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ドミートリィ・ショスタコーヴィチ:
・交響曲第11番 ト短調 作品103「1905年」
指揮:ヴラディーミル・アシュケナージ
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団
DECCA: 448 179-2
2011年2月現在、アラブ世界において民主化を望む声の波が押し寄せています。その一方で、リビアのカダフィ大佐が自身の権力を守るために、民衆に向けて発砲するという暴挙に出ています。連日のこのニュースを聞き、私の頭の中ではショスタコーヴィチの「1905年」が鳴り響いているのです。この曲は1905年1月9日にロシア帝国首都サンクトペテルブルクで起きた「血の日曜日事件」に関する標題音楽です。
第1楽章「宮殿前広場」、早朝のペテルブルク宮殿前の静かながらも不吉な音楽から始まります。やがて第2楽章「1月9日」になると音楽に悲壮感が漂い始め、人が集まって政治に対する不満が集積されていきます。群衆の怒りが頂点に達し、一瞬の睨み合いの後、軍隊の登場をスネアドラムが表現します。一気に広場は混乱し、軍隊が民衆に向けて発砲する場面がバスドラムによって表されます。1000人以上が死傷し、広場は静まり返ります。この一連の描写があまりにも恐ろしい。殺戮の描写が異例なほど直接的で、ほとんど映像を観ているような感覚です。続く第3楽章「永遠の記憶」では犠牲者の魂を鎮め、第4楽章「警鐘」において民衆はロシア皇帝との戦いを決意します。戦闘的な音楽にのせて、文字通り鐘が打ち鳴らされます。それは希望を持ったものとして奏でられていないのです。
音楽は難解な部分が無く実に平易ですが、それだけに衝撃的です。私はこの曲を初めて聴いたのは生演奏だったのですが、その時は打ちのめされてしまいました。さすがにCDでは臨場感は今ひとつですが、このディスクではむしろフラットに演奏していて、過剰に入れ込まずに聴けるのではないでしょうか。
血の日曜日事件以外にも、国民を守るはずの軍隊が国民に銃口を向けた事件として1989年の天安門事件もありました。そして最近のリビアに見るように、ショスタコーヴィチによって鳴らされた警鐘は現在も響いているようです。この曲が過去のものとなり、一つの歴史描写音楽として「解釈」される時代がいつか来るのでしょうか。
ゲルギエフ指揮による第2楽章、軍隊が民衆に発砲する部分。ぜひ大音量でどうぞ。ゲルギエフにしては淡々と演奏している?
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