私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『行きずりの街』 志水辰夫

2007-09-08 20:05:47 | 小説(国内ミステリ等)

かつて女生徒とのスキャンダルにより学園を追い出された波多野は、地方で塾講師をしていた。彼は失踪した塾の教え子を探すため、久しぶりに上京する。やがて波多野は教え子の失踪が、自分がいた学園と関係があることに気付きはじめる。
ハードボイルドなどのジャンルを手がける志水辰夫の最近、再評価され始めた作品。「1991年度 このミステリーがすごい」1位受賞作。
出版社:新潮社(新潮文庫)


色気を感じる女性の描写など、いくつかの点に若干の古さを感じるものの、ストーリーそのものは飽きることも集中力が途切れることもなく、楽しんで読むことができる。
多分その理由としては文体が果たしている役割も大きいだろう。特に後半は叙述をシンプルにして、物語をさっさっと進めており、どこかリズミカルな感じだ。そのためページを繰る速度も自然速くなり、テンポよく読むことができる。

ストーリー自体ももちろんおもしろい。
つながった糸をゆるやかに解きほぐし、因縁の様を開示していくあたりには、心踊らされるものがある。それに主人公が幾度か窮地に陥ってハラハラさせられるし、ラストも二転三転していて、見事なくらいのエンタテイメントに仕上がっているのも好印象だ。
もちろん雅子の情報の提示の仕方を含めて、引っかかるものはあるのだが、これはこれで細かく突っ込むだけ野暮というものだろう。

個人的には中盤、主人公が雅子に対して告白する姿に心動かされた。作者もそこのところに力を入れて書きたかったのだろう。
基本的にそこにはいやらしい事実や感情も描かれているが、言葉の端々には本音をはっきり口にした上で、再び女を取り戻そうとする主人公の熱い意志を感じることができる。そのストレートな言葉はまっすぐなだけに僕の心へ一直線に飛び込んできた。

はっきり言って、世間的にそこまで再注目されるほどの作品とも思えないのだが、物語自体はおもしろいし、中年男の熱い意志が端々に散らばったハードボイルドに仕上がっている。楽しんで読むには申し分ない作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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