく考えてつくっているのが伝わり、感心してしまう。
その分、つくりものめいて見えるけれど、物語の構築性は抜群に光っていた。
個人の趣味ではないので、積極的に楽しめるとは言いかねる。
だが優れた部分が非常に目を引く作品でもあった。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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