私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「第9地区」

2010-04-20 20:29:38 | 映画(た行)

2009年度作品。アメリカ=ニュージーランド映画。
南アフリカ・ヨハネスブルグ上空に突如現れた巨大な宇宙船。船内の宇宙人たちは船の故障によって弱り果て、難民と化していた。南アフリカ政府は“第9地区”に仮設住宅を作り、彼らを住まわせることにする。28年後、“第9地区”はスラム化していた。超国家機関MNUはエイリアンの強制移住を決定。現場責任者ヴィカスを派遣、彼はエイリアンたちに立ち退きの通達をして回ることになるのだが…。(第9地区 - goo 映画より)

監督はニール・ブロンカンプ。
出演はシャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ ら。



題材こそエイリアンが登場するSF作品だが、いろんな場所で言われているように、社会的なテーマ性も同時に持ち合わせた作品である。
そのテーマとは、一言で片付けるなら差別である。


この作品では冒頭から宇宙人が登場し、人類はファーストコンタクトに成功している。そして宇宙船が動かなくなり難民状態となったエイリアンを保護するため、第9地区と呼ばれるポイントで、地球人は彼らを保護することになる。だが文化のバックボーンや価値観がちがうエイリアンたちと、人間はたびたび衝突し、政府は詐欺のような手口で、エイリアンたちに強制移住を命令する。

この作品で描いている対象は、宇宙人だが、地球人と読み替えても、物語としては成立可能だ。
地球上で起きている難民問題や移民問題とその構造はよく似ている。
その移民たちを、よそ者だからという理由で、元から住んでいた側の人間は排除したいと願う。
それはいい悪いはともかく、往々にしてあることだ。


映画では、他者であるエイリアンを排斥したいと地球人が考えるのも無理ない、と思わせるような描写を重ねている。
エイリアンの格好はいかにもグロテスクだし、出てくるエイリアンも粗野なタイプが多い。実際周囲にいたら、こわいと思うかもしれない。自分も地球人なので、気持ちは理解できなくはない。
だがそれを理由にだまし討ちのような形で、エイリアンを排除するのは、明らかにまちがっている。


映画の主人公は、そんなエイリアンたちを狩る側の人間だった。
だが、中盤から状況は一変し、人間たちに追われる立場になってしまう。

基本的に、主人公はあまり好ましい人物ではない。
エイリアンを差別し排除することに迷いはなく、エイリアンと手を組まざるをえない場面でも、自分の利益を優先するような、エゴイスティックなタイプだ。
そんな行動をとるのは、彼がエイリアンに対して差別感情を持っていることが大きいのだろう。
意思疎通が可能で、理解し合えるエイリアンがいることに気づいても、差別は人の認識を曇らせる。


しかしそんな主人公も、ラストでは一転、エイリアンを助けようと行動する。
それはもちろんお約束の展開だ。
けれど、元々かなり身勝手なやつだっただけに、主人公の転向は好ましく、胸に響いてならない。

アクションシーンも優れていて、物語としても映像としても、テーマ性の観点においても、見応えある作品になりえている。
中身の濃いエンタテイメント映画である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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2 コメント

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Unknown (ぐみご)
2010-05-14 10:18:34
おつー。GWが終わっちゃっただよー、ほだよー、ほだ、ほだ(←三河弁・笑)

『第9地区』見てきたよ-。エイリアンが差別されてスラムに住むっていうアイデアがおもしろいねー。ストーリーもテンポよく展開するし、なかなか見応えのあるエンタメ映画だった。

ただ、ちょっとグロいシーンが多くて…、途中からゲロゲロになった(笑)。主人公がエイリアンに変容していくシーンもリアルだけど、手術台に乗せられて解剖されそうになるシーンとか、荒くれ男たちに腕を切り落とされそうになるシーンとか、「もう勘弁~っ(>△<)」って感じ。

まったく関係ない話なんだけど、今日の夜、ジュンク堂で桜庭一樹さんのトークショーがあんのよー。気づいたときには、もうチケットが完売しててさー。しくしく。あーあ。ナマ桜庭さんに一度お会いしてみたかったなぁ。。
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Unknown (qwer0987)
2010-05-16 20:58:26
ああ、GW終わっちゃいました。一週間以上経っているのに、いまだに休み気分が抜けないです。ダメ人間です。

「第9地区」はおもしろいですよね。でもグロいことは否定できない。
でもそのグロさも、痛さもこの映画の味なのかな、と個人的には思ってます。そういう系が苦手なぐみごさんにはきついかもしんないですが。

桜庭一樹のトークショーあったんですか。チケット取れなかったのは残念ですね。
できれば僕も聞きたかったです。結構この作家の作品は好きなんで、どんな話をするのか興味あります。
仙台にも桜庭一樹が来てくれたら行くんだけどな。そもそも作家のサイン会自体、ほとんどないから期待できないけど。
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