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「松尾の箱」管理人の、BLにまつわるあれこれ
現在は気が向いたときに更新

『たかが恋だろ』 感想

2009-09-30 17:40:29 | コラム
※ 今回のコラムには、『たかが恋だろ』 の作品と
  その作り手の方々に関する酷評が含まれます。
  好きな方は読まない方がいいかもです。
  気分を悪くされたらすんません。
  これはあくまでも個人の感想なので勘弁してください、
  とあらかじめ謝っておきます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

以前わたしは、自分の中にある 「原作のイメージ」
壊されたくないので、二次創作は読まない的なことを書いたが、
それは別に二次創作に限ったことでなく、
プロによる別メディア化 (小説 → マンガ、実写ドラマとか) も
そんなに好きではない

なんじゃ、こりゃーっ !?
自分の中に思い描いていた原作のイメージがぶち壊しじゃん!」
てなことになったら、目も当てられないからだ。

実際、今年の1月にドラマ化された加藤○浩さんのマンガ 『Q.○.D.』 では、
「なんで燈馬くん可奈ちゃんより高いの ―― っ !?」 と、
そんなくだらないことでショックを受けた。

読者が持つ原作のイメージを壊すことなく、
別の作り手が別メディアでその作品を再現するのは、
なかなかむずかしいことである、と思う。

―― ところで、ここで一気に話を変えるが、
わたしには、三浦しをんさんと山田ユギさん
こよなく愛する友人がいる。

なので、ポプラ社が2008年に創刊したピアニッシモという
雑誌 (現在休刊) で、
三浦しをんさんの直木賞受賞作 『まほろ駅前多田便利軒』(新潮社) を、
山田ユギさんの作画でマンガ化したものを掲載すると決まったときには、
その友人は狂喜乱舞した。
(※ 以下、『まほろ駅前多田便利軒』 は 『まほろ』 と省略)

しかし、わたしは山田ユギさんの作品は読むが、
三浦しをんさんの作品を読んだことなかった
友人にあれこれ薦められても、
なんとなく読む気になれず、放置していた。

そんなわたしに友人は、
「ぜひ読んで! (っていうか読め!) 」
その 『まほろ』 のマンガが載ってるピアニッシモを
貸してくれるようになった。
そして読んだわけだが――

うん …… これって ……

山田ユギさんオリジナル作品じゃないの?

ホントに、原作となる作品があるの?

これ、わたし、原作があることを知らずに読んでたら、
きっと、なんの疑いもなくユギさんのオリジナル作品だと思って
読んでたと思うけど。

それでも、最初の頃に出てきた行天のへらっとした笑顔には、
「あ、これ、ユギさんの作品っぽくない表情だな」と
ちらっと感じたが。

しかし、それ以外ではまったく原作付きであることを
感じさせないくらい、
マンガ版 『まほろ』山田ユギ作品になっていた、と思う。

その後、ピアニッシモが休刊になってしまい、
山田ユギさんのマンガでは 『まほろ』 を最後まで
読めなくなってしまったので、
原作である三浦しをんさんの小説を実際に読んでみた。

そして、このコラムの最初の方に書いた
なんじゃ、こりゃーっ !?」 とはちがう意味で
なんじゃ、こりゃ……」 と思った。

なんというか ……
小説版の 『まほろ』 とマンガ版の 『まほろ』 との間に、
作品が持つイメージちがい見えないぞ。

キャラクターの造形から 「行間」 から何から何まで
三浦しをんさんが書いた文章のすべてが、
山田ユギさんの絵によって
読者 (というか、わたし) が小説から得たイメージどおりに
視覚化されているというか。

自分の中に思い描く小説のイメージが、
マンガによってぶち壊しになることがまったくない。

三浦しをんさんがマンガを描いたらこうなるんじゃないの? っつか、
山田ユギさんが小説を書いたらこうなるんじゃないの? っつか。

このちがいが見えない感じは、
『毎日晴天!』 (徳間書店) を読んだときにも経験したことがある。

菅野彰さんの小説 『毎日晴天!』 の場合、
わたしはオリジナルである小説の方を読んでから
二宮悦巳さんの作画でマンガ化したものを読んだが、
この作品もまた、小説を読んでもマンガを読んでも、
どっちが原作? というくらい小説マンガの間に
作品の持つイメージのちがいがなかった

この時は 「二宮悦巳さん、すげー!」 と感動した。
そして 『まほろ』 ではわたしは 「ユギさん、すげーっ!」
感動したわけである。

こんなにも原作小説イメージ完全再現できるなんてっ!

もしかしてユギさん、原作付きのスタイルに向いてるんじゃん?
―― と、この時は思ったのだが。

そして 『まほろ』 をマンガでも小説でも読んだ後の今年7月。

英田サキさん原作の小説をユギさん作画でマンガ化した
『たかが恋だろ』 (大洋図書) という本が出るというので、
マンガ版 『まほろ』 にいたく感動したわたしは、
もちろんさっそく買って内容をチェックした。

ところが。

初見のわたしの感想は、
なんじゃ、こりゃーっ !?」 でもなく、
なんじゃ、こりゃ……」 でもなく、
なんじゃ、こりゃ???」 である。

なにこれ?

これ、確かにユギさんの絵だけど、ユギさんのマンガじゃないよ。

なんじゃ、こりゃ???

「『たかが恋だろ』、読み終わったら感想送って」 と
友人に頼まれていたので、
その友人にわたしが送った感想メールは下記の通り。

--------------------
ユギさんの原作付きマンガ 『たかが恋だろ』 ですが。
さきほど読み終わりました。

んとね、一読した感想は、これはユギさんのマンガじゃないなぁ、
というのが正直なところ。

一話目が雑誌に載ったのは2007年が初めてなので、
『まほろ』 より前に挑んだ原作付きなんだね。

英田サキさん、BL小説の世界では人気あるし売れてるし、
原作の小説は評判がよかったんだと思う。
だからマンガ化されたんだろうし。
(※ 実際には、原作は小説としては発行されていません。カン違いしてた)

しかし、マンガになると
「なんじゃこの超つまんない典型的なBL話はっ!」
みたいな感じになってる。

なんか、そのセリフはBL界で100万回唱えられてるとか。
その展開はBL界で100万回繰り返されてるとか。

そんで、白泉社から出たユギさんの非BL作品 『おひっこし?』 を
読んだときに、
「なんでこの話、こんなに無理矢理恋愛話をからめてるの?
これ、恋愛エピソードは必要ないでしょ。
その方がふつうにおもしろくない?」
と思って、たいへん違和感があったのですが、
その時とおなじようなものを感じる。

え? ユギさんのマンガにこんな台詞がっ !? とか。
こんな超BL的展開、ユギ作品にありえねーだろ、とか。

とにかく、山田ユギ作品らしいおもしろさがほとんどない。
(新しいものにチャレンジしているから、しかたないのかもしれんが)

もう少し登場人物の心理描写を掘り下げた方がよかったんじゃ? と
思えるが、原作を読んでないので、なんとも言えないなあ。

ユギさんの作品だと思って読むと肩透かしをくらうかも。

こうして見ると、マンガの 『まほろ』 はよくできてたなあ。
三浦しをんさんの原作がよかったのはもちろんだが、
(なにしろ直木賞だし)
もしかするとしをんさんとユギさんの作品の持つ雰囲気が
似ているから? かもね。

ずいぶんと辛口な 『たかが恋だろ』 の感想ですが、
好きな作家さんだけに我ながら評価が厳しいッス。
--------------------

・・・・・ orz

うん、まあとにかく、おもしろくなかったのよ。わたしは。

マンガ版 『まほろ』 を読んで 「ユギさん、すげーっ!」 と
感動したその波に乗って、その直後にわたしは、
買ったままずっと放置していた
三浦しをんさんの 『月魚』 を読んだ。

その時は、古本屋という同じ設定があったためか、
頭の中で全編ユギさんの 『誰にも愛されない』キャラ
『月魚』 が映像再生された。
(※ 友人は依田沙江美さんの絵で再生されたそうな)

たぶん、『月魚』 もユギさん作画でマンガ化したら
おもしろいと思う。

ということは、

「ユギさん、原作付きのスタイルに向いてるんじゃん?」

と思ったけど、これは、

「ユギさん、三浦しをんさんの作品が原作なら、
原作付きのスタイルに向いてるんじゃん?」


ってことかな。

そうか、誰の作品が原作でもOKというわけではないんだな ……

読者が持つ原作のイメージを壊すことなく、
別の作り手が別メディアでその作品を再現するのは、
なかなかむずかしいことである。

それを、山田ユギさんは 『まほろ』 でみごとにやってのけた。

山田ユギさんには、次回は是非ご自分の作風あった原作の
マンガ化に挑戦していただきたいものである。


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2 コメント

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こんばんは… (たまこ)
2010-11-07 01:40:14
はじめまして、依田沙江美さんと山田ユギさんを愛するものです。

ずいぶん時間がたってからのコメントで申し訳ありません。
とても面白い文章でしたので…。

私はBL小説はあまり読みません。
マンガはちょっとつまらなくても絵が好みならがんばって読んだりしますが、
BL小説の文章表現が苦手だし、絵がほとんどなくて、つまらないと読み進むのが苦痛でしかないので。

三浦しをんさんの「まほろ」を読んだのは、なじみのある街がモデルになっていて興味を引かれたのと、
エッセイが面白かったので小説も読んでみようかな(直木賞だし)と思ったからでした。

案の定とても面白く満足して読了したのですが、
先にエッセイを読んでいたのもあって、一言も書いてないけどBLっぽい作品だなあと思っていたところ、
山田ユギさんでコミックスが。

書店で発見したときに直感したのは、これは間違いない!(笑)でした。
原作読んだときにはBLっぽいと思っただけだったけれど、
マンガになって目の前に置かれたら、うわあ山田ユギっぽい!と思ったのです。

好きなマンガ家さんでも、原作ものはちょっと雰囲気が違って残念に感じることがあるのですが、
この時はなぜか、読みもしないのに直感してしまい、
買って読んだらやっぱり間違いなかった。
(多田のビジュアルが若干想像と違ったがこれも「アリ」だった)
こんなに違和感のない原作ものってすごい!
原作を噛み砕いて消化して見事にマンガで語りながら、
山田ユギ色もちゃんと出てるすごすぎる!
と思ったのですが。
(そしてハコキューのマークに笑った。うますぎる!)

英田サキさん原作の『たかが恋だろ』は手が出ませんでした。
全然知らない作家さんだったので、苦手な感じの原作でつまんないとやだな、と思ったので。
タイトルもかなりそういう感じのオーラを放っているし…。(偏ったイメージ)

なので、「まほろ」を見たときの「ユギさんぽい!」ていうのと、
読み終わったときの「ユギさんの原作ものはすごい!」ていうのと、
にもかかわらず『たかが恋だろ』を見つけたときの「うーん…保留…」ていうのが、
なんだかこちらの感想を読んだらすっきりと整理されたので、
こんな長文のコメントを書いてみようという気になったのでした。

小説をマンガ(だけには限らないけど)にするって難しいなといろんな原作ものを読んで思っていたけれど、
「まほろ」みたいにすごくうまくいくものもたまにあるので、
チャレンジする価値はあるのかなあと思う今日この頃です。
時々、このマンガすごく面白いけど、原作の小説はつまんなそうだなあという下克上作品もあるし。
大抵は「検証」してないのでそうとも限らんのですが(笑)
カップリングする編集者さんのセンスもあるのかな。

ただ、『たかが恋だろ』を読む日はさらに遠のいたような気が。
ネットカフェで見かけたら、読む…かな…


ちなみに、二宮悦巳さんも同じように感じました。
長文失礼しました~。
Re:こんばんは… (松尾@管理人)
2010-12-16 23:24:29
たまこさんへ

こんばんは、松尾@管理人です。
すっかりレスが遅くなってすみませんん。m(_ _)m
しばらくこちらのブログはメンテナンスしていませんでした。
たいへん申し訳ない。

記事への感想、ありがとうございました。

マンガ版の 『まほろ』 を読んで、「山田ユギっぽい!」 と思ったその感じ、
すごくよくわかりますよ~
同じように感じた方がいてうれしいです(^^)。
ホントにわたしは原作があると知らなかったら、
『まほろ』 は山田ユギ作品だと信じて疑わなかったでしょうから。

三浦しをんさんの原作に山田ユギさんを組み合わせようと考えた
編集者さんはすばらしいですよね。

BL小説は文章表現が苦手とのことですが、
友人も同じようなことを言っていました。
積極的には読む気にならないようです。

その友人にも、ユギさん作画の 『たかが恋だろ』 を読ませたのですけど、
結局、おもしろいともつまんないとも、コメントがありませんでした。
『まほろ』 は大絶賛だったのですがねぇ。

たまこさんの 『たかが恋だろ』 を見て 「保留」って感じたそのお気持ち、
その友人の反応を思い出すと、ああ納得、という感じです。

山田ユギさんだけでなく、依田沙江美さんのこともお好きとのこと。
こちらのブログはたま~にしか更新してませんが、
依田沙江美さん関連のブログの方は、なるべくまめに更新するようにしておりますので、
これからもどうぞごひいきに、よろしくお願いします。

それでは。

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