計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

大気大循環と偏西風波動

2013年11月27日 | お天気のあれこれ
 地球表面からは常に長波放射(赤外放射)の形で熱エネルギーが放出されている一方、太陽からは日射(短波放射)によるエネルギーを受けています。

 一年を通して、出ていくエネルギー量は地球表面上のどこでも概ね一定ですが、入ってくるエネルギー量赤道付近で最も大きく、極付近では最も少なくなります。これは地軸が公転面に対して傾いているためです。

 このプロセスを通じて、赤道付近は熱源となる一方、極付近は冷源となるような熱の分布を生じます。


 赤道付近の大気は暖められるので次第に上昇気流となり、極付近の大気は冷やされるので次第に下降気流となります。


 こうして南北間(極-赤道間)の熱的コントラストを解消するべく、大気が自らかきまぜられようと動き出します。換言すれば、熱的コントラストによって大気の動き(大循環)が駆動(励起)されるのです。

 実際の大循環は、このような三細胞構造となります。赤道付近の熱源によって直接励起される循環をハドレー循環極付近の冷源によって直接励起される循環を極循環、そして、南北二つの循環の間に間接的に励起される(みかけの)循環をフェレル循環と言います。
 
 フェレル循環は、高緯度側で寒気が上昇する一方、低緯度側で暖気が下降するような形に描かれていますが、このような鉛直循環が存在するわけではありません。実際には、中緯度地方は偏西風波動などの擾乱が支配的です。これらの流れを緯線方向にグルっと一回りした平均をとると、高緯度側で上昇・低緯度側で下降するような循環が現れる、というものです。従って「みかけの間接循環」なのです。


 地球は常に自転しているため、その上にある物体は常に時点(回転)に伴う慣性力(コリオリの力)を受けて続けています。この力は、北半球では進行方向の右向きに働きます。

 このため、地上付近ではハドレー循環極循環、そしてコリオリの力の影響で、低緯度では貿易風、高緯度では偏東風が卓越します。



 それでは、上空はどうでしょう?次の図のように、上空の温度分布を考えてみます。


 ハドレー循環によって赤道付近の暖められた高温の大気が北側に運ばれる一方、フェレル循環(実際は偏西風波動)によって北側からは、より低温の大気が運ばれてきます。

 また、極循環によって北極付近で冷やされた低温の大気が南側に運ばれる一方、フェレル循環(実際は偏西風波動)によって南側からは、より高温の大気が運ばれてきます。

 つまり、隣接する循環が接触する領域では、北側からの寒気南側からの暖気が互いにぶつかります。このため、図の中の黄色の領域のように等温線の間隔も狭くなります


 等温線の間隔が狭くなると「その度合=温度傾度(※狭いほど大きい)」に応じて西風成分が強化されます。これは「温度風の関係」と言う物理学的なメカニズムによるものです。

 このように非常に強い西風の軸(強風軸)が形成されていきます。この風速が非常に強いものをジェット気流と呼びます。極側のジェット気流を寒帯前線ジェット気流、赤道側のジェット気流を亜熱帯ジェット気流と言います。

 ジェット気流は、北からの寒気と南からの暖気との間に生じる南北の温度コントラストの強化によって形成されます。この温度コントラストが強まっていくにつれて、(有効)位置エネルギーが蓄積されていきます。これはこの領域の大気が徐々にストレス(不安定性)を溜め込んでいくようなものです。

 従って、何らかの形でこのストレスを解消しようとします。大気の場合は、「運動」を通じてストレスを解消しようとします。



 ストレスが溜まりすぎると、偏西風はこんな感じで大きく南北に波を打って運動します。こうやってストレスを解消しています。物理学的に言い換えれば「(有効)位置エネルギーを(有効渦)運動エネルギーに変換している」のです。

 このように偏西風が蛇行して形成される波を偏西風波動傾圧不安定波)と言います。この波が高気圧や低気圧を生み出す原動力となっています。
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