これがオーマイニュースのプロ魂だ！

少々前になりますが、オーマイニュース(以下OMN)に凄い記事が掲載されました。

編集部認定プロライター、北澤強機記者によるたった600円で行けるスキー＆グルメ&温泉の旅(原文ママ)がそれです。記事を一部引用しながらその凄さを見ていきましょう。(引用部分はイタリック体で表示、フォント変更・太字は筆者)

何が凄いって、最後の一文が衝撃的です。

　先に謝っておくとするか。ごめんなさい。

こういった結びは素人にはなかなか思いつかないでしょう。

　まとめといいわけ

この小見出しも素敵です。特に「いいわけ」が光ります。

では、北澤氏は何を言い訳しているのかとその後に連なる文章を読んでいくと、どうやら記事の内容がツッコミどころ満載なので、その点について先に言い訳し、謝っておこうという事らしいです。これがプロの危機回避術なのかもしれません。

ところで、この記事の何処がツッコミどころ満載なのでしょうか？

中央道の起点八王子インターをスタートという記述【註】でしょうか？温泉やスキーを楽しんで、特産品のおみやげを買って帰ってきた。との記述があるにもかかわらず、記事を読んだ限りではスキーをしたようには見えないところでしょうか？プロなのに混んでいたのでインタビューはできなかったと堂々と報告しているところでしょうか？

まあ、そういう小ネタもありますが、最大のツッコミどころはバイクで八王子ICから圏央道～関越道～上信越道～中央道を経由し、相模湖ICで下りて、支払った料金は300円だったとOMNというメディア上で告白している点でしょう。どこぞのトーシローが2ちゃんねるや個人ブログに書くならいざ知らず、物書きのプロがメディア上でこのように書くというのは、さぞかし勇気が必要な行為ではないかと考えるのは私が一介の素人に過ぎないからでしょう。それにしては言い訳が長いような気はしますが、プロならば言い訳を付け加えるのも芸のうちなのだろうと勝手に解釈しました。

ただ、素人として少々不自然さを感じたのはNEXCOへの取材が一切ないところです。平野日出木編集長は、過去の記事の中でこのように述べていました。

「編集部批判」を羅列すれば、「市民記者が辞めてしまう理由」は明らかだと感じられたのでしょうが、編集部としては、本当にそんな単純な話でしょうか？　と聞き返したく、十分議論したうえで記事にして欲しかったところです。

これを今回の北澤氏の記事に当てはめれば、料金を収受するNEXCOへの取材を行い、十分議論した上で記事にするべきなのではないかと考えたのですが、それはあくまで素人が記事を書く場合の話なのでしょう。北澤氏はOMNが認定したプロライターの一人なのですから、素人と同列に扱うのは失礼にあたるのかもしれません。また、この記事がOMNに掲載されたという事は、編集部もこの記事は問題なしと判断しているという事になります。

とはいえ、気になるものは気になるので、NEXCOに問い合わせてみました。その内容は、今回の記事を紹介した上で、この経路を通っても料金は最短経路と同額なのかというものです。

それに対するNEXCOの回答は次のようなものでした。転用は禁止されていますので、要点だけ紹介します。

1.記事にある通行料金の支払い方法は適正なものではない

2.今回の例でいえば、実際の走行距離約450キロ分の料金がかかる

ごく当たり前の回答のような気もしますが、念の為に問い合わせてみて良かったと思います。本当にNEXCOからの回答があったかどうかを疑問に思う方は、同じ内容の質問をNEXCOに送ってみればいいでしょう。似たような回答が得られるはずです。

NEXCOの回答を踏まえると、今回北澤氏が行ったいわゆる高速ループは運が良かったから成功したと考えるのが自然です。お上のお目こぼしをあてにするのは個人の自由ですが、尾崎豊の歌を聞いて本当にバイクを盗んでしまいそうな人が読者の中にいないとは限りません。あ、それは違いますね。尾崎は唄っただけですが、北澤氏は実際に高速ループを行っていたのでした。万が一実際に行っていなければ、それはそれでOMNの記事の信頼性を損なう大問題になりかねません。ともあれ、たまたま運が悪ければ料金所で正規の料金を請求される可能性がある事も書いておいた方が読者にとって親切な記事だったことは間違いないでしょう。

北澤氏がNEXCOに取材をしていなかったのか、取材して回答を得ていながらあえて今回の記事を書いたのかはわかりません。しかし、NEXCOの回答を記事中に含めていれば、適法かどうかは別にして、高速ループがNEXCOの見解に反する行為だったことは明らかになります。記事のラストが、これはNEXCOがダメといっているから気をつけようという感じになってしまっては、北澤氏の意図とはニュアンスが異なってしまう、分かりやすくいえば「カッコ悪い」ものに仕上がるようにも思えます。

当事者への取材を行わず、読者に「誤った情報(NEXCO担当者談)」を流してでも記事のカッコよさにこだわるのが、北澤氏、いえOMNのプロ魂なのでしょう。

北澤氏以外にもOMNが認定したプロライターは大勢います。また、フリーランスのライターと編集部員では立場も違うでしょう。一人が書いた記事を取り上げてこのような表現をするのは乱暴な事だというのは百も承知です。

しかし、外から見れば誰もがOMNの人間に見えます。そして、外部の人からの「OMNはこんな記事を掲載していますね」という問いに「それは私が書いたものではありません」と答えるわけにもいかないでしょう。良記事であれ、そうではない記事であれ、OMNに掲載したものには違いはないのですから。

メディアの影響力は、個人ブログのそれとは比較になりません。OMNの中の人は、OMNが公称一日平均20万PVを誇るメディアである事を忘れてはいないでしょうか？

【註】中央道の起点は高井戸インターです。　中央自動車道 - Wikipedia