私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『鹿男あをによし』 万城目学

2011-01-12 20:48:12 | 小説(国内男性作家)

大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはずだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声が鹿が話しかけてくるまでは。「さあ、神無月だ―出番だよ、先生」。彼に下された謎の指令とは?古都を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー。
出版社:幻冬舎(幻冬舎文庫)




本書はファンタジーである。
しかも世にある多くのファンタジーと比べると、ちょっと毛色の異なるファンタジーと言えるのかもしれない。

一応、玉木宏と綾瀬はるか主演の同名ドラマをちょっとだけ見ていたので、途中の展開はだいたい知っていたわけだが、それでも変てこな話だな、と思った。
何と言っても、鹿と人間と狐と鼠が、世界を救うのだからだ。そこがまずいいと思う。

だが真に賞賛すべきは、そんな変てこでどう考えてもつっこみどころのある物語を、これもまたありだよね、と思わせる作品にまで高めたことにあるのかもしれない。


とは言え、さすがに最後の方は、風呂敷の広げすぎで、ちょっとだけついていけないところもあった。そのため、結局つくりものでしょ、と醒めてしまった面もなくはない。
(ダメ出しついでに書くと、ラストも個人的には微妙である。昭和のドラマか、とつっこんでしまったし)

けれど、途中まではぐいぐい引き込まれるように読める。
それはある意味、この作品が読みやすいことが大きいのかもしれない。


個人的にもっと引き込まれたのは、剣道のシーンだ。
堀田の剣道シーンは本当に緊張感があって、食い入るように読むことができる。
試合特有の白熱した雰囲気はすばらしく、なかなかおもしろい。
先生が学生たちを集まるところなどは、青春っぽい味わいがあって、僕は好きだ。

メインのサンカクをめぐる物語も結構おもしろい。
サンカクがどういうものか、わからなくなるポイントとかは引きは良かったと思う。


ともあれ、ちょっと変わった味わいのある作品である。
欠点は多いが、少なくとも変わっているな、と読み手に思わせただけでもすばらしい物語と言えるのかもしれない。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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