〈革命党〉に所属している〈あなた〉から入党をすすめられ、手続きのための〈経歴書〉を作成し、それが受理されると同時にパルタイから出るための手続きを、またはじめようと決心するまでの経過を、女子学生の目を通して描いた表題作。
ほかに『』『蛇』『密告』など。存在そのものに対する羞恥の感情を、明晰な文体で結晶させ、新しい文学的世界の出発を告げた記念すべき処女作品集。
出版社:新潮社(新潮文庫)
倉橋由美子は初めて読むのだけど、作風も豊かで、非常におもしろい世界観を持った人だな、という印象を受ける。
本作には五篇の作品が収められているけれど、それぞれが個性的な雰囲気を持っていて、興味深い。
たとえば表題作の『パルタイ』。
これはさながら心理小説の味わいさえあって、楽しく読むことができる。そこでつづられる主人公の、明晰で理知的な語りが心地よい。
ここで語られるのは主人公の「オント」に関する感覚だ。
「オント」とは、フランス語で恥・羞恥心を意味するものだ、と後で解説を読んで知った。
だが僕は、この語を、辞書で引いた結果、勝手にオントロジー(存在論)の略だと思い込んで読み進めてしまった。そのため作者の意図を誤解している面はあるような気がする。
だがそれを抜きにしても、非常に楽しく読むことができる作品だ。
これは誤読かもしれないけど、個人的に僕は『パルタイ』を、革命思想のように理では絡め取ることのできない、情念や衝動を理知的に捉えた作品だと受け取った。
「≪革命≫は必然的だからパルタイにはいるのではなく、わたしは≪革命≫を選びたいからはいるのだ」っていうセリフがあるけれど、そういった言葉を読むと、特にそう思う。
彼女が望むのは≪経歴書≫にあるような理路整然とした世界ではなく、内的情動を満たすための、何ものとも知られないエネルギーだと思うからだ。
だから彼女にとって、パルタイという存在には、決定的な違和感しか見いだせない。
『パルタイ』は理によって進む機関であり、革命という情熱を体現する機関ではないからだ。
その違和感が、「わたし」の中で、確かな存在となるまでの流れを明晰に描いている点に、僕は心を引かれる。
個人的にもっとも好きなのは、『貝の中』である。
やはり誤読かもしれないが、『貝の中』には、『パルタイ』に通じるものがあると感じた。
それは同じように、理では絡め取ることができない、人間の情動を描いている(という風に僕には感じられたのだけど)点にある。
ここで描かれているのは、「貝の中」と形容する、女性たちの集団生活だ。その様を、体臭すら感じられるほどねっとりと描いている。そのためいくらか重い。
そして、それらの重い描写を読んでいると、主人公は女性性がもつ、ある種のいやらしさ(同調しなければいけない雰囲気とでも言うべきか)を嫌悪しているのではないか、とさえ感じられる。
だがそんな女性性を嫌悪するということは、裏を返すと、その女性性をこそ、主人公は重視していると言えなくもない。
わかりやすく言うなら、主人公が大事にしているのは、理性ではなく、生理的な感覚にある、ということである。
それはもうどうしようもないくらいの誤読かもしれないけれど、そのため全体的に女性らしい作品という印象を受ける。
だから≪人民≫とか≪大衆≫といった、抽象的な理念を説く、革命党員の青年の考えに、主人公は共感をもてないのだろう。
実際、青年の抽象的な理念など、「あいしてる」という生理的で感情的な一語で崩壊するという、もろいものでしかないのだから。
そんな女性的な感覚から、当時の革命に対する雰囲気を捉えているように思える。
その点を興味深く読んだ。
ほかにもいい作品が多い。
カフカに通じる世界観と常識のずれが印象的で、奇妙な味わいのある『』。
カフカの『審判』を意識しているだろう点がおもしろく、蛇というメタファーがユニークな『蛇』。
背徳に惹かれている男の姿が印象的な『密告』。
それぞれに良さがあって、個性的な面も見られる。くせもあるが、なかなか悪くない短編集だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
このようなブログに出会い大変うれしく思います。この機会に勝ってではありますがリンクを是非貼らせて頂ければとコメントいたしました。どうか叶えさせていただきたくお願いたします。‼お返事をお待ちいたします。!
倉橋由美子作品は実はパルタイしか読んだことがないので、僕もいつかいろんな本を読んでいきたいものです。
荒野鷹虎さん、コメントありがとうございます。
リンクを張って頂き、ありがとうございます。
リンク先拝読しました。社会正義を感じる内容だとつくづくと感じ入りました。