ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ ドクトル・マブゼ (1922)

2020年09月22日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
冒頭の機密文書を奪取するアクション演出のスピード感。後半の謎の博士による催眠ショーのトリッキーなサスペンス。それ以外は同じような攻防を繰り返す長丁場。それでも厭きさせないのはさすがラングなのだが、やっぱり掴みどころのない間延び感はいなめない。

「法と神に反抗する」「外の国ではなく内なる国に生きる」とか言って最後は軍まで敵にする。そんなマブゼに拝金主義や厭世思想や国家批判が臭わないでもないが、そのピカレスクが思想として最後まで貫かれる分けでもない。ひたすら大衆のウケを狙った(今なら半沢云々みたいな)娯楽サスペンスなのだろう。

演出面をとっても、同じフリッツ・ラングの同時代作品である『死滅の谷』(21)の凝縮された禍々しさや、『スピオーネ』(28)の計算され尽くしたシャープな語り口に比べて散漫。

特筆すべきは巻頭のクレジットタイトル。漆黒地に配置されたフォントが優雅で美しい。フォントは作中の字幕にも使用されるのだが、後半になって意識的に「字面(じづら)」を崩した演出がほどこされるのちょっと残念。この美意識は最後まで貫いて欲しかった。

(9月21日/シネマヴェーラ渋谷)

★★★

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