私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『緋色の記憶』 トマス・H・クック

2008-03-01 19:14:38 | 小説(海外ミステリ等)

ある夏、コッド岬の小さな村のバス停に、緋色のブラウスを着たひとりの女性が降り立った――そこから悲劇は始まった。美しい新任教師が同僚を愛してしまったことからやがて起こる“チャタム校事件”。老弁護士が幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは?
アメリカの実力派ミステリ作家、トマス・H・クックの1997年度HWA最優秀長編賞受賞作。
鴻巣友季子 訳
出版社:文藝春秋(文春文庫)


本作は決して読みやすい作品ではない。
現実の意識と過去の記憶が、何の前触れもなく交わるし、最初の方の情景はきちんとした説明が成されないまま叙述されているので、状況を把握するのに時間がかかってしまう。
しかし読み進み、物事の全体像がおぼろに浮かんでくるにつれ、物語を楽しむことができるようになる。
ともかくその薄皮を剥ぐようなストーリー展開は特徴的だ。淡々と精緻に物語をつむぎ上げ、チャタム校事件の全貌は何なのだろう、という興味をあおりながら、ラストに向けてじっくり進んでいく手法は丹念そのものだ。

その静かなタッチによって描かれた心理描写は味わい深いものがある。
少年らしいヒロイックなものに憧れる幻想が悲劇を生む過程が印象深い。特にラストの衝撃の真実には思い込みと幻想というものの残酷さを見る思いがした。

幾分地味な作品であることは否定できないが、人間の心というものに思いを致すことができる。なかなかの佳品といったところだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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