platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

グルーシンスカヤは何処へ

2005-11-29 | グランドホテル ザ ミュージカル
前回の更新の直後、閲覧数が40000pvを超えました。このブログのカウンターは時々前日より減っていたりして(!)もうひとつ正確でないようなのですが、 読んでくださる方がこんなにおられる、と思うととても嬉しいです。本当に有難うございます。

 映画ではガルボ演じるエリザベッタ・グルシンスカヤは、ロシア人バレリーナということなんですが、ロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の寵愛を受けていたバレリーナ、クシェシンスカヤがモデルなのでしょうか。彼女について詳しく書かれたものを読んだことはない(というか見つけられたこともない)けれど、これだけ名前が似ているのだから、多少なりとも人物像に影響を与えていると思うのですが・・・

 ヨーロッパではいわゆる「踊り子」的な見方をされていた当時のバレリーナ達ですが、ロシアではその芸術的完成度の高さから、彼女達の社会的地位は高かったようです。以前名前をあげたタマラ・カルサーヴィナは貴族の血筋で、家族も文化人という文字通りのセレブリティでした。1917年のロシア革命によって、世界に誇るその芸術も存続の危機にさらされたのですが、心ある革命政府高官がバレエは保存するべきであると主張し、演目を限定することで命をつないだのだそうです。それでも、その後ソヴィエトがあれほど力を入れる文化事業となるとは、この時点では到底考えられず、多くのダンサーが海外へ流出しています。それ以前から海外で華々しい成功を収めていたニジンスキー達のバレエ・リュスも、「帰るべき故郷」などなかったのです。

 グルシンスカヤが遠い目でロシアを、そして陽光溢れるイタリアで男爵と過ごす夢を語るシーンはガルボの美しさが圧倒的ですが、そのイタリアも22年のムッソリーニのローマ進軍により、ファシズムの支配下にありました。劇場を格好のプロパガンダの場と考えるファシストらが、この哀しみを背負った美しいバレリーナを放っておくわけはなかったでしょう。彼女はイタリアにも安らぎを見つけられず、その後、どこへ行ったのでしょうか。クシェシンスカヤの最期は、どんなものだったのでしょう。

ポーズとポーズの間

2005-11-27 | うたっておどろんぱ!
ダンス雑誌って発行部数は多くないので、うなづいてもらえるかどうか分らないのですが、たとえばダンスマガジンなんかに掲載されている写真を見て「わ~、かっこいい」と目を奪われ、期待でいっぱいになって実際に観にいくと、「・・・こんなもんなのかな」と少し幻滅する事があります。そんな時(カメラマンが優秀だということもあるのでしょうが)、やはり「ポーズ」は「ダンス」のごく一部でしかないのだなあ、と思います。考えてみれば、一瞬ポーズを真似するだけなら、とくにダンスを習っていなくても、いいセンいってる~、と自分ひとりが思う程度にはきめられるものもありますよね。

 やはりダンサーの素晴らしさは一つの形からもう一つの形へと変化する、その間にぎっしりと詰まっているような気がします。初めてこの目で見たロシアのバレリーナの人間のものとは思えないような柔らかな腕の動きは今でも鮮明に記憶に残っていますが、それを忠実に再現してくれる写真、映像には未だに接したことがありません。スローで好きなだけ何度でも見られるDVDプレーヤーが登場したときには感激のあまり、愛情をこめた名前をつけようと思ったぐらいですが、それでも立体で、その場で見るということ以上に、ダンスの素晴らしさを教えてくれるものは生まれないだろうとよく思います。

 で、「おどろんぱ」、ここのところ「影」を多用していて、ETV教育番組共通の御題なのかしら、とも思いますが、ただでさえ動画という平面にはめられている(ように私には見えてしまう)ダンサーズがさらにひらべったくなってしまい、寂しいです~。「うたって」はどこに? というぐらいに、とくに音楽に同調することもなくポーズの連発、これは別の「おにいさんとおねえさん」の領域のような気がするのですが。

 でも、そんななかでも青山さんはやっぱり真似できないポーズを決めてくれるのでした。チアリーダー、『ボーイ フロム オズ』の"Love Crazy"を思い出すような弾けっぷりですね~。また、あの高いリフトは、前にもファンサイトのほうに書いたことがありますが、ボヤルチコフ版『くるみ割り人形』の一番の見せ場で王子と金平糖の精がきめるものと同じ大技です。前半やわらかく弧を描いていたのと同じ腕とは思えない力強さ。この表現の幅の広さは男性ダンサーの魅力ですよね~。そういえば、そろそろバレエ界は『くるみ』の季節です。こればかりは小さなお子様OKの公演も多いので、おどろんぱファンも、ポーズとポーズの間を直に味わっていただきたいな。

『ボーイ フロム オズ』が来年

2005-11-23 | ボーイ・フロム・オズ
あゆあゆさんから頂いた情報で、なあんと'06年『ボーイ フロム オズ』が東京、大阪で再演される、という話です。詳しくは下記のページ上部の赤いインデックスバーの"media"をポイントし、"Press Releases"をクリックしてください。

THE BOY FROM OZ オフィシャルページ

 10月16日付けの記事で、まだ日本では公表されていないようですので、変更の可能性もある、ということでお読みください。また、いまのところこれよりも新しい情報が見つかりません。他にも情報をお寄せいただけましたら幸いです。あゆあゆさん、本当に有難う~! 菅野こうめいさんのことといい、私一人では絶対に気がつかないところに高感度アンテナがあるようで嬉しいです。菅野さんのブログ、楽しいですよね。エンターティンメントを作り出す人のエネルギーを感じます。さて、『オズ』、青山さんが出演されるかどうかもまったく分りませんが、もしそうなら青山ファンは来年も「一目惚れ」と「惚れ直し」の果てしないサイクルに組み込まれそうです。

岡幸二郎さんTV出演

2005-11-21 | グランドホテル ザ ミュージカル
フジTVの番組表から。11月24日・25日、13:00~の「ライオンのごきげんよう」で、男爵役の岡幸二郎さんがゲスト出演されるようです。『グランドホテル』の話題も出そうですね。

 それだけでは愛想がないので、またまた入り浸っている"gettyimages"から、ヴィッキー・バウムの写真ページを紹介します。『グランドホテル』原作発表当時の28年と、映画の大成功を経て、ナチズムに染まるドイツを捨てた後の35年の表情がかなり違うのに目が留まります。

http://editorial.gettyimages.com/source/search/FrameSet.aspx?s=ImagesSearchState%7c0%7c-1%7c28%7c0%7c0%7c0%7c1%7c%7c%7c0%7c0%7c0%7c0%7c0%7c0%7c0%7c0%7c7%7cVicki+Baum%7c-8193%7c0%7c0%7c0%7c0&p=7&tag=1

「ダンスマガジン」に大澄賢也さんのインタビュー

2005-11-19 | グランドホテル ザ ミュージカル
もうすぐ次の号も出るので、そろそろいいかなと(自分勝手な判断)著作権侵害にならない程度にダンスマガジンの連載記事「ダンスと私」からご紹介します。大澄さんは、17才のときジョン・トラボルタの『サタデー・ナイト・フィーバー』『ステイン・アライブ』を見て、その帰りにジャズダンススタジオに向かい、ダンスを習い始めたということです。「一目惚れ」のようにして一生の仕事に就いた、というインタビュー記事は時々目にしますが、大澄さんもそのひとりのようです。

 '02年の『Fosse』来日公演に日本人として初めて出演されているのですね。舞台写真が3枚掲載されていますが、私がテレビなどで記憶していた表情とは全く違う、本当に生き生きとした、魅力ある表情をしておられます。やはり踊る男性は舞台で一番輝くような気がします。おもしろいのはフォッシー独特の振りには名前がついていて、帽子のつばを持つ例のポーズは「ティーカップハンド」というのだそうです。ブログを書いていても、青山さんのダンスを文字で表そうとすると、脚がこうで首はああで、と必ずやたらと長い文章になり諦めることもしばしば、まして振付をするなら名前がついてるほうがいいですよね。

 もちろん『グランドホテル』にも言及しておられるのですが、役柄への抱負だけで、記者さんにもう少し突っ込んでいただきたいところです。ダンスファンにとって「ボブ・フォッシー」なら'02年のことでも話題になる、というのはわかるのですが、それと同じくらい「これから」ってすごく聞きたいことなんじゃないでしょうか~。10年ほど前と比べると、この雑誌も日本のダンサー、公演を取材するようになってきているけれど(かなりヨイショ系な記事もあったり)、アメリカであれほど「ダンス」が強調され、イギリスでクーパーが振付けた大ヒット作に出演する人を前にしてあまりにも素っ気無い・・・。

 でも、かく言う私も青山さんというダンサーを偶然知るまでは、日本のダンサーに、またクラシック以外のダンサーに関心の高い方ではありませんでした。伝統的舞踊の系譜とはまったく無関係に、外から取り込まれた文化、という感じがぬぐえず、技術的に素晴らしい方は何人か発見しましたが、ファンになる、というのではなかったです。またその話か~と呆れてしまわれる方も多いかも知れませんが、日本舞踊独特の低い重心と流れるような動きが、『森羅』や「三忍者」に限らず、現代に即した形で生き永らえていることを、青山さんの強靭な膝は見せてくれました。服装も環境も変わり果ててしまった現代で、遠い時間との自然なつながりはとても貴重なものだと思うし、「これから」は、どんな表現を見せてくれるのだろうかと、はじめて見た時から今日までずっと気になっています。やはり「ことのはじまり」は何でも「一目惚れ」なのかしら。

ブルー系の装置を照らすのは高見和義さん

2005-11-17 | グランドホテル ザ ミュージカル
>myさん 

”『ベガーズオペラ』の舞台美術も”にコメント有難うございました。私もなんとなく赤~金茶系、もしくは映画の影響でかモノトーン調を勝手に想像していたので、びっくりしました。ブロードウェイ版の写真ってネット上で見かけないのですが、シアトルで上演されたものを見ると色調は赤/黒っぽいですよね。いい意味で予想を裏切られて嬉しいです。シアトルのThe 5th Avenue TheaterのHPはこちらです。  http://www.5thavenuetheatre.org/archive/a_season_gh.shtml

 さて舞台装置・・・これは二階席から見てみたいですね~。イープラスの「ブロック選択する」表示の誘惑にのってしまいそうです。HPで見た島川さんの作品に『それでも船は行く』の装置があるのですが、ここで使われている水色がとても綺麗なので、ますます期待は募ります。また、カーブした階段の華やかさがなんだか水底のタイタニック号のよう。(それじゃ『シャイニング』みたい?)

 このブルー系の装置にどんな照明が・・・?と思い、またネットめぐりをすると、『グランドホテル』照明の高見和義さんは一昨年度の日本照明家協会賞の大賞を受賞された方で、たくさんの作品を手掛けておられます。そして初めて気がついたのですが、3月9日付けの”「一般」って・・・”で書いたアダム・クーパーの『危険な関係』の日本側スタッフも務めておられました。この時はマジックミラーを多用した装置だったのですが、照明も反射を利用していて、少しひずんだ鏡面からの反射光がまるで晩秋のヨーロッパの薄い日差しが差し込んできたような感じで、とても素敵でした。自分の見たダンス公演のスタッフの方をミュージカルで見るのって楽しみです。う~ん、上の階からも見たくなってきた。

『ベガーズオペラ』の舞台装置も

2005-11-16 | グランドホテル ザ ミュージカル
・・・島川とおるさんです。東宝のHPで50分の1の完成図がアップされていました。「も」というのは、『うたっておどろんぱ!』で青山さんと共演している照井裕隆さんが『ベガーズ』に出演されるからなんですが、素敵なセットですね~、『グランドホテル』でもこういうの見せてくれないのでしょうか。衣装も舞台用は露出していない、ということですので、開けてみてのお楽しみなのかもしれません。島川さんの作品は、グレン・ウォルフォードさんとのコラボレーション『キャバレー』(04)をはじめとして、『ラヴ』(96)、『ピーターパン』(01)など、日本の舞台に不足気味の「奥行き」を感じさせてくれるセットなので、嬉しいです♪ 

・・・とぼやいていたら、菅野こうめいさんのブログで本格的なリハーサル開始の報とともに、舞台装置の模型の写真が! 情報に飢える観客に恵みの雨です。ブルー系とは意表をつかれました。これだから舞台って面白いんですよね。

Gホテル/舞台美術の島川とおるさんHP

2005-11-15 | グランドホテル ザ ミュージカル
今回の『グランドホテル』で舞台美術を担当される島川とおるさんのHPを覗かせていただいたのですが、今まで手掛けられた舞台の写真がすごく素敵です~。「ハリボテ」感のない、重厚でいて大胆な美しさに思わず目を奪われてしまいました。皆さんもぜひぜひご覧ください。

    島川とおるさん HP

 パフォーミングアートと呼ばれるものの中で、歌舞伎以外の「日本もの」と「来日もの」の私の観劇比率は1:50ぐらい、その理由の一つに日本のものは舞台美術が薄っぺら(す、すみません)だというのがあったのですが、この偏見を心から反省しております。やっぱり舞台はまめに先入観なく見ないといけませんね・・・。また、青山さんの出演作としては、『ボーイ フロム オズ』『テネシーワルツ』とも、舞台にバンドが上がり、空間が制限されて舞台美術を楽しむ要素はやや抑えられていたので、今回の『グランドホテル』には、思わず想像もたくましくなります。

 そしてもう一つ嬉しいのが、石井潤さん振付のバレエ作品『梵鐘の聲』も担当しておられるのですが、シンプルで高さがあってダンスがいかにも映えそうなことです♪ よく絵画はライン・色彩を「足して」いくもの、彫刻は「削り落として」いくもの、ということを耳にしますが、一ファンとしてダンス公演はどうも後者の「削り落とし」によって完成する「彫刻型」のような気が・・・。表現するのが立体だから当たり前といえば当たり前なのですが、前後左右に動きが大きい分、ダンサーの体にかかる高さに色々あると動きが映えない気がするんです。"West Side Story"の'Somewhere'がただ「光」のみを残していたのはとても印象的でした。

 私はまだミュージカルの舞台美術というものが全くわかっていないだけに、この作品で開眼するのではないかと密かに期待しています。

薔薇より膝

2005-11-12 | グランドホテル ザ ミュージカル
11月8日付けの記事で紹介させていただいた、『グランドホテル』翻訳・演出補の菅野こうめいさんのブログによると、演出のグレン・ウォルフォードさんが今日来日され、本格的なリハーサルが開始、ということです。・・・ということはWSSと同じく約8週間のリハーサルですね。お正月まで休みなしのようで関係者の方は健康管理がたいへんでしょうが、すでにワクワクしている私のような観客も多いと思いますので、どうかよろしくお願いいたします~。

 さて、KidsWorldの「おどろんぱ」の年間予定表ではどう考えても再放送なんだけど、Web番組表では、「こころの声を聞かせてよ」なんてタイトルが・・・ひょ~っとして新作?とかすかな望みを託しましたが、やはり一昨年度放送分の再放送でした。でも、この「ことばでアクション」の回は、この間から何度か話題にしている青山さんの「膝」の動きがよくわかるので、今日はじめてご覧になる方がおられると思うと嬉しくもあります。

 このブログを書き始めるときに、「青山さんのプリエ」の素晴らしさは絶対伝えたい、と思っていたのですが、それを支えているのがこの膝です。バレエダンサーが酷使する部分で、いためて手術をうける人も多いのですが、アジア人の特性もあってか、青山さんの膝は特に強靭で安定しているように思います。この回はその膝の動きが自然光でよくわかり、「オドロンファイター'03」の2コーラス目、♪あいあるかぎりおどれますです/キミでもボクでもおどれますです♪ の部分なんてミケランジェロのデッサン画のように力強くて惚れ惚れしてしまいます。(ちなみに今トップにある画像の、写真の周りを囲んでいるのは全てミケランジェロのデッサン画です~)

 そしてメインの「ことばでアクション」、こういうのを青山さんに踊らせたら文句のつけようがないという曲ですよね。♪ダッシュダッシュダッシュ♪で横から撮った映像で、腰を低くおとしたまま左右の脚を前後入れ替える動きは、重心の移動のなめらかさといい、フォームの綺麗さといい、決まりすぎで反則のようにさえ見えます。この曲もスローで見ることお勧め、薔薇よりも美しい人体の動きが堪能できること請け合いです。やっぱりダンサーの衣装はシンプルがいいな~。『グランドホテル』で膝から下が見えるような衣装は望めそうにないのですが、こんなに綺麗なものを隠すなんて・・・。「秘すれば花」という言葉はあるけれど、ちょっともったいないような。う~ん、それもミュージカルの贅沢さの一つなのかもしれませんね。 

『グランドホテル』原作者、V.バウムはバレエファン?

2005-11-11 | グランドホテル ザ ミュージカル
ナチス・ドイツによって禁書扱いをうけた、『グランドホテル』の原作者、ヴィッキー・バウムは1888年、ウィーンの裕福なユダヤ人家庭に生まれています。この作品がナチスの政権掌握の前に発表され、映画のリメークは大戦終結の45年、というのは単なる偶然ではない、という気がしますね。

 1914年のジャーナリストとの最初の結婚は、とても短いものであったけれど、文学界そしてウィーンのカルチャーシーンと彼女を結びつけるものではあったようです。離婚後ドイツに単身移住し、8才から始めて、6年間コンセルヴァトリーで学んだハープでオーケストラのメンバーとして過ごし、ダルムシュタットの高校で音楽教師をしていた時期もあったようです。第一次世界大戦中は看護婦として短期間働き、1916年、子供時代からの友人であった指揮者Richard Lertと再婚、経済的には苦しく、職業音楽家の道を彼女はあきらめ、夫婦で街から街へと移り住むようになります。
 

 そして1926年、ベルリンに。出版社Ullstein-velgで編集者として勤務、小説を書き始めたのもこの頃のようで、取材のために6週間メイドとしてホテルで働き、バウムの出世作であり、『グランドホテル』の原作となった"Menschen im Hotel"を1928年、発表します。当時の大都会ベルリンを写し取ったこの小説はセンセーションを呼び、特に30年代前半のニューヨークで人気を集めたそうです。そしてMGMのアーヴィング・サルバーグの眼にとまり・・・あとは誰もが知っている大成功をおさめるのですが、映画制作のための7か月にわたるアメリカ滞在は、彼女にとって当時のドイツで起こっていることを俯瞰的に捉える機会となり、自らの意思でアメリカに移住します。映画の最後のセリフ、"Grand Hotel. Always the same. People come, people go. Nothing ever happens."は今の私たちが聞くと、ナチスの拡大によって変わり果てていくドイツの未来に抵抗するようにも聞こえ、この作品の歴史との分かちがたいつながりを感じてしまいます。
 

 バウムはその後も、20世紀のヨーロッパとアメリカの社会的・経済的変化のなかで、強く、自立した女性を描いて、英語で2,3年おきに作品を発表していますが、44年にはナチス・ドイツを舞台にした"Hotel Berlin '43"を出版しています。これ、どんな作品なんでしょう、読んでみたいなあ。ベルリンの壁が崩壊し、今、戦前と同じ場所で美しいHotel Adlonが、世界の花のように人々の憧れを集めていると知ったら、どんなに喜ばれることでしょう。
 

 60年8月29日、ハリウッドで白血病で亡くなった彼女の作品には、ウィーンの美貌のダンサーのアメリカでのキャリアについてかたった"Theme for ballet"('58)なんていうのもあり、ダンスファンとしてはかなり興味をひかれます~。『グランドホテル』でもバレリーナが重要な役だし、バウムもバレエファンだったのかしら、いや絶対そうよ、とグッと身近に(単純)感じてしまいます。21世紀のロンドンで、バレエダンサー、アダム・クーパー振付の自分の作品が上演されたこと、喜んでおられるかもしれないですね。日本版でも是非、青山さんの端正なモダンバレエで、作者好みの作品にしていただきたいです

「誰も寝てはならぬ」を歌った女性は

2005-11-07 | ダンスファンの独り言
少し前の話になりますが、偶然見ていたテレビ番組で、本田美奈子さんが日本ミュージカル界のトップスターとしてゲスト出演していました。華奢な体に似合わない声量の持ち主、ということはミュージカルに疎い私でも知っていて、クラシックの唱法も学んでいるという話に、やっぱりそうなのか、とうなづきながらなんとなく聞いていました。・・・が、そこで彼女が、オペラ『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」を披露したのには本当にびっくりしました。以前、CMで錦織健さんが歌っていたこの男声のアリアを、彼女はあの華奢な細い体を絞るようにして歌ったのです。

 私は熱心なオペラ愛好者というわけではないのですが、漏れ聞く話では、主役級の歌手がひとつの作品を歌い終えると体重は数キロ減り、胸郭が7~8センチほど広がるといいます。また、自分の声の振動で奥歯が抜けてしまうので、スカラ座には専属の歯科医がいる、とも聞きます。オペラ歌手達の堂々たる体格だからこそ持ちこたえる、文字通り身を削るような苛酷さが、あの舞台の迫力につながり、華やかさを支えているように思います。

 そうした事がはたして声楽の世界でどのようにうけとめられているのか分からないのですが、オペラにアジア人が取り組む際に体格の違いはきまって話題になりますし、まして本田美奈子さんの体格で男声アリアを歌うことは、何か私にはとても危険なことのように思われました。その直後に、彼女が極度の疲労に起因するともいわれている病気によって入院した事を知り、なんともいえない気持ちになったことを覚えています。

 そして昨日、復帰を望みながら、また望まれながら、若くして亡くなられたというニュースに接し、ますますあの時の、命を削るような歌声が胸に突き刺さるように思い出されます。本田さんの舞台に私は接する事がなかったけれど、色々な雑誌に残されている感想には、彼女の命そのものに触れたような、感動と賞賛があふれていますね。トスカのアリアのように「歌に生きた」彼女の、自然な女声の曲を、これから探して私も聴いてみようと思っています。

ダンス/バレエってどんなもの

2005-11-06 | グランドホテル ザ ミュージカル
美女の代名詞のようなグレタ・ガルボ、映画『グランドホテル』に関しては「美しいけれどバレリーナに見えない」という評が一般的のようです。確かに、「いかにも」な白いチュチュ姿なのは私も残念。もう少し彼女に似合う衣装があるだろうに・・・「落ち目の」という設定にしても外しすぎのような気がします。

 今なら長身のバレリーナもかなりいますし、なんとなくシルヴィ・ギエムと重なる表情もあったりして、少しいかり肩なのを除くと、イメージ的にかけ離れているとまではいかないのですが、1920-30年代のバレリーナは、今と比較すれば「アンコ型」というしかない、小柄で女性らしい優美さのある体型が主流で、衣装もそれに合わせて可愛らしいものが多かったようです。当時のスタッフにすればガルボに似合うかどうかより「バレリーナはこうでないと」という感じだったかもしれませんね。興味のある方は前にも紹介した"gettyimages"HPで、アンナ・パブロワ(Anna Pavlova)、当時の"バレエ・リュス"の名花タマラ・カルサーヴィナ(Tamara Karsavina)などの写真をご覧ください。前田美波里さんなら、今の私たちが想像するバレエダンサーにイメージが近くてすんなり見られそうですね。史実にのっとってレトロなアンコ体型だとちょっと戸惑うところです。

 そう思うとバレエ/ダンスは20世紀の間にものすごくシャープになったんだなと改めて感じます。そして今世紀は、青山さんたちがいま「三忍者」で見せているような男性舞踊手のダイナミックな動きにますます関心があつまるような気がしています。アクロバティックな動きは正統的じゃないという見方もあるのでしょうが、原始的な舞踊がもっていたパワーを感じさせてくれるものには、(私のような原始的な人間は特に)否応なしに心が惹かれますし、もともとは戦いや狩猟にちなんだものであったというダンスが「男性の手に返った」ように思えるぐらいです。また、これはシリーズ全部に共通することですが、ひとつひとつのポーズの形の良さが、伝統的な日本舞踊の延長線上に交差する勇壮な美を見せてくれるのも楽しいです。

 青山さんは「はいダンスですよ」と包んで差し出すのではなく、「ひらめき」にのせてダンスと意識させずに大技を見せる人ですが、今回の『なんでもダンス!』の「ゴム」を使った動きなんかもスローで見てみると、ええっ、こんなに飛んでるの?ときっと皆さん驚かれるだろうと思います。その後の脚を上げてのターンも、かなり高く上げたまま、きっちりアンドゥオールで「ダンス」していて、参りました。それに、ついに今回は「布」を使って自分をリフトし、リフトされる青山さんまで眼にする事ができて、タイトルどおりとはいえ、「この手があったのか~」と自分の固い頭も少し柔軟になったような気がします。

 今日本にあるバレエ/ダンスはこういうもの、という一般の見方は、あまり『グランドホテル』の「バレエ」と違わないかもしれません。確かに間違ってはいないのかもしれないけれど、クラシックですら白いチュチュ(や薔薇)がすべてではありませんし、まして現代では鋭利な刃物のような体躯がひとつの理想とされています。高い身体能力と芸術性をあわせもつ青山さんのダンスを見て「えっ、ダンスってこういうものだったの?」と思う方はきっと多いだろうと思います。ハリウッドの衣装さんだって「三忍者」を見れば、「いかにも」なダンスシューズでなく、地下足袋がかっこいいのね、と思うに違いありません。意識を変えてくれるアーティストってやはり魅力的ですね。

グランドホテルの1945年

2005-11-03 | グランドホテル ザ ミュージカル
前、『ボーイ フロム オズ』のヒュー・ジャックマンの写真をご紹介した"gettyimages"のページで、45年終戦時のAdlon Hotel(=「グランドホテル」)の写真がありました。10ページめ(右端の'Go to page'のボックスに10を入力)をスクロールしてページの下のほうをご覧ください。画像をクリックすると拡大されます。

 * 11月16日付記: 現在は全10ページの10ページ目に表示されています。刻々と更新されますので、見当たらない場合はHotel AdlonをSearch欄に入力してみてください。通常は最後のページに表示されています。


 全10ページの殆どは、「ベルリンの壁」崩壊後に建て直された現在の"Adlon"を会場とした華やかな催しのゲストの写真ですが(宿泊客としてのマイケル・ジャクソンの姿も)、内装がちらちらと見え、あのフロアの模様を真上から撮った写真もあります。第一次・第二次世界大戦、そして冷戦中には閉鎖、と幾度もその歴史を踏みにじられても、再び一つになったドイツは、ベルリンの花のようだった、あのホテルが忘れられなかったのでしょうね。

 このページは出版向けだけあって、素晴らしい写真が一杯です。画像を保存するとバッチリとロゴのウォーターマークが入りますが、それも仕方がないですね。皆さんもお好きな名前を打ち込んで日本ではあまり眼にすることのない写真を見られてはいかがでしょうか~♪ ちなみにJoan Crawfordで検索すると彼女が「グランドホテル」の回転ドアに立つ写真もありますし、ここ数日のコメント欄で名前の出たニジンスキー(Vaslav Nijinsky)の現役および晩年の写真もあります。