私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『ツナグ』 辻村深月

2011-10-12 21:00:47 | 小説(国内女性作家)

突然死したアイドルに。癌で逝った母に。喧嘩したまま亡くなった親友に。失踪した婚約者に。死者との再会を望むなんて、生者の傲慢かもしれない。間違いかもしれない。でも―喪ったものを取り戻し、生きるために会いにいく。―4つの再会が繋いだ、ある真実。新たな一歩を踏み出す連作長編小説。
出版社:新潮社




死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口である、使者(ツナグ)をめぐる物語。
本書を端的にまとめるなら、そうなるだろうか。

正直その設定を聞いたときは、大丈夫かな、ありきたりな物語にならないかな、と手にとっておきながら不安になった。
だけど、そこは若手実力派の辻村深月。楽しく、そして感情をゆさぶる物語に見事仕上げている。


本書は連作短編集だが、どれも泣かせの要素が入っていて、感動的な話が多い。
基本的に僕は、泣かせようという作者の意図が見えると、かまえて読んでしまう人だが、それでも感動的だな、とすなおに思うことができる。

『親友の心得』が個人的には一番好きだ。
女子高生の嫉妬と友情を描いた物語だけど、彼女らの心情がなかなか読み応えがある。
相手に対する優越感や、それが覆されたことから生じる嫉妬心、自分が犯した過ちに対する後ろめたさ、それでも友人のことが好きだというまぎれもない感情など、複雑に絡み合う心情描写が胸に迫ってならない。
辻村深月は『凍りのくじら』しか読んだことないけれど、女の子の心情を描く筆は冴えているような気がする。

そのほかの作品も、ちょっとつくりすぎな面はあるものの、巧妙に話は組み立てられており、どれもおもしろい。


さて本書は、前半4篇を依頼者側の視点で描いており、最後の一篇のみ使者の視点から語らせている。

最後の『使者の心得』では、そっけなく、謎めいた存在でしかなかったツナグが、当たり前の高校生だということを教えてくれる。
正直最初読んだときは、別にツナグは、ミステリアスなままでも良かったのにな、と思ったのだけど、これはこれでいいかも、とだんだん思えるようになってくる。
そう感じたのは、依頼者たちと接触するにつれ、ツナグである歩美の心情に変化が起きることが大きい。
そこから歩美は、自分の過去をふり返り、両親の死に対し精神的な蹴りをつけ、ツナグの使命を受け入れていくことになる。その前向きな展開が、胸に沁みてならない。


死者と生者の交流は、書きようによっては、ただのお涙ちょうだいになってしまう題材だと思う。
だがそんな安直で終わることなく、死者の存在を通じて、生きている者たちが前へ向けて進んでいくというポジティブなメッセージ性が伝わってくるのが忘れがたい。
心に残る良作と感じた次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかの辻村深月作品感想
 『凍りのくじら』

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ボディ・アーティスト』 ド... | トップ | 『平原の町』 コーマック・マ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説(国内女性作家)」カテゴリの最新記事