平和/憲法研究会

平和と憲法に関わる問題についての討論の広場

渡辺治・福祉国家構想研究会編『日米安保と戦争法に代わる選択肢―憲法を実現する平和の構想』紹介と検討

2017年03月26日 | 研究会報告
渡辺治・福祉国家構想研究会(編)『シリーズ新福祉国家構想第5巻・日米安保と戦争法に代わる選択肢―憲法を実現する平和の構想』(大月書店、2016年)の紹介と検討

稲正樹


序章 安倍政権による戦争法強行と対抗構想(渡辺治)
     
1 戦争法、参院選が示した日本の進路
戦争法が示した、戦後日本の二つの進路
 戦争法は、戦後70年にわたる安保体制と日米軍事同盟の帰結、到達点を示す画期でもあった。
日本の平和と安全をめぐる三つの選択肢
 第一の選択肢は、憲法の制約を打破して自衛隊がより積極的に米軍を支援することで日米同盟を強化し日本の安全を確保しようという選択肢である。安倍政権が示す選択肢である。
第二の選択肢は、戦争法廃止にとどまらずその根源となる安保条約の廃棄を求めるもの。今後の日本の平和と安全は、安保条約をなくし憲法のめざす「武力によらない平和」を実現することで保障するという選択肢である。
第三の選択肢は、むしろ安保と自衛隊を維持しつつ自衛隊に課してきた制約を維持することで、平和を保持することが望ましいというもの。
参院選は何を示したか―戦争する国づくりへの懸念と中国、北朝鮮への不安
 参院選の結果は、国民の平和に対する気持ちの揺れを象徴しているようにみえる。本書の課題は、戦争法に反対し海外で戦争する国になることに反対するとともに、ではそれに代わる平和保障のあり方とは、という問いに答えること。本書の課題は、こうした問いを正面から検討することである。
本書で一番考えたいこと―本書の概要

2 戦後世界と戦争―冷戦期の戦争と冷戦後の戦争
冷戦期の戦争とはどんな戦争か
 冷戦期の戦争は、アメリカ帝国主義とソ連覇権主義が、双方の勢力圏の維持や拡大をめざして、自己の「勢力圏」内で勃発した民族解放運動、内戦、動揺、勢力圏からの離脱を食い止めるため、戦争と武力行使に踏み切ったものであった。しかもそのほとんどで、軍事同盟条約が介入や侵略の口実となった。
冷戦後の戦争はなぜ頻発したのか?
 アメリカ帝国主義の行動は、三つのねらいをもっていた。
一つは、拡大した自由市場秩序の維持と陶冶である。
二つ目のねらいは、グローバル企業総体の擁護者としてふるまうだけでなく、自国のグローバル企業の権益の擁護者となることである。
三つ目のねらいは、グローバル経済によって影響を受ける自国国民経済の利益を擁護するという課題である。
 冷戦期の戦争の主なものは、こうしたアメリカ帝国主義の三つのねらいのうち前二者の利益の実現をめざして遂行されたものであった。
冷戦後の戦争後の三つの時期区分
 第一期:自由市場秩序形成の戦争
第二期:「反動」に対する制裁戦争
第三期:アメリカの疲弊、テロの拡散
中国は脅威か?―中国経済の発展と大国化
覇権主義国家化
中国覇権主義の二つの側面
 第一の側面は、アメリカとともに、自由市場秩序の維持と安定を死活的利益としていること。
第二の側面は、共産党の大国主義戦略にもとづく覇権主義である。
二面的な米中関係
中国の覇権主義大国化は明らかであるが、それは、「中国脅威」論のいうような、中国のやみくもな侵略や、米中の戦争の危機を生み出すものではない。中国の覇権主義的行動を規制していくには、アメリカや安倍政権が行っているような軍事的対峙では成功しない。
現代の戦争の危機とグローバル経済
 日本がなすべきこと。

3 安保体制は日本の平和と安全を確保したのか?
冷戦時代、安保と米軍基地は日本の安全を守ったか?
 憲法の存在によって、アメリカと日本政府の意図にもかかわらず、安保条約が「本来の」軍事同盟条約として機能することを制約されたことが、日本が冷戦時に戦争に巻き込まれずにすんだ理由であった。
冷戦時の日本はなぜ戦争に加担しなかったのか?
日米同盟強化は九条による政府解釈が生きていたため、依然大きな制約を余儀なくされた。この制約を取り払って米軍と一体化した自衛隊の海外での行動の解禁をはかったのが、戦争法であった。

4 安倍政権の安保構想で日本の平和は確保できるか?
戦争法は日本の平和を確保するのか?
 日米安保によらないアジアの平和と日本の安全保障の構想の実現にとりくむこと。

5 安保と日米同盟に代わる選択肢は?
戦争法に代わる二つの道
安保廃棄派と安保維持を前提とする「リベラル」派の二つの構想。
安保のない日本こそ選択肢
安保のない日本という選択肢の柱 
pp.32-33で六点を指摘している。第7章で具体的に論述されている。
「安保のない日本」をめざす担い手の形成と過渡的政権
 安保のない日本への道が国民的に議論されねばならない。

6 憲法と日本の平和
日本国憲法という存在
戦争法から明文改憲へ
戦争法反対側からの改憲論は日本の平和を実現するか?
 たとえ戦争法が発動されたとしても、九条は死んでいない。憲法は死んでいない。新九条論は、九条は死んだとして九条改憲の合唱に加わろうとしている。新九条論の最大の欠陥は、憲法の力に対する不信である。
憲法の理念と平和構想
 憲法の理念は、今後のアジアと日本の平和を形成するうえで、なお堅持し実現すべき方向を打ち出している。だからこそ、私たちは、憲法の改変に反対するだけでなく、その実現をめざすべきだと考える。


 本書は、断固として護憲派の立場に立っている。
憲法の力に対する信頼を元にして、本書の全体が断固たる護憲派の立場を鮮明に打ち出していることに共感した。本書で展開されている議論を一層突き詰めて強固なものにして、「武力によらない平和」の構想をさらに豊かに、さらに説得力をもつものに練り上げて、困難な状況のなかにおいても、国民的賛同を獲得していくことを願っている。気になったことの一つに、憲法に基づく平和保障構想を、「武力によらない平和」という言葉で語っていることである。代わりうる他の用語がありうるか。
 
第Ⅰ部 攻防の歴史と現在

第1章 安保体制と改憲をめぐる攻防の歴史―戦争法に至る道(和田進)

1 課題と時期区分
 
2 第一期:占領期(1945~52年)
(1) 憲法制定
象徴天皇制と非武装
九条の受容と当初の政府解釈
(2) 冷戦の開始と占領政策の転換
沖縄を太平洋の「要石」へ

3 第二期:日米安保条約締結と自衛隊の成立(1952~60年)
(1)日米安保条約の締結
講話条約に込められたねらい
安保条約合憲論
米軍基地闘争の激化
沖縄の軍事要塞化
(2) 自衛隊の成立と護憲運動の高揚、九条解釈の転換
(3) 安保条約改定
事前協議と密約
日米地位協定
砂川事件判決
安保反対闘争の高揚

4 第三期:日米安保の展開と平和運動との対抗(1960~90年)
(1)60年代平和運動の展開と安保・自衛隊体制への制約
憲法裁判と九条の定着
ベトナム戦争と日本
沖縄返還闘争
集団的自衛権の行使を違憲とする解釈
憲法九条にそった政策、原則
防衛計画の大綱「基盤的防衛力構想」
(2)70年代半ば以降のアメリカの対日軍事要求の変化
米軍基地経費の負担と日本の先端技術の導入
日米防衛協力の指針(ガイドライン)の締結

5 第四期:冷戦の終焉と日米安保のグローバル化(1990~2003年)
(1) 冷戦の終焉と安保再定義
湾岸戦争と自衛隊の海外派遣問題
安保再定義
97年ガイドラインと周辺事態法
(2) 同時多発テロと自衛隊の参戦
周辺事態法制へのアメリカの不満
同時多発テロと日本の参戦

6 第五期:政府解釈の限界突破と日米同盟強化の停滞(2004~12年)
(1) 解釈改憲の限界と明文改憲の挫折
九条解釈の限界性のクローズアップ
明文改憲の動きと「九条の会」
(2) 民主党政権の登場と2010年防衛計画の大綱
鳩山首相の挫折
「基盤的防衛力」から「動的防衛力」へ

7 第六期:日米同盟の攻守同盟化と改憲(2012年~)
(1)2015年ガイドライン
アメリカのアジア重視の国防戦略
地球規模での15年ガイドライン締結
共同作戦計画・共同司令部
(2)軍事大国化の体制づくりに向かう安倍政権
(3)「オール沖縄」の登場

本章で明らかにしたいこと:第一は、戦後一貫して続いてきた日米安保体制と自衛隊は、アメリカのアジア支配、世界戦略にとっては死活的重要性をもっていたし、現在ももっているが、それは、日本とアジアの平和には貢献してこなかったこと。第二は、戦後日本の平和がかろうじて守られたのは、安保体制と自衛隊のおかげではなく、むしろ平和運動と国民の警戒心によって日米安保体制が十全な発動を制限された結果であるということ。第三は、沖縄は、日米軍事同盟の歴史において一貫してその軍事的要でありつづけたという点。→この三点の課題について、必ずしも明確に叙述されていないという印象をもった。

第2章 戦争法がもたらす軍事大国化の新段階(小沢隆一)

1 この章のねらい
本章のねらいは、日本の軍事大国化の「現段階」の特徴を明らかにすることである。
日米安保体制の新段階と戦争法
 戦争法に盛り込まれた事項の全体について、日米軍事同盟体制にとっての意味という視角から検討することが必要である。
九条改憲の回避の意味
戦争法は平和をもたらすか

2 戦争法制定までの動き
(1) 第二次安倍政権成立から閣議決定まで
(2) 2014年7月1日閣議決定
(3) 15年ガイドライン
「法からの逃避」という性格。「民主的統制の回避」。

3 戦争法の概要と問題点
(1) 集団的自衛権の行使容認
(2) 「後方地域支援」から「後方支援」へ―自衛隊による支援の一挙拡大
(3) 外国軍の武器等防護のための武器使用
(4) PKO法の適用対象、自衛隊の活動・業務の大幅拡大と武器使用の強化
(5) 戦争法の法的問題点
(6) 戦争法の実態的な問題点

4 「安全保障環境の変化」論は成り立つか
(1) 戦争法案違憲論の広がり
(2) 南シナ海をめぐって
(3) 「日米同盟強化=抑止力の向上=平和の実現」という三位一体
(4) 北朝鮮の脅威をめぐって

5 むすびにかえて

本章で明快にまとめられている、戦争法に至るまでの諸動向、戦争法の概要と問題点、「安全保障環境の変化」論の不成立の所以の指摘は、大変勉強になった。「安全保障環境の変化」論が声高に唱えられるなかで、従来護憲派のなかで前提とされてきた、「アジアの中の日本」論(北東アジアにおける和解と協調の推進、平和保障機構の組織化等)は、国民の間で簡単に受容されがたいところに追い込まれている。そのような状況の中で、今後、「アジアと日本の平和と安全」というテーマにどのようにして取り組んでいったらよいのかを、考えさせられた。もう一つは、15年ガイドラインの「法からの逃避」と「民主的統制の回避」という本質的な問題について、国民的議論を喚起していくことの必要性を感じた。

第3章 安倍政権はなぜ明文改憲に固執するのか(三宅裕一郎)

1 1990年代以降の明文改憲のねらいと特徴
(1)1990年代の解釈改憲の時代
(2)2004年以降の明文改憲論の高揚

2 2005年自民党「新憲法草案」を頂点とする明文改憲動向とその後の衰退
(1) 党内のジグザグをへた「新憲法草案」の発表
(2) 集団的自衛権容認をめざす第一次安保法制懇の始動
(3) 自民党の政権からの転落と明文改憲論の衰退

3 「日本国憲法改正草案」の国家構想とその批判的検討
(1) 政治的文脈における「日本国憲法改正草案」の位相
(2) 2012年自民党改憲案をつらぬく立憲主義のベクトルの主客転倒
(3) 2012年自民党改憲案の批判的検討
「国防軍」の創設による憲法九条の抜本的改定 
「災害便乗型」緊急事態条項の創設
憲法改正要件の緩和化

4 現在の安倍政権の明文改憲戦略のねらい
(1) 第二次安倍政権以降の解釈改憲と明文改憲の試み
(2) 2014年7月1日の閣議決定から2015年の安保法制
(3) 安保法制後の明文改憲論の現段階―緊急事態条項の創設が意味すること


本章の議論では触れられていないが、自民党草案のめざす国家構想を、軍事大国化の推進と並んで新自由主義改革の進展に基づいた経済原理主義国家の創設と考えてよいかどうか。
現憲法において、人権の総則である12条、13条以外の人権各則において「公共の福祉」による制限が課されているのは、22条1項の職業選択の自由と29条2項の財産権の規定。これらの経済的自由権規定における「公共の福祉」は、12条、13条の「公共の福祉」とは違って、社会権の実現ないし経済的・社会的弱者の保護を意味する。ところが2012年自民党改憲草案では、22条1項を「何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と言い切りの形に改変して、現行憲法の「公共の福祉に反しない限り」という条件を外しており、「公益及び公の秩序」を害しない限りという条件も課されていない。用意周到に、前文においては新自由主義を国是とする宣言を行い、経済的領域における基本権についてのみ自由を拡大している。樋口陽一の指摘。

補論 日本の平和のためには憲法改正が必要なのか?―新九条論批判(渡辺治)

1 戦争法廃止へ向けての共同と憲法問題―新九条論派の台頭
 
2 新九条論の主張
憲法は死んだ、九条と現実との乖離
専守防衛の自衛隊、個別的自衛権のみ
集団安全保障
米軍基地
新九条改憲の担い手

3 新九条論の致命的欠陥―改憲論の露払い
前提の誤り
 新九条論の最も大きな誤りは、歴代政権、とりわけ安倍政権の解釈改憲により、憲法九条は死んだととらえていること。
立憲主義の形式的貧弱な理解
 彼らのいう立憲主義とは、憲法と現実を一致させろ、という意義にとどまる。
違憲な現実を変えて、現実を憲法に近づけること、これが「立憲主義を取り戻す」ということの意味である。
「憲法にもとづく政治」とは、たとえ国民を代表する議会であっても、「憲法」に違反する立法を行うことはできないということを意味する。
個別的自衛権を認める新九条論は、憲法九条の根本的否定
 新九条の大きな危険性は、憲法九条の根幹(=第二項の戦力不保持の規定)を改変することにほかならない点である。
 第二に、「戦力」はもてないという制約と異なり、「個別的自衛権」行使のための軍隊はもてるという憲法の規定は、軍隊や軍事行動に対する大きな制約とはならないどころか逆に軍隊の存在や軍事行動を前提にした諸制度――軍法、軍法会議、軍事秘密を守る秘密保護法など――を解禁することになる。
 第三に、個別的自衛権行使のためであっても軍隊をもてるという憲法の規定は、日本の政治・国家のあり方を根本的に改変する。
 戦後日本の政治、社会の特異な明るさ。社会の自由な空気。九条改正による軍隊保持の明記は、こうした非軍事の文化の変質・破壊をもたらすことは必定である。
新九条論はヤドカリの殻
戦争法、辺野古新基地建設、アメリカの戦争への加担を阻止しえない
 新九条論はその提唱者たちの善意の目的を達成することはできない。
 現行憲法九条は、アジアと日本の平和を実現するうえで今後も大きな武器となる。

新九条論は憲法を生かしてきた憲法擁護の人々の力を不当に過小評価している。個別的自衛権を認める改憲は、私たちが70年掛けて培ってきた非軍事の文化の変質・破壊をもたらすという指摘は、よくよく考えておかなければならない点である。憲法をもとにして作られてきた憲法文化の貴重な価値をさらに継承・発展させていくべきである。さらに、新九条論者に発表の場所を提供している、東京新聞・朝日新聞・世界などの現在の位置の確認が必要である。世論の動向をミス・リードする風見鶏?

第Ⅱ部 安保・平和構想をめぐる論点

第4章 安保のない日本をめざす運動と構想の経験(渡辺治)

1 平和運動と対抗構想の経験から学ぶ
平和運動と対抗構想の経験
 本章で注目したのは、運動が保守政権に対抗する主体すなわち統一と共同をつくれたときに安保に代わる選択肢の形成も具体化し、またそれを実現する政府の構想も具体化したという点である。本章では、主体、担い手の形成―対抗構想の具体化―政府構想という連関に注目して歴史を振り返ってみたい。
対抗構想の展開の時期区分と指標

2 1950年代平和運動と対抗構想
(1)運動と対抗構想の担い手の特質
戦争への反省
平和問題懇談会と知識人
戦後平和運動の担い手・日本型社会民主主義の形成
改憲を阻む力
(2)平和問題懇談会を中心とした対抗構想の特質
冷戦対立のなかでの小国日本の役割=「積極的中立主義」
日本国憲法への評価
中立と経済自立のリンク
(3)第一期の限界と課題
 革新政党の分裂状況下で、統一戦線を具体化する条件はなかった。そのため、この時期の運動は、安保と軍備のない日本を実現する政府構想を具体化することができなかった。

3 1960年代安保闘争期と対抗構想
第二期は、統一―対抗構想―政権構想という連関が成立したという点で、平和運動と対抗構想の歴史のなかでもとりわけ注目すべき時期である。
(1) 担い手の移動―総評+社会党+共産党という隊列
革新政党の比重の増大
安保共闘―対抗構想実現の政治力
(2) 中立構想の共通化・具体化
共産党の中立論支持への転換
社会党の中立論の深化
中立構想の具体化
(3) 連合政府構想の登場
社会党の「護憲・民主・中立の政府」
安保反対の民主連合政府
(4) 第二期の限界と課題
 政府構想は共産党の選挙管理内閣構想を除けばいずれも、安保闘争が終演してから打ち出されたものばかりであった。これが安保闘争高揚を政治転換の方向に発展させるうえでの立ち後れをまねいた。
 また、この時点での政府構想はいずれも抽象的であり、社会党の政権構想では共産党が排除されていた。
 こうした政府構想が具体化・前進するには共闘の前進が不可欠だったが、それは、安保条約の批准強行後中断したまま、その後今回の戦争法反対で実現するまで、55年にわたりできることはなかった。

4 1960~80年代―対抗構想の具体化、変容
(1) 自民党政治の転換と運動の担い手の変貌
自民党政治の変貌―平和運動と構想の影響
革新政党の運動強化、共同の条件と平和構想の具体化
(2) 平和構想の具体化と前進
安保闘争後の知識人の平和構想の前進
中立論の具体化、前進 
「安保のない日本」の経済
社会党の非武装中立構想の具体化と影響
社会党の平和構想の具体化
憲法を前面に
自衛隊廃止の条件と廃止過程
連合政権構想の貧弱
共産党の中立・自衛論の具体化
中立・自衛論の形成と確立
中立・自衛論の構造
連合政権構想の重視
沖縄返還の重視
(3) なぜ共闘はできなかったのか
(4) 1980年代の運動の変貌と対抗構想
現実主義の台頭と担い手の変貌
知識人の平和構想の具体化と限界

5 1990年代、冷戦終焉と経済グローバル化のもとでの大国化と対抗構想の変質
(1)冷戦終焉と自衛隊海外派兵の動きの台頭
冷戦終焉と世界の警察官アメリカ
自民党政権の政策転換―自衛隊派兵と改憲
(2)平和運動の担い手の大変貌
現実主義派、「リベラル」派の台頭
社会党の安保・自衛隊政策の転換、社会党の解体、社民党
民主党の台頭、ジグザグ
共産党の平和構想の転換、徹底
軍事大国化に反対する市民運動の台頭
新たな共同の試み
(3)「現実主義」の対抗構想とその変容 
平和基本法構想の輪郭
平和基本法構想に現れた革新の側からの「現実主義」論の特質
「現実主義」の系譜 
基本法論の機能
新たな現実主義=「リベラル」派の台頭
(4)冷戦後の新たな対抗構想の特質
 冷戦後には、安保廃棄派、自衛隊違憲論派の潮流のなかからも新たな対抗構想が生まれた。その特徴は、237ページにおいて四点指摘されている。

6 学ぶべき諸点と課題
 第一に、50年代初頭以来その担い手を変えつつ繰り広げられた運動こそが、日本の軍事化に歯止めをかけてきただけでなく安保と自衛隊に代わる対抗構想をうみ発展させてきた原動力であったことである。
 第二に、運動の主体の間での共同が成立しあるいは共同の追求が行われている時代に、対抗構想は具体化、発展をみたことである。
 第三に、戦後日本の平和構想では、とくに日本国憲法九条の理念がつねにその中心に位置づけられ、また九条の実現をめぐってさまざまな構想の分岐が現れたこと、総じて、憲法が、戦後日本の平和構想の原点でありかつ論点でありつづけたという点である。

これら、3点の結論からして、①運動の力に確信をもつこと、②運動の主体の間での共同の成立を実現する方法に関する議論を活発化していくことの必要性(これ以上の「リベラル」派の拡大を食い止め、安保廃棄派・自衛隊違憲論派の潮流を強く・大きくしていく道の探求)、③憲法を元にした対抗構想の成熟といっそうの発展が大切であると考えた。

第5章 憲法研究者の平和構想の展開と変貌(清水雅彦)

1 戦争法案反対のなかでの憲法研究者
(1) 憲法研究者が果たした役割
(2) 戦争法案反対論における憲法研究者の状況

2 平和構想を導いた憲法研究者の解釈
(1) 憲法制定の背景と平和主義の構造
(2) 憲法の平和主義の解釈
自衛権
戦争の放棄(九条一項)
戦力の不保持(九条二項)
平和的生存権(前文二段)
(3)憲法の平和主義の意義
戦争違法化の歴史のなかで
国連憲章との比較から
二つの平和主義
「総合的平和保障基本法試案」

3 憲法研究者の平和構想の内容と検討
(1)「総合的平和保障基本法試案」の提示―『平和憲法の創造的展開』
同書の概要
主な平和構想
(2)冷戦崩壊後の「国際貢献」論に対して―『恒久世界平和のために』
同書の概要
主な平和構想
(3)9.11後の対米追随を脱するために―『平和憲法の確保と新生』
同書の概要
主な平和構想
(4)『平和憲法の創造的展開』の意義―「総合的平和保障基本法試案」を中心に
憲法研究者による平和構想の具体的な提案
検討すべき課題
(5)検討すべきその他の憲法研究者の平和構想
自衛隊違憲合法論
平和基本法構想
水島朝穂編『立憲的ダイナミズム』
(6)憲法研究者の平和構想の評価と今後の課題
自衛隊と日米安保条約違憲論を憲法研究者は積極的に展開し、自民党の構想に対抗する日本国憲法に基づく平和構想を提起していくべきであろう。

清水論文のまとめを受けて、現在の憲法状況、政治状況において、総合的で具体的な平和保障のありかたの憲法政策学的研究を進めて行くことが一層必要であると考えた。これに関連して、水島朝穂編『立憲的ダイナミズム』をどのように受け止めていくのかは、重要問題。
君島東彦「安全保障の市民的視点―ミリタリー、市民、日本国憲法」(同書所収)の意味するもの。
憲法と自衛隊の矛盾の克服。絶対的平和主義と漸進的平和主義のダイナミックス。マーチン・キーデルによる平和主義概念の精緻な分析・整理。もっとも戦争肯定の立場として、軍国主義 (militarism)がある。次に、他国への武力介入を辞さない介入主義(curusading)がある。全体の真ん中に、防衛主義(defencism)がある。これは攻撃的でなく防御的な一定の軍備が平和をつくると考える立場である。次に、漸進的平和主義(pacificism)がある。これは、長期的な目標としての戦争の廃絶はあきらめないが、暫定的には防衛のための軍事力の保持と行使を容認する立場である。そして、戦争肯定の対極に、絶対平和主義(pacifism)がある。これは一切の軍事力の保持と行使を認めない立場である。
戦後日本の平和主義:絶対平和主義と漸進的平和主義の両方の要素を持っていた。憲法研究者、平和運動、革新政党の間では自衛隊違憲論が主流であり、絶対平和主義の傾向が強かったが、一般市民の間では、憲法9条も自衛隊も支持するという世論調査の結果が示すように、絶対平和主義と漸進的平和主義の両方の要素が未分離のまま存在していた。
憲法9条と自衛隊に関するこれまでの日本政府解釈は、憲法研究者、平和運動、革新政党=絶対平和主義との緊張関係の中で、自衛隊の存在と行動を憲法9条の武力行使禁止・戦力不保持の枠内にとどめなければならないという要請の中で模索された「努力」の結果である。それはキーデルの類型論によれば、防衛主義の要素を持ちつつも、主として漸進的平和主義の枠内にあったと思われる。日本の安全保障政策を主として漸進的平和主義の枠内にとどめ続け、防衛主義から介入主義の方向へ変容させないことが現時点でのわれわれの重要な課題であろう。
矛盾克服の方向性―われわれの安全保障
問題は、この矛盾をどのような方向で克服しようとするのか。人類史的視点に立つならば、憲法9条と自衛隊の矛盾は、自衛隊の軍隊化の方向(自衛権・軍事力強化)ではなくて、憲法9条の方向(主権の制限・軍事力否定)への克服の努力がなされ続けるべきであろう。絶対平和主義と漸進的平和主義の相互補完性はこれからも妥当する。絶対平和主義=自衛隊違憲論が存在し続けることが、漸進的平和主義をより強固な理論に鍛え上げる。
憲法9条と自衛隊の矛盾を憲法9条の方向で克服するということは、あらゆる側面においてミリタリーの役割を縮減し、文民・市民の役割を拡大していくことを意味する。現在、「武力紛争の予防のためのグローバル・パートナーシップ」というプロジェクトが、東北アジア全域の市民社会組織をネットワーク化して活動を続けている。「ウランバートル・プロセス」。

第6章 「リベラル」派との共同のために―その外交・安保構想の批判的検討(梶原渉)

1 本章のねらいと背景
(軍事)大国化を克服したのちの将来展望についての認識を共有することが必要。本章では、共同を崩さず、戦争法を廃止する政治に発展させるための課題を明らかにしたい。

2 「リベラル」派の外交・安保構想の歴史的展開
(1) 第一期:日米安保のグローバル化への反発―寺島実郎
(2) 第二期:自衛隊海外派兵本格化への反発―伊勢崎賢治
(3) 第三期:民主党政権への期待―戦争法廃止運動における「リベラル」派結集の準備段階
(4) 第四期:安倍政権への暴走への反発―「リベラル」派の組織的活動
柳澤協二および「自衛隊を活かす会」
伊勢崎構想の拡大
岩波シリーズ
(5) 小括 
288頁の四点の指摘。

3 「リベラル」派の情勢認識
(1) 東西冷戦終焉を契機とする安全保障の変貌
(2) 戦後日本の外交・安保政策の肯定評価
(3) 極東秩序維持者としてのアメリカ
(4) 脅威やリスクとしての中国
(5) 安倍政権異常論

4 「リベラル」派の外交・安保構想の特徴
(1) 日米安保条約の将来構想
沖縄を中心とする米軍基地縮小
核兵器の将来
(2)自衛隊の将来構想
(3)非軍事分野の協力深化による安定した秩序の構築
(4)構想の担い手

5 「リベラル」派構想がもつ問題点
(1) 情勢認識がはらむ問題
脅威の誤認
 「リベラル」派が脅威とみなすものの源泉は、彼らが所与のものとするグローバル化のなかにあるのではないだろうか。
アメリカの過小評価
中国はなぜ脅威やリスクなのか?
(2)「リベラル」派構想の実効性
対米協調は日本や世界の平和と安全に貢献するか?
非軍事分野の協力は安定した秩序をもたらすか?
民衆的観点の弱さ
 「人間中心の安全保障」を謳うならば、さまざまな脅威やリスクにさらされ保護が必要なものとして人間をとらえるだけでなく、そうした状況を変革していく主体としても人間をとらえることが必要ではないか。

6 結語
 「リベラル」派は、日米安保条約や自衛隊を批判的に検討する必要があるのではないだろうか。
 安保廃棄派は、日米安保条約廃棄と自衛隊解散という自らの立場を堅持すべきである。平和構築の方向を徹底するには、日米安保廃棄を含む日本の安全保障の抜本的な見直しが不可避であることを共同の過程で問題提起しなければならない。
 世界秩序を平和で公正な方向へ変革する構想が求められている。日本国憲法がめざす「武力によらない平和」は、たんなる理想ではなく、日本と世界の平和を実際的に保障する選択肢として示される必要がある。
中国を脅威やリスクとしてみなすのではなく、中国における民主化を中国の外側から支援し、日本においても民主化をすすめていくという基本的立場に立つことが必要ではないか。安保廃棄派が「リベラル」派に対して、日米安保廃棄を含む日本の安全保障の抜本的な見直しが不可避であることの問題提起をするにとどまらず、安保廃棄と自衛隊の解散という選択肢への全幅的支持の獲得というところに、共同の道を到達させることが必要ではないだろうか。もうひとつ、本章からは「民衆的観点」の大切さを学んだ。

第Ⅲ部 対抗構想

第7章 安保と戦争法に代わる日本の選択肢―安保条約、自衛隊、憲法の今後をめぐる対話(渡辺治)
 
1 戦争法案反対運動からみえてきたもの

戦争法が提起した日本の安全保障をめぐる二つの道
日本の安全保障をめぐる二つの方向・路線の対立。
第一の方向は、戦争法案を推進した安倍政権を先頭に、現与党が主張・推進する路線。日米同盟を深化させ、米軍のグローバルな戦争・介入に、より積極的に加担し日米共同作戦を具体化することで抑止力を高め、強大化する中国の軍事的脅威や北朝鮮の挑発に対抗して日本の安全を確保するという路線。
それに対して、戦争法による日米同盟の深化、自衛隊の戦争加担の方向は決してアジアの平和を促進し日本の安全を確保しない、と主張する路線。むしろ日本の平和と安全は、日本が、海外での武力行使やアメリカの戦争と一体となった加担をしないことで保持され、そうした立場を堅持することでアジアの平和構築に対しても発言力をもてるという立場。
後者の路線への国民的な賛同・強化を、単なる願望ではなく、現実化する道(=日本国憲法の立場)をどうやって可能にするのか、これを共同討議し構想するのが、今日の研究会の最大の課題と考える。

戦争法反対の二潮流
 政府が推進してきた日米安保体制そのものに真っ向から反対し、憲法9条の「武力によらない平和」の方向を支持し、安保条約を廃棄して米軍基地を撤去し、自衛隊を縮小・解散して、9条の理念により日本の平和を実現することをめざす潮流(=安保廃棄派)。この潮流は、戦争法の制定を、日米安保体制がもっている本質の徹底であるという側面と、にもかかわらず国民の運動によって政府解釈というかたちで自衛隊の活動に課されていた制約をはずし自衛隊を海外での武力行使に踏み込ませる転換である、という側面の両方からその危険性をとらえている。
 安保条約と自衛隊による安全保障のあり方を基本的に容認しながら、その安保と自衛隊は、あくまで憲法9条にかかわる政府解釈により合憲と認められる制約の範囲内にとどまるべきあり、集団的自衛権行使、後方支援拡大によるアメリカの戦争への加担―日米同盟深化の方向は日本の安全に寄与しないという視点から戦争法に反対する立場。この潮流(=「リベラル」派)は集団的自衛権や戦争法は日米安保体制からの転換、逸脱であるととらえる。 
二つの潮流のうち後者の潮流が、今日の憲法学界と現実政治においてすでに多数派になっているのではないかを恐れる。そうだとすると、前者の潮流をどのようにして大きくし、また実現していくのかを考えることが大切である。

憲法改悪反対運動における二つの潮流
 じつは、戦争法反対運動でできたこうした合流の構図は、すでに、改憲に反対する九条の会の運動などで先駆的に形成されていた。90年代に至るまで改憲反対運動を担ってきた社会党、共産党などの革新政党、労働組合、知識人、市民運動は、すべてが、安保条約や自衛隊を違憲とみなして反対してきた人々であった。これが改憲反対運動においても第一潮流であった。
 それに対し、90年代に入り、自衛隊の合・違憲でなく自衛隊の海外派兵の是非が争点となり、また社会党が村山政権の成立を機に、安保・自衛隊合憲論に転じたことも相俟って、2000年代の改憲反対運動、その典型としての九条の会の運動では、第一潮流の勢力にくわえて、安保条約も自衛隊も合憲だがその海外派兵を容認させるような改憲は許さないという第二潮流がくわわった。九条の会に代表される改憲反対運動は、こうした第一潮流と第二潮流の合流によって大きな流れを形成した。

辺野古新基地反対運動をめぐる二つの潮流
一つは、安保条約による米軍の駐留と基地そのものに反対し、米軍撤退と基地の撤去を求める立場から辺野古新基地反対、普天間基地撤去を求める潮流。「基地反対派」。
それに対して、第二の潮流は、安保・日米同盟には賛成であり米軍基地も必要だが、それが沖縄に集中していることは許せない、沖縄にこれ以上新基地建設は許さないという、沖縄「差別反対派」の立場。それにくわえて、第二潮流のなかには、安保条約と米軍基地の存在は日本の安全には必要としながら、海兵隊の沖縄常駐はもはや必要なく辺野古新基地建設はアメリカの戦略からいっても軍事的合理性がなく、いらないという立場からの反対論者も含まれている。

日本とアジアの平和構築をめぐる二つの潮流の違い
 第二の潮流の構想に関しては、その内容は論者によってもかなりの違いがあり、そもそも正面から検討されたことは少ない。

本章の課題
 多くの国民の立ち位置=日本が海外で戦争する国になることには反対しているが、同時に、中国の脅威や北朝鮮のミサイル開発さらにはテロの危険性などに対して、どうすれば日本の安全は確保できるのかという点についての不安と関心を強くもっている。
政府の推進する戦争法と日米同盟強化に代わる選択肢を示すことは、戦争法反対論の緊急の責務。本章では、安倍政権の推進する戦争法と日米同盟強化の方向に対抗し、それに代わる平和の構想を、安保廃棄派の立場から「リベラル」派の構想との対話をつうじて明らかにしたい。
本章は、安保廃棄派の原則的な立場と構想を2016年秋の段階で再度全面的に展開し、国民的討議を願って書かれている。その平和の構想は以下の諸節において、多面的かつ全面的に展開されている。問題は、それが多くの国民の中でリアリティーをもつことができるかどうかにある。

2 「リベラル」派は安保条約や日米同盟、自衛隊をどうしようとしているか

(1)孫崎亨―安保と対米従属を最も強く批判
(2)寺島実郎―日米安保体制の「再設計」
(3)柳澤協二―自衛隊の専守防衛への改組

3 安保条約と米軍をそのままに日本の平和は実現するのか
 
これら論者の議論への最も大きい違和感は、認識の的確性にもかかわらず、安保条約の廃棄や自衛隊の縮小・解散、とくに安保条約、日米同盟の解消という展望を頭から否定している点である。

(1)アメリカの日本に対する一貫した志向の過小評価

戦争法は安保マフィアの妄想か?
 第一の疑問は、これら論者の構想の背後にある情勢認識、アメリカの戦略について。

冷戦後アメリカの世界戦略と日本の比重
 「リベラル」派のアメリカ対日政策の過小評価は、じつはそれにとどまらず、アメリカの世界戦略全体をつらぬく攻撃性の過小評価と結びついている。
 「リベラル」派の議論の最大の問題点は、戦争法を廃止したり沖縄基地の撤去をめざすにはアメリカの世界戦略を批判し、それとの正面切った厳しい闘いが不可避であるという、運動の重要性をあいまいにする点にある。
私自身も、アメリカの世界戦略に対する正面切った厳しい闘いの不可避性について、認識が十分でなかった。フィリピンの米軍基地撤去に対するアメリカの恫喝に対しても、リアルな認識が必要である。フィリピン以上に、日本の場合は厳しいものがあると思う。フィリピンの場合、韓国の場合と対比したうえで、日本の場合をシビアに考えておく必要がある。

(2)安保条約のもとで、日米同盟の相対化、非軍事化は可能か?

 「リベラル」派が共通して主張する処方箋は、「日米同盟の相対化」あるいは「日米同盟の見直し」論である。第二の疑問として、彼らは、日米同盟の根幹にある安保条約の見直しあるいは廃棄については口をつぐむ。そして、なぜか、抑止力論の本体である日米同盟の存続を強調する。
「リベラル」派は、なぜ安保条約の見直しや廃棄を提唱しないのか。日米同盟の存続という既成の現実以外に、代わりうる選択肢はないと思い込んでいるからだろう。このような思考停止は、じつは多くの国民の既成観念と共通しているのではないか。

日米同盟・安保条約の自明視

安保条約の60年段階への「引き戻し」論
 一つは、60年安保条約は、日本全土にわたる自由な米軍基地の設置を容認し、「極東における国際の平和と安全の維持」を名目とすれば米軍の自由な基地使用を保障するという点で、不平等な日米関係の根幹をなしていることである。したがって、たとえ日米同盟を60年安保条約時に戻したところで沖縄基地をはじめとして日本全土に展開する米軍基地の状態も、またアメリカの世界戦略にしたがった米軍の活動も制限することはできない。
 また条約6条は米軍の「極東における国際の平和と安全の維持」のための活動を認めているが、これは米軍の行動が「極東」に限られることを意味したものではなかった。
 二つ目は、60年安保条約から冷戦後におけるその改変・強化を推進してきたのはいうまでもなくアメリカであり、それに追随してきた日本政府であったことだ。その到達点が15年ガイドラインであり、戦争法である。安保条約からの「逸脱」は決してアメリカの一部や安倍の思いつきではなくアメリカとそれに追随した日本政府の一貫した意思に基づく方針であった。だから、日米同盟を60年安保の時点に戻す、すなわち、自衛隊の海外での米軍支援をすべてやめ米軍の活動をいまより狭く限定させるには、日本政府のみならずアメリカ政府との厳しい対決をへなければならない。60年安保に戻すということ自体、国民的運動がなければできない。

「日米同盟の相対化」とは何か
 「リベラル」派の日米同盟見直し論の最大の問題点は、安保条約に手をつけない「日米同盟の相対化」とは何かがまったくわからないことである。

(3)安保条約をそのままに、沖縄基地の削減・撤去は可能か?

 「リベラル」派の構想に対する第三の疑問は、安保条約や日米地位協定をそのままにして、沖縄における米軍基地問題の抜本的解決、いやそれどころか普天間基地の撤去ですらできるのか、という疑問である。

 そうだとすると、翁長知事をはじめとする「沖縄差別反対派」の日本政府とアメリカ政府を相手にした孫子の代までの闘いは勝利することはできない。沖縄基地問題の抜本的解決は、安保条約と日米地位協定の見直し・廃止というところに踏み込まなければならない。

(4)安保条約を前提にして、自衛隊を「専守防衛」に引き戻すことはできるのか?

 第四の疑問は、柳澤のいう、自衛隊の「専守防衛」への改組論に対する疑問である。

専守防衛論の原型「基盤的防衛力」論―安保と自衛隊のセット論
 第一に、この「専守防衛」論は、相手国に脅威を与えない、勝手なことをさせない、相手国の武力攻撃を阻止しうる力というのであるが、これは、アメリカの強大な「報復的抑止力」を前提とし、それとセットになっているのではないかという疑念である。
 そもそも、「専守防衛」論あるいは「拒否的抑止力」論は、1976年の「防衛計画の大綱」で規定された「基盤的防衛力」論にその原型を求めることができる。
 もし「専守防衛」論が安保体制の抑止力を前提にしたものだとすれば、日本がいくら自衛隊の専守防衛を叫んでも、「敵」からみれば、ちっとも「専守防衛」とはみなされない。自衛隊はつねに米軍と一体の軍とみなされてきたし、現在もそうである。

安保をそのままに「専守防衛」といえるのか?
 第二に、自衛隊を真の敵の脅威とならない「専守防衛」の軍隊に変えるには、日米同盟を解消してはじめて可能となると思われる。
集団的自衛権の行使に関する政府の憲法解釈違憲論+個別的自衛権にもとづく自衛隊合憲論の誤り。

鳩山政権の苦闘と挫折の教訓は何か?
 安保や地位協定に手をつけずには、基地問題のほんの少しの解決もできないこと。
安保条約と米軍をそのままにして、日本の平和は実現しないということを主張するとき、その日本の平和の中味としてどのようなものを構想しているのかを、いっそう明確にしなければならないと思った。そのような立場に対する共感と支持を広げていくためにも。

4 安保のない日本の構想

(1)安保条約・日米同盟は、日本とアジアの平和の確保に役立たない
 
敗戦時における米軍の単独占領以来の、戦後日本の特異な、根深い対米従属の経験。対米従属の歴史はきわめて長く、戦後の安全保障をアメリカ抜きに構想したことは一度もなかった。

冷戦期の「戦争しない国」は何によって守られたか
安保肯定派は、戦後日本の繁栄は、安保条約があってこそであり、憲法九条などは何の役にも立たなかったと主張するが、これは誤り。むしろ、憲法とそれを擁護する国民の声、運動の力で安保条約がアメリカの求めたような十全の軍事同盟条約=攻守同盟条約になれなかったことが、戦後日本の平和が維持された大きな要因である。
安保条約があるから平和が守られたのではなく、安保条約が十全の発動ができなかったから平和が守られたのである。

冷戦後の安保条約・日米同盟
中国の軍事拡大を抑制するために日本がとるべき方法は、日米同盟の強化ではなく、平和国家としての旗幟を鮮明にしたうえで、アメリカ、中国、ロシアを含めて、紛争の武力によらない解決、軍備の縮小の機構を北東アジアレベルで確立することであり、そのイニシャティブをとる以外にない。

安保条約・日米同盟の当然視という現在の日本における支配的な見解に対して、安保条約・日米同盟は、日本のみならずアジアの平和の確保には役立たないということを、どのようにして理解してもらうのか、それは本当に困難な課題であるが、必ず成し遂げなければならない。

(2) 安保条約の廃棄によるアジアと日本の平和保障への前進

まず日本がめざすべき平和構想の基本骨格。
 
安保と基地のない日本
第一は、安保条約の廃棄と米軍基地の撤去である。安保条約の廃棄は、1960年の改訂安保条約10条に基づく、適法的な行為である。
さらに、安保条約を廃棄することは、自衛隊が米軍の補完部隊である現状を改革する梃子となる。自衛隊の改革の第一段階は、安保破棄により自衛隊と米軍との一体化した状態を抜本的に改革することからはじまる。

北東アジア非核、平和保障機構の形成
安保条約を廃棄し、米軍基地を撤去することは、日本が、名実ともに、憲法九条の掲げる「武力によらない平和」を実現する大きな一歩になる。安保廃棄は、日本が中国の軍事主義に対して対抗軸となる最も強いメッセージであり、自主的平和外交を展開する大きな力になる。
安保廃棄、米軍の撤退は、中国の軍事大国化の抑制や北朝鮮の核開発の停止、北東アジアの平和保障の制度構築と同時に実現しなければならない。
まず確立しなければならないのは、アメリカ、ロシアを含めた北東アジアの非核と紛争の非軍事的解決を約束する条約の締結とそれを実行に移す平和保障機構の創設である。
この条約・機構においては以下のことが確認されねばならない。
第一は、紛争の非軍事的解決の原則の確認である。領土にかかわる、またはその他の紛争についての北東アジアレベルの紛争解決機構の設置も必要である。
第二は、核の先制不使用原則の承認と、朝鮮半島、日本に対する核不使用保障である。
第三は、加盟国間での核運搬設備を含む核装備の削減と査察体制の整備の合意である。
第四は、通常軍備の軍縮である。
対アメリカとの関係に関しては、安保条約の廃棄と米軍基地の撤去、
北東アジア地域では、対アメリカ・ロシア・中国・韓国・北朝鮮に関して、北東アジア非核兵器地帯条約の締結・紛争の非軍事的解決についての条約の締結と、さらに平和保障機構の創設を提言している。後者に関して、梅林宏道『非核兵器地帯―核なき世界への道筋』(岩波書店、2011年)は、「北東アジア非核地帯」条約が成立する過程が、すなわち北朝鮮が核兵器を放棄する過程になる、また日本も核の傘から脱却する過程になる、という順序で考えるべきだと述べている。著者のいう日本のめざすべき平和構想の基本骨格はクリアーであるが、それを実現する国民的力量、強力な国際的な運動と力をどのようにして生み出していくのかがここでの課題である。同時に、平和保障機構の創設はまだ抽象的な言及にとどまっており、具体的提案に踏み込む必要がある。

5 自衛隊をどうするか?

自衛隊については、安保条約の廃棄、アジア、世界レベルでの平和保障機構の創設、強化と相俟って、縮小・解散がはかられるべきである。

(1) 自衛隊の縮小・解散の二つの段階
第一段階は、安保条約を廃棄したのち自衛隊の最も大きな欠陥である対米従属性を断ち切り、政府が自衛隊の合憲の条件として掲げた「自衛のための必要最小限度の実力」、あるいは「リベラル」派のいう「専守防衛的」自衛隊を実現する過程である。この改革により、自衛隊の海外派兵、アメリカの戦争への加担の危険性をさしあたり防ぐことが可能となる。
続く第二段階において、北東アジアと世界レベルの軍縮、平和保障機構の形成と平行しつつ、国民の合意を得て、自衛隊を解散し、「憲法適合的でかつ有益な非軍事組織に転換する」。

(2) 自衛隊の縮小・解散の第一段階―自衛隊の対米従属性打破、真の「専守防衛力」へ

改革の主要点は以下のとおりである。
自衛隊の対米従属性、米軍の補完部隊としての性格の打破
真に「専守防衛」にするための自衛隊の装備、編成の改変
災害派遣をはじめ、憲法の平和主義から評価される活動、装備の充実

(3) 自衛隊の縮小・解散の第二段階

第二段階に入るにはいくつかの条件を成熟させることが不可欠である。
(a)北東アジアレベルの軍縮、平和保障機構の成熟のみならず、アジアレベル、世界レベルでの軍縮と平和保障の前進。この条件の構築に日本が主導的役割を果たすことが不可欠である。
(b)軍隊の廃止、九条の実現についての国民の確固たる支持が表明されることである。
(c)新たな福祉国家型の政治が前進し、国内的には、新自由主義改革を停止し、社会保障と地域の産業の再建が進んでいること。それと並行して、グローバル企業の活動に対する多国間の共同の規制が進展し、世界、アジアでの格差が縮小し、軍事的抗争に発展しかねないテロや紛争が減少していることである。
こうした条件を整備したうえで、自衛隊を解散する。その大まかな輪郭。
① 自衛隊の本体として残った国土防衛的機能は、国境警備の警察的活動として海上保安庁と統合して国土交通省に移管する。
② 災害復旧的業務は、軍事的性格をぬきにして他の諸組織と統合し国際災害救援隊、国内緊急災害救援隊として再編成する。
いずれにせよ、こうした二段階の過程は、安保条約の廃棄とならんで、国民の強い合意と現実の国際的平和構築の推進と並行して行わねばならないので、きわめて長期にわたる過程となるであろう。
このように二つの段階に分けて、自衛隊の縮小・解散を構想していくことには賛同できるが、筆者が、「第一段階から第二段階への移行はかなり長い過程と経験を積む必要がある。その詳細をいまから具体的に検討することはあまり現実的でもない」と述べるにとどまっていることは、問題だと思う。時間的タイムテーブルの提示と自衛隊の「解編」についてのより詳細な具体化(憲法政策の考究)が必要ではないか。第一段階をクリアーするためには、当事者たる自衛隊を初めとして、文字通りの国民的論議が必要である。

6 多国籍企業の規制による経済構造の改革と市場規制

(1) 平和国家と福祉国家の連結

平和国家と多国籍企業経済の規制、改革の必要性
第一、日本が平和国家への道に踏み出すには、日本の対米従属下の軍事大国化、日米同盟強化を求めているアメリカに対決するだけでなく、それを支持している財界、日本の多国籍企業の活動に対しても、進出先の国や地域に「自由に」進出しその地域や国家の地場産業や経済、環境などを破壊するのを規制する措置をとらねばならない。
 第二、しかも、こうした多国籍企業の活動は、進出先の国民経済を変質させ、従属的な構造に変えてしまう。世界の平和が基本的には、各国のバランスのとれた国民経済の再建により実現の基礎を得るという点からも、多国籍企業の規制は不可欠である。
 第三、そのうえで、平和国家の形成のためには、多国籍企業本位の政治を転換し、新自由主義改革を停止し福祉国家型の経済構造を作りあげねばならない。

平和国家と新たな福祉国家
以上の理由から、平和国家は、新たな福祉国家と不可分であり、新たな福祉国家の重要な環である。多国籍企業本位の政治の転換をめざす新たな福祉国家は、同時に平和国家をめざさねばならない。

先駆的試みとしての都留重人の経済構造改革論
 独占体の規制による「福祉国家」型経済への転換。

(2) 新たな福祉国家による新自由主義改革の停止と多国籍企業規制

新自由主義改革の停止と福祉国家の建設
 第一は、現在推進されている新自由主義的改革、「規制緩和」を根本的に再検討し、多国籍企業の要望する国際分業の見地から切り捨てられる農業や地場産業など弱小産業の保護と育成をはかることである。また同じく新自由主義的改革で改変された雇用、医療をはじめとした社会保障制度、教育制度などについては拡充する。そのために財政も抜本的に福祉国家型に転換しなければならない。
 他国を侵害しない相対的に自立した国民経済を再建しなければならない。

多国籍企業の活動規制と自由市場ルールの見直し
第二は、多国籍企業の進出先の活動に対して環境や労働条件、他国の国民経済への影響などの見地から規制を行うことである。新自由主義的改革と多国籍企業に対する「社会運動の高度な国際的連帯」と「福祉国家連合」の結成が不可欠となる。

多国籍企業の規制、新自由主義的改革の停止、国民経済の再生、社会運動の高度な国際的連帯、新たな福祉国家の創出という問題提起を重く受け止めた。宇沢弘文の「社会的共通資本」論などを手がかりにさらに考察を深めたい

7 安保廃棄へ至る道

長い道のりを要する国民的大事業。
安保のない日本づくりの第一歩は、保守政権のもとで進められ安倍政権によって強行された日米同盟強化、アメリカの戦争への加担、憲法破壊の策動を阻む闘いからはじまる。

(1) 戦争法廃止の連合政府

国民的事業となる戦争法廃止
 戦争法を廃止して日米同盟と自衛隊を以前の状態に戻すだけでも、廃止で一致した勢力による連合政府の樹立は必要不可欠である。
連合政府の必要性―戦争法廃止自体が大事業 戦争法の廃止とは、冷戦後の90年代にアメリカ主導で進められてきた日米同盟強化の流れを止め逆転させる、かつてない事業である。
 戦争法廃止を掲げるすべての政党が連合して政権を握り、とくに、外務省、防衛省を掌握して、その抵抗を押し切って実行することが不可欠である。いずれにせよ強力な政権でなければ、内外の抵抗を押し切ってこれを実行することは不可能である。
連合政府を実現するうえでの課題 まず、戦争法を廃止してどんなかたちで日本の安全を守るかについては、まだ共同の勢力内では一致をみていないため、この点での合意をつくることが不可欠である。
 合意をつくることは容易でないが、条件はある。戦争法廃止の合意が成立した背後には、自衛隊が海外でアメリカの戦争に加担して戦争をすることはさせない、辺野古に基地はつくらせない、普天間をはじめ沖縄の基地はなんとかしたいという切実な要望に応えようという共通の意欲があるからだ。
 連合政権づくりの合意は、以下の諸点で、行うべきではないか。
① 自衛隊の海外での戦争荷担、武力行使はしない。後方支援の名目でも周辺事態法による現状を拡大しない。国連PKOは現状維持、海外での貢献は非軍事分野で行う。この原則に基づき、自衛隊と安保の運用の現状を広く点検する。
② 安倍政権による憲法改正に反対する。憲法九条の改正、それと一体になって戦争する国づくりに不可欠の緊急権規定条項の創設には反対する。
③ 紛争を武力で解決しない、武力によらない紛争解決ルールづくりのイニシャティブを発揮する、紛争の軍事化に資するような自衛隊の軍事能力、権限拡大はしない。
④ 沖縄については、辺野古新基地建設は撤回、普天間基地は撤去、それに必要な日米地位協定の見直しをめざす。
⑤ 共同の場における、共産党得と民進党の振る舞い方。
戦争法廃止の連合政府の課題 戦争法廃止の連合政府は、戦争法の廃止、辺野古新基地建設反対を一致点とした過渡的な政権になる。
海外で戦争する体制の転換 連合政府の第一の課題は、戦争法の廃止と戦争法制定にともなって進んでいる共同作戦体制をもとに戻すことである。廃止と平行して、すでに進められている日米共同司令部の見直し、さらに戦争法の実行のための自衛隊の編成、装備の変更をもとに戻すことを不可避とする。自衛隊の海外侵攻軍化を推進することを決定した2013年防衛計画の大綱の見直しが不可避である。
それと同時に、新政権は、戦争法を生み出すもととなった15年ガイドラインの見直し協議をアメリカ側に対して求めなければならない。
そのうえで、新政権は、先の合意にもとづき、日米同盟と自衛隊のあり方につき、以下の諸点で広範な見直しと点検を行なう必要がある。
① 思いやり予算の縮小・廃止が検討されねばならない。
② 特定秘密保護法は廃止を検討する。国家安全保障会議(NSC)―国家安全保障局も、廃止を含めた見直しをすべきである。
③ 周辺事態法、有事法制の廃止を含めた見直しを行う。
辺野古と沖縄基地解決へ向けて―日米地位協定の改定 連合政府の第二の課題は、辺野古新基地建設の中止と普天間問題解決である。
沖縄の基地撤去は沖縄県ではなく日本政府が解決する責任をもっている。
連合政府段階においてなすべき地位協定改定を検討しよう。
安保条約と地位協定における全土基地方式
地位協定2条の改定による基地返還要求の明記 連合政府は、地位協定の見直しにより、安保条約のもとでも普天間基地撤去をはじめとした基地問題解決へ前進しなければならない。

憲法堅持と九条外交
連合政府が取り組むべき第三の課題は、憲法擁護の原則を打ち出し、日本外交の原則として、諸外国にあらためて憲法九条の堅持とこれを日本外交の方針とすることを宣言することである。九条の改変には反対するという点での合意は可能ではないか。
それをふまえ、連合政府は、むしろ九条にもとづく外交の第一歩を踏み出すことが求められる。安保条約の廃棄の成否は、この外交により北東アジアの平和を現実的に構築できるか否かにかかっている。
侵略戦争の責任と謝罪 連合政府の外交の第一は、歴史問題にはっきりと決着をつけることである。まず、歴代政府があいまいにしてきた日本による植民地支配と侵略戦争を含め、日本の行動について、国民的議論を起こし、あらためてアジア諸国に対する謝罪と被害者に対する個人賠償の検討を開始しなければならない。
北東アジアにおける軍事的緊張の緩和と非核・平和保障機構づくり 連合政府の外交の第二としてとりくむべき課題は、北東アジアの緊張緩和と平和保障の制度づくりである。そのために、日本は、憲法九条が謳う「武力によらない平和」の理念を自国の外交原則とすることを宣言し、それに基づく既存の外交政策の根本的転換を行なう。
1 まず日本は、北東アジアに対し改めて非核三原則を宣明し、とりわけアメリカに対して第三原則の実行の確約を求める。武器輸出を禁止した武器輸出三原則を復活させ、国連安保理の常任理事国五カ国をはじめ、武器輸出大国にこの実行を働きかける。
2 北朝鮮に対しては、従来政府がとってきた北朝鮮に対する威嚇政策を再検討し、拉致問題の解決と日朝平壌宣言の履行をあらためて宣言する。
3 中国に対しては、歴史問題での原則と九条の原則を宣言したうえで、中国の覇権主義を是正し緊張緩和を促進する措置を強力に推進する。六カ国協議を再開しその機構の強化を推進するとともに、中国政府のとっている南シナ海、東シナ海における覇権主義的態度を改めるよう、紛争の非軍事的解決、領土紛争の北東アジアレベルの機構による解決方式を二国間協議で推進する。
4 北朝鮮の核問題の解決をめざしてつくられた六カ国協議を再開、拡充し、これを北東アジアの非核と紛争解決の機構に強化することを提案すべきである。連合政府は、北朝鮮の核開発の抑止の問題をより包括的な北東アジアの非核構想のなかで検討解決することを提案する。北東アジアで、朝鮮半島と日本を非核武装地域として、六カ国が合意することで北朝鮮に核開発放棄を認めさせる。
5 北東アジアにおける、核の先制不使用協定、核軍備の削減、査察の協定締結のイニシャティブを連合政府段階からはじめなければならない。また「核兵器禁止条約」の締結など国連が主導する核兵器の禁止・廃絶に関する取り組みと連携することが不可欠である。
6 さらに進めて、紛争の軍事的解決の禁止を協定すべきである。このさいには、ASEANでつくられた「行動規範」を参考にして、ASEANに先んじて、より実効性のある北東アジア版の「行動規範」の策定を日本がイニシャティブをとって行うことが求められる。
国連外交 連合政府がとりくむべき外交の第三は、国連を舞台にした平和・軍縮外交の展開である。
戦争法廃止の連合政府の三つの課題(戦争法の廃止と共同作戦体制をもとにもどすこと、辺野古と沖縄基地の解決、九条外交の推進)のうち、3番目の「憲法堅持と九条外交」について。安倍政権の軍事大国化を主導しているのは、外務官僚を中核とする新たな日米同盟派・戦略派であるという指摘(渡辺治「安倍政権とは何か」渡辺治・岡田知弘・後藤道夫・二宮厚美『<大国への執念―安倍政権と日本の危機』大月書店、2014年所収)をもとにして改めて考えてみると、これは、実に困難な課題と思われる。とともに、ここで指摘されていることをさらに進めて、連合政府をどのようにして実現していくのかについての方法論、戦略、そのための市民社会による支援のあり方、新政治勢力の結集の展望などを提示していく必要性を感じた。

(2) 安保廃棄への国民的合意づくりと安保廃棄の連合政府
戦争法廃止の連合政府のもとでの政治を経験するなかで、日本とアジアの実効性のある平和構築を前進させ、そのさらなる強化のために、安保条約廃棄、安保体制の打破に向かわねばならない。戦争法廃止の政府を、その経験と合意をふまえて安保廃棄をめざす連合政府に発展させねばならない。

安保廃棄の国民的合意
安保条約をめぐる国民意識 そのためには、戦争法廃止の政府の経験を積むなかで安保条約廃棄の国民的合意を獲得する必要がある。 
安保廃棄への合意形成 安保条約に対する意識をみると、国民の多くは、安保条約による米軍の存在と憲法のもとでの自衛隊の海外での戦争の禁止によって日本の平和が守られてきたと考えていると推測できる。そして、安保に対する期待と依存の高まりは、日本をめぐる「脅威」の増大に比例していると考えられる。
こうした国民意識を変えるには、戦争法廃止の連合政府が、その外交により、アジアにおける平和保障の体制を構築することにより、国民が、武力によらない平和保障の有効性についての確信を強める以外にない。

アジアレベルの平和秩序の推進と自衛隊の縮小・解散
安保条約廃棄による基地撤去とアジアレベルの平和保障体制の強化を実現するなかではじめて、日本は自衛隊の縮小・解散の方向の合意を獲得し、名実ともに憲法による平和保障の体制に進むことができる。
現代日本の国民意識においては、自衛隊を容認する意識はきわめて高い。
しかし、この中味については、二つの点を指摘しておく必要がある。
一つは、自衛隊に対する好感は、自衛隊の増強や軍事大国を求める意識ではなかったことである。近年の自衛隊の増強論は明らかに、中国に対する脅威論と並行しているのである。
二つ目に指摘しておきたいのは、国民の自衛隊に対する親近感や支持は、自衛隊の災害派遣における活動によるものが大きいという点である。
こうした国民意識は、安保条約を廃棄して、アジアと日本の平和の体制が革新される段階では、自衛隊を、災害派遣と非武装の国際的な支援活動に専念する組織へと国民的合意を得つつ改組することを展望できる。
「安保+自衛隊」という、一見すると強固にみえる国民世論を転換していく展望は、「武力によらない平和」に拠って立つ日本国憲法の将来構想と憲法政策上の優位性を明確に示すことにあるのではないかと思った。とともに、アメリカ一辺倒からアジアのなかでの平和的共存とアジア諸国との共生を目指す立場の力強い復興がいまこそ必要であるという感想をもった。李京柱講演によって教示された、雨森芳洲(1668-1755)の「誠誠之交」(『交隣提醒』)を参考にして、さらに考えたい。

8 戦争法廃止から安保のない日本へ

現在のような軍事的対決の激化する時代において、アジアと日本の平和を実現するには、憲法の「武力によらない平和」の理念を実現する道をおいてない。
しかも憲法を実現する道は決して日本一国だけでは開けない。憲法の構想を世界的秩序として具体化する努力によってのみそれが可能である。
この道はきわめて理想主義的にみえるが、決してそうではない。戦争法廃止の連合こそ、安保のない日本を追求するうえで唯一の道である。
 私たちは、戦争法反対運動が切り拓いた、この展望を手がかりに、安保のない日本への道を切り開いていかねばならない。

私たち憲法研究者はいまこそ、「武力によらない平和」の理念を実現する道を、様々な角度から豊かにかつ説得的に論じていくべきではないか。


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