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少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように…。少年の家族は完全に崩壊した。だが彼はくじけない。家族の再生をただひたすら信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける―アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞最優秀賞スリラー賞受賞。
東野さやか 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『ラスト・チャイルド』は入り込みにくいが、一旦入ってしまえば、ラストまで一気に読み進められる作品だ。
あるいは、最初はまったくもってつまらないが、後半はむちゃくちゃおもしろい作品、と言った方がわかりやすいかもしれない。
実際、上巻はなかなか物語の中に入っていけない。
主人公ジョニーの双子の妹アリッサが行方知れずになり、父もその事件後に失踪してしまう。母は精神的に不安定になり、別の男と関係を持ち、麻薬に溺れてしまう。
そういった冒頭の展開は、一言でまとめるなら、絵に描いたような悲劇である。
また、もう一人の主人公とも言うべき、アリッサの事件を追う刑事ハントの場合だと、事件にのめりこみすぎるあまり、妻に逃げられ、息子との折り合いも悪くなっている。
こちらもまるで絵に描いたような悲劇だ。
つっこんで言うなら、ジョニーの物語も、ハントの物語も、どちらも設定はあまりにステロタイプなのだ。
内容は暗い上に、書かれていることはよくある話の域を出ない。
そのため、物語になかなか入り込むことができなかった。
また、訳が固くて読みづらいし、物語の展開の一部がご都合主義的な面も、印象を悪くしている。
しかし中盤辺りから、物語はがぜんおもしろくなってくる。
具体的に言うと、ジョニーが偶然にも一人の少女を助けるあたりからだ。そこから物語はどんどんふくらんでいき、加速度的に勢いを増していく。
その怒涛の展開はすばらしい。
思いも寄らない展開が引きも切らず、押し寄せ、ワクワクしながら読み進められるのだ。
そして最後の方にはいくつかの意外な事実が待っている。
多くは語らないけれど、それらははっきり言って、少しショッキングで、あまりに悲しいものだった。
人生はときとしてむごい。そういうことを読後考えてしまい、切ない気分になってしまう。
だが事実が判明したからこそ、人はそれを受け止めることができるのかもしれないし、前に向けて進めるのかもしれないのだ。
ラストの母子の姿には、この先も生きていこうという前向きな思いが感じられる。
そしてジャックへの手紙に関する部分に、一抹の明るさを見出せたのが、個人的には良かった。
本作は冒頭の展開のせいで、ひょっとしたら、途中で本を投げ出す人もいるかもしれない。
だがそれは本当にもったいない話だと思うのだ。
最後まで読めば必ず、満足した気分で本を置くことができる。そう思わせる良質の一品であった。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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