ビルマで生れ、幼時に母と死別して故国イギリスの厳格な伯母の手で育てられたサキ。豊かな海外旅行の経験をもとにして、ユーモアとウィットの糖衣の下に、人の心を凍らせるような諷刺を隠した彼の作品は、ブラックユーモアと呼ぶにふさわしい後味を残して、読者の心に焼きつく。「開いた窓」や「おせっかい」など、日本のSFやホラー作品にも多大な影響をあたえた代表的短編21編。
中村能三 訳
出版社:新潮社(新潮文庫)
解説でもある程度、触れられているけれど、サキの短篇は悪意と強烈な皮肉に満ちている。
O・ヘンリーと並び称されているようだが、O・ヘンリーの作品にある暖かさとはずいぶん対照的だ。
それを個人的に強く感じたのが、『運命』、『休養』、『おせっかい』あたりである。
特に『おせっかい』の毒には、軽くへこんでしまった。
ラストに来る直前まで、暖かい予感に満ちていて、希望さえ見えたのに、ラストの一文で、登場人物をすべて絶望へと追いやっている。
正直、これは読んでいて、ショックだった。
確かにこのオチは意外だけど、あまりにも後味が悪すぎでしょ、と言いたくなる。
それ以外にも読んでいて、居心地悪くさせられる作品が目立つ。
だが、それゆえに否定的なことを言いたいわけじゃないのだ。
中には皮肉や、人間に対する悪意が、いい意味で利いている作品も見られる。
そういった作品は、読んでいて普通におもしろい。
たとえば『二十日鼠』。
このオチが秀逸。他人の目を気にする男の自意識が非常に滑稽で、苦笑してしまった。
このブラックユーモアはなかなか機知に富んでいて、見事だ。
それに『親米家』にも笑ってしまう。
自分の判断で、物事を評価できない人たちをからかっているのが伝わってくる、ずいぶん皮肉な作品だ。
作者の視線は悪意に満ちているけれど、登場人物たちの行動のバカバカしさに、にやりとさせられる。
そのほかにもいいと思える作品は多い。
大人の賢しらな考えなど、所詮子どもには通じないということを皮肉に語る、『平和的玩具』。
後味の不気味さが余韻を残す、『狼少年』。
どう見てもただの嫌がらせにしか見えない男の行動に唖然として笑いたくもなる、『話上手』。
少女の悪趣味としか思えない行動ににやりとさせられ、ホラーな雰囲気がすてきでもある、『開いた窓』。
善意というものに対して嘲笑しているかのようなラストがおもしろい、『宵闇』。
中途半端に労働者に共感する富裕層を、小ばかにしている点が印象的な、『ビザンチン風オムレツ』。
自分の理想を勝手に重ねて、結局同じ結末に至る男の浅ましさが滑稽な、『家庭』。
結果的には自業自得だよな、と思えるような結末がシニカルな、『七つのクリーム壺』 など。
ときに露悪的で、アンモラルで、これはないよ、と思うときもあるけれど、黒い雰囲気はなかなか忘れがたい。
O・ヘンリーの方が個人的に好みだけど、これはこれで悪くない作品集である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます