平和/憲法研究会

平和と憲法に関わる問題についての討論の広場

CSIS 第4次アーミテージ・ナイ報告 (2018.10.3) 紹介と検討

2019年04月24日 | 研究会報告
CSIS レポート “More Important than Ever: Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Century” (2018.10.3) の紹介と検討
稲正樹

1 レポートの紹介

2 検討

(1)知日派とは誰か
・CSISでのシンポ参加経験
・Gavin McCormack & Satoko Norimatsu, Resistant Island: Okinawa Confronts Japan and the United States, Rowman & Littlefield, 2012. ガバン・マコーマック、
乗松聡子『沖縄の<怒>ー日米への抵抗』 法律文化社、2013年。
猿田佐世「日米安保体制克服にむけた方法論ー『新外交位イニシャティブ』の意義」日本平和学会 2016年度秋季研究集会報告。

ワシントンからの拡声器効果。
ワシントンの日本コミュニティの3条件:
1 日米同盟の強化、
2 米軍 のプレゼンスの維持・増強、
3 自由貿易の追求。ワシントンの日本メディア

(2)レポート全体の基調
1.日本のより積極的な外交・安全保障政策を要求:「強い自信に満ちた日本」
2.中国と北朝鮮の「脅威」を過大に強調 32030年までの野心的な達成可能なアジェンダの提起

(3)同盟の成功をもたらした4つの強みとそれへの挑戦
1 平和で安定した地域秩序・国際秩序の構築→国際秩序の危機。オアルタナティブなガバナンス・モデ ルとしての権威主義的資本主義の広がり
2 基本的な価値の共有→トランプ政権の同盟国への取引的アプローチと権威主義リーダーへの無条件 の関与。
3 世界最大で革新的な経済→保護主義の脅威 4北東アジアにおける実質的な軍事力の保有→中国の軍事的現代化

(4)「変化する政治的現実」では、日本の防衛支出の増大を要求し、国内総生産の1%以上の支出を 要求。とともに「同盟に対する日本の貢献の有効性」を問題にしている。

(5)「変化する経済的現実」では、安保条約2条に殊更に言及し、米日経済協力の増大の枠組みと指 令の両方を規定していると言う。
「より強固で調整された地域的な経済的アジェンダの共同追求」。
CPTPPにおける日本のリーダーシップを持ち上げ、中国の「略奪的な経済政策」に警鐘を鳴らす。
安保条約2条「締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の 理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助⻑することによつて、平和的かつ友好的 な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努 め、また、両国の間の経済的協力を促進する。」
外務省の解説「この規定は、安保条約を締結するに 当たり、両国が当然のことながら相互信頼関係の基礎の上に立ち、政治、経済、社会の各分野におい て同じ自由主義の立場から緊密に連絡していくことを確認したものである」。

(6)戦略的有効性、政治的持続可能性、資源の有効性をキーワードにしながら、10個の「野心的なア ジェンダ」を提起している。

・二国間の経済的な結びつきを強化する

1)オープンな貿易・投資体制への再コミット
・作戦上の調整を深化させる

2)統合された基地から作戦をする→米軍基地と自衛隊基地の合同し統合化された使用。つまりいま 議論されている日米地位協定の改定どころか、究極の軍事的合理性のみを勘案した、日本の国家の独 立性の放棄、主権の放棄を主張している。

3)統合化された合同軍を設立する→米軍と自衛隊による、⻄太平洋における合同軍編成の勧告。台 湾・南シナ海・東シナ海における中国との軍事衝突の可能性に対応するために編成される。しかし、 これが日米両国軍隊の全面的な合同を含意しているかは、文脈からは不明。

4)日本の合同作戦指令部を創出する オーストラリアの合同作戦本部をモデルとすることを提唱。オーストラリア統合作戦本部⻑来訪の記 事(防衛省HP)。下記のチャートを参照。

5)統合された不慮の事態の計画を実行する→日米軍部による緊急事態対応の計画化の勧め? 共同技術開発を前進させる

6)防衛装備を共同開発する→陸海空、宇宙における各種軍事装備、システムの合同研究開発の勧め。 日米の軍産官(学)複合体の持続的な緊密性を発展させることを主張。

7)ハイテク協力を拡大させる 情報共有、サイバー、宇宙、人工知能などのハイテク分野に関する協調の改善が必要と言う。Five Eyes intelligece sharing network、サイバーセキュリティなど。 地域的なパートナーとの協力を拡大する

8)三国間の安全保障協力を再活性化させる→日米韓の積極的で定期的な政策調整。政治的に強く、 軍事的に有能であることを示す努力。米朝関係がどのように進展しようと、参加国は軍事演習、部隊 のプレゼンス、ミサイル防衛を堅持すべきと主張。朝鮮半島における緊張緩和、朝鮮戦争の終結とそ ¥こに向かうムン・ジェイン政権の努力を⻭牙にもかけない現状維持路線を露骨に表明。

9)地域的なインフラ基金に着手する(立ち上げる)→中国の投資規模に匹敵することはできないと しながら、オーストラリア、韓国、インド、ニュージランドを含めた、インフラと能力構築のための、 地域的な基金の立ち上げを提唱。

10)より広い地域的経済戦略を構築する 米日が共通の戦略的利益のために相対的な経済的利点を発揮する創造的な方法をもっと積極的に追求 する必要性。より効果的な協力の4つの意味。

(7)結論では、きたるべき数十年に向けて、日米同盟を再構築するための厳しい決断と持続的な実施が必要とする。

3 まとめ

レポートのいう「平和で繁栄した地域・国際環境の保持」とは、日米によるアジアとグローバルな世 界における軍事的、経済的支配の勧めである。改めて、私たちからの日米関係についての各論と総論 に関して代替案を具体的に提示する必要性を痛感した。日本を含めた北東アジアの平和構築と地域協 力の展望の作業を続けていかなければならない。

邦訳 2018.10 CSISレポート(第4次アーミテージ・ナイ報告)

2019年04月24日 | 研究会報告
邦訳 2018.10 CSISレポート(第4次アーミテージ・ナイ報告)

以前にもましてより重要な関係を‒21世紀の米日同盟を再び新しくする

日本は、世界のもっとも重要な部分において、もっとも能力のある米国の同盟国であ る。それに加えて、米日の諸利益は今日の主要な課題に関して親密な同盟関係にある。し かし、この同盟は大きな緊張や危険に直面している。以前の時代とは対照的に、両国にお いて同盟関係に反対する大きな声は見られないが、それぞれの同盟国が他方の前進を一層 要求する必要性が依然として存在している。ワシントンの関係者の中には、日本のより積 極的な外交・安全保障政策が日本における経済成⻑とアジアにおける安全保障に対する増 大する課題に相応したものになっているどうかを問題にする者もいる。米国と日本は、平 和と安全保障に対する脅威の増大に備えて同盟を固めるために、ともに働かなければなら ない。


我々の同盟の強みは明白であり、それゆえ、両国における両当事者の関係者は正当な評 価を得なければならない。過去5年間で、(米日の)同盟国は新たな防衛ガイドラインに 結論を出し、 同盟調整メカニズムを創設し、SM-3 ブロックIIA 弾頭ミサイル迎撃弾を合 同で開発した。日本は国内の安全保障立法を改装し、集団的自衛権の行使を可能にし、秘 密保護条項を改善し、よ り積極的なグローバル関与戦略を採用し、環太平洋パートナー シップに関する包括的及び先進的な協定の擁護を含めて、インド太平洋地域においてさら に目に見える指導者の役割を引き受け た。その間に、米国はアジアへのリバランスにコ ミットして、自由で開かれたインド太平洋を追求してきた。米国と日本の国家のリーダー は親密な個人的絆を享受し、それは関係性の安定装置として役立っている。

それにもかかわらず、同盟の将来は21世紀の他の時期よりも、今日はあまり明白でない。 米国と日本の同盟は内外の挑戦に悩まされている。ドナルド・トランプ大統領の「アメリ カ第一」の 取引姿勢、保護主義的政策、米国の前進的な軍事的プレゼンスの価値への疑 問は、同盟にとって深刻なリスクとなっている。30年前と同じように貿易問題が同盟を脅 かしてよい政治的・経済的理由はない。米国と日本が20世紀の関税を議論している間に、 特に中国と北朝鮮からの、地域の安全保障と繁栄に対する21世紀の脅威は成⻑している。 アジアにおいて挑戦が増大するときに、じっと立ち止まっていることは遅れをとる要因 となる。同盟国はともに前進し、アジアでまた世界中で、より大きな指導者の役割を受け 入れなければならない。結局のところ、米国は強い自信に満ちた日本を必要としている。 そして日本は関わり合いをもった建設的な米国を必要としている。現在から2030年までの 野心的なしかし達成可能な アジェンダを提起することによって、このレポートが米日同 盟を強化する助けとなることを、 我々は望んでいる。

同盟の好機と挑戦


米日同盟はアメリカと日本の戦略だけでなく、北東アジア、より広いインド洋太平洋、 さらには北大⻄洋条約機構、つまり全体としての国際システムの安全と繁栄の要となって いる。同盟の成功は、4つの永続的な強みを活かした共通の利益を守るというコミットメ ントによっている。

第1に、同盟国は平和で繁栄した地域秩序および国際秩序の構築において、主導的な役 割を果たした。戦争の灰から出現した米国と日本は、ともにより有益で耐久性のある戦後 秩序を構築し、それは現在80年目に入っている。

第2に、同盟国は、人権の保護、⺠主主義、自由市場、法の支配に関する価値を共有し ている。これらの基本的な価値は国内外で標識として役立ち、我々の国内システムを強化 し、世界中から 友人を魅了している。

第3に、米国と日本は世界最大でもっとも革新的な(innovative)経済の2つである。同 盟は3 つの最大国経済のうちの2つであり、世界の国内総生産の約30%を占めている。

第4に、同盟は特に北東アジアにおいて実質的な軍事力を保有している。何十年にもわ たって、 合衆国と日本は同盟国の共通の利益に対する一連の脅威に対して、抑止し防衛 するための堅固な能力と関係を築いてきた。

これらの永続する強みは、米国と日本の間の協力を拡大するための強固な基盤を提供し ている。それにもかかわらず、同盟は上記の4つの強みのそれぞれを弱体化させる恐れの ある幾つかの重大な挑戦にも直面している。

第1に、米国と日本が創造することを助けた国際秩序が危機に瀕している。両国の外部 では、 権威主義的資本主義がオルタナティブなガバナンス・モデルとして広がっている。 内部では、米国の指導者は同盟の価値と既存の世界秩序に疑問を投げかけている。

第2に、我々の指導者たちは、我々の共有価値に関してもはや声を揃えて話すことはな い。トランプ政権の同盟国に対する取引的なアプローチと権威主義リーダーへの無条件の 関与は、人権、 ⺠主主義、自由市場と貿易、法の支配といった、共有価値についての米 国の支援の認識を損なうものとなってきている。

第3に、保護主義の脅威が高まっている。中国やその他の国々は、アメリカと日本のイ ノべーションを利用する不公正な経済慣行に頼っている。その一方で、トランプ大統領は、 有害な保護主義政策を取り入れるためにポピュリスト的感情を利用している。トランプ政 権は戦後史におけ るもっとも商業主義者的な(most mercantilist)米国政府であるが、日 本はその経済を自由化することに依然として歩を進めることができよう。

第4に、軍事的競争が同盟の軍事的迫力を狭めている。中国が特に軍事的現代化を急速 に進め ており、「灰色地帯」の作戦を採用するようになってきた。それは、中国と米国 との間のギャップを減少させ、侵略を抑止し敗北させる能力の再評価を同盟国に強いてい る。


これらは決して打ち勝つことのできない挑戦ではないが、米国と日本による、より明確 に発言されるビジョンとより調整された政策対応を求めている。これは、政治的および経 済的アリー ナの両方において真実であり、それぞれが同盟の提唱者にとっての挑戦を提 示している。

変化する政治的現実


米日関係は、両国における国内政治によって不安定になっている。安倍首相の職への復 帰は同盟の運営を強固にしたが、より最近の米国指導者の移行は、日本の多くの者を混乱 させた。ト ランプ大統領の選出は日本にとって試験期間を示唆した。トランプ政権は同 盟負担のシェアとい う古いテーマを思い出させ、大統領が経済的弱点の源泉として見な している米国の貿易赤字に焦点を当てた。それに加えて、トランプ大統領は、アジアにお ける米国の同盟国は自らを防御するためにより以上のことをすべきだと示唆し、また前方 展開されている米軍の価値を公然と問題にすることによって、新聞の見出しを飾った。

これらの挑戦にもかかわらず、両国関係は前進する勢いを維持している。安倍首相は早 急に大統領に選出されたトランプを訪問し、ニューヨークのトランプタワーで最初にトラ ンプに会い、 その後続いて訪問中にワシントンとマー・ア・ラゴへ行った。安倍・トラ ンプ関係は安全保障問題に関して頻繁なコミュニケーションをとることを許し、それは貿 易に関する当初の心配のいくつかを緩和した。北朝鮮との交渉と両国間貿易関係に関する 討議は、過去1年半の多くの期間、 同盟国の注目する焦点となってきた。

2017年の平壌の加速化されたミサイルの発射は、米国が「100%」日本の後ろにいるこ とを、トランプ大統領が日本に保障する機会を与えた。安倍とトランプは「最大の圧力」 戦略を支持し、北朝鮮に対する国連の制裁のための国際的な支持を作り上げるのに熱心に 働いた。 その一方で、日本は弾道ミサイル防衛における大きな新しい投資を公表した。 より広い地域 的な安全保障の論点について、トランプ政権は東京の「自由で開かれたイ ンド太平洋」概念を採用し、拡大した。

貿易その他の経済問題は、しかしながらより問題を抱えているいる。環太平洋パートナー シッ プ(TPP))からのトランプ大統領の撤退は、日本に対して打撃だった。当初マイク・ ペンス副大統領と麻生太郎副首相のもとで組織された自由貿易協定に関する二国間協議は、 同盟国の経済的アプローチにおける鋭い相違を明らかにした。トランプ政権の国家安全保 障を理由にした鉄鋼とアルミニウムへの関税の賦課は安倍内閣を驚かせ、両国の政治的絆 に緊張を加えた。「米日貿易協定」に向けた交渉の2018年9月の公表は、両国の貿易の相 違を管理したいという両サイドの意欲の約束に満ちた兆候であったが、このレポートの執 筆時点では、これらの対話は不明 瞭なものにとどまっている。

最後に、負担分担に関する熱を帯びたレトリックは、同盟国の防衛支出に関しての新た な議論を余儀なくしている。日本はそれ自身の防衛支出とホスト・ネーション・サポート の貢献の両方を通じて、同盟国の防衛能力に対して意義ある金額を貢献している。これま での概算では、日本 政府は日本における米軍を支援する経費の約75%を支払っている。 今年だけでも、日本政府は、その他の同盟関連経費のなかでも、コスト分担のために1970 億円(17億ドル)、米軍再編のた めに2260億円(20億ドル)、いろいろなタイプの地域 支援のために2660億円(24億ドル)を予 算に計上した。これらの同盟への現実的かつ実 質的な貢献は見逃されるべきではない。

それにもかかわらず、今後の中期防衛力整備計画と防衛計画の大綱では、日本の防衛支 出が増大し、反映されることが重要となる。中国の能力と野心の成⻑、および北朝鮮の核 とミサイルの脅威は、日本が国内総生産の1%以上を防衛に支出することを求めている。


最後に、生の予算の数字よりも問題になるのは、同盟に対する日本の貢献の有効性であ る。 貧弱に支出される金銭は敵対者にとって抑止ともならないし、友人にとって再保証ともならない。もしも日本のリーダーが合衆国の現実に関してもっと関心を持つようにな れば、二倍の能力での 投資を余儀なくされるだろうし、それは貴重な同盟資源の浪費と なる。中国、北朝鮮、ロシア からの増大する挑戦の真っ只中で、同盟はそのような非効 率性の余裕を持つことはできない。この文脈において、東京とワシントンのリーダーは共 有の目標のセットを明確に述べることが大 切である。

変化する経済の現実


ワシントンと東京は、経済に関していつも目と目を見つめ合うということをしていな い。しかし、近年は経済的利益における劇的な収束をみてきた。それは事実上の米日自由 貿易協定であるTPPの成功した交渉によって象徴されている。米国と日本を合わせると、 その協定の対象となる 経済活動全体の約80%を占め、それはデジタル経済や国有企業の ような主要分野で高水準を維持している。TPPの交渉は米日安保条約第2条の野心を了解 することにこれまでよりももっと近 づくことをもたらした。このしばしば忘れられてき た規定は、自由な制度を強化すること、国際経済政策における紛争を排除すること、経済 的な協力を促進することを、同盟国に求めている。第2条は米日経済協力の増大の枠組み と指令の両方を規定している。自由な制度を強化し、経済協力を増大させることについて のその呼びかけは時宜に適している。したがって、トランプ 政権がTPPから脱退する道 を選んだことは、何にもまして不幸なことである。経済的利益の収束を作り出すために、 米国と日本は別の協力の道を追求しなければならないだろう。

中国の挑戦とトランプ大統領の選挙の勝利を推進した経済不況への取り組みという両方 の課題に対する答えの一部は、より強固で調整された地域的な経済的アジェンダの共同追 求である。最近の経験は、米日経済協力の力を示している。地域的な競争が激化し続ける につれ て、米国と日本の戦略的利益を確保するためには、同盟の経済的次元を強化する ことが不可欠である。これは太平洋の両側での熱心な取り組みを要求するだろう。米国と 日本が商業問 題で競争しているが、トランプ政権は、日本は経済的な競争相手ではない ことを認識する必要がある。むしろ日本は共有された価値と利益をともにする死活的なパー トナーであり、我々の共有された利益を前進させ、アジアにおいて独立した指導的な役割 を果たすことのできる存在であり、その経済的成功は米国にとって直接的・間接的な利益 の両方をもたらすのである。


アメリカと日本の貿易と投資の利益はおおむね一致している。我々の経済外交はその共 通のアジェンダを反映し、拡大させるべきである。TPPからの米国の撤退は、中国の経済 的選択を形成するのに必要なルールの作成と市場への影響力をワシントンと東京の両方に 損なった。ワシントンにおけるTPPの政治は近い将来は好都合でない。そこで、北京が貿 易と投資のための代 わりとなる規則のセットを擁護し続けている中で、米国と日本がど うやって勢いを回復できるかという問題がある。

アメリカが貿易政策に関して自らの方向性を見出すまで、日本に地域的な経済協定のリー ダーとしての役を割り当てることによって、安倍首相は一つの重要なステップを前に進め ている。米国が加わることがなければ協定の経済的なインパクトは大いに減少することを 認めながらも、 CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の他のメンバーは日本のリーダーシップを歓迎している。米国における現在の政治環境の ためにこれは必要であるが、 日本は、ルールに基づく高水準のリベラルな経済秩序の支 持と前進を確実にする経済的重要性を有するこの地域における唯一のもう一つの国である ので、また適切でもある。このことは、 東京がワシントンのイニシャチブの支持を超え て、地域秩序の共同のリーダー・真に平等なパー トナーとなるために進まなければなら ないこと、ワシントンが近い時期に支援的ではない場合にも我々の共有するアジェンダを 推進させる提案を前進させることを望みまたそうできること を、意味している。

米国と日本はまた、全体の地域を横断する投資に基づき「デジタルな絹の道」を創出し、 ハイテク産業を支配するという公表された戦略を含めて、中国の略奪的な経済政策から のオープンな地域構造に対する大きな挑戦に直面している。北京によるこれらの宣言が有 望なものである か否かにかかわらず、米国・日本・欧州連合は世界中で相対的にオープ ンな規則を基盤にした投 資環境を保持するために、共通の戦略が必要であるという事実 が残っている。

野心的なアジェンダ

米国と日本はどのようにして、増大する国内外の挑戦に対応して同盟を強化することが できるだろうか。同盟国は特定の行動可能なイニシャチブの野心的なセットを確定するこ とから始める必要があり、その後にそれらを上手にまた緊急に実行することに着手しなけ ればならない。潜在的なイニシャチブを選ぶ際に、同盟は3つのなすべき命題に焦点を当 てるべきである。すな わち、戦略的有効性、政治的持続可能性、資源の効率性である。

同盟の全体的な目的は共通の利益を保護することである。我々はこのことを忘れてはな らな い。中国、北朝鮮、ロシアによって開発され実行されている、軍事能力と強制的行 動の成⻑する陣容を考慮すると、同盟国の抑止力と戦闘効果を強化することが、一番大切 である。それに加えて、 太平洋の両側からの国内の政治的支援がなければ、米国も日本 も信頼できる同盟国にとどまる ことはないだろう。したがって、政治的な持続可能性は 必須命題であり続ける必要がある。最後 に予算はワシントンでも東京でも限定されてい るので、同盟国はまた、乏しい資源をもっとも 効率的に利用しなければならない。

これからの数年間で、米国と日本が同盟の有効性、持続可能性、効率性を強化するため に行うことができるものはたくさんある。我々はいくつかのカテゴリーに分類される、10 の具体的なイニシャチヴを提案する。二国間の経済的結びつきを強めるために、我々はオー プンな貿易と投資の体制への再コミットを勧告する。作戦の調整を深めるために、我々は、 共同の基地から作戦すること(operating from combined bases)、共同の合同軍を設立する こと(establishing a combined joint task force)、日本の合同作戦司令部を創出すること (creating a Japanese joint operations command )、合同の不確定事態の計画を実行するこ と(conducting combined contingency planning)を勧告する。共同技術開発を前進させるた めに、我々は防衛装備を共同開発すること、ハイテク協力を拡大することを勧告する。地 域パートナーとの協力を拡大するために、我々は三国間の安全保障協力を再活性化させ、 地域基金を立ち上げ、より広範な地域経 済戦略を形成することを勧告する。各々の勧告 は以下に述べる通りである。

二国間の経済的な結びつきを強化する

1)オープンな貿易・投資体制への再コミット
TPPの米国の拒絶によって引き起こされた制約を認識して、日本と米国はアジアの貿易 自由化を前進させ、高い期待を設定し、決定的な規範を再確認できるイニシャチブを特定 すべきである。米国の全面な参加を最終目標として、日本はCPTTPを引き続き支持すべ きである。その一 方で、日米の交渉者は我々の経済の間で増大するセクター別貿易自由 化を達成するために、TPP のアジェンダを用いるべきである。両国政府は残っている構 造的問題に取り組むための実務上の議題を設定するために、両方の首都からの上級の政府 高官とともに、米日のCEOがともに参加 する「ビジネスと政府の対話」を設立すべきで ある。米国は、これらの対話に告知でき、米日の 貿易自由化にとって将来の図を描くこ とができる韓国、シンガポール、オーストラリアとの自由貿易協定を有している。

作戦上の調整を深化させる


2)統合された基地から作戦をする

第二次世界大戦後、米軍と日本軍(およびそれらの構成的なサービス)は日本にある別々 の基地から運用してきた。日本にある一つの基地のみが、合同して統合されたものになっ ている。それは三沢基地であって、米空軍、陸軍、海軍と日本の航空自衛隊をホストして いる。別個の基地から作戦行動をすることは、戦闘面の制約があり、政治的な責任も意味 する。それは同盟がもはや持つ余裕のない 贅沢品となっている。日本における港湾およ び飛行場の数が限られていることを考えると、別々の基地を使用することは、同盟軍の柔 軟性に制限を加える。それに加えて、別個の基地を運用することは 非効率的であって、 施設と能力の重複を強要するし、我々が促進を求めている合同し統合された戦闘のアプロー チを損なうものでもある。おそらく一番重要なことは、別個の基地を運用することは、潜 在的なくさび形隊形の障害物を生みだすので、同盟にとって政治的な脆弱性を作り出すと いうことであ る。


これらのすべての理由によって、同盟は、同盟国基地の合同し統合された使用に向かっ て進むべきである。これは、同盟の戦闘上の効果性、政治的持続可能性、資源の効率性を 最大化することになる。第一段階として、両国政府は、どのようにして法的かつ作戦的な 課題を克服するかを学ぶために、現存の統合された基地からの教訓を学習すべきである。 最終的には、日本に駐留するすべての米軍は日本の旗のある基地から運用すべきである。 ⺠間の港湾及び飛行場へのアクセスは偶発事態においてまた必要となるだろう。これらの 措置は、同時に戦闘能力を最大化し、負担分担の懸念に対処しながら、 同盟がホスト国 の住⺠への負担を最小にするために働いていることを、示すことになる。

3)統合された合同軍を設立する


米国と日本が統合された作戦により重点を置くにつれて、同盟の既存の司令構造を更新 する必要がでてくる。重大な偶発事態において、現行の指揮関係は、最小限に言っても、 複雑なものである。米国側では、インド太平洋司令部の司令官は、戦闘を指揮するだけで なく、ワシントンとの関係を管理 し、同盟軍と連絡をとることも含めて、様々な機能を果たしている。これは世界の人口と表面積の半 分以上について責任をもつ司令官にとっ て、大きな重荷となっている。米国と日本が危機においてよ り効果的に一緒に作戦をす るためには、両国は⻄太平洋に関して統合された合同軍を創設すべである。 


統合された合同軍は、台湾・南シナ海・東シナ海での中国との想定される偶発事態に焦 点を当てることができる。そのような統合された合同軍は基軸的な米国の同盟国、特に日 本を含むべきであり、 米国の同盟国及びパートナーと調整して開発される必要がある。 危機の時にそのような部隊を立ち上げることは難しいので、統合された合同軍は常設のス タッフと日常的な訓練と演習の責任を含むべきである。この地域は多くの領域での作戦を 要求するので、統合された合同軍の司令官は各サービス間 で交代すべきである。このよ うな組織は日本の司令官に偶発事態における対応者のいっそう明確なセッ トを与え、サー ビスの機能時障害を取り除くのに役立つであろう。

4)日本の合同作戦司令部を創出する

米国がその司令と指揮命令系統を更新する必要があるのと同じく、日本もまたそのよう にする必要がある。日本の現行の司令部の構造は、日本の自衛隊の統合幕僚⻑にあまりに 大きな負担を課している。現在、統合幕僚⻑は戦闘司令官と防衛の⻑の両方として効果的 に働いている。これらの職責を分 断することは、特に重大な不測の事態の発生時には、 日本軍の作戦上の実効性を増大させる。したがっ て、日本は統合幕僚⻑の責任のいくつ かを下位の司令官に委任すべきである。

日本はよりフォーカスされた軍をもっているので、米国の戦闘指揮構造は日本が模倣す るには悪いモデルである。そのかわりに、オーストラリアのもっと合理化された指揮構造 のほうがいっそう適合 すると、我々は信じている。オーストラリアは、合同作戦の⻑と して仕えている三星の司令官によっ て指揮される合同作戦司令部を設立した。この司令官はすべての軍事作戦と軍の訓練と準備について 責任をもっている。このようなモデル は、将来の作戦を遂行する軍のメンテナンスと準備を確保する 必要性とともに、高いテ ンポの日常的な作戦の要求の緊張を管理している日本の司令官たちの助けとなるだろう。 従って日本のリーダーたちは、オーストラリアの構造をモデルとするが、日本の特有の組 織的・法的・歴史的・文化的特性を考慮して修正された、彼ら自身の合同作戦司令部を創 出すべきである。アメリカと日本の指導者たちはそのような司令部が米軍とまたそれらの 進展する指揮構造と 一緒に緊密に働くことができるように、ともに働くべきである。

5)統合された不慮の事態の計画を実行する

米国と日本が侵略行為に迅速に対応するには、既存の対応計画とオプションをもつ必要 があ るだろう。統合された作戦はますます統合された計画を必要とする。いくつかの統 合された計画がすでに存在しているが、それはあまりにその場限りのもである。中国はし ばしば既成事実の戦術に頼っており、それは遅い決定策定サイクルを利用するものである。 同盟の決定策定のスピードを改善することが、従って重要である。司令官は、ある種のタ イプの作戦の場合には政治リー ダーによる事前の調整を必要とするので、迅速に行動す る必要がある。それに加えて、そのよう な事前計画は米国と日本の防衛軍によって行われるだけでなく、日本の海上保安庁を含めた種々の法執行組織とともに、行われるべきで ある。

統合された計画は⻑らくヨーロッパとアジアの両方におけるその他の米国の同盟国の一 つの特徴になってきた。例えば、米軍と韓国軍は、北朝鮮のエスカレーションを抑止し対 応するため の反撃計画を共同開発してきている。事前の計画と調査は、北朝鮮の冒険主 義を制限するのに役立ってきた。それに加えて、エスカレーション行動がより大きな同盟 の調整を導くことを示すことによって、統合された計画は侵略の動機を無くす助けとなる ことができる。特に東シナ海ににおける成⻑する挑戦に直面して、この付加的な抑止力は 決定的である。それに加えて、同盟国は、 主要な紛争のレベルの下で起きる侵略を含め て、いわゆる「グレーゾーン」において米軍のより 早期の関与を考慮すべきである。米 日安保条約第5条の下での武力攻撃の閾値を超えるかどうか にかかわりなく、いかなる侵 略行為もより深い同盟国の協力の引き金となることを、このステップは明らかにするだろ う。従って、同盟国は関連する法的制限に従って、より構造化された統合された計画に従 事すべきである。協力を進化させるために、日本は、自衛隊の将官を、インド太 平洋司 令部の計画スタッフを含めて、関連する米国の部隊内に組み込むべきである。

 
 

共同技術開発を前進させる

6)防衛装備を共同開発する

米国と日本は共通の能力要件に焦点を当てて、合同研究開発の努力を拡大し続けるべき であ る。SM-3 ブッロク IIA 弾道ミサイル迎撃弾のようなシステムの最近の合同の共同開 発は、共通の能力要件を満足させる両国の専門性を活用する同盟の能力を示してきた。合 同研究開発の努力を継続的に拡大させることは、同盟国の防衛支出の効率性と有効性の両 方を増大させるだろう。急速に現代化する中国軍に直面して、同盟国は合同の脅威評価を 実施し、より高度なシステムを 引き続き獲得し、斬新な運用コンセプトを開発しなけれ ばならない。

米国と日本は種々の領域を横断した様々な専門分野から利益を得ることができる。地上 では、 同盟国は、共同開発した新しい先端レーダー、より費用効果の高いミサイル防衛、 ⻑距離の対艦 ミサイルの共同開発を目指すべきである。空中では、同盟国は、新しい戦 闘機と ⻑寿命海洋領 域認識プログラムを開発する努力を続けるべきである。海では、同 盟国は、将来の海上戦闘員のための設計を共有し、海底システム用のバッテリー技術につ いて協力し、新しい水陸両用車につ いて一緒にに働くべきである。宇宙では、同盟国は、 宇宙情勢認識能力を改善し、宇宙建築物 の強靭性を拡大することを追求すべきだ。これ らは米国と日本が協力して取り組むべき領域のいくつかにすぎない。これらの線に沿った 共同の努力は、米国と日本の政府と両国の防衛産業の基盤の両方の、持続的な緊密性を示 すことになろう。

7)ハイテク協力を拡大させる

米国と日本は、情報共有、サイバー、宇宙、人工知能を含めた、多様なハイテク問題に 関する協調を改善すべきである。これらの領域における同盟国のリーダーシップは、両国 の経済的な将来、持続的な安全保障に対して決定的である。米国は政府と⺠間セクターの 両方において、これらの領域のそれぞれにおいて前進している。同盟国が技術開発努力を リンクさせるためにともに働かなければ、日本はこれらの領域のいくつかにおいて置いて いかれてしまう危険がある。

⻑期のより深い協力のための一つの機会は、米英豪加ニュージランドとのFive Eyes intelligence sharing network(五カ国情報共有ネットワーク)に日本を包含することであ る。日本はすでにこれら諸国と強い関係を築いているが、他方で、ミサイル防衛、対潜水 艦戦、宇宙をベースにしたイメージ化についての情報の共有は、重要な前進の一歩を記す ことになる。五カ国ネットワークへの包含を現実的な可能性とするのに必要な、安全保障 上の保護を採択するように、日本は急いで動くべきである。もう一つの潜在的な機会はサ イバー・セキュリティーにあり、それは東京での2020年のオリンピックに先駆けて重要で あろう。米国政府と米国の⺠間 部門は、この領域における協力を拡大するために、日本 の当局や会社と一緒になってより緊密に働くべきである。宇宙や人工知能のようなその他 の領域においても、同じことがあてはまる。これらはより大きな同盟の協調と協力を要求 する、経済的・軍事的な両方の競争が増大する領域である。

地域的なパートナーとの協力を拡大する

8)三国間の安全保障協力を再活性化させる

米国と日本は北朝鮮が、核兵器、弾道ミサイル、その他の大量破壊武器のすべてを永久 にか つ不可逆的に廃棄すべきだという目標を共有している。米国と韓国の最近のサミッ ト外交にもかかわらず、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルのスペクトルは、すべての3つの 同盟国の安全保障に対する現存する脅威のままになっている。米国と北朝鮮間または南北 朝鮮間の将来の対話の方向性がどのようなものであれ、政府の最上級レベルにおけるワシ ントン、東京、ソウル間の積極的 で定期的な三国者の政策調整はより効果的な外交を確 実なものにし、三つの同盟国のすべての利益を保護するであろう。平壌はこれらの同盟関 係を壊すことを追求しているので、我々は、三つ の同盟国が引き続き政治的に強く、軍 事的に有能であることを示す努力をすべきである。

偶発事態のためによりよい準備をするために、日韓の二国間防衛協力は、情報の共有の 改善 および軍備の整備に焦点を当てるべきである。それは、また各国の米国との二国間 同盟を強化することになる。三つの同盟国は、北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、脅威の拡 散に対抗するた め、三国間の演習を拡大すべきである。もっとも重要なことは、北朝鮮 との交渉が可能な平和条 約を含めて未知の領域に進んでいくとしても、米国、日本、韓 国が統一した立場を維持し、いかなる中核的な同盟の権利をも犠牲にすることを避けるこ とが決定的となる。演習、部隊のプレゼンス、ミサイル防衛は、北からの検証できない不 完全な非核化の約束のための、取引のため のチップとなるべきではない。なぜなら、そ の選択は、結局は、米国、日本または韓国をより 安全にしないからである。

9)地域的なインフラ基金に着手する

おそらく米国と日本にとっての最大の地域の挑戦は、インド太平洋地域の全域で中国の 政治的・ 経済的影響が拡大していることである。特に中国の一帯一路構想は、特に東南 アジア、インド洋、 太平洋諸島の小国に関して、実質的な影響力を与えている。事実、ア ジアは下部構造にもっと多くの投資を必要としているし、ビジネスは本来競争力があるが、 競争はオープンでかつルールベースでなければならない。地域のインフラへの中国の投資 はしばしば歓迎されるが、それが作り出している、そして時には使われることもある威圧 的な政治的・経済的な影響力はそうではない。 米国と日本の同盟は、魅力的な選択肢を 提示できることを立証しなければならない。立法機関が機能し、よい統治、自由なプレス がある開かれた社会への米国と日本の支持は、この地域の諸国が、オープンで威圧的でな い環境におけるインフラ投資を自由に選ぶことを確保する助けとなるだろう。その際に、 米国と日本は中国の投資の範囲または規模−それは、1 兆〜8 兆ドルに及ぶと様々に宣伝 されている−に匹敵することを求めるべきでない。結局、この地域における同盟国の外国 直接投資は相当な額になっているが、それは⺠間の会社や商業的論理によって主に実行さ れている。これは中国のアプローチの場合には部分的にしか当てはまらない。

最大のインパクトを得るためには、米国と日本は、この地域のもっとも魅力的なプロジェ クトとパートナーに投資することを選ぶべきである。地域のプレイヤーは投資を望んでい るが、彼らはまた負債の罠、腐敗と強制を避けることを望んでいる。したがって、高水準 の投資、ローカルな労働の雇用、社会的環境的なセーフガード、オープンな調達の慣行、 および一貫した投資収益に対する同盟国のコミットメントは、依然として魅力的である。 同盟国は、世界銀行、アジ ア開発銀行、アジア太平洋経済協力などのような現存の多国 間機関を利用し、またそれらに投資 することによって、これらの高度な標準を促進すべ きである。これらの機関では米国と日本は不均等な影響力をもっている。この価値を実証 するための一つの選択肢は、インフラと能力構築のための、地域的な基金を立ち上げるこ とだろう。そしてそれは、米国・日本及び他の国々がインド太平洋中のそれぞれの投資を よりよく調整し、目標設定することを許すことになろう。そのような努力の主要パートナー には、とりわけオーストラリア、韓国、インド、ニュージーランドが含まれるべきである。

10)より広い地域的経済戦略を構築する

2016年11月の選挙は、米国または日本の永続的な経済的利益を変化させなかったし、ワ シン トンと東京の間の商業的財政的収束をもたらしてきた強力な明白な潮流を変更もし なかった。 TPPに加入署名することの米国の失敗は、米日合同経済の政治的手腕に対し て重大な後退を与えたが、それは協定の根底にある論理を排除しなかったし、さらなる協 力についての扉を閉めることもなかった。日本と米国は、東南アジアにおける支配的な投 資者にとどまっており、そこで はアメリカの⺠間投資だけで中国のそれより約三倍以上 になっている。貿易、投資、開発、財政 サービスにおける現存の指導力を活用すること は、我々の共有された地域利益の保護にとって不可欠なものとなる。これは、短期的な二 国間貿易赤字について狭く焦点を当てるよりも、我々の経済とビジネスのリーダーたちが 持つべき、⻑期の討論のタイプである。米国と日本は経済的 論点の95%について同意して いるが、我々はお互いの違いを討論するのに95%の時間を費やしている。

米日安保条約の第2条を履行するには、以下のようないくつかの基本的な問題に答える、 リフレッシュされ再構成される二国間の経済的な対話が必要となる。それらは、基本的な 意味において(例えば、インターネット・ガバナンスのような新しい経済の呼び物)、あ るいは制度的な文脈の範囲内において(例えば、アジア開発銀行 やその他の市場を基盤 とした開発メカニ ズムの支援)、あるいは国別ベースに基づいて(例えば、ミャンマー かベトナムか)、米国と日本が効果的な協力を追求している分野はどこか。未発達なまた は機能不全の協力のメカニズムはどこにあるのか。ワシントンと東京が誤った立ち位置に なっているのはどこかという問題である。 TPPからの米国の撤退は、ワシントンと東京 が、共通の戦略的利益のために相対的な経済的利点を発揮する創造的な方法を、もっと積 極的に追求することを必要とする。我々の資産の批判的な評価と、公的・私的なセクター 両方を含めた調整に対する再度の想定のアプローチが、我々と我々の地域的なパートナー が望む共有された未来を確保するのに大いに役立つだろう。

実際にはより効果的な協力とは何を意味するのか?第一に、それは共通の優先事項を損 なう注意散漫を避けるべきである。経済的利害が時には分かれることがあるが、我々は市 場に損害を与えることなくこれらの違いを狭くし、危険を軽減することができる。そうし た中で、市場 アクセスの問題は国家安全保障問題として誤って見なされてはならない。


第二に、東京とワシントンは、最良の慣行を活用した強力な投資と財政体制を通じて、 地域発展を支援したいという望みを共有している。我々の私的部門の投資、二国間援助ま たは特に ADBやAPECといった投資機関の基礎的な役割の代わりになるものはない。

第三に、両国政府は貿易の成⻑に対する地域的および世界的な障害物に焦点を当てる必 要がある。これらは、国営企業の持続性、それらが作り出している市場の歪曲、我々の二 つの革新的 な経済を推進してきた知的財産の不十分な保護、そして新しい経済会社の成 ⻑と、価値創造を可 能にしつ、オープンで適応力のある政策の必要性を含んでいる。両 国においてまたAPEC やG20 といった地域機関やグローバルな機関を通じて働いている、 以下の諸点を優先化すべきである。 1)デジタル商取引に関するルールの強化。2)国営 企業を規律する共有化されたアプローチ。3))知的財産の保護のための積極的な新基準。 4)問題となってきている部門における世界貿易機構 と一致した市場の公開。

第四の最後は、米国と日本は、通信インフラを支配し、ハイテク投資に関する相互主義 を否定する中国の戦略に直面して、開かれたインド太平洋を保持する戦略に基づいて調整 する必要が ある。中国の略奪的な技術政策に関する日米欧貿易閣僚会議を設立するとい う日本による当初の動きはよい象徴的なステップであるが、三つの強国は共通の戦略に欠 けており、米国と日本 はその討論を始める最良の位置にいる。国家安全保障の関心を提 起している中国の投資家による センシティブなテクノロジーの取得に関して、情報の共有 を増大するために、米国と日本はEU のパートナー、オーストラリア、その他の同盟国と ともに仕事をすることができる。

結論


米国は日本以上によい同盟国をもっていないし、今日この同盟はこれまで以上により重 要で ある。共通の価値観、強固な⺠主主義、革新的な経済、地政学的影響力、そして実質的な軍事的 能力を含めた同盟国の多くの強さのために、米国と日本の同盟は地域の平 和と安全保障の隅石であるとしばしばラベルを貼られている。しかし、同盟国には⻲裂が 見え始めている。きたるべき数十年間米日同盟を再構築するには、厳しい決断と持続的な 実施が必要であろう。同盟国の求める、平和で繁栄した地域・国際秩序の環境を保持して いくためには、米国と日本が、オー ストラリア、韓国、インド、アセアンのメンバーやそ の他を含む主要な地域的なパートナーとより緊密に働くことが必要になる。ここで概観し たアジェンダは、21世紀の残りの期間に同盟と世界のよりよい準備のために今日まで行わ れてきた重要な仕事に基づいたものである。


戦争法(安保法制)施行の現在

2017年09月12日 | 研究会報告
戦争法(安保法制)施行の現在
2017年9月10日 平和憲法研究会報告
大内 要三(日本ジャーナリスト会議)



1.日米同盟のもと「先軍政治」の継続

 ① トランプの防衛政策は不確定で場当たり、国防総省の人事発令も進んでいない。米QDR(4年ごとの国防計画見直し)最新版は2014年3月。軍事では2015年7月1日に発表されたNMS(The National Military Strategy of the United States of America)が最新版。同報告書は初めて中国を「深刻な安全保障上の懸念」と書いたが、遅すぎた警告と言われる。
 ② 日本ではガイドライン改定交渉のなか2013年12月に、国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画の3点セットが策定された(『法と民主主義」14年4月号掲載、大内要三「安倍政権の安保・防衛政策と自衛隊の動向」参照)。15年に第3次ガイドライン・安保法制が整備された。安倍首相は8月3日小野寺五典防衛相に、来年の新中防策定に合わせて大綱の見直しを指示した。
 ③ トランプ政権と安倍政権がともに揺らぐなか、ハリー・ハリス太平洋軍司令官と河野克俊統合幕僚長を中心に軍軍間協議での対処を政府が追認する「先軍政治」が続く。
    *ハリス:1956横須賀生まれ、父は海軍、母は日本人。海軍で3回日本勤務。太平洋艦隊司令官を経て2015から太平洋軍司令官。「尖閣を守る」とたびたび発言。2017.7.28日米軍事フォーラムでアジア太平洋地域が直面する軍事的脅威として、1)朝鮮の核弾道ミサイル 2)中国軍の海洋進出 3)ISのフィリピン浸透を挙げた。
    *河野:1954神奈川生まれ、父は真珠湾攻撃の潜水艦機関長。2008年海幕防衛部長から「あたご事件」に連座して掃海隊軍司令に左遷。海上幕僚長を経て2014統合幕僚長。2017.5.23外国特派員協会で安倍加憲案に対し「一自衛官として、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるならば、非常にありがたい」と発言。次期統幕長といわれた陸幕長の岡部俊哉は南スーダン日報問題で退職、定年延長が続く河野の任期は18年5月27日までで、歴代最長となる。

2.PKO活動における治安維持活動・駆け付け警護・宿営地共同防衛

 ① 法的根拠:改正PKO法3条5項
 ② 安保法制施行の最初の例となるのは南スーダンPKOにおけるこれらの活動と報道されていた。統幕内部文書「日米防衛協力の指針及び平和安全法制関連法案について」末尾の「今後の進め方」=スケジュール表では、15年6月法案成立を前提に、15年12月出国の9次隊準備段階からすでに実施のための訓練を開始し、16年3月から運用される予定だった。
    *統幕内部文書には以下の解説がある。
    ◯「自己保存型」と「任務遂行型」の武器使用権限の違い 
    自己保存型:自己の生命又は身体を守るためのものであり、どのような場面でも憲法第9条との関係で問題にならないため、どのような場面でも権限として行使できる。
    任務遂行型 :自己保存型を超えるものであり、国家又は国家に準ずる組織が敵対するものとして存在しない条件下でしか認められない。
    ◯「駆けつけ警護」又は「宿営地の共同防衛」と武器使用権限の関係 
    駆け付け警護:『業務』であり、その業務に必要な武器使用権限として『任務遂行型の 武器使用』を付与している。
    宿営地の共同防衛:『権限』であり、自己を防衛するために武器を使用できるのと同じく、『自己保存型の武器使用』として宿営地を共同で防衛するために武器を使用できるものである。つまり、宿営地が宿営地内に所在する者にとってのいわば最後の拠点となり、また、最後の拠点である宿営地を防護する武装した要員は、いわば相互に身を委ねあつて対処する関係にあるといつた特殊な事情が存在するために『自己保存型の武器使用』として整理される
 ③2016年7月、ジュバで大規模な戦闘、現地部隊の日報を隠蔽して自衛隊を撤退させず。
 ④2016年8月以降、国内で11次隊の「駆け付け警護」及び「宿営地の共同防護」訓練。関連法規等の講義を含む。統幕内部文書スケジュールからはまる1年遅れ。
 ⑤16年10月8日、稲田防衛相が現地の10次隊を視察、「ジュバ市内と近郊が比較的安定と確認」。10月23日、稲田防衛相が11次隊の訓練状況を視察。
 ⑥2016年11月15日、国家安全保障会議・閣議では南スーダンPKOに参加する陸自に「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」の新任務を付与するべく業務実施計画変更を決定。内閣官房、内閣府、外務省、防衛省が連名の「新任務付与に関する基本的な考え方」を発表。治安維持活動については「我が国が派遣しているのは、自衛隊の施設部隊であり、治安維持は任務ではない」と先送り。
 ⑦2016年12月11日、ジュバで第10次隊(千歳の第7師団基幹)から11次隊(青森の第9師団基幹)へ指揮転移式。11次隊は医官を1人増やし4人に、隊員が携行する救急用品8品に新たに眼球保護具と止血帯1本を追加、負傷者が出ることを想定した編成。これ以前に「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会」は6回の会合を経て2016年6月8日に「検討結果の概要」を発表しているが、第一線救護衛生員の養成は間に合わず来年度開始。
 ⑧2017年3月10日、内閣官房、内閣府、外務省、防衛省が連名で「UNMISSにおける自衛隊施設部隊の活動終了に関する基本的な考え方」を発表。南スーダン「国内の安定に向けた政治プロセスに進展が見られている」ので、今後は「南スーダン政府による自立の動きをサポートする方向に支援の重点を移す」。PKO司令部要員派遣は継続。
 ⑨2017年7月23日-8月5日、モンゴルのPKOセンターでの多国間共同訓練カーン・クエスト17(27カ国約1000名参加)に陸自参加、海外で初の「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」を実動訓練。中央即応連隊35、国際活動教育隊7、陸幕監部4名が参加。日モ間では2012年1月に防衛協力の覚書を交わし陸自は能力構築支援を行い、以前からカーン・クエストにも参加していたが、「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」の実動訓練は行っていなかった。

3.在外邦人保護

 ① 法的根拠:改正自衛隊法84条の3、84条の4
 ② 統幕内部文書「日米防衛協力の指針及び平和安全法制関連法案について」末尾の「今後の進め方」=スケジュール表では、警護・輸送については16年3月運用開始、救出に関しては同じスケジュールだが点線表記すなわち不確定となっていた。
 ③2016年7月1日夜、 バングラディシュのダッカでレストラン襲撃テロ事件。親イスラム国のアンサール・アル・イスラムが予告、翌朝のバングラ軍・警の制圧で民間人20、犯人側6、 警察官2人が死亡。 犯人側に元立命館大学国際関係学部モハマド・サイフラ・オザキ准教授が加わっていたと報道された。日本政府は2日にこの件で国家安全保障会議を開催、3日 政府専用機(千歳基地の空自特別輸送航空隊が運用)をダッカに派遣、被害者7遺体と家族を輸送。
 ④2016年7月7日から南スーダンのジュバの状況緊迫。邦人輸送のため11日、小牧基地の空自C-130輸送機3機を那覇を経てジブチに派遣(うち1機は機体トラブルのため代替機に差し替え)、14日朝ジブチ到着。同日空自機はジュバから大使館職員4名をジュバからジブチに退避させた。ジュバ滞在のJICA関係者等93名はこれに先だってチャーター機で退避。自衛隊による陸上輸送は実施せず。日本から南スーダンまでの移動に3日かかったプロペラ機C-130でなく、より高速大型のジェット機であるKC-767空中給油機や政府専用機を使用しなかった理由は、ジュバ空港の整備が不良のためとされる。またジブチ常駐のP3C哨戒機が動かなかった理由は不明。ジュバ滞在自衛隊PKO部隊は国連PKO司令下にあり、邦人だけを選別しての救出は不可か。
 ⑤ 以上2例が「在外邦人輸送」での自衛隊派遣とされる。「輸送」はあるが「救出」はない。
 ⑥16年12月12-16日、市ヶ谷・相馬原・入間・相模湾を結び、平成28年度在外邦人保護措置訓練。陸自210、輸送艦おおすみ、C-130輸送機が参加、在外邦人の一時集合場所が暴徒に囲まれた場合、輸送経路がバリケードで通行妨害にあった場合を想定。
  ⑦17年2月、タイで行われた米タイ共同主催の多国間共同演習「コブラゴールド17」の一環として自衛隊は、タイ軍、米軍及びマレーシア軍とともに、在外邦人等保護措置訓練を実施した。

4.米艦防護

 ① 法的根拠:改正自衛隊法95条の2
 ②17年5月1-3日、横須賀を母港とする米補給艦Richard. E. Byrd(210m, 満載排水量40,000t)を、ヘリ搭載護衛艦「いずも」(248m, 基準排水量19,500t)が、横須賀から九州南方海上まで防護、中途から「さざなみ」(151m、4,650t)も参加。米艦防護実施の公式発表、公式記録なし。海自HPでは「いずも」は5月1日から3日まで、「さざなみ」は5月3日に、Richard. E. Byrdと「共同訓練を実施」したことになっている。マスコミは2日、米艦防護発令について「日米政府関係者によると」と報道した。産経新聞等に写真報道あり。
 ③9日参院予算委で稲田防衛相は「実施の逐一についてはお答えすることは控えさせていただいております」と答弁。安倍首相は「法律上、国会報告の対象とはされていません」「米軍等を警護している際に自衛隊または米軍等に対し何らかの侵害行為が発生した場合など特異な事象が発生した場合には、事実関係を速やかに公表」と答弁。
 ④ このときRichard. E. Byrdはグアムの米軍西太平洋補給センターで弾薬等を積載して横須賀  に寄港、自衛艦の防護から離れたのち佐世保に寄港、のち日本海に展開中のカール・ビンソン空母打撃群に弾薬等を補給。自衛艦は安全な太平洋で米艦防護、朝鮮がミサイルを連発する「危険」な日本海で防護せず。日本海まで米海軍と行動をともにすれば、朝鮮に対する威嚇になる。
 ⑤ 米軍の要請があり防衛相が必要と認めた「合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護」のための出動は、正式な発令はこれが唯一とされるが、実態としては海自・空自は、共同演習、共同訓練(予算上予定されたもの)共同巡航訓練(臨時)の名目で、日本海・南シナ海で随時米海軍とともに行動している。事実上の共同FONOPであり、限りなく第3次ガイドラインⅣ章A1 にいう「共同のISR」に近い。
   *FONOP(freedom of navigation operation)、「航行の自由」作戦。米軍は第三国の領有権紛争に介入しない原則を守り、また南沙諸島の軍事使用は台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシアも行っているので、米軍としては南シナ海ではFONOP、ISR、公海上での演習以上の介入は困難。
   *ISR(intelligence, surveillance, and reconnaissance)情報収集・警戒監視・偵察。
 ⑥「いずも」は5月1日、シンガポール主催国際観艦式参加のため横須賀を出港と発表されていたが、3日まで米艦防護、5日補給艦「ときわ」から洋上補給を受けた。7日から10日まで南シナ海で米イージス艦Sterett、同Deweyと共同巡航訓練。12日、多国間洋上訓練に参加。15日、国際観艦式に参加。18日、南シナ海で米沿岸戦闘艦Colonadoと共同訓練。20日、ベトナムのカムラン湾に入港、22-23 日パシフィック・パートナーシップ17(多国籍医療・捜索救助等演習)に参加。27-28日、南シナ海でDeweyと共同巡航訓練。6月4日、フィリピンのスービックに親善訪問、ドゥテルテ大統領が乗艦。8日、フィリピン海軍フリゲートと親善訓練。9-10日、南シナ海で日米豪共同巡航訓練。13-15日、米第5空母打撃群と共同巡航訓練。   19-23日、南シナ海でASEAN乗艦協力プログラム。7月10日~米印日共同演習マラバール17に参加。呉を母港とする「さざなみ」も5月2日出港後パシフィック・パートナー17まで「い   ずも」と同行。
 ⑦「共同巡航訓練」の例(海自HP等に写真掲載)
  3月27日 Carl Vinson、さみだれ、さざなみ
  4月15日 Carl Vinson、ゆうだち、さみだれ、さざなみ、うみぎり、はまぎり
  4月26日 Carl Vinson、あしがら、さみだれ
  4月28日 Carl Vinson、Lake Champlain、Michael Murphy、Wayne E. Meyer、あしがら、さみ だれ、空自F-15、米海軍F/A18
  6月 Carl Vinson、Ronald Reagan、ひゅうが、あしがら、空自F-15
   *共同巡航訓練 PASSEX についてWikipedia に次の説明がある。
   A passing exercise (a PASSEX in U.S. Navy terminology) is an exercise done between two navies to ensure that the navies are able to communicate and cooperate in times of war or humanitarian relief.

5.敵基地攻撃能力

 ①2013年12月17日、防衛計画の大綱中に「統合機動防衛力」の中身として「弾道ミサイル攻撃の発射兆候を早期に察知、対応」という表現があり、敵基地攻撃を示唆するのではないかと問題にされた。
 ②17年3月30自民党政務調査会発表「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」(自民安保調査会・弾道ミサイル防衛に関する検討チーム・小野寺座長がまとめた)
  1)弾道ミサイル防衛能力強化のための新規アセットの導入……イージスアショア(陸上配備型イージスシステム)、THAAD(終末段階高高度地域防衛)
   *Aegis Ashoreはイージス艦のシステムをそのまま地上に設置するもの。NATOがイランの弾道ミサイル開発に対抗して実用化、ルーマニア、ポーランドに配備。SM-3ブロック2Aを使用。警戒衛星、海上の日米イージス艦と連携、飛来する弾道ミサイルをミッドコースで迎撃。ロッキード・マーティン製。
   *Terminal High Altitude Area Defense missile は飛来する弾道ミサイルをターミナルフェイズでPAC-3より高高度で迎撃、命中度が上がり対応範囲も広がる。移動可能。在韓米軍への配備をめぐり米中韓の角逐があった。稲田防衛相が17年1月13日グアムで視察。ロッキード・マーティン製。
  2)我が国独自の敵基地反撃能力の保有……警戒衛星、巡航ミサイル
   *巡航ミサイルはジェットエンジンにより飛行するので、ロケットエンジンを使用する一般のミサイルより低速だが、低高度を飛行するためレーダー捕捉されにくく、誘導制度が高い。     陸上、艦船、水中からの発射可、核弾頭搭載可。米トマホークや中シルクワームが有名。これまでにも陸自・海自が何度か配備を要請したが実現せず。
  3)排他的経済水域に飛来する弾道ミサイルへの対処……現自衛隊法82条3によるミサイル破壊措置は「我が国領域」に限定
 ③「敵基地攻撃」でなく「反撃」としたところがミソ。1)2)は新装備導入、3)は法的措置。日米軍事産業の要請に応え日米同盟を強化するもの。
 ④ 安倍首相は8月6日の記者会見で敵基地攻撃能力について「現時点で具体的な検討を行う予定はない」と述べたが、大綱見直しで検討されると見られる。

6.調整メカニズムの稼働

 ① 根拠:第3次ガイドラインⅢ章
 ②15年11月3日の日米防衛協力委員会(SDC)で、同盟調整メカニズム(ACM)と共同計画策定メカニズム(BPM)の設置について合意し、同日の日米防衛相会談で歓迎された。以後、常設のACMが平時からあらゆる自衛隊・米軍共同行動の調整機関となっている。
 ③ 実動でのACM稼働の最初の例が16年4月18日、熊本地震に際しての米軍オスプレイによる救援物資輸送。(『憲法運動』16年8月号、大内要三「自衛隊災害派遣と海外派兵の狭間で」参照)
 ④16年11月、日米共同統合実動演習「キーンソード17」の一環として、重要影響事態における共同救助活動の訓練が実施された。脱出し海上に降りた米軍パイロットをヘリで回収する想定。
 ⑤17年2月、タイで行われた米タイ共同主催の多国間共同演習「コブラゴールド17」の一環として、指揮所演習で「国際協力支援法に基づく協力支援活動や船舶検査活動に関する内容を取り扱」った。詳細は不明。
 ⑥17年6月、伊豆半島沖で起きた米イージス艦とコンテナ船の衝突事故に際して、自衛隊は海保からの要請により「災害派遣」による「捜索救助」のため出動。(日本ジャーナリスト会議広島支部http://jcj-daily.sakura.ne.jp/hirosima/news.html 大内要三「米イージス艦事故で自衛隊出動」参照)

7.朝鮮・中国包囲網へ

 ①8月17日、7月実施予定だったが日米双方の都合で延期されていた日米安保協議委員会(2+2)が開催された。15年4月以来。ティラーソン、河野、マティス、小野寺。報道では朝鮮ミサイル対応に関して、共同発表の「米国の核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じた、日本の安全に対する同盟のコミットメントを再確認した」「北朝鮮に対する圧力をかけ続け   ることで一致した」「中国に対し……断固とした措置をとることを強く促した」という部分が注目された。
 ② 南シナ海に関しては中国を名指しせず「関係当事者による威圧的な一方的行動への反対を再確認」、「航行の自由を支える各々の活動(共同巡航訓練=航行の自由作戦の一環であることを示す)二国間及び多数国間の訓練及び演習並びに調整された能力構築支援を通じたものを含め……継続的な関与の意義を強調した」。河野外相は記者会見でこの能力構築支援に5億ドルと述べたが、外務省によればこれは 「ベトナムの海上警察やフィリピンの沿岸警備隊に対して、巡視船や巡視艇合わせて16隻を供与することなどを計画」だという。
 ③ 拉致問題への言及は「米国市民を含む北朝鮮に拘束されている全ての外国人」との関連で。尖閣への言及は「東シナ海における安全保障環境」の一環として。全体として「同盟における日本の役割を拡大し、防衛能力を強化させる」。
 ④2015年ガイドライン実施に関しては、「同盟調整メカニズムが成功裏に活用されていることに留意」。「拡大抑止協議を通じて本件における関与を深める」。
 ⑤「南西諸島におけるものも含め……日米両政府が共同使用を促進することを再確認」は奄美、宮古・八重山の自衛隊新基地建設が米軍のためのものでもあることを示すとともに、辺野古共同使用も含むか。


補:2017年版『防衛白書』は稲田防衛相辞任のため冒頭の防衛相「刊行に寄せて」を差し替え、予定より1週間遅れの8月8日に公表された。初めて市販本発売前の暫定版のまま防衛省HPに全文掲載された。市販本は奥付8月31日付で発売、電子版9月中旬公開予定。第Ⅱ部3章3節「平和安全法制の施行後の自衛隊の活動状況など」(276~280頁)に、本報告2、4に関する記述のほか、新ACSAについての記述がある。


対抗構想を実現する政府の確立と国家の実現にとり何が問題か――「新福祉国家構想」シリーズ第5巻を手掛かりにして

2017年03月26日 | 研究会報告
『対抗構想を実現する政府の確立と国家の実現にとり何が問題か』
――「新福祉国家構想」シリーズ第5巻を手掛かりにして
               2017年3月5日「平和憲法研究会」於明治大学
                                 横田力

<Ⅰ> 閣議決定・安保法制制定後の日米安保体制の現状と問題点

(1) 平時から緊急時まで
・島嶼防衛(閣議決定では「武力攻撃に至らない侵害への対処」として規定)
・ISR(情報収集、警戒監視、偵察)活動の共同展開(ガイドラインでは「平時からの協力措置」)
・アセット防衛⇒従来の武器等の防護から平時の共同演習も含め実質上部隊としての
ユニットの防護へ(ガイドラインが主導、閣議決定でも指摘)
・従来の防衛出動、治安出動、警備・警護活動以外の「緊急事態時」における権限の拡大
 Ex.) 在外外国人保護のための武器の使用等、自衛隊法84条の3⇒94条の5 ①へ
    職務遂行型の武器使用も規定、新設
・重要影響事態法、国際平和共同対処事態法、改正PKO法に共通して、外国部隊との宿営地の共同防衛時における武器の使用を認める。
・改正PKO法における国際連携平和安全活動の新設による、停戦監視型から暴力からの住民保護、民生再建型PKOへの移行(軍民協力、COIN型も当然含まれる Cf.) イラクISAFの事例 )
  当該活動は、国連の決議の他指定国際機関、当該活動の地域間による要請により2か国以上の連携による実施されるものをいう(「国連の統括下」の規定はなく、またそこには「当地域に紛争当事者が消失した場合」、紛争以前の「予防展開」が含まれる)。また国連統轄下で行われる狭義のPKOにも同様の上の任務が追加される形になっている。その上で自衛隊が行う国際平和協力業務には任務遂行型武器使用権限が新設されている(自衛隊法26条)。またそれは同じく新設された活動従事者、支援者からの要請に基づき「駆け付け警護」にも準用されている(3条五号ラ⇒26条②項)。
・当然戦闘行為の存在を前提とする後方支援、協力支援、船舶検査活動、捜索救助活動の
範囲と対象国(機関)の拡大 Cf.) 戦闘地救助も可能なものへ改正
 さらにすべての活動が外国の領域で活動を対象とするものへ拡大






(2) 活動領域のグローバル化
・「わが国領域」「領海及びその上空」による範囲の限定の削除による「周辺事態(地域)」の消去及び「非戦闘地域」「非戦闘予測地域」概念の削除による「後方地域」概念の消去(要するに閣議決定第2章にあるように一律かつ画一的な「一体化」論はとらないということ)
① 対米軍向けだけではなく日米安保の多国関係における機能的展開を補完・協力する体制へ
  〔重要影響事態法の場合〕
② 決定だけではなく要請・勧告・承認(authorize)までも含むあらゆる段階の総会・安保理決議に対処するための活動をするあらゆる外国の軍隊及びそれに類する組織への支援・協力へ(従ってその場合の決議には武力行使の授権型、追認型、遡及適用型が当然含まれることになる) 〔国際平和共同対処事態法の場合〕

(3) 「存立危機事態」認定における切迫性の要件の欠如と「武力の行使」
・'72年政府見解は、自衛権の行使として武力の行使が認められるのはあくまで「国民の生命・自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫(・・)、不正(・・)の事態」への対処としてであった(これに当然、作用法上の必要性と均衡性(比例性)の要件が加わる)。
・これに対して閣議決定及び改正法(2条①四号等)は「…覆される明白な危険がある場合」とする。
・そしてこの点についての政府答弁は二つの事態(武力攻撃事態と存立危機事態)は「同時に該当することが多いと考える」。しかし「一方で存立危機事態に認定されるような場合が同時に我が国に対する武力攻撃が予測(・・)され又は切迫(・・)しているとは認められないこともあり得る」というものであった。
  このことは自衛隊法76条による防衛出動の対象ではあるが武力の行使は認められない切迫事態(同2条二号後段)はおろか、さらにその前の緊迫事態即ち防衛出動待機命令の範囲である武力攻撃予測事態以前であっても認定が行われ、防衛出動による武力行使が可能とされさらに条文上はそれが米軍の行動関連措置と連動し日米共同作戦が開始されることになると考えられる(そのことは米軍行動関連措置法も同時に改正され存立危機事態が組み込まれていることからもわかる)。
・このような構造をみたとき問われるべきは、このような段階で認定される要件で(明確性の要件)によって武力を行使してでも守られるべき「わが国の存立と国民の生命、自由…」に関わる他国(相手国)との関係における利益とは何かということである。
・政府答弁はそれに対して、それは結局は「日米関係の安定と信頼性の確保」であり「日米安保体制の円滑な機能の確保」であるとのこと以上のことは語っていないのである。


(4) (3)の構造の背景にあるものとは
・冷戦の終結以降、湾岸戦争、’93~‘94年の朝鮮半島危機を経てアメリカの世界戦略は’95年2月に発表されたナイ・リポート第3次『東アジア戦略構想』以来アジア重視にシフトされたとされる。
 その後の2000年の第1次アーミテージ報告、’05年の国務省報告『日米同盟:未来のための変革と再編』を経て日米同盟は極東・太平洋地域をこえて世界の中の日米同盟、正にグローバル・コモンズを新たな脅威と多様な事態から守るためのグローバル安保(世界の公共財)へと変革されたといえる。
  そして、それに符合するように日本の安保政策も’97年ガイドライン、’99年周辺事態法、’01年対テロ特措法、’03年イラク特措法及び武力攻撃事態法を柱とする有事関係諸法の制定へと進み、防衛計画のあり方も’95年大綱を経て’04年大綱の多機能弾力的防衛構想を嚆矢として’10年大綱以降は積極的な「動的防衛力構想」へと進み、’14大綱ではほぼ完全に拒否(静的)抑止の立場に立っていた’76年大綱以来の基盤的防衛力構想を否定し、所要防衛力⇒脅威対応型のものへと転換させていったのである。
 そこでは国家観も変化し、平和協力国家・平和貢献国家から積極的平和国家そして今日の「国際協調の下で、積極的平和主義を標榜する国家」へと至るのである。
・そして留意すべきは、アメリカによって目指されたアジア・太平洋地域における日米を中心とするハブアンドスポークス型の同盟体制が目指したものは単なる同盟軍(our force)の展開ではなく、相互調整メカニズムをもった軍事機構(our force structure)の確立だったということである。
 これはすでに’97年ガイドライン(及び’96年の日米共同声明)において周辺事態に備えるための日米協力が単なる「協同行動計画」をこえて有事の際の「共同作戦計画」へと転化することを含んでいたのであり、この延長線上に’14年ガイドラインが第Ⅲ章「強化された同盟内の調整」において軍軍間調整所の設置を伴う同盟調整メカニズム(ACM)と共同計画策定メカニズム(BPM)の確立をつとに強調する意味があるのである。
・つまりこのような構造からなる日米安保体制の枠組と機能の安定と信頼を確保することが存立危機を認定することの最大のねらいである以上、このことと「国の存立と…国民の生命・自由・幸福追求の権利が根底から覆される」事態との関係はその因果関係においても、近接性⇒切迫性というレヴェルにおいても論証のしようがなく明白性という主観的概念を防衛作用法上の中枢的要件にあてざるを得なかったのである。
・ではこのような構造に立脚した存立危機事態⇒集団的自衛権行使容認の体制に立脚した安保法制を制定しそれを実行しようとする体制に対してわれわれはどのような対抗構想を提示すべきであろうか。次にこの点をいくつかの法学者を中心とした主張を素材にして検討してみることにする。


<Ⅱ> 対抗構想を示す上での理論上の諸課題
   ―平和主義をめぐる憲法の性格規定と諸主張の検討を介して

<1> 「前文―9条―13条」の有機的関係についての原理的解釈
・日本国憲法前文は平和と安全の保障の問題を人権保障の問題と位置づけることで民主的決定を含む政治的決定を統制するところに意義がある。
 〔安全保障は政策判断の問題から人権保障の問題へ〕
・その保障方法は国連体制を別とすれば「平和を愛する諸国民(peoples)の公正と信義」に対する信頼(trust on)による⇒All people of the worldの平和的生存権の主体性の承認と連帯へ
 Cf.) ルフェーブルによる人権宣言等の評価、カント「恒久平和のために」における市民と市民社会の連帯による平和の実現
・9条があることにより13条の国民の生命・自由・幸福追求の権利を保障するための究極のレーゾン・デトールとしての国家の実力による自衛権の行使という西欧立憲主義の系譜にある実力による自由の保障という構図の否定(「近代立憲主義を正当に受容・継承した上でのその内側からの批判」「戦前の歴史をふまえ普通の立憲国家になるためには西欧立憲主義を継承しつつも、9条によるそこからの「断絶=飛躍」も必要であった」等の説明)
・13条の「国民は個人として尊重される」とは、単に個人としての尊厳が保障されるような状態だけでなく「人間としての尊厳」が保障される社会の実現との平和の個人からみた場合の普遍性の主張(平和という当為命題の個人にとっての実現可能性の追求をすべての個人に課すものへ Cf.) カントの倫理的当為命題と比較する意味)

<2> 次に以上のような憲法の構造はわが国において通常の立法及び憲法改正権を拘束するだけでなく憲法制定権力をも拘束するものであるとの主張について
≪今日における「憲法制定権力の危機」とは(シュミット、アンガンベン、
ネグリ等を介して)≫
①その「構成力」自体がもつ危機…一旦構成された秩序を開放系から閉鎖系にして固定化、
                場合によっては馴致する危険
②その「覚醒」による危機…一度作られた憲法秩序の破壊へ
③その簒奪による危機…制憲権者による為政者の行為の正当化としてのその利用





≪そのような中で憲法制定権力はその歴史的「構成条件」による制約を受ける、
 では日本国憲法の場合の「構成条件」とは何なのか≫
①ポツダム宣言受諾による戦前体制と断絶する敗戦という事実の承認
②その事実に裏打ちされた非戦を求める多くの戦争体験者とそれをとりまき継承しようとする国民の存在
③以上をとりまく国連を中心とする国際平和団体の存在とそれを前提とする国際秩序と
国際環境の存在(戦争違法か体制の徹底と定言命題としての武力不行使原則の確立)


≪と同時に憲法制定権力(の主体)は自らの決断の「帰結」を考慮しなければならないという帰結主義的な規範的制約を受ける。≫


≪その選択の帰結とは≫
㋑軍事と経済のグローバルなレヴェルでの一体化したシステムの実現を目指す「帝国」となるのか
㋺それを批判し抵抗する主体からなる「社会的共和国」の実現か、にあり


≪以上の意味で今日の制憲権の危機はその歴史的「構成条件」と帰結への責任ある配慮という二つの点から拘束を受けることで乗り越えることができるとされることになる。≫

◎以上<1>をふまえた<2>の立場を護憲論の中核(core)部分とすると、これに対していくつかの異なった立場が提起されている。

<3>
(1) その中で例えば「動態的憲法解釈論」とでも称すべきものがあり、憲法の解釈はそもそも他の法律の解釈とは異なり法律家集団の議論の中で一義的に決まるものではなく民主主義過程と社会の中での自由で開かれた議論によって決まるものであり、その後の議論の在り方如何では解釈の枠組の変動は当然認められるとするものである。従って、この立場では解釈改憲もいわば憲法の変遷の名の下に認められることになる。
  そしてこの立場からは権力サイドからの解釈による「他律的な」解釈枠組の変動⇒解釈改憲も国民が自由な討論の中でそれを支持するならば単なる「にせ解釈」をこえて正当な解釈になるとされる。
  この点をふまえ、今回の集団的自衛権についての閣議決定とその後の安保法制についての議論状況につき次のような問題点を指摘する。
 即ち、閣議決定に反対する論者は、当初9条に関して無軍備平和を唱えていて政府が国家の実力の整備と自衛隊の発足をふまえた’50年代後半に「自衛のための最小限度の実力は保持しうる」とした「第1回の解釈の枠の変更⇒解釈改憲」及びそれをふまえて展開された’72年の政府見解に典型的にみられるような自衛のための個別的自衛権行使の三要件(「テーゼA」)を認めながら、何故今回の第2回の解釈改憲の正当化の可能性をそろって(そろってというのは<1>・<2>の立場とテーゼAを支持する立場とが)認めようとしないのであろうか、と。
  ちなみに論者によればそもそも憲法の現代日本型立憲主義的解釈には三段階のフェード、即ち自衛権に関していえば①当初は違憲であり合憲の解釈は解釈の「わく」を超えた「にせ解釈」であったか、状況の変化の中で「わく」自体が変動したことによりいずれかの時点で「正解釈」になったとする立場、②自衛隊の存在は依然違憲ではあるが状況の変化により純然たる「にせ解釈」ではなくなり「正解釈」とはいえないまでも何事かの正統性を帯びたものに変容したとする立場、③発足当初から合憲であり、合憲論は正統な解釈であったとする立場。
  そしてここで論者が問題にするのが、テーゼAが主張される場合(それはテーゼBに対抗する関係で<1>と<2>によっても強力にされるものであるが)必ずといっていいほど主張されるAからBへの変更は「立憲主義を壊すものだから解釈によってはできない、AをBにするためには憲法改正手続きによる必要がある」との主張(テーゼA+α)についてである。要するにこれは、今回の閣議決定に対する一番の対抗言論であるテーゼ「A+α」の集約点が立憲主義の破壊であるということならば、平和主義に関しては現在の「<1>・<2>+テーゼA」との連携はそのままでは終始せず第1回の解釈改憲の場合と同じようなフェーズの分岐が生じ、同じような動態的な解釈が積み上がりいずれは正統なものになっていく可能性は認められるとするものである。
  今日、とりわけ平和主義の観点から憲法法源をそのまま維持した上で<1>・<2>+<テーゼA>の連携を強化していく必要性が確認されるところである。

(2) さらに公私二元論⇒リベラリズムと価値多元主義に立つがために<1>と<2>の立場が公共空間に屹立する公的権力の組織原理となった場合、他の立場とりわけテーゼA等を個人の信条として支持する人々に対してどう正当化するのかを問題とする「穏和な平和主義」の立場がある。
 これは周知のように9条の意味を二値論理的なルールではなく、民主主義過程に開かれた討論のための枠組即ち一定の多義性をもった原理であると捉え、その多様性の中からどれを選択するのかは個人の価値判断に委ねられるとするものである。
 枠組としてはテーゼAとほぼ等しく、<1><2>の立場をルール化することは憲法をめぐる対立を解決不能なものとするとの判断に立ち、一つの生き方⇒善の絶対化に対する正義の観点からする統制の主張でもある。ただしこの点の論証はこのようなリベラルな反卓越主義の視点からではなく、「当為は可能を含意する」との当為命題の個人にとっての限界性の視点からの論証の方がより妥当するといえよう。ちなみに別の論者による「人間の尊厳」論はこの限界性に挑戦する担い手像こそが9条⇒平和主義の担い手となることを示唆するものである(蟻川「個人の尊厳から人間の尊厳へ」)。

(3) 以上とは別に自らはテーゼAの立場に立ちつつ、そのような解釈(テーゼA)は9条という憲法法源との関係では解釈の枠を超えた正統性のないもの⇒違憲のものであり、従ってテーゼAに基づく自らの解釈を貫くためには憲法を改正して少なくともテーゼAを明示的に規範化するか、宜しくは9条自体を削除し安全保障構想に関する議論は憲法次元ではなく通常の民主主義政治のプロセスに委せるべきだとの主張がある。
 ただしそこでのエントレンチメントは全くないわけではなく政権交代可能な民主主義システムの確立と人権保障のための法令審査権をもった独立の司法機関の存在がそのための必要条件とされる。
 おそらく安全保障の問題が政権交代により多元化することでその硬直性を緩和し、と同時にそれが対外政策・国内政策に具体化して国民の自由と人権を侵害するような場合には憲法による抑制が働くので結果としてテーゼAまたはそれに近い枠組みは維持されるとするのであろう。
 それでは何故あえて9条の改正にまで踏み込むのであろうか。そこには論者の上に示した理論的枠組みがあるのと同時に、運動に対する大きな違和感、距離感がある。即ち、<1><2>プラス「テーゼA」を支持する立場の人々場が、一方は「テーゼA」が指向する現実は明らかに違憲であるにも拘らずそれを公言せず、ましてや安保闘争以降はそのための運動は展開せず、その現実は9条が守られていることの成果であるとして現状を肯定し、他方は論者から見るならば明確な解釈改憲の立場に立ってその現実を肯定するために護憲を主張するという各々の主張が持つ「欺瞞性」を理由としているのである。
  これでは少なくともテーゼAの立場からする平和主義を肯定し、自由と人権保障からリベラルデモクラシーを肯定する論者の立場からみても、その二つに対抗する関係にあるテーゼBの主張に対する連携と合意形成のための契機を自ら摘むことになろう。

<4>
このこととも関連して検討されるべきなのが、テーゼAをより強固にし、国家の軍事力に統制をかけるために明文改憲を主張する立場である。
これらの主張に共通して認められることは自衛隊を自衛戦力として認め個別的自衛権の行使については自国内に限って交戦権を認めることである。またあわせて軍法や軍事裁判所を認める傾向にあり、これでは国際法規におけるjus in bellow、jus ad bellumのいずれの次元でみても明に自衛隊は軍事力もしくは軍隊と評価されることになる。それは国連活動等に協力する場合には海外での武力の行使は禁止するとしても同じである。
またこれらの見解は、9条に対する<1><2>の主張が「ルール」としての効力を発揮し公的空間を一定統制するだけの力をもっていたからこそ今日テーゼAがテーゼBに対する「最大の対抗言論」となってきた事実を後退させることになろう。例え国際協力がいかに重要であり国民主権を再生させるためには国民による直接の意思表示⇒レファレンダムが必要であったとしてもである。

<5>
 この他に岩波『シリーズ 日本の安全保障』に集結した研究者達のうちで複数の巻の代表を担当し編集代表ともなっている二人の遠藤氏に代表される国際政治学者による対抗構想に言及する必要があるが、ここではとりわけ両者に共通する特徴を指摘するに留める。
 その特徴は伝統的な脅威と新たな脅威とからグローバル・コモンズとされる共有地(空間)・共有利益を守ることを大きな課題と、いわゆる国家の安全保障と区別された人間の安全保障論を基軸にすえ、その上で国家間の関係では共通の安全保障論を主張するものである。しかしそこでは両者ともに共通して日米同盟のある場合には抑止力としての、またある場合にはスマート・パワーとしての展開を不可欠のものと捉えるなど、対抗構想を示す上で、例えばマイケル・ウォルツァーやメアリー・カルドーが『新戦争論』や『正しい戦争と不正な戦争』で示した人間と社会の脅威に対して紛争解決のためにとりわけ先進国の社会がどのような連帯と協力を行うべきか、そのためには先進国の社会構造をどのようにつくりかえなければならないか等の対抗構想を出す上でコア―となるべき構造的かつ普遍的な問題へのアプローチが殆ど出されておらず、歴史認識においても極めて問題の多いアメリカ国家安全保障会議の有力責任者でもあったチャールズ・カプチャン等への安易な寄りかかりもみられる。
 このような議論に対しては、冷戦後に限定してもアフガン戦争下「不朽の自由」作戦の下でのアメリカ軍とNATO軍そしてISAFの錯綜した関係、所謂住民保護責任論の下、人道的介入の実践例としてあげられるリビア空爆、外的自決権を認められて植民地(状態)から独立したルワンダ、旧コンゴ、旧スーダン等における内的自決権の抑圧の事例、旧ユーゴ及びボスニア・ヘルツェゴビナ等における内的自決権行使と外的自決権の交錯において国家や国際機関による武力行使が本当に正統化される場合があったか否か等に関する事例分析を対置するならば、それらの事例における武力の行使が新しい脅威に対す対抗やグローバル・コモンズの保障などとは異なり、極めて強い利益集団による国家的利益の主張に基づいたものだということが理解されてこよう。国際関係からの発言はこのような事例分析をふまえない限り軍事力に拠らない社会をつくるという対抗構想の課題には結びつかないといえるのである。



<Ⅲ>何が対抗構想には必要とされるのか―現代国家論の構成へ向けて―

<1>
 対抗の堡塁として立憲主義を語る場合は、先に述べたネグリ等の議論をふまえ、憲法制定権力を規制するものとしての「歴史的構成条件」と憲法制定権力の主体が考慮すべき構成力の帰結からくる制約=拘束という視点に十分留意することが必要である。
 この点に留意すれば、テーゼBに対抗しつつ9条の意味をテーゼA⇒平和主義についての広義の解釈に立ちつつ憲法法源を変更すること、即ち解釈改憲をこえて憲法改正論をもって対抗することは全く対抗構想になりえないことが理解されるであろう。〔所謂新9条論は対抗要因とはなり得ない〕

<2>
 立憲主義を現代日本型立憲主義の意味に解して、憲法原理についての民主主義過程での自由で開かれた議論の保障と主体における健全な歴史認識の確保を条件に憲法規範の意味の変更⇒解釈枠組の変動⇒憲法変遷の成立〔解釈改憲の正統な確立〕といった論議を封じるためにも対抗原理は立憲主義では十分なものにはなり得ない。
 この視点は、所謂新9条論が一方の対抗の原理として、国民主権をとり戻し「立憲主義の視点から」自衛隊を統制し、「専守防衛のための自衛戦力+国際協力のための国家組織」とする、といった主張の危うさを指摘する意味でも必要である。

<3>
 再度個別的自衛権と集団的自衛権の質的相違を確認すること。
① 先にもとりあげた政府答弁の非論理性を明にする意味において。
② 一部の憲法学者やテーゼAに立つと思われる政治学者に潜む「危うさ」を明確にする意味において。 Cf.) 木村草太、藤原帰一氏等
③ 集団的自衛権の行使が認められるのは単に他国に対する攻撃が直線的に「自国の存立や、国民の生命・自由を危殆に」陥れるからではなく、「当該他国との関わりにおける不可欠の利益がその媒介として存在することを明示する必要性。これは何も集団的自衛権行使の場合だけでなく他国や他国の領域に対して単なる協力をこえて武力を行使する場合の国際公準である。例えば所謂人道的介入を根拠づける住民保護責任論においても内乱や騒乱、専制国家による住民抑圧、それに伴う難民の流出等だけでは他国や国際機関による武力の行使を認める憲章39条に基づく「侵略」や「平和の破壊」の認定要件に該当しないことからも明である。このことは人民の名を僭称する抑圧国家に対する少数派(少数民族)による内的自決権の行使を援助する場合についてもいえることである。要するにそこには国際社会との関係における普遍化可能な自国の枢要な利益の侵害という要件が必要とされるのである(このことは、住民保護責任論が保護する義務や権利とはされず飽くまで「責任」という言葉で押さえられていること位からも言えることである)。
 ④当然のことながらこれまでの集団的自衛権行使の実行例の検証の作業の必要性

<4>
 テーゼBさらにはその先に予想される9条を中心とする改憲構想に対抗するためには…
 ①当然のことながら立憲主義はそのための必要条件ではあっても十分条件ではなく、そのための連携の根拠はあくまで国民のための平和構想の枠組の設定におくことが必要である。
 ②そこではなお国民の生命と自由、幸福追求権そして人間としての尊厳を守るために自衛権を行使する国家(・・)の実力組織の保持が不可欠だとするなら、その組織に交戦団体としての性格と軍事組織としての性格を認めないためには交戦権の否定と特別法としての軍事法体系の否定は不可欠の課題となろう。
 ③そして国家の性格をそのような組織を持つにふさわしいものに変えるためには、その担い手としての新たな政府の確立が急がれることになる。この政府はまた当然②で示したような実力組織の担い手であることになる。
④ ただしここで留意すべきは、政府の性格⇒政府形態が変わったとしてもその土台となる国家の性格は相変わらず金融資本を中核とする独占ブルジョワジーと多国籍企業のヘゲモニーからは解放されていないということである。従ってそのヘゲモニー国家の性格を変えることはグラムシの表現を借りれば、上部構造としての広義の市民社会における苛烈な階級及び階層間の確執と闘争を介してのことになる。ここに対抗構想としての新福祉国家構想の意味があるのであり、それは端的に国家の財政措置を加味した財とサービスの垂直的分配構造の確立を中心課題とするものとなろう。{例えば2013年に提出され今日の社会保障、社会福祉改革あり方を主導するものとなっている「社会保障制度改革国民会議報告書」に示されたような構想に対する総括的かつ原理的な批判は当然不可欠の課題とすることになる。}そこではまた労働時間の公平な配分と労働条件をめぐって人間の尊厳に基づく自己決定権が確保されると同時に、自己にのみ関わるような自己決定権が抑制されることにより社会連帯を通じた友愛が確保されるような社会の確立を伴うものでなければならない。(Cf.) 西谷敏『労働法の基礎構造』等)
⑤ そのためにもこの過渡的政府は、その連帯の基礎におくべき平和主義についてはその枠組みを、法源としての憲法9条の確保を前提にして、その理解を<1><2>+「テーゼA」に置き、④に述べた政策を実行する中でたとえ専守防衛のためであれ「テーゼA」の中に含まれる国家の軍事力の正統性を肯定するような論拠を説得的に払拭させていくものでなければならない。



ここに、≪グローバルな福祉と人間の安全保障の実現の課題と国家の軍事力との非両立性の主張≫を理論化することの意味と必要性があるのである。
(現在の「収縮した」大衆社会としての市民社会から国家領域をこえたsociété civileとしての普遍的な市民社会の確立へ。『ドイツ・イデオロギー』のテーゼをやや意訳すれば、資本の論理に規定されることにより内部に対しては国民集団(Nationalität)として、外部に対しては国家(Staat)として編成されざるを得ない市民社会(bürgerliche geserschaft)を諸個人の交易を前提としつつもそれをこえるものとしてのsociété civileとして再定位するという課題でもある。)
 そしてこの過程において安保条約の破棄と自衛隊のその歴史性と従属性からの切断(一度の解体をふまえた別組織としてのスタート?)は不可欠の課題となるのである。

※ 安保条約の本質は、㋑拡大抑止力としての核の持ち込み、㋺集団的自衛権行使の強要、㋩基地の設定の自由(「好きな時に」「好きな場所に」「好きなだけの期間」)を含む出撃と強力な兵站機能の強要、といった強力な軍事的・経済的システムとしての相手国家への従属にある以上、その従属関係からの脱却のプロセスにおいて協議による合意はあり得ないといえる。このことは現行条約10条にみられるような通告制度を欠き協議による解消のみを定めていた旧条約4条のもとにあっても言えたことである。またこのことは本土・沖縄を問わずいかなる重大事故・事件が起き住民が10万単位で決起しようとも米側は行政協定→地位協定の規定の一字一句の改正にも全く応じてこなかったことからも明らかである。
この点は合意による自衛隊の解消とは本質的に異なる点であり、先に述べた政府形態の変更を支える国家の本質を規定する広義の市民社会における闘争とヘゲモニー確立のための努力が求められるゆえんである。
この課題は勿論、テーゼBの廃止のみを課題とする過渡的政府(国民共同の連合政府)の範囲を超えるものであり、いわば次に来る第2段階の連合政府の課題であることは言うまでもない。


補注(1) 6ページ以降に出てくる本報告における一つの分析枠組み(対概念)としてのテーゼAとは当該ページ第1パラグラフ5行目にあるように憲法法源の原意からすれば一定の解釈変更を認めながら自衛力の範囲を専守防衛に限ろうとする72年政府見解にみられるような(そしてその後一定の変更を伴いつつも内閣法制局によって引き継がれてきた)旧個別的自衛権行使にかかわる3要件を意味する。
それに対してテーゼBとは今回(2014年7月1日の閣議決定とその後に制定された武力攻撃事態・存立危機事態法に規定された)の72年見解に対して原理としての要件を維持したうえで「我が国を取り巻く安全保障を環境の変化」によりその適用の在り方を修正したものと説明される集団的自衛権行使容認にかかわる所謂新3要件をいうものである。
 
補注(2) 報告の後の討論で最後に出た質問のうち「平和主義、リベラル・デモクラシーの担い手とは何か」との問い(麻生多門氏)に対しては十分にお答えできていなかったためこの点についてここで簡単に考えを述べさせていただきたい。
そもそも、いわゆるリベラル・デモクラシーにおけるヒューマン・ライツの担い手と人権としての平和の担い手は同一の主体であってもその構成の方法において異なったとらえ方をせざるを得ないとするのが現状と考えられる。
というのは、人権論に関しては何が正義かに関するその基礎づけを所謂正・善に二元論に求めようと、正義の構想を政治的正義にのみに限定して討議参加者の公共的理由に基づく主体間の重畳的合意に求めようとそこにおける合意はいわば「共通善」をめぐって肯定的かつポジティブに構想されるのに対して、人権としての平和に関しては報告でも触れたその基礎概念としての「個人としての尊厳」にしても「人間としての尊厳」にしてもそれらが例えば国連憲章前文にしてもあるいは世界人権宣言前文にしても戦争の持つ悲惨さに対する否定形として提示されるという関係にあると考えられるからである。
そこでは戦争の持つ残酷さと恐怖という実体験に基づき、最高善或いは共通善に対してではなくいわば共通悪に対してそれを否定するためのミニマムの(いわば否定形としての)合意が目指されていると考えざるを得ないのが現代史(戦争と平和を巡る世界史)の現状と考えられる。
この現状を踏まえ、憲法前文と9条をそして13条等をベースにして普遍的な人権としての平和論とその担い手像(NationとStaatの壁を超えた担い手像)を構成するには更に精緻な現状分析と理論的営為の努力が求められているといえるのではないか。
以上、ここではこの点について課題と問題意識を提示することで一応の回答としたい。

渡辺治・福祉国家構想研究会編『日米安保と戦争法に代わる選択肢―憲法を実現する平和の構想』紹介と検討

2017年03月26日 | 研究会報告
渡辺治・福祉国家構想研究会(編)『シリーズ新福祉国家構想第5巻・日米安保と戦争法に代わる選択肢―憲法を実現する平和の構想』(大月書店、2016年)の紹介と検討

稲正樹


序章 安倍政権による戦争法強行と対抗構想(渡辺治)
     
1 戦争法、参院選が示した日本の進路
戦争法が示した、戦後日本の二つの進路
 戦争法は、戦後70年にわたる安保体制と日米軍事同盟の帰結、到達点を示す画期でもあった。
日本の平和と安全をめぐる三つの選択肢
 第一の選択肢は、憲法の制約を打破して自衛隊がより積極的に米軍を支援することで日米同盟を強化し日本の安全を確保しようという選択肢である。安倍政権が示す選択肢である。
第二の選択肢は、戦争法廃止にとどまらずその根源となる安保条約の廃棄を求めるもの。今後の日本の平和と安全は、安保条約をなくし憲法のめざす「武力によらない平和」を実現することで保障するという選択肢である。
第三の選択肢は、むしろ安保と自衛隊を維持しつつ自衛隊に課してきた制約を維持することで、平和を保持することが望ましいというもの。
参院選は何を示したか―戦争する国づくりへの懸念と中国、北朝鮮への不安
 参院選の結果は、国民の平和に対する気持ちの揺れを象徴しているようにみえる。本書の課題は、戦争法に反対し海外で戦争する国になることに反対するとともに、ではそれに代わる平和保障のあり方とは、という問いに答えること。本書の課題は、こうした問いを正面から検討することである。
本書で一番考えたいこと―本書の概要

2 戦後世界と戦争―冷戦期の戦争と冷戦後の戦争
冷戦期の戦争とはどんな戦争か
 冷戦期の戦争は、アメリカ帝国主義とソ連覇権主義が、双方の勢力圏の維持や拡大をめざして、自己の「勢力圏」内で勃発した民族解放運動、内戦、動揺、勢力圏からの離脱を食い止めるため、戦争と武力行使に踏み切ったものであった。しかもそのほとんどで、軍事同盟条約が介入や侵略の口実となった。
冷戦後の戦争はなぜ頻発したのか?
 アメリカ帝国主義の行動は、三つのねらいをもっていた。
一つは、拡大した自由市場秩序の維持と陶冶である。
二つ目のねらいは、グローバル企業総体の擁護者としてふるまうだけでなく、自国のグローバル企業の権益の擁護者となることである。
三つ目のねらいは、グローバル経済によって影響を受ける自国国民経済の利益を擁護するという課題である。
 冷戦期の戦争の主なものは、こうしたアメリカ帝国主義の三つのねらいのうち前二者の利益の実現をめざして遂行されたものであった。
冷戦後の戦争後の三つの時期区分
 第一期:自由市場秩序形成の戦争
第二期:「反動」に対する制裁戦争
第三期:アメリカの疲弊、テロの拡散
中国は脅威か?―中国経済の発展と大国化
覇権主義国家化
中国覇権主義の二つの側面
 第一の側面は、アメリカとともに、自由市場秩序の維持と安定を死活的利益としていること。
第二の側面は、共産党の大国主義戦略にもとづく覇権主義である。
二面的な米中関係
中国の覇権主義大国化は明らかであるが、それは、「中国脅威」論のいうような、中国のやみくもな侵略や、米中の戦争の危機を生み出すものではない。中国の覇権主義的行動を規制していくには、アメリカや安倍政権が行っているような軍事的対峙では成功しない。
現代の戦争の危機とグローバル経済
 日本がなすべきこと。

3 安保体制は日本の平和と安全を確保したのか?
冷戦時代、安保と米軍基地は日本の安全を守ったか?
 憲法の存在によって、アメリカと日本政府の意図にもかかわらず、安保条約が「本来の」軍事同盟条約として機能することを制約されたことが、日本が冷戦時に戦争に巻き込まれずにすんだ理由であった。
冷戦時の日本はなぜ戦争に加担しなかったのか?
日米同盟強化は九条による政府解釈が生きていたため、依然大きな制約を余儀なくされた。この制約を取り払って米軍と一体化した自衛隊の海外での行動の解禁をはかったのが、戦争法であった。

4 安倍政権の安保構想で日本の平和は確保できるか?
戦争法は日本の平和を確保するのか?
 日米安保によらないアジアの平和と日本の安全保障の構想の実現にとりくむこと。

5 安保と日米同盟に代わる選択肢は?
戦争法に代わる二つの道
安保廃棄派と安保維持を前提とする「リベラル」派の二つの構想。
安保のない日本こそ選択肢
安保のない日本という選択肢の柱 
pp.32-33で六点を指摘している。第7章で具体的に論述されている。
「安保のない日本」をめざす担い手の形成と過渡的政権
 安保のない日本への道が国民的に議論されねばならない。

6 憲法と日本の平和
日本国憲法という存在
戦争法から明文改憲へ
戦争法反対側からの改憲論は日本の平和を実現するか?
 たとえ戦争法が発動されたとしても、九条は死んでいない。憲法は死んでいない。新九条論は、九条は死んだとして九条改憲の合唱に加わろうとしている。新九条論の最大の欠陥は、憲法の力に対する不信である。
憲法の理念と平和構想
 憲法の理念は、今後のアジアと日本の平和を形成するうえで、なお堅持し実現すべき方向を打ち出している。だからこそ、私たちは、憲法の改変に反対するだけでなく、その実現をめざすべきだと考える。


 本書は、断固として護憲派の立場に立っている。
憲法の力に対する信頼を元にして、本書の全体が断固たる護憲派の立場を鮮明に打ち出していることに共感した。本書で展開されている議論を一層突き詰めて強固なものにして、「武力によらない平和」の構想をさらに豊かに、さらに説得力をもつものに練り上げて、困難な状況のなかにおいても、国民的賛同を獲得していくことを願っている。気になったことの一つに、憲法に基づく平和保障構想を、「武力によらない平和」という言葉で語っていることである。代わりうる他の用語がありうるか。
 
第Ⅰ部 攻防の歴史と現在

第1章 安保体制と改憲をめぐる攻防の歴史―戦争法に至る道(和田進)

1 課題と時期区分
 
2 第一期:占領期(1945~52年)
(1) 憲法制定
象徴天皇制と非武装
九条の受容と当初の政府解釈
(2) 冷戦の開始と占領政策の転換
沖縄を太平洋の「要石」へ

3 第二期:日米安保条約締結と自衛隊の成立(1952~60年)
(1)日米安保条約の締結
講話条約に込められたねらい
安保条約合憲論
米軍基地闘争の激化
沖縄の軍事要塞化
(2) 自衛隊の成立と護憲運動の高揚、九条解釈の転換
(3) 安保条約改定
事前協議と密約
日米地位協定
砂川事件判決
安保反対闘争の高揚

4 第三期:日米安保の展開と平和運動との対抗(1960~90年)
(1)60年代平和運動の展開と安保・自衛隊体制への制約
憲法裁判と九条の定着
ベトナム戦争と日本
沖縄返還闘争
集団的自衛権の行使を違憲とする解釈
憲法九条にそった政策、原則
防衛計画の大綱「基盤的防衛力構想」
(2)70年代半ば以降のアメリカの対日軍事要求の変化
米軍基地経費の負担と日本の先端技術の導入
日米防衛協力の指針(ガイドライン)の締結

5 第四期:冷戦の終焉と日米安保のグローバル化(1990~2003年)
(1) 冷戦の終焉と安保再定義
湾岸戦争と自衛隊の海外派遣問題
安保再定義
97年ガイドラインと周辺事態法
(2) 同時多発テロと自衛隊の参戦
周辺事態法制へのアメリカの不満
同時多発テロと日本の参戦

6 第五期:政府解釈の限界突破と日米同盟強化の停滞(2004~12年)
(1) 解釈改憲の限界と明文改憲の挫折
九条解釈の限界性のクローズアップ
明文改憲の動きと「九条の会」
(2) 民主党政権の登場と2010年防衛計画の大綱
鳩山首相の挫折
「基盤的防衛力」から「動的防衛力」へ

7 第六期:日米同盟の攻守同盟化と改憲(2012年~)
(1)2015年ガイドライン
アメリカのアジア重視の国防戦略
地球規模での15年ガイドライン締結
共同作戦計画・共同司令部
(2)軍事大国化の体制づくりに向かう安倍政権
(3)「オール沖縄」の登場

本章で明らかにしたいこと:第一は、戦後一貫して続いてきた日米安保体制と自衛隊は、アメリカのアジア支配、世界戦略にとっては死活的重要性をもっていたし、現在ももっているが、それは、日本とアジアの平和には貢献してこなかったこと。第二は、戦後日本の平和がかろうじて守られたのは、安保体制と自衛隊のおかげではなく、むしろ平和運動と国民の警戒心によって日米安保体制が十全な発動を制限された結果であるということ。第三は、沖縄は、日米軍事同盟の歴史において一貫してその軍事的要でありつづけたという点。→この三点の課題について、必ずしも明確に叙述されていないという印象をもった。

第2章 戦争法がもたらす軍事大国化の新段階(小沢隆一)

1 この章のねらい
本章のねらいは、日本の軍事大国化の「現段階」の特徴を明らかにすることである。
日米安保体制の新段階と戦争法
 戦争法に盛り込まれた事項の全体について、日米軍事同盟体制にとっての意味という視角から検討することが必要である。
九条改憲の回避の意味
戦争法は平和をもたらすか

2 戦争法制定までの動き
(1) 第二次安倍政権成立から閣議決定まで
(2) 2014年7月1日閣議決定
(3) 15年ガイドライン
「法からの逃避」という性格。「民主的統制の回避」。

3 戦争法の概要と問題点
(1) 集団的自衛権の行使容認
(2) 「後方地域支援」から「後方支援」へ―自衛隊による支援の一挙拡大
(3) 外国軍の武器等防護のための武器使用
(4) PKO法の適用対象、自衛隊の活動・業務の大幅拡大と武器使用の強化
(5) 戦争法の法的問題点
(6) 戦争法の実態的な問題点

4 「安全保障環境の変化」論は成り立つか
(1) 戦争法案違憲論の広がり
(2) 南シナ海をめぐって
(3) 「日米同盟強化=抑止力の向上=平和の実現」という三位一体
(4) 北朝鮮の脅威をめぐって

5 むすびにかえて

本章で明快にまとめられている、戦争法に至るまでの諸動向、戦争法の概要と問題点、「安全保障環境の変化」論の不成立の所以の指摘は、大変勉強になった。「安全保障環境の変化」論が声高に唱えられるなかで、従来護憲派のなかで前提とされてきた、「アジアの中の日本」論(北東アジアにおける和解と協調の推進、平和保障機構の組織化等)は、国民の間で簡単に受容されがたいところに追い込まれている。そのような状況の中で、今後、「アジアと日本の平和と安全」というテーマにどのようにして取り組んでいったらよいのかを、考えさせられた。もう一つは、15年ガイドラインの「法からの逃避」と「民主的統制の回避」という本質的な問題について、国民的議論を喚起していくことの必要性を感じた。

第3章 安倍政権はなぜ明文改憲に固執するのか(三宅裕一郎)

1 1990年代以降の明文改憲のねらいと特徴
(1)1990年代の解釈改憲の時代
(2)2004年以降の明文改憲論の高揚

2 2005年自民党「新憲法草案」を頂点とする明文改憲動向とその後の衰退
(1) 党内のジグザグをへた「新憲法草案」の発表
(2) 集団的自衛権容認をめざす第一次安保法制懇の始動
(3) 自民党の政権からの転落と明文改憲論の衰退

3 「日本国憲法改正草案」の国家構想とその批判的検討
(1) 政治的文脈における「日本国憲法改正草案」の位相
(2) 2012年自民党改憲案をつらぬく立憲主義のベクトルの主客転倒
(3) 2012年自民党改憲案の批判的検討
「国防軍」の創設による憲法九条の抜本的改定 
「災害便乗型」緊急事態条項の創設
憲法改正要件の緩和化

4 現在の安倍政権の明文改憲戦略のねらい
(1) 第二次安倍政権以降の解釈改憲と明文改憲の試み
(2) 2014年7月1日の閣議決定から2015年の安保法制
(3) 安保法制後の明文改憲論の現段階―緊急事態条項の創設が意味すること


本章の議論では触れられていないが、自民党草案のめざす国家構想を、軍事大国化の推進と並んで新自由主義改革の進展に基づいた経済原理主義国家の創設と考えてよいかどうか。
現憲法において、人権の総則である12条、13条以外の人権各則において「公共の福祉」による制限が課されているのは、22条1項の職業選択の自由と29条2項の財産権の規定。これらの経済的自由権規定における「公共の福祉」は、12条、13条の「公共の福祉」とは違って、社会権の実現ないし経済的・社会的弱者の保護を意味する。ところが2012年自民党改憲草案では、22条1項を「何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と言い切りの形に改変して、現行憲法の「公共の福祉に反しない限り」という条件を外しており、「公益及び公の秩序」を害しない限りという条件も課されていない。用意周到に、前文においては新自由主義を国是とする宣言を行い、経済的領域における基本権についてのみ自由を拡大している。樋口陽一の指摘。

補論 日本の平和のためには憲法改正が必要なのか?―新九条論批判(渡辺治)

1 戦争法廃止へ向けての共同と憲法問題―新九条論派の台頭
 
2 新九条論の主張
憲法は死んだ、九条と現実との乖離
専守防衛の自衛隊、個別的自衛権のみ
集団安全保障
米軍基地
新九条改憲の担い手

3 新九条論の致命的欠陥―改憲論の露払い
前提の誤り
 新九条論の最も大きな誤りは、歴代政権、とりわけ安倍政権の解釈改憲により、憲法九条は死んだととらえていること。
立憲主義の形式的貧弱な理解
 彼らのいう立憲主義とは、憲法と現実を一致させろ、という意義にとどまる。
違憲な現実を変えて、現実を憲法に近づけること、これが「立憲主義を取り戻す」ということの意味である。
「憲法にもとづく政治」とは、たとえ国民を代表する議会であっても、「憲法」に違反する立法を行うことはできないということを意味する。
個別的自衛権を認める新九条論は、憲法九条の根本的否定
 新九条の大きな危険性は、憲法九条の根幹(=第二項の戦力不保持の規定)を改変することにほかならない点である。
 第二に、「戦力」はもてないという制約と異なり、「個別的自衛権」行使のための軍隊はもてるという憲法の規定は、軍隊や軍事行動に対する大きな制約とはならないどころか逆に軍隊の存在や軍事行動を前提にした諸制度――軍法、軍法会議、軍事秘密を守る秘密保護法など――を解禁することになる。
 第三に、個別的自衛権行使のためであっても軍隊をもてるという憲法の規定は、日本の政治・国家のあり方を根本的に改変する。
 戦後日本の政治、社会の特異な明るさ。社会の自由な空気。九条改正による軍隊保持の明記は、こうした非軍事の文化の変質・破壊をもたらすことは必定である。
新九条論はヤドカリの殻
戦争法、辺野古新基地建設、アメリカの戦争への加担を阻止しえない
 新九条論はその提唱者たちの善意の目的を達成することはできない。
 現行憲法九条は、アジアと日本の平和を実現するうえで今後も大きな武器となる。

新九条論は憲法を生かしてきた憲法擁護の人々の力を不当に過小評価している。個別的自衛権を認める改憲は、私たちが70年掛けて培ってきた非軍事の文化の変質・破壊をもたらすという指摘は、よくよく考えておかなければならない点である。憲法をもとにして作られてきた憲法文化の貴重な価値をさらに継承・発展させていくべきである。さらに、新九条論者に発表の場所を提供している、東京新聞・朝日新聞・世界などの現在の位置の確認が必要である。世論の動向をミス・リードする風見鶏?

第Ⅱ部 安保・平和構想をめぐる論点

第4章 安保のない日本をめざす運動と構想の経験(渡辺治)

1 平和運動と対抗構想の経験から学ぶ
平和運動と対抗構想の経験
 本章で注目したのは、運動が保守政権に対抗する主体すなわち統一と共同をつくれたときに安保に代わる選択肢の形成も具体化し、またそれを実現する政府の構想も具体化したという点である。本章では、主体、担い手の形成―対抗構想の具体化―政府構想という連関に注目して歴史を振り返ってみたい。
対抗構想の展開の時期区分と指標

2 1950年代平和運動と対抗構想
(1)運動と対抗構想の担い手の特質
戦争への反省
平和問題懇談会と知識人
戦後平和運動の担い手・日本型社会民主主義の形成
改憲を阻む力
(2)平和問題懇談会を中心とした対抗構想の特質
冷戦対立のなかでの小国日本の役割=「積極的中立主義」
日本国憲法への評価
中立と経済自立のリンク
(3)第一期の限界と課題
 革新政党の分裂状況下で、統一戦線を具体化する条件はなかった。そのため、この時期の運動は、安保と軍備のない日本を実現する政府構想を具体化することができなかった。

3 1960年代安保闘争期と対抗構想
第二期は、統一―対抗構想―政権構想という連関が成立したという点で、平和運動と対抗構想の歴史のなかでもとりわけ注目すべき時期である。
(1) 担い手の移動―総評+社会党+共産党という隊列
革新政党の比重の増大
安保共闘―対抗構想実現の政治力
(2) 中立構想の共通化・具体化
共産党の中立論支持への転換
社会党の中立論の深化
中立構想の具体化
(3) 連合政府構想の登場
社会党の「護憲・民主・中立の政府」
安保反対の民主連合政府
(4) 第二期の限界と課題
 政府構想は共産党の選挙管理内閣構想を除けばいずれも、安保闘争が終演してから打ち出されたものばかりであった。これが安保闘争高揚を政治転換の方向に発展させるうえでの立ち後れをまねいた。
 また、この時点での政府構想はいずれも抽象的であり、社会党の政権構想では共産党が排除されていた。
 こうした政府構想が具体化・前進するには共闘の前進が不可欠だったが、それは、安保条約の批准強行後中断したまま、その後今回の戦争法反対で実現するまで、55年にわたりできることはなかった。

4 1960~80年代―対抗構想の具体化、変容
(1) 自民党政治の転換と運動の担い手の変貌
自民党政治の変貌―平和運動と構想の影響
革新政党の運動強化、共同の条件と平和構想の具体化
(2) 平和構想の具体化と前進
安保闘争後の知識人の平和構想の前進
中立論の具体化、前進 
「安保のない日本」の経済
社会党の非武装中立構想の具体化と影響
社会党の平和構想の具体化
憲法を前面に
自衛隊廃止の条件と廃止過程
連合政権構想の貧弱
共産党の中立・自衛論の具体化
中立・自衛論の形成と確立
中立・自衛論の構造
連合政権構想の重視
沖縄返還の重視
(3) なぜ共闘はできなかったのか
(4) 1980年代の運動の変貌と対抗構想
現実主義の台頭と担い手の変貌
知識人の平和構想の具体化と限界

5 1990年代、冷戦終焉と経済グローバル化のもとでの大国化と対抗構想の変質
(1)冷戦終焉と自衛隊海外派兵の動きの台頭
冷戦終焉と世界の警察官アメリカ
自民党政権の政策転換―自衛隊派兵と改憲
(2)平和運動の担い手の大変貌
現実主義派、「リベラル」派の台頭
社会党の安保・自衛隊政策の転換、社会党の解体、社民党
民主党の台頭、ジグザグ
共産党の平和構想の転換、徹底
軍事大国化に反対する市民運動の台頭
新たな共同の試み
(3)「現実主義」の対抗構想とその変容 
平和基本法構想の輪郭
平和基本法構想に現れた革新の側からの「現実主義」論の特質
「現実主義」の系譜 
基本法論の機能
新たな現実主義=「リベラル」派の台頭
(4)冷戦後の新たな対抗構想の特質
 冷戦後には、安保廃棄派、自衛隊違憲論派の潮流のなかからも新たな対抗構想が生まれた。その特徴は、237ページにおいて四点指摘されている。

6 学ぶべき諸点と課題
 第一に、50年代初頭以来その担い手を変えつつ繰り広げられた運動こそが、日本の軍事化に歯止めをかけてきただけでなく安保と自衛隊に代わる対抗構想をうみ発展させてきた原動力であったことである。
 第二に、運動の主体の間での共同が成立しあるいは共同の追求が行われている時代に、対抗構想は具体化、発展をみたことである。
 第三に、戦後日本の平和構想では、とくに日本国憲法九条の理念がつねにその中心に位置づけられ、また九条の実現をめぐってさまざまな構想の分岐が現れたこと、総じて、憲法が、戦後日本の平和構想の原点でありかつ論点でありつづけたという点である。

これら、3点の結論からして、①運動の力に確信をもつこと、②運動の主体の間での共同の成立を実現する方法に関する議論を活発化していくことの必要性(これ以上の「リベラル」派の拡大を食い止め、安保廃棄派・自衛隊違憲論派の潮流を強く・大きくしていく道の探求)、③憲法を元にした対抗構想の成熟といっそうの発展が大切であると考えた。

第5章 憲法研究者の平和構想の展開と変貌(清水雅彦)

1 戦争法案反対のなかでの憲法研究者
(1) 憲法研究者が果たした役割
(2) 戦争法案反対論における憲法研究者の状況

2 平和構想を導いた憲法研究者の解釈
(1) 憲法制定の背景と平和主義の構造
(2) 憲法の平和主義の解釈
自衛権
戦争の放棄(九条一項)
戦力の不保持(九条二項)
平和的生存権(前文二段)
(3)憲法の平和主義の意義
戦争違法化の歴史のなかで
国連憲章との比較から
二つの平和主義
「総合的平和保障基本法試案」

3 憲法研究者の平和構想の内容と検討
(1)「総合的平和保障基本法試案」の提示―『平和憲法の創造的展開』
同書の概要
主な平和構想
(2)冷戦崩壊後の「国際貢献」論に対して―『恒久世界平和のために』
同書の概要
主な平和構想
(3)9.11後の対米追随を脱するために―『平和憲法の確保と新生』
同書の概要
主な平和構想
(4)『平和憲法の創造的展開』の意義―「総合的平和保障基本法試案」を中心に
憲法研究者による平和構想の具体的な提案
検討すべき課題
(5)検討すべきその他の憲法研究者の平和構想
自衛隊違憲合法論
平和基本法構想
水島朝穂編『立憲的ダイナミズム』
(6)憲法研究者の平和構想の評価と今後の課題
自衛隊と日米安保条約違憲論を憲法研究者は積極的に展開し、自民党の構想に対抗する日本国憲法に基づく平和構想を提起していくべきであろう。

清水論文のまとめを受けて、現在の憲法状況、政治状況において、総合的で具体的な平和保障のありかたの憲法政策学的研究を進めて行くことが一層必要であると考えた。これに関連して、水島朝穂編『立憲的ダイナミズム』をどのように受け止めていくのかは、重要問題。
君島東彦「安全保障の市民的視点―ミリタリー、市民、日本国憲法」(同書所収)の意味するもの。
憲法と自衛隊の矛盾の克服。絶対的平和主義と漸進的平和主義のダイナミックス。マーチン・キーデルによる平和主義概念の精緻な分析・整理。もっとも戦争肯定の立場として、軍国主義 (militarism)がある。次に、他国への武力介入を辞さない介入主義(curusading)がある。全体の真ん中に、防衛主義(defencism)がある。これは攻撃的でなく防御的な一定の軍備が平和をつくると考える立場である。次に、漸進的平和主義(pacificism)がある。これは、長期的な目標としての戦争の廃絶はあきらめないが、暫定的には防衛のための軍事力の保持と行使を容認する立場である。そして、戦争肯定の対極に、絶対平和主義(pacifism)がある。これは一切の軍事力の保持と行使を認めない立場である。
戦後日本の平和主義:絶対平和主義と漸進的平和主義の両方の要素を持っていた。憲法研究者、平和運動、革新政党の間では自衛隊違憲論が主流であり、絶対平和主義の傾向が強かったが、一般市民の間では、憲法9条も自衛隊も支持するという世論調査の結果が示すように、絶対平和主義と漸進的平和主義の両方の要素が未分離のまま存在していた。
憲法9条と自衛隊に関するこれまでの日本政府解釈は、憲法研究者、平和運動、革新政党=絶対平和主義との緊張関係の中で、自衛隊の存在と行動を憲法9条の武力行使禁止・戦力不保持の枠内にとどめなければならないという要請の中で模索された「努力」の結果である。それはキーデルの類型論によれば、防衛主義の要素を持ちつつも、主として漸進的平和主義の枠内にあったと思われる。日本の安全保障政策を主として漸進的平和主義の枠内にとどめ続け、防衛主義から介入主義の方向へ変容させないことが現時点でのわれわれの重要な課題であろう。
矛盾克服の方向性―われわれの安全保障
問題は、この矛盾をどのような方向で克服しようとするのか。人類史的視点に立つならば、憲法9条と自衛隊の矛盾は、自衛隊の軍隊化の方向(自衛権・軍事力強化)ではなくて、憲法9条の方向(主権の制限・軍事力否定)への克服の努力がなされ続けるべきであろう。絶対平和主義と漸進的平和主義の相互補完性はこれからも妥当する。絶対平和主義=自衛隊違憲論が存在し続けることが、漸進的平和主義をより強固な理論に鍛え上げる。
憲法9条と自衛隊の矛盾を憲法9条の方向で克服するということは、あらゆる側面においてミリタリーの役割を縮減し、文民・市民の役割を拡大していくことを意味する。現在、「武力紛争の予防のためのグローバル・パートナーシップ」というプロジェクトが、東北アジア全域の市民社会組織をネットワーク化して活動を続けている。「ウランバートル・プロセス」。

第6章 「リベラル」派との共同のために―その外交・安保構想の批判的検討(梶原渉)

1 本章のねらいと背景
(軍事)大国化を克服したのちの将来展望についての認識を共有することが必要。本章では、共同を崩さず、戦争法を廃止する政治に発展させるための課題を明らかにしたい。

2 「リベラル」派の外交・安保構想の歴史的展開
(1) 第一期:日米安保のグローバル化への反発―寺島実郎
(2) 第二期:自衛隊海外派兵本格化への反発―伊勢崎賢治
(3) 第三期:民主党政権への期待―戦争法廃止運動における「リベラル」派結集の準備段階
(4) 第四期:安倍政権への暴走への反発―「リベラル」派の組織的活動
柳澤協二および「自衛隊を活かす会」
伊勢崎構想の拡大
岩波シリーズ
(5) 小括 
288頁の四点の指摘。

3 「リベラル」派の情勢認識
(1) 東西冷戦終焉を契機とする安全保障の変貌
(2) 戦後日本の外交・安保政策の肯定評価
(3) 極東秩序維持者としてのアメリカ
(4) 脅威やリスクとしての中国
(5) 安倍政権異常論

4 「リベラル」派の外交・安保構想の特徴
(1) 日米安保条約の将来構想
沖縄を中心とする米軍基地縮小
核兵器の将来
(2)自衛隊の将来構想
(3)非軍事分野の協力深化による安定した秩序の構築
(4)構想の担い手

5 「リベラル」派構想がもつ問題点
(1) 情勢認識がはらむ問題
脅威の誤認
 「リベラル」派が脅威とみなすものの源泉は、彼らが所与のものとするグローバル化のなかにあるのではないだろうか。
アメリカの過小評価
中国はなぜ脅威やリスクなのか?
(2)「リベラル」派構想の実効性
対米協調は日本や世界の平和と安全に貢献するか?
非軍事分野の協力は安定した秩序をもたらすか?
民衆的観点の弱さ
 「人間中心の安全保障」を謳うならば、さまざまな脅威やリスクにさらされ保護が必要なものとして人間をとらえるだけでなく、そうした状況を変革していく主体としても人間をとらえることが必要ではないか。

6 結語
 「リベラル」派は、日米安保条約や自衛隊を批判的に検討する必要があるのではないだろうか。
 安保廃棄派は、日米安保条約廃棄と自衛隊解散という自らの立場を堅持すべきである。平和構築の方向を徹底するには、日米安保廃棄を含む日本の安全保障の抜本的な見直しが不可避であることを共同の過程で問題提起しなければならない。
 世界秩序を平和で公正な方向へ変革する構想が求められている。日本国憲法がめざす「武力によらない平和」は、たんなる理想ではなく、日本と世界の平和を実際的に保障する選択肢として示される必要がある。
中国を脅威やリスクとしてみなすのではなく、中国における民主化を中国の外側から支援し、日本においても民主化をすすめていくという基本的立場に立つことが必要ではないか。安保廃棄派が「リベラル」派に対して、日米安保廃棄を含む日本の安全保障の抜本的な見直しが不可避であることの問題提起をするにとどまらず、安保廃棄と自衛隊の解散という選択肢への全幅的支持の獲得というところに、共同の道を到達させることが必要ではないだろうか。もうひとつ、本章からは「民衆的観点」の大切さを学んだ。

第Ⅲ部 対抗構想

第7章 安保と戦争法に代わる日本の選択肢―安保条約、自衛隊、憲法の今後をめぐる対話(渡辺治)
 
1 戦争法案反対運動からみえてきたもの

戦争法が提起した日本の安全保障をめぐる二つの道
日本の安全保障をめぐる二つの方向・路線の対立。
第一の方向は、戦争法案を推進した安倍政権を先頭に、現与党が主張・推進する路線。日米同盟を深化させ、米軍のグローバルな戦争・介入に、より積極的に加担し日米共同作戦を具体化することで抑止力を高め、強大化する中国の軍事的脅威や北朝鮮の挑発に対抗して日本の安全を確保するという路線。
それに対して、戦争法による日米同盟の深化、自衛隊の戦争加担の方向は決してアジアの平和を促進し日本の安全を確保しない、と主張する路線。むしろ日本の平和と安全は、日本が、海外での武力行使やアメリカの戦争と一体となった加担をしないことで保持され、そうした立場を堅持することでアジアの平和構築に対しても発言力をもてるという立場。
後者の路線への国民的な賛同・強化を、単なる願望ではなく、現実化する道(=日本国憲法の立場)をどうやって可能にするのか、これを共同討議し構想するのが、今日の研究会の最大の課題と考える。

戦争法反対の二潮流
 政府が推進してきた日米安保体制そのものに真っ向から反対し、憲法9条の「武力によらない平和」の方向を支持し、安保条約を廃棄して米軍基地を撤去し、自衛隊を縮小・解散して、9条の理念により日本の平和を実現することをめざす潮流(=安保廃棄派)。この潮流は、戦争法の制定を、日米安保体制がもっている本質の徹底であるという側面と、にもかかわらず国民の運動によって政府解釈というかたちで自衛隊の活動に課されていた制約をはずし自衛隊を海外での武力行使に踏み込ませる転換である、という側面の両方からその危険性をとらえている。
 安保条約と自衛隊による安全保障のあり方を基本的に容認しながら、その安保と自衛隊は、あくまで憲法9条にかかわる政府解釈により合憲と認められる制約の範囲内にとどまるべきあり、集団的自衛権行使、後方支援拡大によるアメリカの戦争への加担―日米同盟深化の方向は日本の安全に寄与しないという視点から戦争法に反対する立場。この潮流(=「リベラル」派)は集団的自衛権や戦争法は日米安保体制からの転換、逸脱であるととらえる。 
二つの潮流のうち後者の潮流が、今日の憲法学界と現実政治においてすでに多数派になっているのではないかを恐れる。そうだとすると、前者の潮流をどのようにして大きくし、また実現していくのかを考えることが大切である。

憲法改悪反対運動における二つの潮流
 じつは、戦争法反対運動でできたこうした合流の構図は、すでに、改憲に反対する九条の会の運動などで先駆的に形成されていた。90年代に至るまで改憲反対運動を担ってきた社会党、共産党などの革新政党、労働組合、知識人、市民運動は、すべてが、安保条約や自衛隊を違憲とみなして反対してきた人々であった。これが改憲反対運動においても第一潮流であった。
 それに対し、90年代に入り、自衛隊の合・違憲でなく自衛隊の海外派兵の是非が争点となり、また社会党が村山政権の成立を機に、安保・自衛隊合憲論に転じたことも相俟って、2000年代の改憲反対運動、その典型としての九条の会の運動では、第一潮流の勢力にくわえて、安保条約も自衛隊も合憲だがその海外派兵を容認させるような改憲は許さないという第二潮流がくわわった。九条の会に代表される改憲反対運動は、こうした第一潮流と第二潮流の合流によって大きな流れを形成した。

辺野古新基地反対運動をめぐる二つの潮流
一つは、安保条約による米軍の駐留と基地そのものに反対し、米軍撤退と基地の撤去を求める立場から辺野古新基地反対、普天間基地撤去を求める潮流。「基地反対派」。
それに対して、第二の潮流は、安保・日米同盟には賛成であり米軍基地も必要だが、それが沖縄に集中していることは許せない、沖縄にこれ以上新基地建設は許さないという、沖縄「差別反対派」の立場。それにくわえて、第二潮流のなかには、安保条約と米軍基地の存在は日本の安全には必要としながら、海兵隊の沖縄常駐はもはや必要なく辺野古新基地建設はアメリカの戦略からいっても軍事的合理性がなく、いらないという立場からの反対論者も含まれている。

日本とアジアの平和構築をめぐる二つの潮流の違い
 第二の潮流の構想に関しては、その内容は論者によってもかなりの違いがあり、そもそも正面から検討されたことは少ない。

本章の課題
 多くの国民の立ち位置=日本が海外で戦争する国になることには反対しているが、同時に、中国の脅威や北朝鮮のミサイル開発さらにはテロの危険性などに対して、どうすれば日本の安全は確保できるのかという点についての不安と関心を強くもっている。
政府の推進する戦争法と日米同盟強化に代わる選択肢を示すことは、戦争法反対論の緊急の責務。本章では、安倍政権の推進する戦争法と日米同盟強化の方向に対抗し、それに代わる平和の構想を、安保廃棄派の立場から「リベラル」派の構想との対話をつうじて明らかにしたい。
本章は、安保廃棄派の原則的な立場と構想を2016年秋の段階で再度全面的に展開し、国民的討議を願って書かれている。その平和の構想は以下の諸節において、多面的かつ全面的に展開されている。問題は、それが多くの国民の中でリアリティーをもつことができるかどうかにある。

2 「リベラル」派は安保条約や日米同盟、自衛隊をどうしようとしているか

(1)孫崎亨―安保と対米従属を最も強く批判
(2)寺島実郎―日米安保体制の「再設計」
(3)柳澤協二―自衛隊の専守防衛への改組

3 安保条約と米軍をそのままに日本の平和は実現するのか
 
これら論者の議論への最も大きい違和感は、認識の的確性にもかかわらず、安保条約の廃棄や自衛隊の縮小・解散、とくに安保条約、日米同盟の解消という展望を頭から否定している点である。

(1)アメリカの日本に対する一貫した志向の過小評価

戦争法は安保マフィアの妄想か?
 第一の疑問は、これら論者の構想の背後にある情勢認識、アメリカの戦略について。

冷戦後アメリカの世界戦略と日本の比重
 「リベラル」派のアメリカ対日政策の過小評価は、じつはそれにとどまらず、アメリカの世界戦略全体をつらぬく攻撃性の過小評価と結びついている。
 「リベラル」派の議論の最大の問題点は、戦争法を廃止したり沖縄基地の撤去をめざすにはアメリカの世界戦略を批判し、それとの正面切った厳しい闘いが不可避であるという、運動の重要性をあいまいにする点にある。
私自身も、アメリカの世界戦略に対する正面切った厳しい闘いの不可避性について、認識が十分でなかった。フィリピンの米軍基地撤去に対するアメリカの恫喝に対しても、リアルな認識が必要である。フィリピン以上に、日本の場合は厳しいものがあると思う。フィリピンの場合、韓国の場合と対比したうえで、日本の場合をシビアに考えておく必要がある。

(2)安保条約のもとで、日米同盟の相対化、非軍事化は可能か?

 「リベラル」派が共通して主張する処方箋は、「日米同盟の相対化」あるいは「日米同盟の見直し」論である。第二の疑問として、彼らは、日米同盟の根幹にある安保条約の見直しあるいは廃棄については口をつぐむ。そして、なぜか、抑止力論の本体である日米同盟の存続を強調する。
「リベラル」派は、なぜ安保条約の見直しや廃棄を提唱しないのか。日米同盟の存続という既成の現実以外に、代わりうる選択肢はないと思い込んでいるからだろう。このような思考停止は、じつは多くの国民の既成観念と共通しているのではないか。

日米同盟・安保条約の自明視

安保条約の60年段階への「引き戻し」論
 一つは、60年安保条約は、日本全土にわたる自由な米軍基地の設置を容認し、「極東における国際の平和と安全の維持」を名目とすれば米軍の自由な基地使用を保障するという点で、不平等な日米関係の根幹をなしていることである。したがって、たとえ日米同盟を60年安保条約時に戻したところで沖縄基地をはじめとして日本全土に展開する米軍基地の状態も、またアメリカの世界戦略にしたがった米軍の活動も制限することはできない。
 また条約6条は米軍の「極東における国際の平和と安全の維持」のための活動を認めているが、これは米軍の行動が「極東」に限られることを意味したものではなかった。
 二つ目は、60年安保条約から冷戦後におけるその改変・強化を推進してきたのはいうまでもなくアメリカであり、それに追随してきた日本政府であったことだ。その到達点が15年ガイドラインであり、戦争法である。安保条約からの「逸脱」は決してアメリカの一部や安倍の思いつきではなくアメリカとそれに追随した日本政府の一貫した意思に基づく方針であった。だから、日米同盟を60年安保の時点に戻す、すなわち、自衛隊の海外での米軍支援をすべてやめ米軍の活動をいまより狭く限定させるには、日本政府のみならずアメリカ政府との厳しい対決をへなければならない。60年安保に戻すということ自体、国民的運動がなければできない。

「日米同盟の相対化」とは何か
 「リベラル」派の日米同盟見直し論の最大の問題点は、安保条約に手をつけない「日米同盟の相対化」とは何かがまったくわからないことである。

(3)安保条約をそのままに、沖縄基地の削減・撤去は可能か?

 「リベラル」派の構想に対する第三の疑問は、安保条約や日米地位協定をそのままにして、沖縄における米軍基地問題の抜本的解決、いやそれどころか普天間基地の撤去ですらできるのか、という疑問である。

 そうだとすると、翁長知事をはじめとする「沖縄差別反対派」の日本政府とアメリカ政府を相手にした孫子の代までの闘いは勝利することはできない。沖縄基地問題の抜本的解決は、安保条約と日米地位協定の見直し・廃止というところに踏み込まなければならない。

(4)安保条約を前提にして、自衛隊を「専守防衛」に引き戻すことはできるのか?

 第四の疑問は、柳澤のいう、自衛隊の「専守防衛」への改組論に対する疑問である。

専守防衛論の原型「基盤的防衛力」論―安保と自衛隊のセット論
 第一に、この「専守防衛」論は、相手国に脅威を与えない、勝手なことをさせない、相手国の武力攻撃を阻止しうる力というのであるが、これは、アメリカの強大な「報復的抑止力」を前提とし、それとセットになっているのではないかという疑念である。
 そもそも、「専守防衛」論あるいは「拒否的抑止力」論は、1976年の「防衛計画の大綱」で規定された「基盤的防衛力」論にその原型を求めることができる。
 もし「専守防衛」論が安保体制の抑止力を前提にしたものだとすれば、日本がいくら自衛隊の専守防衛を叫んでも、「敵」からみれば、ちっとも「専守防衛」とはみなされない。自衛隊はつねに米軍と一体の軍とみなされてきたし、現在もそうである。

安保をそのままに「専守防衛」といえるのか?
 第二に、自衛隊を真の敵の脅威とならない「専守防衛」の軍隊に変えるには、日米同盟を解消してはじめて可能となると思われる。
集団的自衛権の行使に関する政府の憲法解釈違憲論+個別的自衛権にもとづく自衛隊合憲論の誤り。

鳩山政権の苦闘と挫折の教訓は何か?
 安保や地位協定に手をつけずには、基地問題のほんの少しの解決もできないこと。
安保条約と米軍をそのままにして、日本の平和は実現しないということを主張するとき、その日本の平和の中味としてどのようなものを構想しているのかを、いっそう明確にしなければならないと思った。そのような立場に対する共感と支持を広げていくためにも。

4 安保のない日本の構想

(1)安保条約・日米同盟は、日本とアジアの平和の確保に役立たない
 
敗戦時における米軍の単独占領以来の、戦後日本の特異な、根深い対米従属の経験。対米従属の歴史はきわめて長く、戦後の安全保障をアメリカ抜きに構想したことは一度もなかった。

冷戦期の「戦争しない国」は何によって守られたか
安保肯定派は、戦後日本の繁栄は、安保条約があってこそであり、憲法九条などは何の役にも立たなかったと主張するが、これは誤り。むしろ、憲法とそれを擁護する国民の声、運動の力で安保条約がアメリカの求めたような十全の軍事同盟条約=攻守同盟条約になれなかったことが、戦後日本の平和が維持された大きな要因である。
安保条約があるから平和が守られたのではなく、安保条約が十全の発動ができなかったから平和が守られたのである。

冷戦後の安保条約・日米同盟
中国の軍事拡大を抑制するために日本がとるべき方法は、日米同盟の強化ではなく、平和国家としての旗幟を鮮明にしたうえで、アメリカ、中国、ロシアを含めて、紛争の武力によらない解決、軍備の縮小の機構を北東アジアレベルで確立することであり、そのイニシャティブをとる以外にない。

安保条約・日米同盟の当然視という現在の日本における支配的な見解に対して、安保条約・日米同盟は、日本のみならずアジアの平和の確保には役立たないということを、どのようにして理解してもらうのか、それは本当に困難な課題であるが、必ず成し遂げなければならない。

(2) 安保条約の廃棄によるアジアと日本の平和保障への前進

まず日本がめざすべき平和構想の基本骨格。
 
安保と基地のない日本
第一は、安保条約の廃棄と米軍基地の撤去である。安保条約の廃棄は、1960年の改訂安保条約10条に基づく、適法的な行為である。
さらに、安保条約を廃棄することは、自衛隊が米軍の補完部隊である現状を改革する梃子となる。自衛隊の改革の第一段階は、安保破棄により自衛隊と米軍との一体化した状態を抜本的に改革することからはじまる。

北東アジア非核、平和保障機構の形成
安保条約を廃棄し、米軍基地を撤去することは、日本が、名実ともに、憲法九条の掲げる「武力によらない平和」を実現する大きな一歩になる。安保廃棄は、日本が中国の軍事主義に対して対抗軸となる最も強いメッセージであり、自主的平和外交を展開する大きな力になる。
安保廃棄、米軍の撤退は、中国の軍事大国化の抑制や北朝鮮の核開発の停止、北東アジアの平和保障の制度構築と同時に実現しなければならない。
まず確立しなければならないのは、アメリカ、ロシアを含めた北東アジアの非核と紛争の非軍事的解決を約束する条約の締結とそれを実行に移す平和保障機構の創設である。
この条約・機構においては以下のことが確認されねばならない。
第一は、紛争の非軍事的解決の原則の確認である。領土にかかわる、またはその他の紛争についての北東アジアレベルの紛争解決機構の設置も必要である。
第二は、核の先制不使用原則の承認と、朝鮮半島、日本に対する核不使用保障である。
第三は、加盟国間での核運搬設備を含む核装備の削減と査察体制の整備の合意である。
第四は、通常軍備の軍縮である。
対アメリカとの関係に関しては、安保条約の廃棄と米軍基地の撤去、
北東アジア地域では、対アメリカ・ロシア・中国・韓国・北朝鮮に関して、北東アジア非核兵器地帯条約の締結・紛争の非軍事的解決についての条約の締結と、さらに平和保障機構の創設を提言している。後者に関して、梅林宏道『非核兵器地帯―核なき世界への道筋』(岩波書店、2011年)は、「北東アジア非核地帯」条約が成立する過程が、すなわち北朝鮮が核兵器を放棄する過程になる、また日本も核の傘から脱却する過程になる、という順序で考えるべきだと述べている。著者のいう日本のめざすべき平和構想の基本骨格はクリアーであるが、それを実現する国民的力量、強力な国際的な運動と力をどのようにして生み出していくのかがここでの課題である。同時に、平和保障機構の創設はまだ抽象的な言及にとどまっており、具体的提案に踏み込む必要がある。

5 自衛隊をどうするか?

自衛隊については、安保条約の廃棄、アジア、世界レベルでの平和保障機構の創設、強化と相俟って、縮小・解散がはかられるべきである。

(1) 自衛隊の縮小・解散の二つの段階
第一段階は、安保条約を廃棄したのち自衛隊の最も大きな欠陥である対米従属性を断ち切り、政府が自衛隊の合憲の条件として掲げた「自衛のための必要最小限度の実力」、あるいは「リベラル」派のいう「専守防衛的」自衛隊を実現する過程である。この改革により、自衛隊の海外派兵、アメリカの戦争への加担の危険性をさしあたり防ぐことが可能となる。
続く第二段階において、北東アジアと世界レベルの軍縮、平和保障機構の形成と平行しつつ、国民の合意を得て、自衛隊を解散し、「憲法適合的でかつ有益な非軍事組織に転換する」。

(2) 自衛隊の縮小・解散の第一段階―自衛隊の対米従属性打破、真の「専守防衛力」へ

改革の主要点は以下のとおりである。
自衛隊の対米従属性、米軍の補完部隊としての性格の打破
真に「専守防衛」にするための自衛隊の装備、編成の改変
災害派遣をはじめ、憲法の平和主義から評価される活動、装備の充実

(3) 自衛隊の縮小・解散の第二段階

第二段階に入るにはいくつかの条件を成熟させることが不可欠である。
(a)北東アジアレベルの軍縮、平和保障機構の成熟のみならず、アジアレベル、世界レベルでの軍縮と平和保障の前進。この条件の構築に日本が主導的役割を果たすことが不可欠である。
(b)軍隊の廃止、九条の実現についての国民の確固たる支持が表明されることである。
(c)新たな福祉国家型の政治が前進し、国内的には、新自由主義改革を停止し、社会保障と地域の産業の再建が進んでいること。それと並行して、グローバル企業の活動に対する多国間の共同の規制が進展し、世界、アジアでの格差が縮小し、軍事的抗争に発展しかねないテロや紛争が減少していることである。
こうした条件を整備したうえで、自衛隊を解散する。その大まかな輪郭。
① 自衛隊の本体として残った国土防衛的機能は、国境警備の警察的活動として海上保安庁と統合して国土交通省に移管する。
② 災害復旧的業務は、軍事的性格をぬきにして他の諸組織と統合し国際災害救援隊、国内緊急災害救援隊として再編成する。
いずれにせよ、こうした二段階の過程は、安保条約の廃棄とならんで、国民の強い合意と現実の国際的平和構築の推進と並行して行わねばならないので、きわめて長期にわたる過程となるであろう。
このように二つの段階に分けて、自衛隊の縮小・解散を構想していくことには賛同できるが、筆者が、「第一段階から第二段階への移行はかなり長い過程と経験を積む必要がある。その詳細をいまから具体的に検討することはあまり現実的でもない」と述べるにとどまっていることは、問題だと思う。時間的タイムテーブルの提示と自衛隊の「解編」についてのより詳細な具体化(憲法政策の考究)が必要ではないか。第一段階をクリアーするためには、当事者たる自衛隊を初めとして、文字通りの国民的論議が必要である。

6 多国籍企業の規制による経済構造の改革と市場規制

(1) 平和国家と福祉国家の連結

平和国家と多国籍企業経済の規制、改革の必要性
第一、日本が平和国家への道に踏み出すには、日本の対米従属下の軍事大国化、日米同盟強化を求めているアメリカに対決するだけでなく、それを支持している財界、日本の多国籍企業の活動に対しても、進出先の国や地域に「自由に」進出しその地域や国家の地場産業や経済、環境などを破壊するのを規制する措置をとらねばならない。
 第二、しかも、こうした多国籍企業の活動は、進出先の国民経済を変質させ、従属的な構造に変えてしまう。世界の平和が基本的には、各国のバランスのとれた国民経済の再建により実現の基礎を得るという点からも、多国籍企業の規制は不可欠である。
 第三、そのうえで、平和国家の形成のためには、多国籍企業本位の政治を転換し、新自由主義改革を停止し福祉国家型の経済構造を作りあげねばならない。

平和国家と新たな福祉国家
以上の理由から、平和国家は、新たな福祉国家と不可分であり、新たな福祉国家の重要な環である。多国籍企業本位の政治の転換をめざす新たな福祉国家は、同時に平和国家をめざさねばならない。

先駆的試みとしての都留重人の経済構造改革論
 独占体の規制による「福祉国家」型経済への転換。

(2) 新たな福祉国家による新自由主義改革の停止と多国籍企業規制

新自由主義改革の停止と福祉国家の建設
 第一は、現在推進されている新自由主義的改革、「規制緩和」を根本的に再検討し、多国籍企業の要望する国際分業の見地から切り捨てられる農業や地場産業など弱小産業の保護と育成をはかることである。また同じく新自由主義的改革で改変された雇用、医療をはじめとした社会保障制度、教育制度などについては拡充する。そのために財政も抜本的に福祉国家型に転換しなければならない。
 他国を侵害しない相対的に自立した国民経済を再建しなければならない。

多国籍企業の活動規制と自由市場ルールの見直し
第二は、多国籍企業の進出先の活動に対して環境や労働条件、他国の国民経済への影響などの見地から規制を行うことである。新自由主義的改革と多国籍企業に対する「社会運動の高度な国際的連帯」と「福祉国家連合」の結成が不可欠となる。

多国籍企業の規制、新自由主義的改革の停止、国民経済の再生、社会運動の高度な国際的連帯、新たな福祉国家の創出という問題提起を重く受け止めた。宇沢弘文の「社会的共通資本」論などを手がかりにさらに考察を深めたい

7 安保廃棄へ至る道

長い道のりを要する国民的大事業。
安保のない日本づくりの第一歩は、保守政権のもとで進められ安倍政権によって強行された日米同盟強化、アメリカの戦争への加担、憲法破壊の策動を阻む闘いからはじまる。

(1) 戦争法廃止の連合政府

国民的事業となる戦争法廃止
 戦争法を廃止して日米同盟と自衛隊を以前の状態に戻すだけでも、廃止で一致した勢力による連合政府の樹立は必要不可欠である。
連合政府の必要性―戦争法廃止自体が大事業 戦争法の廃止とは、冷戦後の90年代にアメリカ主導で進められてきた日米同盟強化の流れを止め逆転させる、かつてない事業である。
 戦争法廃止を掲げるすべての政党が連合して政権を握り、とくに、外務省、防衛省を掌握して、その抵抗を押し切って実行することが不可欠である。いずれにせよ強力な政権でなければ、内外の抵抗を押し切ってこれを実行することは不可能である。
連合政府を実現するうえでの課題 まず、戦争法を廃止してどんなかたちで日本の安全を守るかについては、まだ共同の勢力内では一致をみていないため、この点での合意をつくることが不可欠である。
 合意をつくることは容易でないが、条件はある。戦争法廃止の合意が成立した背後には、自衛隊が海外でアメリカの戦争に加担して戦争をすることはさせない、辺野古に基地はつくらせない、普天間をはじめ沖縄の基地はなんとかしたいという切実な要望に応えようという共通の意欲があるからだ。
 連合政権づくりの合意は、以下の諸点で、行うべきではないか。
① 自衛隊の海外での戦争荷担、武力行使はしない。後方支援の名目でも周辺事態法による現状を拡大しない。国連PKOは現状維持、海外での貢献は非軍事分野で行う。この原則に基づき、自衛隊と安保の運用の現状を広く点検する。
② 安倍政権による憲法改正に反対する。憲法九条の改正、それと一体になって戦争する国づくりに不可欠の緊急権規定条項の創設には反対する。
③ 紛争を武力で解決しない、武力によらない紛争解決ルールづくりのイニシャティブを発揮する、紛争の軍事化に資するような自衛隊の軍事能力、権限拡大はしない。
④ 沖縄については、辺野古新基地建設は撤回、普天間基地は撤去、それに必要な日米地位協定の見直しをめざす。
⑤ 共同の場における、共産党得と民進党の振る舞い方。
戦争法廃止の連合政府の課題 戦争法廃止の連合政府は、戦争法の廃止、辺野古新基地建設反対を一致点とした過渡的な政権になる。
海外で戦争する体制の転換 連合政府の第一の課題は、戦争法の廃止と戦争法制定にともなって進んでいる共同作戦体制をもとに戻すことである。廃止と平行して、すでに進められている日米共同司令部の見直し、さらに戦争法の実行のための自衛隊の編成、装備の変更をもとに戻すことを不可避とする。自衛隊の海外侵攻軍化を推進することを決定した2013年防衛計画の大綱の見直しが不可避である。
それと同時に、新政権は、戦争法を生み出すもととなった15年ガイドラインの見直し協議をアメリカ側に対して求めなければならない。
そのうえで、新政権は、先の合意にもとづき、日米同盟と自衛隊のあり方につき、以下の諸点で広範な見直しと点検を行なう必要がある。
① 思いやり予算の縮小・廃止が検討されねばならない。
② 特定秘密保護法は廃止を検討する。国家安全保障会議(NSC)―国家安全保障局も、廃止を含めた見直しをすべきである。
③ 周辺事態法、有事法制の廃止を含めた見直しを行う。
辺野古と沖縄基地解決へ向けて―日米地位協定の改定 連合政府の第二の課題は、辺野古新基地建設の中止と普天間問題解決である。
沖縄の基地撤去は沖縄県ではなく日本政府が解決する責任をもっている。
連合政府段階においてなすべき地位協定改定を検討しよう。
安保条約と地位協定における全土基地方式
地位協定2条の改定による基地返還要求の明記 連合政府は、地位協定の見直しにより、安保条約のもとでも普天間基地撤去をはじめとした基地問題解決へ前進しなければならない。

憲法堅持と九条外交
連合政府が取り組むべき第三の課題は、憲法擁護の原則を打ち出し、日本外交の原則として、諸外国にあらためて憲法九条の堅持とこれを日本外交の方針とすることを宣言することである。九条の改変には反対するという点での合意は可能ではないか。
それをふまえ、連合政府は、むしろ九条にもとづく外交の第一歩を踏み出すことが求められる。安保条約の廃棄の成否は、この外交により北東アジアの平和を現実的に構築できるか否かにかかっている。
侵略戦争の責任と謝罪 連合政府の外交の第一は、歴史問題にはっきりと決着をつけることである。まず、歴代政府があいまいにしてきた日本による植民地支配と侵略戦争を含め、日本の行動について、国民的議論を起こし、あらためてアジア諸国に対する謝罪と被害者に対する個人賠償の検討を開始しなければならない。
北東アジアにおける軍事的緊張の緩和と非核・平和保障機構づくり 連合政府の外交の第二としてとりくむべき課題は、北東アジアの緊張緩和と平和保障の制度づくりである。そのために、日本は、憲法九条が謳う「武力によらない平和」の理念を自国の外交原則とすることを宣言し、それに基づく既存の外交政策の根本的転換を行なう。
1 まず日本は、北東アジアに対し改めて非核三原則を宣明し、とりわけアメリカに対して第三原則の実行の確約を求める。武器輸出を禁止した武器輸出三原則を復活させ、国連安保理の常任理事国五カ国をはじめ、武器輸出大国にこの実行を働きかける。
2 北朝鮮に対しては、従来政府がとってきた北朝鮮に対する威嚇政策を再検討し、拉致問題の解決と日朝平壌宣言の履行をあらためて宣言する。
3 中国に対しては、歴史問題での原則と九条の原則を宣言したうえで、中国の覇権主義を是正し緊張緩和を促進する措置を強力に推進する。六カ国協議を再開しその機構の強化を推進するとともに、中国政府のとっている南シナ海、東シナ海における覇権主義的態度を改めるよう、紛争の非軍事的解決、領土紛争の北東アジアレベルの機構による解決方式を二国間協議で推進する。
4 北朝鮮の核問題の解決をめざしてつくられた六カ国協議を再開、拡充し、これを北東アジアの非核と紛争解決の機構に強化することを提案すべきである。連合政府は、北朝鮮の核開発の抑止の問題をより包括的な北東アジアの非核構想のなかで検討解決することを提案する。北東アジアで、朝鮮半島と日本を非核武装地域として、六カ国が合意することで北朝鮮に核開発放棄を認めさせる。
5 北東アジアにおける、核の先制不使用協定、核軍備の削減、査察の協定締結のイニシャティブを連合政府段階からはじめなければならない。また「核兵器禁止条約」の締結など国連が主導する核兵器の禁止・廃絶に関する取り組みと連携することが不可欠である。
6 さらに進めて、紛争の軍事的解決の禁止を協定すべきである。このさいには、ASEANでつくられた「行動規範」を参考にして、ASEANに先んじて、より実効性のある北東アジア版の「行動規範」の策定を日本がイニシャティブをとって行うことが求められる。
国連外交 連合政府がとりくむべき外交の第三は、国連を舞台にした平和・軍縮外交の展開である。
戦争法廃止の連合政府の三つの課題(戦争法の廃止と共同作戦体制をもとにもどすこと、辺野古と沖縄基地の解決、九条外交の推進)のうち、3番目の「憲法堅持と九条外交」について。安倍政権の軍事大国化を主導しているのは、外務官僚を中核とする新たな日米同盟派・戦略派であるという指摘(渡辺治「安倍政権とは何か」渡辺治・岡田知弘・後藤道夫・二宮厚美『<大国への執念―安倍政権と日本の危機』大月書店、2014年所収)をもとにして改めて考えてみると、これは、実に困難な課題と思われる。とともに、ここで指摘されていることをさらに進めて、連合政府をどのようにして実現していくのかについての方法論、戦略、そのための市民社会による支援のあり方、新政治勢力の結集の展望などを提示していく必要性を感じた。

(2) 安保廃棄への国民的合意づくりと安保廃棄の連合政府
戦争法廃止の連合政府のもとでの政治を経験するなかで、日本とアジアの実効性のある平和構築を前進させ、そのさらなる強化のために、安保条約廃棄、安保体制の打破に向かわねばならない。戦争法廃止の政府を、その経験と合意をふまえて安保廃棄をめざす連合政府に発展させねばならない。

安保廃棄の国民的合意
安保条約をめぐる国民意識 そのためには、戦争法廃止の政府の経験を積むなかで安保条約廃棄の国民的合意を獲得する必要がある。 
安保廃棄への合意形成 安保条約に対する意識をみると、国民の多くは、安保条約による米軍の存在と憲法のもとでの自衛隊の海外での戦争の禁止によって日本の平和が守られてきたと考えていると推測できる。そして、安保に対する期待と依存の高まりは、日本をめぐる「脅威」の増大に比例していると考えられる。
こうした国民意識を変えるには、戦争法廃止の連合政府が、その外交により、アジアにおける平和保障の体制を構築することにより、国民が、武力によらない平和保障の有効性についての確信を強める以外にない。

アジアレベルの平和秩序の推進と自衛隊の縮小・解散
安保条約廃棄による基地撤去とアジアレベルの平和保障体制の強化を実現するなかではじめて、日本は自衛隊の縮小・解散の方向の合意を獲得し、名実ともに憲法による平和保障の体制に進むことができる。
現代日本の国民意識においては、自衛隊を容認する意識はきわめて高い。
しかし、この中味については、二つの点を指摘しておく必要がある。
一つは、自衛隊に対する好感は、自衛隊の増強や軍事大国を求める意識ではなかったことである。近年の自衛隊の増強論は明らかに、中国に対する脅威論と並行しているのである。
二つ目に指摘しておきたいのは、国民の自衛隊に対する親近感や支持は、自衛隊の災害派遣における活動によるものが大きいという点である。
こうした国民意識は、安保条約を廃棄して、アジアと日本の平和の体制が革新される段階では、自衛隊を、災害派遣と非武装の国際的な支援活動に専念する組織へと国民的合意を得つつ改組することを展望できる。
「安保+自衛隊」という、一見すると強固にみえる国民世論を転換していく展望は、「武力によらない平和」に拠って立つ日本国憲法の将来構想と憲法政策上の優位性を明確に示すことにあるのではないかと思った。とともに、アメリカ一辺倒からアジアのなかでの平和的共存とアジア諸国との共生を目指す立場の力強い復興がいまこそ必要であるという感想をもった。李京柱講演によって教示された、雨森芳洲(1668-1755)の「誠誠之交」(『交隣提醒』)を参考にして、さらに考えたい。

8 戦争法廃止から安保のない日本へ

現在のような軍事的対決の激化する時代において、アジアと日本の平和を実現するには、憲法の「武力によらない平和」の理念を実現する道をおいてない。
しかも憲法を実現する道は決して日本一国だけでは開けない。憲法の構想を世界的秩序として具体化する努力によってのみそれが可能である。
この道はきわめて理想主義的にみえるが、決してそうではない。戦争法廃止の連合こそ、安保のない日本を追求するうえで唯一の道である。
 私たちは、戦争法反対運動が切り拓いた、この展望を手がかりに、安保のない日本への道を切り開いていかねばならない。

私たち憲法研究者はいまこそ、「武力によらない平和」の理念を実現する道を、様々な角度から豊かにかつ説得的に論じていくべきではないか。