続・エヌ氏の私設法学部社会学科

無理、矛盾、不条理、不公平、牽強付会、我田引水、頽廃、犯罪、戦争。
世間とは斯くも住み難き処なりや?

巻5の5 愚かなる人を旅の道連れにする事

2016-12-10 | 理屈物語:苗村丈伯
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 昔、愚かな者と賢い者とが、ともに関東へ下ろうとして旅の道連れとなったが、賢い者が言うには、
「旅は、互いに何事も遠慮せず、物事を公平に決めるのがよかろう」
と言えば、愚かな者も、
「そのとおりだ」
と同心して、道を進んでいたが、2人ともくたびれてしまったので、賢い者が、
「あまりにくたびれたから、馬を借りてたがいに乗ろう。これより先の宿泊地までは六里ほどなので、半分ずつ駄賃を出し、まず私が三里、馬に乗って、君が三里、徒歩(かち)にて歩いてくれ。それから君が三里、徒歩にて歩いて、私が三里、馬に乗ろう。こうすれば、互いに不公平なく満足するだろう」
と言えば、愚かな者、
「そのとおりだ」
と同心したので、馬を借りて三里ほど進んだが、賢い者が馬より下りず、鞭を打ち叩いて乗り続けようとしたので、愚かな者が言うには、
「六里の間を、互いに半分づつ駄賃を出したのだから、三里分は私が乗るべきだ。それなのに、どうして乗り続けようとするのだ。早く馬から下りたまえ」
と言えば、賢き者が言うことは、
「どうして馬から下りなければならないのだ。初めから言っていたとおり、私が三里、馬に乗って、君が三里、徒歩で行っただろう。それから君が三里、徒歩で歩いて、私が三里、馬に乗る、と言ったはずだ。だったら、六里全部を、私が乗るべき約束じゃないか。それなのに、なぜ下りねばならんのだ」
といえば、愚かな者はどうしようもなく、一人徒歩で歩いていた。
 さて、それからも連れ立って進んでいたが、愚かな者は道すがら、よくも自分を欺いたなと、散々腹を立て続けていたので、賢い者が言うには、
「それならば、今からは、互いに無理を言わず、正しい道連れになろう。道中で、君に銭があるときは、一緒に使おうではないか。私に銭がないときは、君の銭を使おう。また、行き先に山道があれば、上る時は私の腰を押してくれ。下るときは君の肩を押してやろう」
と言えば、かの愚かな者はこれを聞いて、
「これにてこそ、互いに不公平がなく、満足だ」
と、大いに喜んだ。


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