私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『たったひとつの冴えたやりかた』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

2010-09-02 22:17:01 | 小説(海外ミステリ等)

やった!これでようやく宇宙に行ける!16歳の誕生日に両親からプレゼントされた小型スペースクーペを改造し、連邦基地のチェックもすり抜けて、そばかす娘コーティーはあこがれの星空へ飛びたった。だが冷凍睡眠から覚めた彼女を、意外な驚きが待っていた。頭の中に、イーアというエイリアンが住みついてしまったのだ!ふたりは意気投合して〈失われた植民地〉探険にのりだすが、この脳寄生体には恐ろしい秘密があった…。元気少女の愛と勇気と友情をえがいて読者をさわやかな感動にいざなう表題作ほか、星のきらめく大宇宙にくり広げられる壮大なドラマ全3篇を結集!
浅倉久志 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)




僕はほとんどSFを読まないのだけど、それでもいくつかの作品は名前くらい知っている。

表題作の『たったひとつの冴えたやりかた』は、僕でも名前を知っている有名作品だ。
そして、読み終えた後に、なぜこの作品がメジャーなのか知ることができる。
それはもう単純に、いい作品だからという一点に尽きるのだ。


『たったひとつの冴えたやりかた』を読んで、まっさきに感銘を受けるのは、やはりキャラクターだ。
これが実にすばらしい。

主人公のコーティと、彼女の脳に寄生したエイリアン、シロベーンの関係は非常に印象的だ。
コーティは明るく、パワフルで、言葉遣いも生き生きした、聡明な少女だ。読み手は多分すぐに彼女のことを好きになるだろう。
そんな彼女と会話を交わすシロベーンは気弱な感じのする少女エイリアンである。
この二人のやり取りが本当におもしろい。

コーティはシロベーンから、彼らイーアの生態についていろいろ聞き出し、言葉を交わす。
その会話の最中、シロベーンは気弱な対応をすることが多い。
それに対して、コーティが持ち前の明るさと前向きさで、シロベーンを元気づけている。
コーティの態度は決して押し付けがましくなく、相手のことを思いやっていることが伝わり、すてきだ。
だからやがて二人の間に友情が生まれ、互いのことを思いやるようになるのがよくわかり、あったかい気分になる。

そしてそんな二人の絆が見えるからこそ、ラストのコーティの決断が、読み手である僕の胸にも届くのだ。
彼女の決断は本当に美しい。
メッセージパイプを通しての描写ということもあり、ややこしい葛藤がはぶかれているからこそ、彼女の行為と決断の美しさが際立つことになっている。これは見事なものだ。

その場面のコーティの言葉を読んでいると、この娘は何ていいやつなんだ、と心から思ってしまう。
優しくて、友人のことを最後まで気遣い、決してシルのことを責めない。
そんな彼女の姿が、いつまでも忘れがたい。とっても感動的な一品である。


そのほかの作品もおもしろい。
『グッドナイト、スイートハーツ』は、普通におもしろい作品だ。
アクションあり、ロマンスありでなかなか楽しく読ませてくれる。
それでいて、ひねりの利いたビターな味わいのラストを持ってくる辺りが憎い。


『衝突』は普段SFを読み慣れていないからか、大変新鮮な印象を受ける作品だった。

まず、ジーロの身体的特徴を始めとした作品の設定に驚かされる。
それに、物語も普通におもしろくて、スリリング。ややご都合主義的だが、それでもおもしろい。
冒頭の、体に対するクルーの違和感から惹きつけられ、ファースト・コンタクト以降の展開には、ドキドキしっぱなしだった。
ラストシーンの、アッシュの必死の説明もすばらしい。彼の言葉が真摯なだけに、僕の胸にも深く響いてくる。


『たったひとつの冴えたやりかた』はもちろんのこと、ほかの2作品もレベルの高い作品である。
SFというジャンルとは無関係に、小説として充分にすばらしい作品集である

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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