私的感想:本/映画

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ウィリアム・シェイクスピア『リア王』

2014-07-03 20:38:36 | 戯曲

とつぜん引退を宣言したリア王は、誰が王国継承にふさわしいか、娘たちの愛情をテストする。しかし結果はすべて、王の希望を打ち砕くものだった。最愛の三女コーディリアにまで裏切られたと思い込んだ王は、疑心暗鬼の果てに、心を深く病み、荒野をさまよう姿となる。
安西徹雄 訳
出版社:光文社(光文社古典新訳文庫)




シェイクスピアの四大悲劇に挙げられる作品だが、確かに悲劇としか言いようのない結末である。
その結末には予定調和がなく、それだけに軽いショックを受け、心をゆさぶられた。
そういう点、いい作品だと思うのだ。



主人公のリア王は、三姉妹に国を分割するため、自分への愛を確かめるような言葉を娘たちに言わせる。それに対して末娘のコーディリアは、父に従うが、嫁いだ以上は夫にも愛情を向けなければならない、と素直に自分の心を告げる。

誠実な言葉だが、リア王はその言葉に激怒してしまう。
この感情の激しさには辟易するほかなかった。ちょっと怒りすぎだろ、と思うほどだ。
そしてその直情的な性向ゆえに、リアは末娘の真の愛情にも気づくことはできないのだ。
挙句、国を分け与えた途端、上の娘たちから冷たい対応を取られてしまう始末である。


その悲劇的な流れは、リア王にも責任の一端はあろう。
彼は直情的で、横柄なところもある人だ。
確かに王だから偉いのは当然だが、人の反発を買いかねない態度だなとは読んでいて感じた。だから自業自得の部分もある。

だがそれにしたってゴネリルたちが非情すぎるのは言うまでもない。
その結果、リア王は発狂をしてしまう。惨い流れとしか言いようがない。

そして他者の野心がせめぎ合う中、さらに悲惨な隘路へと迷い込んでいく。



そんな中で、コーディリアたちフランス王は、リア王のために立ち上がる。
旧主に従う人たちも現れていると言うし、普通に考えれば、リアとコーディリアの軍勢が勝つと思うのが筋だろう。

しかしそうならないところが、この劇のすごいところだ。
まったく予定調和に陥らない、悲劇の徹底ぶりには感心する。

そしてその後には、さらに残酷な結末が待ちうけている。
これを悲劇と言わずして何と言おうか。


老王に訪れるのは、あくまで悪夢のような現実だ。
そのため彼は精神もぼろぼろになっていく。
人生では、ほんの些細なミスが、時として人の運命を狂わせていく、のかもしれない。

ともあれ、残酷な人間世界の一端を示すような作品である。
深く心に突き刺さる作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかのウィリアム・シェイクスピア作品感想
 『ジュリアス・シーザー』
 『リチャード三世』

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